医学生の学習能力 この10年間での変化を読み解く

第9回: 医学生の学習能力 この10年間での変化を読み解く

医学生の学習能力 この10年間での変化を読み解く

■ 記事作成日 2016/9/14 ■ 最終更新日 2016/9/14


筆者プロフィール

名前:紅 花子(べに はなこ) 
性別:女
PR:正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在はフリーライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

医学部生の留年者、休学者数が増加中

医学生の学習能力 この10年間での変化を読み解く

 

元看護師のフリーライター元看護師のフリーライター紅花子です。このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で感じた“医師として活躍するために必要な素質”について考えてみたいと思います。

 

医学生の学習カリキュラムは、ここ数年で大きく変更がなされている部分があることは、これまでもお伝えしました。今回は、それを受ける学生側の変化について、考えてみます。

 

医学生の学習能力はどう変わったか

 

少し古いデータですが、2016年1月に、一般社団法人 全国医学部長病院長会議は、「医学生の学力に関するアンケート調査結果報告書」を公表しました。

 

このアンケート調査は、2011年頃から行われており、今回で5回目。第1回では2005年4月から2011年3月の在籍学生を対象とした調査・分析が行われており、およそ10年間の医学生の学力等に関する現状を示しています。

 

今回公表された第5回の調査結果では、医学部の入学定員が増加してはいるものの、低学年では留年者数・休学者数が増加していることが分かりました。しかしその一方で、3学年以降の留年者数の増加率は収束傾向にあるようです。

 

また、臨床実習開始前の共用試験であるCBT(コンピュータを使用した「知識・問題解決能力の客観評価試験」)や、OSCE(客観的臨床能力試験)、あるいは国家試験の成績は従来通り横ばいだったことも分かりました。
これらにより、「低学年で学習に問題が生じた学生も、共用試験受験時の医学生の知識レベルは十分に獲得されていると考えられる」と、報告書には明記されています。

 

さらに、卒業生の数とほぼ同数と考えられる「6年生の在籍率」は、増員した入学定員数に見合った数となりました。

 

このことから「共用試験(CBT と OSCE)及び国家試験の成績は従前通りであり、(学習量が増加する)低学年のク ライシスを乗り越えた学生は共用試験、国家試験では成績を確保している」とも明示されています。

 

実際のデータを見てみると

 

では、前述の調査報告書から、過去10年間での医学生の状況をみてみます。

 

医学生の学習能力 この10年間での変化を読み解く

 

医学部の入学定員は、「過去最大まで増員する」と閣議決定された翌年のみ、1割程度の増員がありましたが、その後は、ほぼ横ばいの状況が続いています。

 

では、実際に医学部に入学後はどうでしょうか。
平成20年度から平成26年度に渡り、全国でデータが残っている53大学の「留年者数」の推移を見てみます。

 

医学生の学習能力 この10年間での変化を読み解く

 

これによると、平成21年度以降、2学年での留年者数が最も多いことが分かります。これは留学者数の実数値を元にしていますが、各年度で入学定員が変わるため、その部分で補正をしたデータもありました。

 

補正留年率:各学年での留年者数を入学定員増が始まる以前までの留年者数の平均との比率を算出し、その率に当該学年での定員増加率を除した

 

しかし、1年生、2年生において留年してしまう学生はやはり多いことが分かっています。1 年生の補正留年率の推移では、定員増が行われた2008年、2009年以降、上昇傾向となり、2017年には170%を超えました。2 年生でも、平成 22 年度以降は 120%を超えていることが分かりました。

 

尚、留年の他にも、休学、退学などのデータも明示されていますが、いずれも傾向としては似通っているようです。

 

この様に、1年生、2年生の留年率や休学率の高さに対し、「留年者、休学者へのサポート」と、「授業への出席チェック」などのほか、「成績下位者にチューター、メンター、アドバイザーを付け、学習面・生活面で個別指導を行う」、「学業・生活支援・カウンセラーなどを配置して、メンタルチェックをしている」などの策が施されているようです。

 

1年・2年には何が起こっているのか

 

医学部に入学すると、それまでの高校生活とは違い、各段に勉強量が増えます。医師としての専門的な教育も徐々に始まってきますので、それまでの生活とは、大きく変わることもあるのではないでしょうか。

 

これは、医学生にとってのクライシスであり、これを何とか乗り越えることが出来れば、3 年生以降では十分な知識を習得することが出来、共用試験 CBT、OSCE の成績が向上し、その後は低い留年率、 休学率で、6年生まで新進級していくことが可能、となっています。

 

しかしその一方で、大学側からは「自己主導型学習の習慣の不足」という声があがり、特にその傾向は、いわゆる【ゆとり世代】が入学し始めた頃から目立ち始めているという声も聞かれているようです。

 

