小児科 常勤医師の年収アップ交渉術 転職面接で使える具体的手法

小児科の先生が「交渉」で年収アップを勝ち取る方法

■ 記事作成日 2017/8/7 ■ 最終更新日 2017/8/7

 

年収だけで勤務先を変える医師はいません。特に小児科医の先生は「おカネのことを考えたら子供の治療なんてできない」と考えていることでしょう。しかし、長年の研鑽によって身に付けた医療の知識と経験が、「正当な報酬」によって評価されることは、当然のことです。

 

この記事では小児科の先生が、次の転職で大幅年収アップを獲得する交渉術をご紹介します。

 

小児科勤務医の年収上限を知る

 

年収交渉では、「希望年収が低すぎること」も「ふっかけること」も禁物です。また、採用面接時に病院側から予想外の高額年収が提示された場合も、業務内容をきちんと確かめないと危険です。

 

転職で確実に年収アップを図るには、先生自身が「小児科勤務医の年収の相場」を把握しておく必要があります。代表的な転職支援サイトの求人票を分析してみましょう。

 

リクルートドクターズキャリアの求人票から

 

医師専用の転職支援サイト「リクルートドクターズキャリア」には、小児科医の求人が323件あり(2017年7月現在)、これは他科と比べて「多い方」といえます。全国で小児科医が不足し、どの医療機関も小児科医を必要としている実態が、求人状況からもうかがえます。

 

求人が多いのに「2,000万円以上」はわずか2件という厳しさ

 

一般ビジネスの世界では、人手不足で求人が増えれば、賃金は上昇します。東京オリンピックを控えたいま、建設業界での人件費高騰は社会問題となっています。

 

しかし残念ながら、小児科医の人材マーケットでは、その法則があてはまりません。人手不足なのに、小児科医の年収は高くないのです。リクルートドクターズキャリアの323件の求人票のうち、2,000万円以上を提示しているものはわずか2件でした。その概要は以下の通りです。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務日
愛知県豊川市

機能強化型在宅療養支援診療所

10年目:年収2,000万〜2,480万円、5年目:1,800万〜 外来週8〜9コマ、1コマ1〜2名、主な疾患:風邪など、施設入所者の健康管理も 週4〜5日勤務、年116日休み、当直記載なし
新潟県胎内市

病院

10年目:年収2,000万円〜2,500万円 外来週4〜5コマ、1コマ最大30名、病棟受け持ち最大3名、長く働ける方、近隣にお住いの方 週4〜5日勤務、年125日休み、当直なし可

 

この2件の高額提示には「ワケ」があります。それはどの医師でも年収2,000万円で雇ってもらえるわけではなく、「卒後10年目以上の小児科医」だけが2,000円以上の対象なのです。

 

愛知県豊川市の診療所の求人票は、トップページには「年収2,000万〜2,480万円」としか書いていないのですが、求人票の詳細ページに移ると、但し書きが現れて「10年目:2,000万〜2,480万円」「5年目:1,800万〜」とありました。

 

つまり、豊川市の診療所も新潟県胎内市の病院も、「中堅医師にはしっかりした給料を払うが、経験が浅い医師にはそこまで支払えない」と考えているのです。

 

ちなみに、愛知県豊川市の診療所の「機能強化型在宅療養支援診療所」は、365日24時間、訪問診療を行える体制を整えていなければなりません。ということは、通常の訪問診療を行っている診療所より厳しい勤務体制になっている可能性があります。やはり「高い」のには「ワケ」があるのです。

 

愛知県豊川市は、大都市名古屋と浜松の間に位置する、人口18万人ほどの小さなマチです。新潟県胎内市にいたっては人口3万人しかいません。卒後10年目で2,000万円以上は確かに悪くない条件ですが、こうした「ワケ」を勘案すると、大都市にいる医師や生まれ故郷で働いている医師たちを呼び込む力は強くないような気がします。

 

ただ、病院における小児科は、いわゆる「儲けが出ない」セクションですので、驚くほど年収が良い求人票がないのは止むを得ないのかもしれません。

 

年収交渉は1,200万円スタート?1,800万円なら妥結か

 

それでは次に、年収金額が標準的な小児科医の求人票をみてみましょう。この4件は、リクルートドクターズキャリアの323件の小児科医求人票を年収の高い順に並べ、その中央に位置するものです。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務日
東京都墨田区

クリニック

1,200万〜1,800万円 院長、外来週4コマ、小児科専門医歓迎 週5〜5.5日勤務、年117日勤務、当直なし
神奈川県相模原市

病院

1,200万〜1,800万円 外来週3〜4コマ、1コマ20〜30名、乳児健診、予防接種、病棟受け持ち2〜6名、重度心身障害児や新生児の対応も 週4〜5日勤務、年130日休み、当直なし可
愛知県岡崎市

有床クリニック

10年目:1,200万〜1,800万円 外来週3〜4コマ、1コマ20〜30名、乳幼児健診、予防接種も、病棟受け持ち最大19名、優しさとひたむきさがある方 週4〜5日勤務、年127日休み
大阪市平野区

