第15回: 否応なく、医師は患者のお手本として見られている
■ 記事作成日 2017/3/14 ■ 最終更新日 2017/12/6
患者は医師自身が思うより、よく医師のことを観察している
元看護師のライター紅花子です。
このコラムでは、私の約10年の看護師経験の中で感じた“医師として活躍するために必要な素質”について考えてみたいと思います。
今回は、「医師は患者のモデル(お手本)とみなされている」ということについて考えていきます。
医師の外見、言動も診療には関係する?
医師は意外にも患者のモデル像となっている場合が多く、例えコミュニケーション能力が高くても、腕の立つ医師であってもその見た目や所業によっては患者の信頼を得ることが難しくなります。今回は、実際にいた医師を例に挙げて考えていきます。
煙草を吸っている呼吸器科医師
COPDと診断した患者さんに、禁煙を勧める呼吸器科のA医師。一見すると、医師として当たり前なことをしているようにも見えますが、実はその医師自身が喫煙者でした。
そのため、休憩時にはタバコを吸っていることがあり、A医師が休憩から戻ると診察室中がたばこの臭いに包まれるといった状態でした。
患者さんからすれば、「自分には熱心に禁煙を勧めるくせに当の本人は周りに臭いがプンプンとするほど、たばこを吸っている」という状況だったため、「そんな医師から禁煙を勧められても説得力がまるでない」と、やがて患者さんが離れていく事態になってしまいました。
A医師は、周りの医師やメディカルスタッフからも「患者離れ」を指摘され、自ら進んで禁煙をすることとなりました。禁煙後は、患者さんの定着が図れたようです。
肥満体型の糖尿病専門医
糖尿病患者さんに生活習慣の改善を進める糖尿病専門医のB医師。こちらも、一見すると医師として当たり前の指導をしているようにも見えます。
しかし、B医師、実はかなりの肥満体型、いわゆるメタボの体型をしていたのです。
この“見た目”だけでも、患者さんからすれば、やや「説得力に欠ける」と噂されています。
しかし、それだけではなく、B医師は、院内の売店で脂っこい食べ物を大量に購入する姿を、患者さんたちに目撃されることがしばしばありました。
B医師は、医師としての腕はとても良く、人当たりも良いため、患者さんからも人気があります。特に、この「脂っこい食べ物を大量購入している姿」を知らない看護師や、病棟の患者さんたちからの信頼は厚かったようです。
しかし非常に残念ながら、外来患者さんからの信頼は今一つ…という状況であることは否めません。ご自身の専門と見た目とのギャップが悪い方向に影響を与えてしまっている可能性が大きいといえそうです。
堅気には見えない小児科医
背が高くスマートで、見た目だけはいわゆる“イケメン”なC医師。しかし、何を思ったのか、ある日スキンヘッドにしてきました。
元々、眼光が鋭い印象がありましたから、色々な意味で凄みを増してしまったようです。
そんなC医師は小児科医。担当患者さんは、赤ちゃんから中学生くらいまでが多いでしょうか。当然、保護者も一緒に診察室へ入ってきます。
ある日、就学前の女の子が初診でやってきましたが、診察室へ入るなり、「ひっ!」という声とともに泣き始めてしまいました。
保護者(母親でした)の方も、なんだかソワソワしています。C医師は、話せば物腰が柔らかい人物なのですが、小さな子どもからすれば、まず見た目でNGだったようです。
もちろん、スキンヘッドになる前のC医師を知っている患者さんやその保護者は、やや驚きながらもいつも通り受診しているのですが、初めて会う子どもや保護者からは、敬遠されてしまったようです。
禁煙できない産科医
見た目的には中肉中背で、いつもニコニコしているD医師は、産婦人科医です。しかし、実は結構なヘビースモーカー。前述のA医師同様、休憩後は診察室中にたばこの臭いに包まれている状態でした。
ここ数年の日本は、喫煙者にとって住みにくい世の中になりつつあるようですが、特に妊婦さんがいれば、家中で“禁煙”を推奨する世の中です。
つまりD医師が診察する患者さん(妊婦さん)は、自分だけではなく家族にも禁煙をお願いするわけですから、やはり喫煙者の医師はちょっと…となり、「担当医を変えてほしい」という人が後を絶ちませんでした。
もちろん、診察室の中で喫煙するわけではありませんが、その臭いもダメ、という妊婦さんが多いのは事実です。
結果的に、D医師は周りの医師からの進言もあり、かなり頑張って禁煙に挑戦中です。
診療科に見合った医師の見た目や言動が大切?
今回登場した4人の医師に共通しているのは、医師としてのウデは十分であるにも関わらず、その診療科に不適合な見た目や言動が目立ってしまった、ということです。
もし喫煙している皮膚科の医師であったら、肥満体型でも消化器の医師であったら、もしかしたら診療に影響が出るほどではなかったのかもしれません。
仮に開業した場合、病院勤務医よりもさらに、医師自身が「患者さんにとってのモデル」となります。
しかし、病棟や外来でも、患者さんは医師のことを常に観察しており、医師の持つ医療技術以外にも、その見た目や言動が信頼を失うきっかけにもなっているようです。
まとめ
医師という職業は、性格、コミュニケーション能力、医師としてのウデなど、たくさんのことを求められる職業といえます。これにさらに、見た目や言動が加わることになるわけですから、やはり世間一般から求められるものが非常に多い職業であるといえるでしょう。
どこまでが他人からみて許容範囲なのか。判断は難しいところですが、少なくとも自分の診療科を受診する患者さんに、「説得力がない」と言われてしまうのは、色々な問題につながる可能性を秘めているといえそうです。
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