医師の働き方を国家試験合格者数から考える
■ 記事作成日 2018/4/19 ■ 最終更新日 2018/4/19
2018年3月19日、医師国家試験の合格発表がありました。新たに9,000人を超える医師が誕生し、4月からさまざまな機関等で、プロフェッショナルとしての生活をスタートさせていることと思います。
ところで、ここ数年「働き方」に焦点があたることが多くなってきました。それは医師という職業でも同様で、昨年には「医師の残業代」に関するニュースもありました。今回は「医師の働き方」について、考えてみたいと思います。
新人医師9,000人、その内訳は?
厚生労働省の発表によると、2018年(第112回)医師国家試験の概要は、以下の様になっています。
- 受験者数:10,010人
- 合格者数:9,024人
- 合格率:90.1%
また、新卒と既卒では、新卒の方が高い合格率を示し、新卒の合格率が93.3%であるのに対し、既卒の合格率は63.9%でした。
男女別に見ると、男性の合格率89.1%に対し、女性の合格率は92.2%。合格者数で比較すると、男性5,958人に対し、女性3,066人ですから、男性対女性の比率はおよそ2:1になっています。
ここ数年、女性医師の割合が徐々に高くなってきていますが、過去15年間の推移を見てみましょう。
2018年度の医師国家試験合格者では、女性医師の割合が34.0%でした。2000年度以降、およそ30%台前半くらいで推移しており、もっとも女性の合格者割合が高かったのは2008年度と2017年度で、この時は34.5%が女性でした。
ところで、世間で騒がれている「働き方改革」とは?
ここ数年、メディア等を通じて「働き方改革」という言葉を目や耳にしたことがありませんか?これは、現在の安倍政権が掲げる「ニッポン一億総活躍プラン」に含まれる成長戦略の一つで、大きく3つの視点があります。
- 同一労働同一賃金の実現
- 長時間労働の是正
- 高齢者の就職促進
この中で、特に「医師」という職業に関連が深そうなのは、「同一労働同一賃金の実現」と「長時間労働の是正」ではないでしょうか。それぞれを少し詳しくみていきます。
同一労働同一賃金の実現
日本の一般企業等の場合、フルタイム労働者とパートタイム(時短)勤務労働者の間には、大きな賃金格差があります。
このグラフでみると、欧米の諸外国と比べ、日本のパートタイム労働者の賃金水準は、非常に低いことが分かります(アメリカは論外ですが……)。これに対し、「欧州諸国に遜色のない水準を目指す」というのが、働き方改革の一つ目のポイントです。
長時間労働の是正
では、もう一つの「長時間労働の是正」はどうでしょうか。こちらも、諸外国との比較がなされたデータがあります。
このグラフで見ると、やはり日本の労働者は欧米諸国と比べ、長時間労働を強いられている人が多いことがわかります。
日本だけではなく、各国の「残業している人」を集計すればまた違った状況になるのかもしれませんが、少なくとも「1週間に49時間以上働く」というのは、1日の労働時間が7時間、1週間に5悲観働くと考えると、毎日3時間程度の残業をしていることになります。
少なくとも、イギリスやフランスは日本のおよそ半分ですから、やはり日本人は「働きすぎる国民」なのかもしれません。
働き方改革と、医師の働き方
とはいえ、医師の場合は「残業がまったくない」というのは、非常に難しいと思います。つまりこのグラフにある「21.3%」の中に、医師も含まれているのではないか、ということです。
もし仮に、医療機関に対して「医師の残業時間を減らす努力をしなさい」という勧告がきたら、医療機関側はどうするでしょうか。すぐにでも実行できそうな事柄を挙げてみます。
- 単純に、医師の数を増やす努力をする
- 医師に「シフト制」を導入する
- 「複数主治医制度」を導入する
- 医師の業務内容のうち、「別の人が変わっても支障がない」業務を、専任の誰かに移管する
いずれの策も、現状より「被雇用者を増やす」ことには、変わりありません。特に1から3までは、「医師の数」を増やさなければ難しいでしょう。今回の「働き方改革」の中には「残業を規制する」という項目もあります。それによると、
- 「月45時間、年360時間」、繁忙期の特例でも「年720時間」と定める
- 医師など一部の職種は、業務の特殊性に配慮し、法施行5年後(2024年)をメドに適用する
- 一部の医療機関は中小企業と見なされるため、時間外労働については月60時間超の割増賃金率を、2023年4月から50%以上とすることを義務化する
などが実施されていくことになります。
まだしばらくの準備期間は必要そうですが、「医師の働き方」も、変わっていく可能性があるのです。
ところで、「働き方改革」の中には、「女性がもっと働きやすい社会を」という主旨の事柄があります「働き方改革」自体が、一般の労働者向けの改革ではありますが、女性医師も「働く女性」であることに変わりありません。前述の通り、過去20年間の推移をみると、今後も女性医師は多く誕生してくるでしょう。
女性医師のライフワークバランスを考えると、やはり医師という職業を継続していくためには、出産や育児は大きなターニングポイントになります。一般労働者でみても、女性の年代別就業率はいわゆる「M字カーブ」を描きますが、これは医師の世界でも同じこと。
働き始める年齢が医師の方が少し高くなるためキレイなM字カーブではありませんが、おおよそ35歳~40歳くらいの年代で、就業率は70%台(一般労働者の場合は60%台)まで落ち込みます。
その後一旦復活し、60歳代になると再び就業率は下降してきますが、若手医師としてもっとも活躍するであろう年代で、就業率が低くなるという現実があるのです。
これは「女性としてのライフワークバランス」を考えると当然のことではありますが、問題はその後です。一般労働者の場合は、女性も45歳以降になると、25歳くらいの頃と同程度まで就業率はあがります。
しかし医師の場合、25歳頃に90%を超えていた就業率は、次にピークを迎える50歳台でも、80%台までしか回復しません。
今後、国が掲げる「働き方改革」が、復職しない(復職できない)女性医師とどう関連してくるのか。勤務時間が短い、残業が無い「医師の働き方」がどこまで実現できるのか。注目していきたいポイントです。
【参考資料】
厚生労働省 平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/16/index.html
同上 統計表
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/16/dl/toukeihyo.pdf
厚生労働省 女性医師の年次推移
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000069214.pdf
内閣府 働き方改革実行計画(概要)
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/05.pdf
日本医師会 医師国家試験合格者数の推移(性別)
https://www.med.or.jp/joseiishi/ishikokka_h25.pdf
首相官邸 ニッポン一億総活躍プラン(概要)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/pdf/gaiyou1.pdf
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