【医療ニュースPickUp 2015年12月2日】北大の研究室 早期がんのメカニズム解明に向け、一般からも資金を公募
2015年11月26日、クラウドファンディングサイト「academist」において、「初期がん細胞が周りの正常細胞によって組織から排除されるという細胞間の“社会性”を応用したがんの治療方法を確立するプロジェクト」の研究費用の公募が開始された。公募を行っているのは、北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子腫瘍分野 藤田恭之教授が率いる研究チーム。
がん細胞を取り巻く社会性を利用、新予防・治療法を確立したい
同サイトでは藤田教授自ら、一般の人にも分かりやすい言葉で、研究の概要を語る動画が公開されている。
動画の中では、正常細胞の中に現れたがん細胞を、正常細胞が押し出している様子が写し出されている。これまでは、がん細胞は正常細胞に囲まれた状態で増えていくことが分かっているが、がん細胞を取り巻く細胞の“社会性”が省みられることがなかった。
藤田教授は、正常細胞とがん細胞はお互いの違いを認識しているのか、また正常細胞とがん細胞の境界では何が起きているのか、独自に樹立した培養細胞とマウスのモデルシステムを用いて、これらの研究を行っているという。
藤田教授の研究のスタートは、およそ10年前の2005年。藤田教授は、正常細胞と発がんタンパク質Ras変異細胞とを混ぜることで、両者の間で起こる変化について研究していた。
ある時、正常細胞がRas変異細胞を管腔側へはじき出すことを観察した。さらに2009年には「正常細胞に囲まれた初期がん細胞が、正常な組織から排除されること」を、世界で初めて報告した。
その後、さらに研究を進め、正常細胞は様々なタイプのがん細胞を駆逐する能力を持つことを明らかにしてきた。しかし、このがん排除機構のメカニズムには、未だ解明されていない点も多い。
ごく早期のうちにがんが発見できるのは、およそ1年半~2年といわれている。藤田教授の研究は、これよりもずっと以前、まだがん細胞が検査では発見できないほど小さな時に、体の中で起こる変化についての研究といえる。
藤田教授は「がん細胞を取り巻く“社会性”を利用した、新しいタイプの予防・治療法を確立したい」と意気込む。分子の機能をコントロールし、がん細胞の排除を促す薬剤の開発も目指すという。
藤田教授は、「academist」で集めた費用を、細胞の培養にかかる試薬代、抗体の作成費用、研究用マウスの費用に充てるとしている。一口3,000円から誰でも支援することができ、リターンとしては、オリジナルキャラクター「押しくら細胞」がデザインされたTシャツや白衣、特別講演会参加権、研究日誌などが用意されている。
参考資料
academist 正常細胞ががん細胞を駆逐するメカニズムを解明したい!
https://academist-cf.com/projects/?id=22
北海道大学遺伝子病制御研究所分子腫瘍分野 藤田研究室 研究紹介
http://www.igm.hokudai.ac.jp/oncology/research.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
一般公募により費用を集めるという、新しいタイプのがん研究がスタートしました。オリジナルキャラクター?押しくら細胞?と思いながら、藤田教授の研究室のサイトも拝見しましたが、藤田教授をはじめ、研究室のメンバーがとても若いことに驚きました。
押しくら細胞のキャラクターが何だか可愛かったので、つい私も「academist」から支援してしまいました。「academist」のサイトには写真もありますが、正常細胞ががん細胞を“押し出す”動画もあります。
かなりの高速スピード再生なのだと思いますが、本当に「えいっ!」という感じで、がん細胞が押し出されています。思わず「へぇ!」と声を出してしまいました。
大学の研究室って、大学側からそれなりに費用が出ていると思いますし、「academist」のサイトで募集しているのは50万円です。高いような安いような、一般的にはどうなのでしょうか。「がん研究」という意味では、かなり安いのだと思うのですが、どこまで進むのか、非常に注目しています。
リターンとして用意されているものも、Tシャツや白衣(!)といった物理的な「モノ」だけではなく、学会講演資料(解説付き)や、特別講演参加権など、一般の人が目にすることはまず無いものも用意されています。
ごくわずかとはいえ、一般の人にもがん研究の一反を担ってもらうという新しいスタイルにも、注目が集まると良いのですが。
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