心臓血管外科 常勤医師の年収アップ交渉術 転職面接で使える具体的手法

心臓血管外科の先生が「交渉」で年収アップを勝ち取る方法

■ 記事作成日 2017/10/20 ■ 最終更新日 2017/10/20

 

「他専門に比べて、心臓血管外科医の年収はあまりに低い」

 

これは心臓血管外科の先生の偽らざる思いではないでしょうか。

 

しかし心臓血管外科医がひとこと「私の年収は低い」と言ってしまったら、事情を知らない一般市民から「低いわけはない」とバッシングを受けてしまいます。
それでほとんどの心臓血管外科医は、年収について一様に口を閉じています。

 

しかし、業務内容の過酷さと人命救済への貢献度から考えると、心臓血管外科医の年収の相対的な低さは「事実である」というしかないでしょう。

 

心臓血管外科医が年収を上げることは簡単ではないので、次の転職のときは戦略をもって年収交渉に臨む必要があります。

 

心臓血管外科の勤務医の年収上限を知る

 

先生が転職を希望する病院と年収交渉するときに、「希望年収が低すぎること」も「ふっかけること」も禁物です。
また、採用面接時に病院側から予想外の高額年収が提示された場合も、業務内容をきちんと確かめないと危険です。

 

転職で確実に年収アップを図るには、先生自身が「心臓血管外科勤務医の年収の相場」を把握しておく必要があります。

 

医師専用の転職支援サービスで定評がある「医師求人ドットコム」の心臓血管外科医を募集する求人票を分析してみましょう。

 

医師転職ドットコムの心臓血管外科医求人票から

 

「医師求人ドットコム」には心臓血管外科医を募集する求人票が170件あります(2017年10月現在)。
一般内科医の1,442件とは比べるべくもありませんが、それでも心臓血管外科医の求人票は「比較的多いほう」といえます。

 

個別の求人票を見てみましょう。

 

20年目でも遠く感じる年収2,000万円

 

まずは、静岡県牧之原市の病院の求人票を紹介します。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務日
静岡県牧之原市

病院

10年目1,210万円

20年目1,790万円
(当直手当、オンコール手当は別途)
当直手当4万〜5万/回

 

2,000万円以上も可

開心術5例/月、その他手術10例/月。
外来週1コマ、1コマ10人。
病棟管理15人。
循内と一体化した「心臓病センター」開設。

週4〜5日勤務、当直なし可

 

この病院には心臓血管外科と循環器内科が一体化した心臓病センターがあります。
手術件数も、開心術5例/月、その他の心臓血管外科手術10例/月と抱負です。

 

牧之原市は人口約5万人の小さな街ですので、この病院は地域の心疾患治療の駆け込み寺的な存在と推測できます。

 

この病院が採用したいのは、入職後すぐに手術ができる心臓血管外科医のようです。
卒後10年未満の医師の年収額を提示していないことから、若い医師は求めていないと推察できます。

 

中堅以上の心臓血管外科医を募集しながら、年収額はそれほど高くありません。
求人票には「2,000万円以上も可」と書かれてありますが、この額を獲得することは簡単ではなさそうです。

 

当直手当が最大の5万円だった場合、月4回の当直を行うと年額240万円になります。
これに20年目医師の年収1,790万円を足すと、ようやく2,030万円になります。

 

20年目の医師が、心臓血管手術をフルにこなし、当直も若手医師並みに担当し、それでかろうじて2,000万円に乗るというレベルなのです。

 

心臓血管外科医の年収の低さは、「年収が高い」といわれている診療科と比べるとより鮮明になります。
あくまで参考ですが、心臓血管外科医をがっかりさせてしまう求人票を紹介します。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務日
<美容皮膚科>

東京都新宿区
クリニック

3,000万〜

3,500万円

植毛ドクター

週5日勤務
<人工透析医>

神奈川県逗子市
クリニック

2,000万〜

3,000万

人工透析

週5日勤務

 

人命に直接的に関係しないQOL治療の美容皮膚科や、維持透析のクリニックでは簡単に2,000万円を超えますし、3,000万円も不可能ではありません。
誤解を恐れず言うならば、「医師としてのやりがい」を完全に抜きにして「年収だけ」を考えると心臓血管外科医は「割に合わない」といるでしょう。

 

求める技術は「高」度なのに年収は「高」くない

 

続いてこちらの長野市の病院と埼玉県羽生氏の病院の、心臓血管外科医を募集する求人をご覧ください。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務日
長野市

