第33回:保健医療計画からみる奈良県の姿
■ 記事作成日 2017/10/6 ■ 最終更新日 2017/12/5
保健医療計画からみる奈良県の医師転職事情
元看護師のライター紅花子です。
「保健医療計画からみる都道府県の姿」というこのコラム、今回は近畿地方の奈良県の医療の現状について奈良県第六次保健医療計画をもとにお伝えしていきます。
奈良県の現状を分析
奈良県は紀伊半島の中央、日本のほぼ中央に位置し、東西78.6キロメートル、南北103.4キロメートルで、長方形の形をした内陸県です。
面積は3,691.09平方キロメートル。全国的に見て、かなり小さい県と言えます。
吉野川(紀ノ川)が県のほぼ中央を東西に流れており、この吉野川より北側は盆地、南側は山岳地帯となっています。
大和・飛鳥時代から奈良時代の平城京まで、古くから日本の都として栄えていた奈良県は、国宝、重要文化財が全国で3番目に多く、中でも彫刻と建造物の数は日本で最多。さらに史跡名勝天然記念物も日本で最も多いとされています。
そんな奈良県の平成27年10月現在の総人口は1,365,000人。
全国で30番目の人口です。奈良県では急激に少子高齢化が進んでおり、今後も少子高齢化の加速と人口の減少は避けられない模様です。
宮城県の人口動態は
引き続き、奈良県の人口動態に関するデータをいくつか見ていきたいと思います。
平成27年の出生率は、人口1,000人当たり7.3となり、全国平均の8.0というデータと比べてやや少ない値となりました。
また、合計特殊出生率も1.35と、その年の全国平均1.46を下回っています。
このことからも、少子化が奈良県において加速していることがうかがえます。
一方、高齢化率を見ると、平成26年の高齢化率は27.8%で、全国的に見て高い方です。
また、高齢化の進行するスピードも全国と比較して高く、今後も高齢化がさらに進行していくことがデータによって裏付けられています。
図1 奈良県の高齢化率と人口増加率の推移
さらに奈良県の年齢区分別人口割合を見ると、平成22年の時点で生産人口が63.4%、老年人口が23.4%、年少人口が13.2%となっていましたが、平成30年には老年人口が30%を上回ることが予測されています。
図2 奈良県 人口の推移
これらのことから、奈良県の少子高齢化は急速に進んでおり、それに応じた医療対策を講じることが、県にとって喫緊の課題となっています。
続いて死亡に関するデータを見ていきます。
奈良県の保健医療計画によると、平成22年の死亡者数は13,036人。
人口1000人当たりで見ると9.4となります。全国平均の9.5と、ほぼ同値という結果になりました。
また、その死因 を見てみると、悪性新生物が最も多く全体の31.0%、次いで心疾患が18.7%、肺炎が10.6%、脳血管疾患が8.8%でした。
悪性新生物の中でも特に多いのが肺がんで20.8%、次に胃がんが15.3%、更に肝臓がんが9.5%となっており、この3つが奈良県におけるがん死亡全体の、約半数を占めているという計算になります。
奈良県の医療状況はどうなっているのか
次に奈良県の受療率 を見ていきます。
図3 入院及び外来受療率の全国比較
平成26年の入院受療率を見てみると、全国平均が人口10万人当たり1,038に対して奈良県は976と平均を下回り、全国で14番目に受療率の低い地域となっています。
また、外来受療率は全国平均が人口10万人当たり5,696に対して5,367と、こちらも平均を下回ってその低さは全国で13番目。
奈良県は、医療依存度が比較的低い地域ということがわかります。
高齢化が急速に進んでいる奈良県は、年齢別に見てみると、55歳以上になると入院、外来ともに受療率が高くなり、今後さらに高齢化が進んだ場合には、ますます老齢人口の受療率は高まっていくことが予測されます。
次に県外との患者の流入・流出率を見てみると、流入患者数は入院で10.3%、外来で3.4%となり、流出患者は入院で11.8%、外来で7.7%となります 。
このことから、奈良県では患者流入率よりも流出率の方が高いことが分かります。
また、受療動向を傷病別でみると、入院患者で1番多いのは「循環器系疾患」で、人口10万人当たりの受療率は189。次が「精神及び行動の障害」で受療率は180、3位が「新生物」で受療率 123の順となっています。
また、外来患者は「消化器系の疾患」が一番多く、受療率は 1,194、次いで「循環器系の疾患」が受療率 618、続いて「健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用」が受療率 489の順となり、外来に関しては、特に何らかの疾患を有している場合だけでなく、健康意識の高さから受診行動を起こしていると推測できます 。
奈良県の保健医療圏はどうなっているか
奈良県の医療圏は、他の県と同様に一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏にそれぞれ分かれています。
二次医療圏は県庁所在地を含む奈良保健医療圏、次いで人口の多い中和保健医療圏、西和保健医療圏、東和保健医療圏、最も面積の広い南和保健医療圏と、5つの医療圏に分けられています。
図4 奈良県の二次医療圏別病床数
奈良医療圏は病院数が最も多く、病床数では奈良県全体の4分の1を占めています。
また、西和、中和医療圏もそれぞれ奈良医療圏に劣らぬ病床数を確保できている一方で、南和、東和医療圏は病床数も病院数も少なく、地域による病床数の偏在が明らかとなっています。
少子高齢化の波が押し寄せている奈良県。
南北の地形の違いが、人口の分布や医療資源に少なからず影響を及ぼしていることが推察されます。
引き続き奈良県の医療状況について見ていきましょう。
奈良県の病床数とこれから
奈良の大仏
奈良県内の既存病床数と基準病床数について見ていきます。
図5 奈良県 病床数の推移
