【医療ニュースPickUp 2017年5月13日】染色体異常のカギは卵母細胞にあるのか?理科学研究所
2017年5月9日、国立研究開発法人理化学研究所(以下、理研 本部:埼玉県和光市)が、「卵子が染色体数異常になりやすい理由の一つは、卵子のもととなる卵母細胞の細胞質サイズの巨大さにある」という研究成果を公表した。この研究は、多細胞システム形成研究センター染色体分配研究チームの北島智也チームリーダーと、京極博久基礎科学特別研究員の研究チームによるもの。米国の科学雑誌『Developmental Cell』(5月8日付)に掲載された。
卵母細胞の染色体分配の正確性向上の方法確立へ
細胞は通常、分裂する際の染色体分配に、間違いは起こらないとされている。しかし、卵子の前駆細胞である卵母細胞の減数分裂では、10~30%という高い頻度で、染色体分配の間違いが起こることが知られていた。卵母細胞は大人の体内で最も大きな細胞の一つであるが、研究チームはその細胞質のサイズに着目し、細胞質の大きさが染色体分配を間違えやすい性質と関係しているのではないかと考え、今回の研究を行った。
研究チームはまず、マウスの卵母細胞を用い、顕微操作によって細胞質が半分の体積の卵母細胞と、2倍の体積の卵母細胞を作製。通常の卵母細胞も含め、3種類の卵母細胞の減数分裂期を、ライブイメージングで動画撮影した。その後、この動画を四次元解析した結果、次の2つのことがわかった。
一つ目は、「紡錘体の極」への影響。卵母細胞の細胞質サイズが小さい場合は、正確な染色体分配のための準備を整えることが確認できた。逆に、細胞質サイズが大きくなると、整列に失敗する染色体の頻度が上昇した。これらのことから、巨大な細胞質サイズを持つ卵母細胞では、正確な染色体分配のための準備が整いにくいことが分かった。そのカギは、卵母細胞の「紡錘体の極」にあったという。
二つ目は、「紡錘体チェックポイント」への影響。卵母細胞は、染色体の整列に少しでも失敗があれば細胞周期を停止させる「紡錘体チェックポイント」が、他の細胞よりも厳密性が低いことが知られていたが、研究チームはこの実験で、卵母細胞の細胞質サイズを小さくすると、紡錘体チェックポイントの厳密性が高まり、逆に大きくすると厳密性が低下することを確認した。
これらの結果から、卵母細胞の細胞質サイズの大きさが、紡錘体チェックポイントの厳密性を制限し、間違った染色体分配を許す状況を作り出していることがわかった。
しかし、卵母細胞の細胞質サイズによって
- 紡錘体極の機能が変化するのか
- 紡錘体チェックポイントの厳密性が変化するのか
これらのメカニズムはいまだ解明されていない。これが明らかになれば、卵母細胞の染色体分配の正確性を、向上させる方法が確立できる可能性が高まると、期待されている。
参考資料
国立研究開発法人理化学研究所 卵母細胞はその大きさゆえに間違いやすい-卵子が染色体数異常になりやすい理由-
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170509_1/
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
今回は、理研の研究成果を取り上げてみました。卵子が染色体異常を起こす仕組みが、卵母細胞の「細胞質サイズ」に関連しているというのは、驚きました。もし、ここのメカニズムが解明され、卵子の染色体異常を減らすことができれば、「染色体異常で生まれてくる子供が減る可能性」も秘めているのではないでしょうか。
それと同時に、もう一つ気になることがありました。それば卵子を作り出す母親の年齢との関係です。
例えば、母体が40歳を過ぎると出生の確率が高くなるといわれている、ダウン症候群があります。もし、母体が年齢を重ねるごとに卵母細胞の細胞質が大きくなるのであれば、ある程度のサイズになると染色体異常が起きやすくなる、などの想定も可能になるのでしょうか。
そのためにはもちろん、小さいときのサイズも分からないといけないとは思いますので、どのタイミングで、どのような方法で調べていくのか、という問題もあります。しかし、もしこれが分かるようになるならば、生殖医療にも影響があるのではないか?と考えてしまいます。
今回の研究は、最初の一歩かもしれません。まだこの先も研究が続きそうですが、そう遠くない将来、卵子の持つ様々な顔が、見えてくるのではないでしょうか。
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