NeedsとWantsを切り分ける医療機器製品化戦略 =連載コラム「医工連携時代」

NeedsとWantsを切り分ける医療機器製品化戦略

■ 記事作成日 2017/9/5 ■ 最終更新日 2017/9/5

 

元看護師のフリーライター、紅花子です。

 

医療とものづくり+ITを絡めたこのコラム。新しい医療機器開発を思いついた時、それは本当に世の中の役に立つものなのかどうか。

この判断が、その後の「開発から商品化まで」の道のりを、簡単にも困難にも変えてしまうポイントになります。

 

今回は、「こんなモノが欲しい」という医師の希望が、NeedsなのかWantsなのか、というお話です。

 

医師主導で行う医療機器開発の種は、日常の診療の中で得る閃き

 

医師が、日常の診察・検査・治療の中で、「もうちょっとこれがこうなるともっと使いやすい」あるいは「こんな形状のモノがあれば、患者さんへの侵襲(あるいは医師の負担)は軽くなりそうだ」など、何らかのきっかけで“閃き”が浮かぶことがあるでしょう。

 

例えば、外科系の手術や処置で使用する、ペアンとコッヘル。
一見すると全く同じモノに見えますが、開けばその違いは一目瞭然です。手術室の新人看護師が、最初に「器械の違い」を覚える、もっともポピュラーな手術器械でもあります。

 

この2つの手術器械、実際に開発されたのは1800年代の後半です。
ペアンの開発者は「Dr.ペアン」で、コッヘルの開発者はDr.ペアンの弟子でもあったDr.コッヘルです(Dr.コッヘルの師匠には、胃切後再建法を開発したことで有名なDr.ビルロートもいます)。

 

ペアンが開発されたころの外科手術は、術中の出血をどうすれば少なくできるか?という大きな課題を抱えていました。
当時、フランスで活躍していた外科医のDr.ペアンは、この課題を解決するべく、数年前にフランスの医療機器メーカーが開発した「X型鉗子」を改良し、「ペアン」を作り出したといわれています。

 

その時のペアンの頭の中には「血管をがっちりつかんで出血させない鉗子が必要」という思いがあったのではないでしょうか。

 

また、それから数年後、Dr.ペアンに師事していたことがあるDr.コッヘルは、甲状腺の手術に意欲的に取り組んでいたようです。
この頃には「ペアン」がメジャーな器械になっていたのかもしれません。

 

しかし甲状腺周辺には血管が多く、切離のたびに出血量することが課題だったようです。さらに血管の断端からの感染で術後に敗血症を起こすリスクもあり、当時は比較的リスクが大きな手術だったようです。そこでDr.コッヘルは

 

  • 手術による出血量を減らす
  • 手術部位の血管断面からの感染を防ぐ

 

こういった考えの元、「もっとしっかりと血管を圧挫させ、挟んだ血管が滑り落ちない器械があれば……」と閃いたのではないかと、筆者は考えています。
この発想から誕生した医療器械が、コッヘル止血鉗子だったのではないでしょうか。

 

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それからすでに100年以上、ペアンとコッヘルは世界中で広く利用される医療機器であり続けています。

 

もちろん、この2つの医療機器が世界中に広まっていったのは、販売側の努力もあったでしょう。
しかし2名の著明な医師が開発に関わり、それを使用することで当時としては驚異的な手術成績を残すことができた、といわれています(実際、Dr.コッヘルは甲状腺手術の成績の良さからか、ノーベル賞を受賞しています)。

 

自分が思いついたものは、すでに他の誰かがカタチにしているかも?

 

ペアンとコッヘルが誕生した当時は、現在とは比較にならないほど、少ない種類の手術器械で、様々な手術が行われていたと思われます。
この頃であれば「そうだ!ここをこうして……」という閃きは、全く新しい医療機器を作り出し、ロングセラーへと発展させることが出来たかもしれません。

 

しかし、現在ではどうでしょうか。
仮に「日本国内の手術で使用される鋼製小物(金属製の医療機器)」に限定したとしても、数千以上の器械が存在しています。
問題は、それが自分の勤務する医療機関にあるのかどうか、ということです。

 

私自身、とある「医師によるニーズ発表会」に参加したことがあります。
その中で上がってくるニーズの中には「先生、それすでに世の中に、そっくりなモノがありますよ」ということが、実際にあります。
これは「新しい医療機器に対する“Needs”ではなく、その医師が欲しいと思う“Wants”」になってしまうのです。

 

また、あるものづくり企業では、医師の「こんなモノが欲しい」という要望に応え、新たな手術器械を開発しました。
しかしこれを「商品化して販売する」という製販企業が現れず、現在のところは「医師の(個人的な)要望を叶えた医療機器」ではあるものの、量産には至っていません。

 

これも「新しい医療機器に対する“Needs”ではなく、その医師が欲しいと思う“Wants”」になってしまいました。

 

世の中に「商品」として出せるものかどうかを見極める

 

手術器械の中には「○○大式」や「△△(人名)型」などと冠されるモノが、たくさんあります。
医療機器メーカーのカタログに掲載され、○○大や△△医師とは無関係の医療機関でも購入することができます。
これは一人の医師の“Wants”ではなく、世の中の多くの医師が欲する“Needs”によって開発されたから、という背景があります。

 

では、自分の閃きが“Needs”なのか“Wants”なのかを見極めるには、どうすれば良いでしょうか。
答えは簡単です。
「市場を良く知る人に相談すること」です。

 

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まずは、地域にいる「医工連携コーディネーター」を探しましょう。

もしかすると、医科大学の中には、大学に所属するコーディネーターがいるかもしれません。
そこから「市場を良く知る人」、つまりその分野の医療機器を取り扱う医療機器メーカーに、市場調査や販路開拓を相談することが、一番の近道になるでしょう。

 

まとめ

NeedsとWantsを切り分ける医療機器製品化戦略 =連載コラム「医工連携時代」

 

単なる“Wants”ではなく、多くの人に受け入れられる“Needs”がきっかけとなり、新たに開発された医療機器は、ものづくり企業から医療機器メーカーを経由し、世の中に拡大していきます。

 

ここでご紹介した「ペアンとコッヘル」は、いずれも工場制機械工業が発達した「産業革命後」に開発されたものです。
現在、世界は「第4次産業革命」が起きていると言われています。
もしかすると近い将来、「△△式」など自分の名を冠した新たな医療機器が、世界の医師の役に立つ商品となる日が、来るかもしれません。

 

 

参考資料

 

公益財団法人 神奈川科学技術アカデミー 医療機器開発コーディネーター育成講座
https://www.newkast.or.jp/kyouiku/edu_h28/ed28_seminar_15.html

 

首相官邸 第4回 次世代医療機器開発推進協議会 議事次第|健康・医療戦略参与会合|健康・医療戦略推進本部 
資料3 医療機器開発支援ネットワークの取組と今後の方向性
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/kaihatsu/dai4/siryou3.pdf

 

東京都医工連携HUB機構 ニーズを見る
https://ikou-hub.tokyo/needs/needs_list

 

この記事をかいた人


紅 花子

正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在はフリーライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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