平成22年時点のデータによると、奈良県の病院病床数は、一般病床と療養病床を合わせて13,466床で、基準病床数の13,747床をやや下回る状況でした。
人口10万人当たりで比較してみると、全国平均が1244.3であるのに対して奈良県は1173.7と、全国平均よりも低い値になっています。
しかし病床別にみると、一般病床については全国平均が705.6であるのに対して731.4と、全国平均を上回っています。
入院・外来共に、受療率が全国平均を下回る地域のせいか、基準病床以下の病床数でも医療を十分まかなえる現状ではあるものの、今後高齢化が進み、医療需要度が高くなると、現在の病床数では収まりきれなくなることも十分考えられます。
ただ、入院受療率の高い精神病床については、基準病床数を既存病床数がわずかながら超えているという現状です。
奈良県内にはどのような機能を持つ医療機関があるか
奈良県が、今回の保健医療計画で最も重きを置いたのが新県立病院の設立です。
県内では重症患者の受け入れ機能が低いこと、平成18年・19年と、2年連続で妊婦を複数の病院が受け入れできず、死亡・死産につながる事案が発生したことから、救急医療と周産期医療体制の充実が大きな課題となっていました。
また、死亡率第1位となっている悪性新生物についても、奈良県は内陸県で他県に隣接していることもあって、県外で受診する割合が高い傾向があります。
平成22年には、県外での受診率は入院で15.4%(全国3位)、外来では 15.8%(全国4位)にのぼりました。
そのため、県内で最新のがん医療を受けられる医療体制の整備を図る必要があるとされていました。
また、近年、入院患者が増えている精神医療の分野でも、奈良県の既存病床数は基準病床を超えていたものの、人口10万人当たりでは全国平均を下回る数値に。
さらに医療圏によっては緊急入院・措置入院できる医療機関がない地域も存在します。
そのため精神病床の整備、特に精神救急医療の整備が早急に求められています 。
図6 奈良県内 特定の機能を持つ病院数(平成25年4月現在)
こうした重要な課題への取り組みとして、奈良県は2つの高度医療拠点病院の整備を計画しました。医師・看護師不足による医療機能の低下を防ぐため、患者はもちろんのこと、医療従事者にとっても魅力ある病院となることを目指し、平成28年には奈良県立医科大学附属病院に新病棟がオープン。
高度急性期や母子周産期医療などの設備が拡充されました。
また、平成30年には高度救急医療や先進医療に対応する新奈良県総合医療センターが開院する運びとなっています。
この新病院は、救命救急と周産期だけでなく、がん医療、小児医療、精神医療、糖尿病治療、災害医療の機能を持ち、新たな地域の拠点病院としてその役割を果たすことになります。
また、人口減少に伴い医療機能が低下している南和医療圏においても、公立3病院を再編。救急病院の新設や災害医療の強化、療養病棟の充実など、目的別の役割分担と機能強化を図っています。
さらに診療所との連携を推進することで、へき地医療もカバーする、他医療圏に依存しない医療体制作り進めてきました。
平成28年にはドクターヘリが常駐する南奈良総合医療センターが開院し 、他の2病院を地域医療センターとして改修しています。
図7 奈良県 病院新設の動き
奈良県の今後は、公立病院の動向から目が離せません。
奈良県内の医師数と今後の確保対策
厚生労働省の調査によると、平成22年現在の奈良県の医師数は2,994 人で、人口 10 万人当たりでは 213.7人でした。
図8 奈良県内 特定の機能を持つ病院数(平成25年4月現在)
ところが近年進められている公立病院の再編・新設によって、県内の医師数は平成28年現在で4,643 人と大幅に増加し、人口 10 万人当たりでも 340.32人となり、全国平均の人口10万人当たり245.93人を上回るようになりました。
さらに平成30年の新病院開院によって、より一層の医師数増加が見込まれます。
平成22年時点の診療科別に見ると、内科の医師は多いものの、産科、小児科、麻酔科の医師が不足しているほか、糖尿病内科を診療できる医師も少なく、全国で2番目に少ない状況でしたが、県はこうした課題の解決に向け、着実に歩を進めています。
また、医療圏別にみると、奈良医療圏、中和医療圏、東和医療圏は、人口に対して医師数が潤っている一方で、過疎地域の多い南和医療圏では、医師数が少ないことが課題となっていました。
これも、公立病院再編後の現在、医師数は増加傾向にあるようです。
奈良県では今後、若手医師の育成と定着を図るほか、へき地医療や救急医療など、さまざまな分野で活躍できる総合医の育成、へき地や不足診療科の医師確保を目標としています。
また、女性医師が増加していることから、女性医師の働きやすい環境の整備、院内保育所の設置もプランとして盛り込んでいます。
まとめ
猿沢池と五重塔
県立病院の再開発が進められ、激しい変革期にある奈良県の医療。
若手の医師やがん医療、糖尿病治療などの医師の需要が高く、最新設備の整った病院で新たな技術を学んでいく環境も整っていくことでしょう。これからの奈良県の医療を担う一員として貢献してみてはいかがでしょうか。
参考資料
奈良県公式ホームページ
http://www.pref.nara.jp/dd.aspx?menuid=1354
奈良県保健医療計画
http://www.pref.nara.jp/secure/98205/2syou.pdf
平成27年国勢調査 総務省
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka/pdf/gaiyou.pdf
厚生労働省 受療率
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf
奈良県保健医療計画
http://www.pref.nara.jp/2740.htm
この記事をかいた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート