医師転職市場分析 医師にとっての「短時間正社員制度」を考える

医師にも制度的な時短が必要な時代へ

■ 記事作成日 2017/5/11 ■ 最終更新日 2017/5/11

日本の一般企業では、2008年頃から「短時間正社員制度」の導入が推奨されています。この制度は、雇用者・被雇用者ともにそれなりにメリットがあるといわれていますが、果たして医師の世界でもそうなのでしょうか。

 

制度の仕組みと、医師にとってのメリット・デメリットを考えてみます。

 

短時間正社員制度とはどのような制度なのか

 

短時間正社員制度とは、以下のように定義されています。

 

  • フルタイム正社員と比較し、1週間の所定労働時間が短い正規型の社員
  • 期間の定めのない労働契約を締結
  • 時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等が、同種のフルタイム正社員と同等

 

国は、この制度を活用することで介護や育児による離職の防止、心身の健康不良などやむを得ない理由でフルタイムでは働けないがやる気や能力が高い人材の確保、自己啓発やボランティアなどキャリアの幅を広げるということに繋がるとしています。

 

この制度ができた背景として、日本の労働制度と働き方に対するいくつかの課題が注目されていました。大きくは以下の2つです。

 

  • 子育てや介護との両立、転職や 再就職、副業・兼業など
  • 正規職員、非正規職員という2つの働き方の不合理な処遇の差

 

そのため、この短時間制社員制度を取り入れることで、

 

  • 正規職員と非正規職員との格差を埋める
  • やる気アップやモチベーション向上につなげることで仕事の質を向上する
  • 長時間労働を是正してワーク・ライフ・バランスを改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなる

 

と考えられており、結果的に労働参加率の向上を目標としています。

 

厚生労働省 短時間正社員制度導入ナビ より

 

一般的には、雇用者、被雇用者両方にメリットをもたらす制度であるとされており、その効果は社会全体に波及すると考えられています。

 

厚生労働省 短時間正社員制度導入ナビ より

 

医師の「短時間正社員制度」の現状

 

では、医療者、特に医師における短時間正社員制度の現状はどうなのでしょうか。

 

日本医師会の病院における必要医師数調査結果を見てみると、2015年5月現在、フルタイムで働く医師は80.3%、短時間正社員制度で働く医師は1.8%、非常勤で働く医師は18.4%でした。さらに、男女で見てみると

 

  • 男性:フルタイムが82.2%、非常勤が17.0%、短時間正社員制度では0.8%
  • 女性:フルタイムが72.7%、非常勤は24.0%、短時間制正員制度では3.2%

 

という結果でした。

 

 

この「必要医師数実態調査」は、5年ごとに行われていますが、前回は2010年に厚生労働省が行っています。これは、政府が「短時間正社員制度」をスタートさせた2年後です。

 

この時の調査結果と、2015年での調査結果を比較すると、2010年では短時間正社員制度を活用している医師が2.1%であったのに対し、2015年は1.8%と減少しています。

 

 

本来であれば、医師を雇用する医療施設側と、雇用される医師側ともに、国の動向に従っていれば、「短時間正社員制度」がスタートして間もない2010年よりも、そこから数年が経過している2015年の方が、この制度を活用するケースが増えていてもおかしくはないわけです。

 

しかし実際のところは、ごくわずかではありますが、減少していることになります。これだけを見ると、国の政策、制度に対して、医療現場ではまだまだ、上手く対応できていないのではないか、と捉えることもできます。

 

では、医療施設側での意向を考えてみましょう。

 

2010年の調査結果では、「短時間正社員制度」の導入へのメリットを感じている病院は、17%ありました。さらに2015年の調査結果をみると、すでに15.3%の医療施設は、この制度を導入しているようです。

 

 

非常勤医師と比較するとおよそ1/6、2割にも満たない程度ですが、それでもこういった勤務形態を取り入れる医療機関は今後、増えてくるのかもしれません。

 

医療者にとって「短時間正社員制度」は吉か凶か

 