病院

10年目:1,200万〜 外来週3〜4コマ、1コマ10〜20名、病棟受け持ち5〜10名、新生児のみ 週4〜5日勤務、年120日休み、当直記載なし

 

目標年収額を決めて交渉に臨むべき

 

見事に「1,200万円スタート」が並びました。さらに愛知県岡崎市のクリニックと大阪市平野区の病院は、「10年目でも1,200万円スタート」を明示しています。こうしたことから、小児科医の先生が、転職希望先の病院理事長と年収交渉をするときに注意すべき点は、以下の通りとなります。

 

  1. 卒後10年未満の医師は1,200万円を目標にして交渉に臨む
  2. 小児科専門医を持つ卒後10年目以上の中堅医師は1,800万円近辺を提示されたら合意してもよさそう

 

母親とのコミュニケーションスキルはPRに最適

 

まず「1.」についてですが、例えば卒後8年目の先生は、求人票に「10年目:1,200万円〜」と書かれてあっても、「自分は8年目だから1,200万円未満で我慢するしかないのか」と考える必要はありません。

 

交渉の場で「私は卒後8年しか経過していないので、1,200万円は無理ですよね」といった発言をした瞬間に、1,200万円は遠のきます。

 

そうではなく、「私はまだ卒後8年しか経験していないのですが、現在の職場では○○も任されていて、中堅の先生並みの業務はこなしているという自負があります」といったことを伝えましょう。

 

「○○」には、先生のこれまでの業績が入ります。

 

もちろんNICUでの勤務経験や小児がん治療などの高度な医療を「○○」に入れると映えるわけですが、小児科の場合は医療以外でも「発達障害の子を持つ母親の育児支援に携わった」といった、母親とのコミュニケーションスキルもPRポイントとなります。

 

遠慮なく論理的な上限額を要望することは大事。スキルのアピールも忘れずに

 

愛知県岡崎市のクリニックの求人票には「10年目:1,200万〜1,800万円」とあります。この文言を「普通の10年目医師は1,200万円で、カリスマ級の10年目医師しか1,800万円はもらえない」と理解する必要はありません。

 

卒後10年目の医師がここの採用面接を受けるときは、遠慮なく1,800万円を要望しましょう。

 

その際に気を付けることは、このクリニックのオーナー院長に「1,200万から1,800万円と書いてあるから、一か八かで上限額を要望しているのか?」と思わせないことです。つまり先生は、「1,800万円を要望する根拠」を示さなければならないのです。そこでもう一度、愛知県岡崎市のクリニックの業務内容を見てみましょう。

 

外来週3〜4コマ、1コマ20〜30名、乳幼児健診、予防接種も、病棟受け持ち最大19名、優しさとひたむきさがある方

 

ここからオーナー院長は、「できれば外来は週4コマやってほしい」「できれば1コマ30名の患児を診てほしい」と考えていることが分かります。ですので、1,800万円を獲得するには、採用面接でこの2点について必ず「できる」と答えましょう。

 

仮に先生に「週5コマ、1コマ50名」の経験がありましたら、「これまでにもっと外来患者が多いところを経験しているので、週4コマ、1コマ30名は問題なくこなすことができます」と自信を持って伝えることで高額年収に近付きます。

 

また、「乳幼児健診と予防接種」にも注目しましょう。

 

こういった細かい仕事ながら地域のクリニックに欠かせない業務についても、「積極的に関わりたい」と言ってください。そして求人票ではあまり見かけない「優しさとひたむきさ」という文言には、オーナー院長の思いがこもっているので、面談では、こうした言葉にまつわるエピソードを披露できるといいでしょう。


「数年以内に転職する」と考えている小児科医がいますべきこと

 

認定医や専門医の資格は、年収交渉を有利に運ぶための必須項目ですが、一朝一夕に取得できるものではありません。新薬や最新機器を使いこなすにも時間が必要です。

 

そこで、「数年後の転職」を検討している小児科の医師が「いましておくべきこと」を考えてみます。

 

医療機器の知識を吸収し小児難病に強くなる

 

厚生労働省は2017年5月、小児の難病治療に使う医療機器の企業を後押しする政策を発表しました。今後、最新の機器が次々現場に導入されることになるでしょう。ということは、小児科疾病で使われるであろう医療機器について詳しくなれば、次の転職活動での年収交渉で大きなプラスとなります。

 

「小児慢性特定疾病」の治療に関わった経験もアピールポイントです。

 

小児慢性特定疾病などの小児難病の治療に使う医療機器の開発は、国内での治験が思うように進まず、難航しています。そこで厚労省は、海外で安全性が確認されている医療機器であれば、国内での承認を短期化する方針を打ち出しました。

 

ただ、その承認に必要になるのが、

 

  • 治療効果や安全性に関する「海外でのデータ」
  • 企業と学会でつくる「医療機器製造販売後リスク管理計画」

 