病院

3年目800万円

10年目1,100万円
20年目1,400万円
30年目1,600万円
(当直手当、残業手当は別途)
当直手当2万5千〜3万5千円/回

高度専門医療を展開。
心臓大血管手術100例/年、ステントグラフト手術50〜70例/年、末梢血管手術60〜80例/年。
手術3〜5件/月、外来2〜3コマ、1コマ20〜35人、病棟管理5〜15人

週5〜5.5日勤務、当直0〜4回/月

 

長野市の病院は「高度専門医療」を展開していることを自負しています。

 

心臓血管外科を標榜する多くの病院が症例不足に悩む中、心臓大血管手術件数が年100例に及ぶことは、その自負に見合う実績といえるでしょう。
ステントグラフト手術の年50〜70例も、症例数を稼ぎたい心臓血管外科医には魅力的な数字といえそうです。

 

また、末梢血管手術も60〜80例/年ですので、血管外科医も注目したい求人票ではないでしょうか。

 

しかしそれにも関わらず年収は高くありません。
当直手当が別途支給されるとはいえ、医学部卒業後20年目の医師ですら1,400万円です。
また、3年目800万円、10年目1,100万円となっているので、この期間は1年で43万円しか増額しません。
1,000万円に到達するのは医学部卒業後5〜6年目になります。

 

年収の下限上限額に開きがある場合は「交渉勝負」

 

以下は、埼玉県羽生市の心臓血管外科医を募集している病院の求人票で、さらにシビアな内容になっています。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務日
埼玉県

羽生市

卒後5年以上

1,200万〜2,000万円
(当直手当は別途)

手術、外来、病棟管理

週4〜4.5日勤務

 

年収欄には「卒後5年目以上、1,200万〜2,000万円」としか書かれてありません。
提示する年収の下限額と上限額に2倍近い差があると、閲覧する医師は混乱するでしょう。

 

ただ、この年収の表示方法には、病院側の意図が見え隠れします。
ここから想像できることは次の2点です。

 

  1. 後期研修を修了した心臓血管外科医を採りたい
  2. 病院経営者は、手術実績によって年収を決めたいと考えている

 

この病院の採用面接を受けるときは、年収交渉がとても重要になりますので注意してください。
心臓血管外科医が採用面接で、病院経営者側を納得させることができる「手術実績プレゼン」を披露できれば、高額年収が期待できますが、そうでないと下限の1,200万円に限りなく近づいてしまいます。

 

埼玉県羽生市は、10キロ圏内に上越新幹線の駅がありますが、人口5万5千人ほどの小さな街です。
医師の年収は都心から離れた病院ほど高くなる法則がありますが、この心臓血管外科医の求人票はそれに当てはまりません。

 

心臓血管外科の権威たちが「年収の低さ」を分析

 

心臓血管外科医の年収が低いのは、構造的な問題のようです。
心臓血管外科医の権威や若手が行った「心臓血管外科医の年収の低さの分析」を紹介します。

 

患者の減少や低侵襲化が年収を下げる要因になっている

 

日本心臓外科学会の会長を歴任した、神戸大学病院心臓血管外科の大北裕教授は、心臓血管外科領域は「患者の減少」「患者の重症化」「複雑化する手術」「低侵襲化への要求」にさらされていると述べています。

 

これらはいずれも心臓血管外科医の年収を押し下げる要因になります。

 

「患者の減少」は意外に感じるかもしれませんが、心臓疾患や血管疾患の患者が減っているわけではありません。
循環器内科の治療領域が拡大したことで、相対的に心臓血管外科領域の患者が減ったということです。

 

患者の減少は売上の減少を意味しますので、病院経営者が心臓血管外科医の年収を上げようという動機が失われます。

 

循環器内科治療が高度化したために、循環器内科から心臓血管外科に回せる患者はどんどん重症化しています。
重症患者のほうが軽症患者より治療の手がかかるので、1人の心臓血管外科医が治療できる患者数は減ります。

 

より重傷な患者をするほど診療報酬の単価が上がるのであれば、1人の心臓血管外科医の売上は変わりませんが、日本の診療報酬はそうはなっていません。
つまり、重症患者を1人治すより、軽症患者を5人治したほうが売上を上げやすいのです。

 

売り上げの上げやすさは、医師の年収に直結します。

 

そして大北教授は「世をあげての低侵襲化は心臓血管外科医をおびやかしている」と述べています。

 