2006年に厚生労働省が行った「医師労働環境の現状と課題」という調査があります。これによると、医師の総勤務時間は、1週間当たり70時間を超え、過重労働を強いられている現状が浮き彫りになりました。このような労働環境を強いられる医師にとって、「短時間正社員制度」は、どのように映るのでしょうか。

 

確かに、患者さんの視点から考えれば「いつ行ってもかかりつけ医がいる」というのは、安心感を与えるものかもしれません。また、医師にとっても担当患者を他の医師に任せるなら、長年診てきた自分が診る方が、経過も分かるし話が早いと思う医師もいるかもしれません。

 

しかしその一方で、「医師の働き方」さらには「医師の生き方」という観点で考えると、今後は必要となる制度ではないでしょうか。

 

仮に、短時間正社員制度を利用することで吉と出る医師像をピックアップしてみます。

 

  • 育児中の女性医師
  • フルタイムでは厳しい高齢医師
  • 身体に不調があり、フルタイムで働くことは難しいが、やる気とスキルは十分な医師
  • 自らの家庭環境で、介護や養育などを必要としている医師
  • 医師としての仕事以外にも、ライフワークバランスを大事にしたい医師、例えば
  • 週に数日はボランティアをしたい
  • 色々なフィールドで自分の力を試したい

 

現在の日本では、女性医師の比率が高くなってきており、現員医師数の2割近くは女性医師という現実があります。また、患者さんだけでなく、医療者の高齢化も進んでおり、特に都市部以外の過疎化が進んだ地域などでは、高齢医師も増えています。地域によっては「医師の高齢化により、今後の医療体制に大きな危機感を持っている」ところもあります。

 

医療従事者の需給に関する検討会によると、女性医師と60歳以上の高齢医師に対しては、30〜50歳の男性医師と同等の仕事量を求めることは難しく、仕事内容や働き方を改善することが必要であるという意見も出ています。また、へき地や地方の医療機関では、若い医師が都市部へ出向いてしまうことから、高齢医師の力も大きく必要とされているのが現状です。

 

仕事の内容を改善することは、働く診療科やその病院の医療者全体でのマンパワーを考えると難しいことなのかもしれませんが、働く時間を改善するということは、仕事の内容を改善するよりも進めやすいかもしれません。

 

現在の日本では、どこの都道府県でも、医師不足解消に向けた動きが活発になっています。自分自身の生き方、家族とのつながり、自らのライフワークバランスなどを考え、働き方を選べる時代となっているといえるでしょう。

 

実際に、「短時間正社員制度」を導入している医療機関も、いくつか出始めています。このような背景を考えると、短時間で精力的に働く医師というのは今後、さらに増えてくるのではないでしょうか。

 

【参考資料】

 

厚生労働省 短時間制社員制度導入支援ナビ
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/outline/

 

首相官邸 働き方改革実行計画 
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/01.pdf

 

日本医師会 病院における必要医師数調査結果
http://www.jmari.med.or.jp/download/WP346.pdf

 

厚生労働省 病院等における必要医師数実態調査の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ssez-img/2r9852000000ssgg.pdf

 

厚生労働省 医師労働環境の現状と課題
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/03/s0327-2d.html

 

厚生労働省 医師の需給推計について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000120209.pdf 