【ゆとり世代】と一括りにしてしまうことにも問題はあるのかもしれませんが、教員の側からこういった意見が出てくるには、それなりの理由があるのでしょう。

 

当コラムでもお伝えしたことがありますが、「医師のコミュニケーション能力不足」が問題となっています。医師に限らず、どの職種でもこういった傾向はあると思いますが、特に医師や看護師などの医療者は、他の職種よりも高いコミュニケーション能力が求められる職種のはずです。

 

しかし、インターネットやスマートフォンの普及により、「自分で考えて答え出す」ことよりも「簡単に答えが調べられてしまう現実」が、こういった「自己主導型学習の習慣の不足」や、「他人との会話が上手くできない=コミュニケーション能力が身につかない」という人が増えている原因にも、なっているのではないでしょうか。

 

その背景には、親の影響も?

 

ところで、病院にも時々現れては医療者の恐怖心や敵対心をあおる「モンスターペイシェント」ですが、「モンスター」と付く人が現れるのは、病院だけではありません。教育の場には「モンスターペアレント」という、似たような怪物が現れることがあります。

 

子供に良い教育を受けさせたい、良い教育の末に立派な職業についてほしい、これは、親であれば誰でも考えることでしょう。

 

ましてや、医学生を目指すともなれば、品行方正ないわゆる「良い子」を育てようとし、小学校・中学校で起こるような友人たちとの問題や、学習に対する課題も、その解決に親が出てくることも少なくはありません。

 

それ自体をすべて批判する気持ちはありませんが、「自分に生じた問題は自分で解決しようとする能力」は、子供の頃から徐々に身に着けていくものだと、私たちの世代では教えられた気がします。

 

でも、今の若い世代の人には、そういったことを教わって来なかったのではないか、と考えてしまうことも多々あるのです。

 

私自身は看護師ですので、医師ではなく看護師の世界で考えてみます。例えば、「やりたくないことでも“やるべきこと”は、やる」「問題が起きたらまずは“自分に非が無かったか”を考える」こういった姿勢が、今時の新人看護師さんや比較的若い世代の看護師さんたちの間には、減ってきているという気がします。

 

逆に「この仕事はやりたくない」とか、先輩からの注意を「意地の悪い先輩に強く怒られた」と考え、比較的早期に「辞めたい」という人が多いように感じるのです。

 

でもこういった気質の変化は、看護師だけではないと思います。医師(や医学生)にも、こういいた傾向はあるのではないでしょうか。

 

文部科学省のある資料には、医師不足の原因として次のようなことが書かれています。

 

  • 周産期、救命救急、小児科、外科、地方の自治体立病院などは、若い医師に選択されなくなっている
  • 若い医師は「3ない科」に行きたがるようになってしまった。「3ない」とは「救急がない」「当直が無い」「癌がない」なので、上記のような科は敬遠される
  • 先輩がつらそうに働いていれば、その科は後輩の医師は選択しない
  • 「立ち去りがたサボタージュ」という病院勤務医があまりのつらさに病院を辞めてしまうことが相次いでいる
  • 病院勤務医→開業医→自由診療開業医への流れ、地域→都会への流れがある

 

皆さんの周りでも、このような医師は居るのではないでしょうか。

 

医学部生教育が崩壊しないために

 

医学生の学習能力 この10年間での変化を読み解く

 

医師は、誰でも簡単になれる職業ではありません。しかしその一方で、医学部の定員が増えることにより、医師への道の険しさが和らぐことは事実であり、医学生の学力低下、モチベーション低下、モラル・態度など社会性の低下なども、課題となりつつあるようです。

 

厚生労働省の推計によると、2033年頃には医師の需要と供給は均衡し、それ以降は医師過剰となるとされています。その時、医師としてどう働き続けていけるのか、今のうちに活路を見出しておく必要があるのかもしれません。

 

 

参考資料

 

文部科学省 
モデル・コア・カリキュラムの改訂に関する専門研究委員会(平成22年度)(第3回)合
医学教育モデル・コア・カリキュラム−教育内容ガイドライン−平成22年度改訂版(その1)
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/06/03/1304433_1.pdf

 

同上
医学教育モデル・コア・カリキュラム−教育内容ガイドライン−平成22年度改訂版(その2)
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/06/03/1304433_2.pdf

 

同上
医学教育モデル・コア・カリキュラム−教育内容ガイドライン−平成22年度改訂版
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/11/15/1324090_21.pdf

 

厚生労働省
医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議 第一次報告
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/12/dl/s1215-10i.pdf

 

同上
医療法の一部改正について
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/tuchi/091226.pdf

 

同上
第1回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会資料
資料3−1 地域医療支援病院について
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000253pd-att/2r985200000253tc.pdf

 

この記事をかいた人


紅 花子

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