その典型例がCABG(冠動脈バイパス手術)の急減とPCI(経皮的冠動脈形成術)の急増です。
2008年の国内の症例数はCABGの約2万件に対し、PCIは約23万件でした。

 

CABGだけではありません。

 

弁膜症でも大動脈瘤でもインターベンション治療が増え、さらに末梢血管の血管内治療や左心不全の再生医療などが台頭してきています。
大北教授は「従来の心臓血管外科医の仕事は加速度的に少なくなっている」と警鐘を鳴らしています。

 

「本邦における心臓血管外科医、学会が直面する諸問題」(日本心臓血管外科学会40周年記念誌 2010、大北裕・神戸大学病院心臓血管外科教授)

「本邦における心臓血管外科医、学会が直面する諸問題」(日本心臓血管外科学会40周年記念誌 2010、大北裕・神戸大学病院心臓血管外科教授)

 

心臓血管外科手術はそもそも利益貢献度が低い?

 

心臓血管外科医の技術料が軽視されていると訴えるのは、東京女子医科大学心臓血管外科の西田博講師です。

 

診療報酬上の技術料とは、心臓血管外科医の手術スキルへの対価です。
難易度の高い手術を行った医師には高い技術料が支払われるべきですが、そうはなっていません。

 

心臓血管外科の手術では、特殊縫合糸の費用だけで技術料の13%を占めるのです。
技術料とは別に特殊縫合糸代を請求することはできないのです。

 

つまり心臓血管外科医の「手術スキルへの対価」のうち、13%が「糸代」に持っていかれるわけです。
西田講師によると、外科手術の技術料の15〜20%は「糸」を含む医療材料・医療器具の費用となっています。

 

病院経営者は売上と同時に原価もウォッチしています。
単価が高い手術を行っても、医療材料や医療器具などの費用がかさめば原価が高くなり、利益への貢献度はそれほど高くありません。
ここでもやはり、病院経営者は「心臓血管外科医の年収は上げにくい」と考えてしまうのです。

 

「ここがおかしい、日本の手術の技術料〜技術料軽視、医療軽視のからくりをもっとよく考えてみよう」(東京女子医科大学 心臓血管外科 西田博講師)

「ここがおかしい、日本の手術の技術料〜技術料軽視、医療軽視のからくりをもっとよく考えてみよう」(東京女子医科大学 心臓血管外科 西田博講師)

 

一方、若手心臓血管外科医は1,139万円で「不満がない」と回答

 

若手の心臓血管外科医は、年収が1,139万円だと「不満がない」と感じ、996万円だと「不満がある」と感じる。

 

こんな「つつましやか」な印象を与える調査結果を発表したのは、日本心臓血管外科学会の40歳以下の若手心臓血管外科医でつくる「U-40」という委員会です。
2017年に心臓血管外科医アンケートをまとめました。

 

回答したのは若手心臓血管外科医327人で、平均卒後年数は8.5年、平均年収は1,062万円でした。

 

若手心臓血管外科医の「つつましやか」さは年収へのこだわりが小さいだけではありません。下記の表は、心臓血管外科医の年齢別の勤務状況です。

 

勤務日数

(日/週)

当直数

(日/週)

時間外労働時間

(時間/月)

33歳未満 5.8 1.3 92.4
33歳以上 5.6 1.1 80.2

 

若手心臓血管外科医ほど、勤務日数も当直数も時間外労働も過酷なのですが、アンケート結果では、給料の額を含めて「若手ほど不満が小さい」という結果が出たのです。

 

年収増は不満を抑制する力を持つ

 

日本心臓血管外科学会U-40は、この調査から次の3つの結論を導き出しました。

 

  1. 熱意、体力、時間を多く持つ若手心臓血管外科医ほど重症患者に対して強い使命感を持つ
  2. 重症患者をこうした過酷な労働環境で診察している構造には問題がある
  3. 心臓血管外科医の労働環境を改善していかないと、将来展望、モチベーション、精神衛生が低下し、年齢とともに熱意が失われかねない

 

そして、心臓血管外科医の不満を抑制するのは、専門性を高めることと「年収の増加」であることも、今回の調査で明らかになったのです。

 

理想的な労働環境達成の<br />Key<br />は何か

理想的な労働環境達成のKeyは何か

 

それでも年収を上げるための心臓血管外科医のための交渉術とは

 

心臓血管外科医が次の転職で年収を100万円以上上げることは容易ではありません。

 