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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2015年12月10日、厚生労働省では「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(第1回)」が開催されました。昨今の医療事情を反映しながら学部の定員増措置の見直しを図るなど、今後の医師の数を左右する、重要な検討会となるようです。
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2015年12月10日、厚生労働省が「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(第1回)」を開催しました。ここでは、全国的にみた「医師数を鑑みた医学部定員の在り方」が検討されていました。前回の当コラムでは、医師の数が増えている一方で、地域格差が埋まっていない現実をおつたえしましたが、今回も引き続き、「医師が求められている地域はどこか」を考えてみたいと思います。
医師の需要と供給のバランスは?その3=直近5年間の動向=
厚生労働省では、数年ごとに「必要医師数実態調査」を行っています。その一方で、「医療施設(静態・動態)調査」という調査も行い、その時点での診療科別、都道府県別などの医師数および歯科医師数を把握しています。
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厚生労働省では、数年ごとに「必要医師数実態調査」を行っていますが、2015年には日本医師会がこの調査を行いました。この調査結果からは、「必要医師数」と「必要求人医師数」とのギャップを見て取ることが出来ます。
少子高齢化ニッポン、最も患者不足となる地域は?=市場分析=
医師の仕事は、患者さんがいないと始まりません。つまり、人口が多いところには多くの病院ができますし、医師の需要も高くなります。
病床機能の転換は進むのか?迫る転換期限
つい先日、厚生労働省の社会保障審議会の「療養病床の在り方等に関する特別部会」が行われました。この会議の中では、介護療養病床と25対1医療療養病床が、2017年度末以降にどう変わっていくのか、という課題への議論が行われています。
所謂「地域に必要な医師数」とはどのように決められているのか?
日本では全国的に「医師不足」が叫ばれて久しいですが、本当にそうなのでしょうか。 確かに、有効求人倍率は常に1倍を超えていますし、どこの地域で勤務する医師でも「人手が足りない」と感じることは多いでしょう。
医師転職の難しさを、地域医療の医師偏在問題から考える
日本全国で医師不足が公の場で議論されるようになって、早10年。実はそれ以前に一度、医学部定員を減らす、という動きがあったそうです。
ポイントは「高齢化社会への対応」 厚生労働白書からみる必要な医師
先日、厚生労働省より「厚生労働白書」が公表されました。厚生労働白書とは、厚生労働省がおこなっている行政に関する年次報告書として位置づけられており、毎年少しずつ、取り上げる内容が変化しています。
医師の転職先を病院機能から考える 中核病院の定義とは
医師が転職を考える時、何を基準に転職先を選ぶのでしょうか。例えば、病院が担う役割から考えることもありますよね。「病院が担う機能」にはいくつかの定義がありますが、その中でも、時折耳にする「中核病院」という言葉があります。現在では何気なく使われている言葉ですが、どのような病院のことを定義しているのでしょうか?
公立病院への転職 医師としてのメリットはあるのか?
医師が活躍できる場所は様々な分野にありますが、中でももっとも多くの医師が勤務するのが病院などの医療機関です。医療機関は規模や特性によって、様々に分類されており、それぞれに期待されている役割、担うべき役割があります。
医師の需要は高いが、どうする?一般内科医への転職は正しい道なのか
医師という職業は、非常に多くの専門領域に分かれますが、その中でもよく見かける「一般内科」という言葉。単純ですが、だからこそその責務が分かりにくい言葉かもしれません。今回はこの「一般内科」と、今後増えてくるであろう「総合診療専門医」について考えていきたいと思います。
医師の「外来のみ勤務」への転職は可能か?
医師が働く現場としてもっとも多いのが医療機関です。しかし、入院施設のある病院では、夜間勤務や当直、オンコールなどの対応がつきもので、そういった夜間の対応に負担を感じる医師も多いのではないのでしょうか。
止まらない医師の偏在問題 自治体が医師数を完全コントロールする時代へ?
日本で全国的に“医師不足”が叫ばれるようになってから、早10年以上。ここ数年は、国が中心となって“医学部増員”を図っており、推計では2024年(平成36年)頃には、医師の需要と供給は均衡すると考えられています。
医師が総合病院へ常勤転職することは、吉なのか凶なのか
近年、病床数の変更や病院の統合などによって、医師確保対策に乗り出している、いわゆる“総合病院”。現在の医療法では、この名称への基準は無くなりましたが、それでもまだ、医師の転職先の選択肢として“総合病院”が視野に入ることは多いのではないでしょうか。
医師の“急性期病院への転職事情”を考える(公立編)
医療業界は日々目まぐるしく変化を続けています。その影響は、病院の機能にも及んでいます。今回は、ここ数年で色々な“変化”を余儀なくされている、急性期病棟に焦点を当てていきたいと思います。
医師がクリニックへ転職するメリットとは?
医師の就職先といえば、“病院”というのが一般的でした。しかし、近年では勤務スタイルの多様化に伴い、クリニックへの就職・転職を希望する医師も増加しており、実際に求人情報も増加してきています。
医師転職サイトの“非公開求人”の実態とは?
日ごろから多忙な医師にとって、時間的・精神的な負担をかけずに、効率よく“優良な求人情報”を探す手段とは、どのような方法なのでしょうか?近年、医師の転職方法の主流になりつつある医師転職支援サービスの“非公開求人”について、詳しくご紹介していきたいと思います。
一般病院への転職、何を見てどう考える?
日本の医療分野では、一般病院という呼び方への明確な定義はありませんが、大学病院や特定機能病院との違いを明確にするために、一般病院と呼んでいる傾向にあります。
転職を考えるなら今!医師に求められる“地域医療”への対応力
現在の日本の医療は、抜本的な改革無しには立ちいかない状況に追い込まれています。そんな現在を生きる医師に対し、これまでの“狭く深い”分野での専門性から、“より広く深く”対応する力が求められています。今、医師が転職を考えるなら、このようなスキルを必要とされる“地域医療”に対応できる力を養うことも必要かもしれません。
いくつになっても可能なのか!?中堅医師の大学病院への転職
“大学病院”というとベテランの医師もいますが研修医も含め若い医師が多いというようなイメージがありませんか。医師以外の例えば看護師なども、卒後すぐに就職する先が大学病院である人が多いため、どうしても平均年齢は若くなります。今回は、大学病院で求められる医師の資質と、中堅以降での大学病院への転職について、考えてみます。
急性期病院への転職事情を考える(民間病院編)
以前、公立病院の急性期病院への転職に関する情報をお伝えしました。今回は、民間病院の急性期医療に着目していきます。公立病院と比較しながら、民間病院ならではの視点で概要をご紹介していきます。
必要医師数と医師確保対策から医師の転職を考える
全国的に医師不足が叫ばれているものの、平成36年ころには医師数は需要と供給のバランスが取れるとされています。しかし、それはあくまでも全体で見た医師数の話であり、都道府県別に見ると、現在でも医師数の需要と供給のバランスには、偏りが見られており、今後もその傾向は高まることが予測されます。
医師の需要が最も高い県はどこか?= 医師確保対策と医師必要数から考える
平成29年現在ではまだまだ医師不足が謳われているものの、平成36年ころには医師の「需要と供給」バランスが取れるとされています。今後は、医師も自分を積極的に売り込まなければならない時代がやってくるかもしれません。
医師転職市場分析 相変わらず需要が高い、リハビリテーション医
リハビリテーション医の特長として、東京・大阪・福岡など都市部での需要が高く、実際の雇用人数も多くなっています。医学部増設に伴い医師数の増加が見込まれていますが、診療科によっては今後、都市部での医師の需要が低下するケースも見込まれますが、一方で「診療科としての需要が高い」というのは、その科の医師にとっては喜ばしいことかもしれません。
大学の医局から遠隔地へ勤務する「医師派遣」は法的に問題ないのか?
大学(医局)へ所属すると、避けては通れないのが「遠方への勤務異動」です。「君、○○の▲▲、好きだったよね〜」これはある医療系ドラマの中で、教授が「左遷命令」として使っていた言葉ですが、実際にこれをやると「法的にはNG」というケースがあります。
2033年に医師の求人需要がなくなるのは本当か?必要求人医師数倍率からの一考察
今回は、都道府県ごとの必要医師数と、必要求人医師数の違いについて、考えてみたいと思います。
専門医資格と市場ニーズの関係
平成25年に厚生労働省より専門医の在り方に関する検討会 報告書が出され、専門医の重要性、そして専門性に対する「需要」も高まっている現在の医療業界。この「専門医の需要」はどこまで高まっていくのでしょうか。

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