“期待される医師像”は時代によって変わる

第1回:“期待される医師像”は時代によって変わる

“期待される医師像”は時代によって変わる

■ 記事作成日 2016/2/2 ■ 最終更新日 2016/2/2


筆者プロフィール

名前:紅 花子(べに はなこ) 
性別:女
PR:正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在はフリーライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

昭和と平成…それぞれの時代で期待される医師像の変遷

“期待される医師像”は時代によって変わる

 

元看護師のフリーライター元看護師のフリーライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で感じた“医師として活躍するために必要な素質”について考えてみたいと思います。第1回目の今回は、時代によって変わっってきた“期待される医師像”を考えてみます。

 

“医師”になるまでに備えてほしい素質

 

私自身は看護師ですが、看護師という職業につくためには、実は色々な道のりがあります。専門学校、短期大学、大学、どのような過程を経ていても、最終的に「看護師国家試験」に合格すれば正看護師として仕事をすることは出来ますし、准看護師でも看護師としての仕事をすることは出来ます。

 

ところが“医師”の場合は、6年生の大学を卒業し、「医師国家試験」に合格するという1つの道しかありません。この道をうまく進んで来られた人だけが、「先生」と呼ばれ、医師として仕事をすることができます。では、その6年間の間に、周りの人たちは何を学んでほしいと考えているのでしょうか。

 

昭和62年ごろと、現在の“期待される医師像”

 

文部科学省のサイトをくまなく探すと、「医学教育の改善に関する調査研究協力者会議」というものがあります。過去の資料を遡ってみると、昭和62年9月7日付で、「期待される医師像」という記述があります。

 

【期待される医師像】

 

○医師は,生涯を通して最新の知識・技術を学習し,多様な情報を自ら組み合わせ,未知の課題を解決していくという積極的姿勢が必要である。
○医師は,医学・医療の全般にわたる広い視野と高い見識を持つ必要がある。
○医師は,人間性豊かで暖かさがあり,人間の生命に対して深い畏敬の念をもち患者や家族と対話を行い,その心を理解し,患者の立場に立って診療を行う必要がある。
○医師は,自然科学としての医学を学ぶのみではなく,医学を支える周辺の科学的知識並びに深い教養を備えることに努めるべきである。
○医師は,地域医療に関心を寄せ,健康の保持,疾病の予防から社会復帰に至る医療全般の責任を有することを自覚すべきである。
○医師は,医師としての社会的責任を自負し,社会の健全な発展に対して積極的に貢献することが期待される。
○医師は,自らの能力の限界を自覚し,困難な課題に直面した際には,適当な医療機関等への相談,紹介など適切な対応ができなければならない。
○医師は,医療に従事する様々な職種の人々と適切に役割分担し,良き指導者としての役割を演じていくことが期待される。

 

まぁ、言わんとしていることは分からないでもありませんが、なかなか「じゃあ具体的にどうしろと?」というあたりは、少々分かりにくいのではないでしょうか。

 

ではもう少し時間を現在に戻し、平成22年に改訂された「医学教育モデル・コア・カリキュラム」というものを見てみましょう。同じ文部科学省のサイトで探すことができます。

 

○医師として求められる基本的な資質

 

(医師としての職責)
・豊かな人間性と生命の尊厳についての深い認識を有し、人の命と健康を守る医師としての職責を自覚する。

 

(患者中心の視点)
・患者およびその家族の秘密を守り、医師の業務や医療倫理を遵守するとともに、患者の安全を最優先し、常に患者中心の立場に立つ。

 

(コミュニケーション能力)
・医療内容を分かりやすく説明する等、患者やその家族との対話を通じで、良好な人間関係を築くためのコミュニケーション能力を有する。
(チーム医療)
・医療チームの構成員として、相互の尊重のおとに適切な行動をとるとともに、後輩等に対する指導を行う。

 

(総合的診療能力)
・統合された知識、技能、態度に基づき、全身を総合的に診療するための実践的能力を有する。

 

(地域医療)
・医療をめぐる社会経済的動向を把握し、地域医療の向上に貢献するとともに、地域の保健・医療・福祉・介護および行政等と連携協力する。

 

(医学研究への志向)
・医学・医療の進歩と改善に資するために研究を遂行する意欲と基礎的素養を有する。

 

(自己研鑽)
・男女を問わずキャリアを継続させて、生涯にわたり自己研鑽を続ける意欲と態度を有する。

 

昭和の頃のものと比較すると、だいぶ「どのようなことが求められるのか」が分かりやすくなったような気がします。

 

時代の流れにより、医師への期待も変化する

 

これらの2つは、出展が多少違いますし、書かれた時代も違いますので、単純な比較は難しいのですが、少なくとも昭和62年には無く、平成22年にはあるものが、「コミュニケーション能力」と「自己研鑽」です。生涯を通じて勉強しなさい、ということはどちらにもあるのですが、「男女問わず」という文言は、平成22年のものにしかありません。この背景には、女性医師の増加があるようです。

 

例えば、昭和40年代以降の医師数の男女別の推移をみると、平成の初め頃までは、女性医師は全体の1割程度で推移していたようです。その後、女性医師は徐々にその割合が増え、平成14年頃には2割程度となりました。

 

現在では、年齢階級別にみれば3割以上が女性、という年齢階級もあります(29歳以下)。一方で、他の職種同様、女性医師も妊娠・出産などで一時的に医師の仕事から離れることがあります。

 

これを「離れたまま」とするのではなく、「医師への復職」を目指すことを鑑みて、「男女問わず、キャリアを継続させて…」となっているのでしょう。

 

では「コミュニケーション能力」はどうでしょうか。

 

日本経済団体連合会(経団連)が毎年発表している「選考時に重視する要素」は、ここ10年ほど「コミュニケーション能力」がトップだそうです。コミュニケーション能力とはそもそも、話す力、聞く力、そして相手の話の意図や背景などを読み取る力だといわれています。

 

本来であれば、子どものころから多くの人と出会い、関係性を築くうちに身に着けることができる能力であるはずですが、昨今の学生は特に読む力が弱い人が多いとか。同様の傾向が、医師(医学生)の中にも、あるのかもしれません。

 

そのまま医師として働くことになると、周りには同僚や先輩の医師、看護師などのコメディカル、患者さんやその家族など、かなり複雑な人間関係の中に出ていくことになります。

 

その中で、人の生死に係る、非常に込み入った話をしなくてはいけません。医師という立場で、一方的に「話す」だけでは、本来の医師の役割である「診察」も「治療」もうまくいきません。

 

私の拙い経験上でも、うまく周りとコミュニケーションがとれていない医師に会ったことがあります。そういった背景からあえて、「コミュニケーション能力を身に着ける」ことが、医師を養成するために必要とされているのではないでしょうか。

 

 

次回は、この「コミュニケーション能力」の有無による、“デキる医師と微妙な医師”の違いについて、考えてみたいと思います。

 

参考資料
文部科学省 期待される医療人像
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/009/toushin/961201b.htm

 

同上 医学教育モデル・コア・カリキュラム―教育内容ガイドライン― 平成22年度改定版
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/06/03/1304433_1.pdf

 

埼玉医科大学雑誌 第38巻 第2号 平成24年3月 「すぐれた臨床医」育成の現状と課題
http://www.saitama-med.ac.jp/jsms/vol38/02/jsms38_083_091.pdf

 

厚生労働省 第1回医師の需給に関する検討会資料
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/02/s0225-4c4.html

 

同上 平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況 1 医師
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/kekka_1.pdf

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在はフリーライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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