東京23区内の病院からかなり遠方の地方病院に転身したり、大学病院から年収が高いと評判の市中病院に転職したりすれば確かに年収は上がりますが、この年収の上げ方は他の診療科にも共通したことで、心臓血管外科に限った話ではありません。

 

心臓血管外科医が年収を上げるには、20年近くかけて手術スキルと一緒に年収を上げるか、新たにインターベンション治療に進出するかといった、「地道な正攻法」しかないようです。

 

面接でインセンティブのルールをしっかり聞き出す

 

それでもなお、転職は数少ない年収アップのチャンスです。
この貴重な機会を逃さないようにするためには、インセンティブのルールづくりがしっかりしている病院を選ぶことが重要です。

 

インセンティブ契約で失敗する心臓血管外科医は、入職前にしっかり確認しなかったという初歩的なミスをしています。

 

例えば、手術件数に応じたインセンティブでも、支給額を決めるときに「その医師がその患者の重要疾患を診断したか」が加味されることがあります。
例えば、循環器内科医が外来で手術適応患者を見付けた場合、実際に手術するのが心臓血管外科医だったとしても、1件の手術のインセンティブを2人の医師で折半することがあるのです。

 

採用面接で事務長が「手術1件のインセンティブは診療報酬の5%」と言ったとしても、心臓血管外科医としてはそれだけで納得するのは危険です。
「インセンティブが減額される条件」は必ずどの病院でも設定しているので、細かく聞き出しましょう。

 

年収交渉が苦手な医師が取るべき行動とは

 

転職で年収を上げるには、入職する前にその病院のインセンティブ制度を熟知する必要がありますが、心臓血管外科医は「給料のルールを細かく聞くこと」が苦手です。

 

それは心臓血管外科医には「年収のことを考えていたら心臓血管外科医なんてやってらない」「お金より症例数」という意識があるからです。
また「自分より経験豊富な心臓血管外科医がもらっている年収より多くもらうことはできない」とも考えがちです。

 

心臓血管外科医自身がそのような気持ちを持っているうちは、年収は思うように上がらないでしょう。

 

年収交渉のテーブルに臨んだ心臓血管外科医は、業務内容の確認と切り離して、インセンティブルールを確かめたほうがよいでしょう。
業務内容については理事長に話を聞き、年収やインセンティブについては別の機会に事務長に時間を取ってもらってじっくり質問する、といった一工夫が年収アップ交渉には必要になってきます。

 

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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美容整形外科 常勤医師の年収アップ交渉術 転職面接で使える具体的手法
転職活動を始めた先生の中には「報酬のことを口にするのが苦手」と感じている方が少なくないのではないでしょうか。しかし、時間とコストをかけて身に付けた知識と経験に見合った年収を得ることは、当然のことです。そこで、美容整形外科の先生が、次の転職で大幅な年収アップを獲得する交渉術を紹介します。
呼吸器内科 常勤医師の年収アップ交渉術 転職面接で使える具体的手法
転職活動を始めた先生の中には「報酬のことを口にするのが苦手」と感じている方が少なくないのではないでしょうか。しかし、時間とコストをかけて身に付けた知識と経験に見合った年収を得ることは、当然のことです。そこで、呼吸器内科の先生が、次の転職で大幅な年収アップを獲得する交渉術を紹介します。
消化器外科 常勤医師の年収アップ交渉術 転職面接で使える具体的手法
転職活動を始めた先生の中には「報酬のことを口にするのが苦手」と感じている方が少なくないのではないでしょうか。しかし、時間とコストをかけて身に付けた知識と経験に見合った年収を得ることは、当然のことです。そこで、消化器外科の先生が、次の転職で大幅な年収アップを獲得する交渉術を紹介します。
糖尿病内科 常勤医師の年収アップ交渉術 転職面接で使える具体的手法
転職活動を始めた先生の中には「報酬のことを口にするのが苦手」と感じている方が少なくないのではないでしょうか。しかし、時間とコストをかけて身に付けた知識と経験に見合った年収を得ることは、当然のことです。そこで、糖尿病内科の先生が、次の転職で大幅な年収アップを獲得する交渉術を紹介します。
皮膚科 常勤医師の年収アップ交渉術 転職面接で使える具体的手法
転職活動を始めた先生の中には「報酬のことを口にするのが苦手」と感じている方が少なくないのではないでしょうか。しかし、時間とコストをかけて身に付けた知識と経験に見合った年収を得ることは、当然のことです。そこで、皮膚科の先生が、次の転職で大幅な年収アップを獲得する交渉術を紹介します。

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