となっています。

 

いずれも、企業側が下準備することになりますが、いわゆる「お墨付き」は学会や大学などの医師側が行うことになります。

 

もちろん、先生が「海外でのデータ収集」や「医療機器製造販売後リスク管理計画づくり」といった「第1段階」に関われることが理想ですが、それが難しい場合でも、「県内初導入」や「この医療機器を使った症例数を増やす」といった第2、第3段階に参加できれば、大きな業績履歴になるでしょう。

 

数年後に転職を検討している小児科医は、最新医療機器の動向を追うことで、こうしたトレンドをつかむことができます。

 

また、厚生労働省は今回、「小児の難病」にスポットを当てています。つまり、先生が今後、白血病やリンパ腫、中枢神経系腫瘍など91の小児慢性特定疾病の治療に関与することは、小児科医としてのキャリア形成に有効といえるでしょう。

 

国の方針に高額年収のヒントあり

 

国が力を入れる医療に強い医師は、高額年収を得やすい――これは医師の年収アップ交渉術の基本です。医療機関というものは、事業規模が大きくなるほど、厚生労働省の意向に沿った病院経営を行うようになります。

 

そして病院理事長は、病院の経営方針に沿った医療を行う医師に高給や役職を与えることとなるでしょう。

 


社会問題解決のために小児がん治療に力を入れる

 

小児がんの治療に力を入れることは、年収アップだけでなく、社会問題の解決に貢献できる喜びがある。

 

この考え方はまさに「国の方針に沿った医療」と似ています。国が示す方針は社会問題の解決が目的だからです。社会問題を解決するための事業には予算が付きやすく、つまりその分野のプレイヤーたちへの報酬も増えるということです。

 

厚生労働省は2013年に、次の15の医療機関を、小児がん拠点病院に選定しました。

 

北海道大学病院、東北大学病院、埼玉県立小児医療センター、国立成育医療研究センター、東京都小児総合医療センター、神奈川県立こども医療センター、名古屋大学医学部附属病院、三重大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、京都府立医科大学附属病院、大阪府立母子保健総合医療センター、大阪市立総合医療センター、兵庫県立こども病院、広島大学病院、九州大学病院。

 

ところがNHKが放送した「小児がん 拠点病院にたどりつけない」というドキュメント番組は、小児がん治療の難しさを浮き彫りにしました。「髄芽腫」を発症した子とその親が、小児科や眼科、歯科、総合病院などをたらいまわしにされたあげく、ようやく小児がん拠点病院にたどりついたのでした。

 

小児がん拠点病院の直前にかかった総合病院では、医師から「このがんの治療経験が少ないので、経験のある医師に教わりながら治療します」と言ったそうです。

 

「教わりながら」という言葉に不安を感じた母親が、やはり小児がんの子供の母親から、その小児がん拠点病院を紹介されたのでした。そこの医師は「治療できます」と母子を勇気づけたそうです。

 

こうしたことから、小児科医の先生が小児がんの治療に強くなることや、もしくは、小児がん拠点病院と連携した治療を行うことは、大きな社会貢献につながることを意味しています。
この経験が次の転職で高額年収の獲得につながったら、まさに「価値ある仕事が報酬で報われた」ことになるでしょう。

 

小児科 常勤医師の年収アップ交渉術 転職面接で使える具体的手法

参考「小児がん 拠点病院にたどりつけない」(NHK)

 


遠隔医療の経験は年収交渉に有効

遠隔医療のベンチャー企業を立ち上げた小児科医がいます。現在は「医療行為」に該当しない「医療相談サービス」にすぎませんが、将来性のある治療分野です。

 

遠隔医療の株式会社Kids Publicは、東京・赤羽の「インターネットを介した小児科医療」を提供する、2015年創業のベンチャー企業です。社長の橋本直也さんは、現役の小児科医だそうです。

 

パソコンでテレビ電話ができるスカイプを使い、子育て中の母親から相談を受け付け、橋本医師が助言を与えます。このサービスは医療行為でないため、診療報酬という形での「売上」は計上できていません。利用金額は月額3,980円にすぎず、採算は取れていないそうです。

 

しかしこの事業には次の2つのメリットがあるので、将来性があります。

 

  • 患者のメリット:病気かどうか分からない段階での小児科の受診は、他の子供の病気をうつされるリスクがあり、それを回避できる
  • 小児科医のメリット:最近は子育ての知識が少ない親が増え、小児科は治療不要な軽症患者であふれている、その混雑解消に一役買うことができる。

 

2点とも厚生労働省が重点課題に挙げている「医療費削減」に大きく貢献する内容です。また、遠隔医療には国も力を入れています。

 

遠隔医療はIT技術そのものです。意外に多くの医師が、IT技術を苦手としています。つまり、小児科の先生が数年後の転職活動を考えているなら、いまからこの分野に強くなっておくことは、有益な就活準備といえるでしょう。

 

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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