シリーズ医師の年収:「精神科医」編 =働く人や高齢者のニーズが高い精神科医の収入

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独特な存在だが開業は比較的容易

ある精神科医は「はっきりいって総合病院の精神科医は、かなり浮いた存在です」とぼやいています。他科の医師に比べて、圧倒的に残業が少なく、救急対応もほとんどないからだそうです。

この精神科医は「他科の医師は『精神科医は患者の話を聞くだけ』と思っている」とも話しています。

しかし本当にそうなのでしょうか?

確かに消化器内科医と循環器内科医は、科は異なっても1本の糸のように「つながった治療」を行うことがあります。しかし同じ患者への治療でも、消化器内科の治療と精神科治療はそれぞれ独立して行われます。

精神科医と他科の医師の「働く環境の違い」は、診察の性質上やむをえないのですが、医療現場では少なからぬ軋轢を生んでいるケースすらあるようです。

それも1つの理由であるかどうかはわかりませんが、実際、精神科医は開業を目指す傾向が強いといえるでしょう。

気兼ねなく自分のペース、自分の経営方針に法って人生プランを実行できる開業は、精神科医の多くの医師にとっても、非常に重要な人生のマイルストーンです。

高額なイニシャルコスト(医療機器)が不要で、スタッフが少なくて済むことも、開業希望精神科医の背中を押してきました。

また、精神科疾患の患者はウェブサイトで通院先クリニックを選ぶことが多く、新規開業ほやほやの先生が不利になるケースが少ないです。

精神科の場合も御多分にもれず、医師年収は、勤務医より開業医の方がはるかに高くなります。従って、開業医の割合が高い精神科医は「科別年収ランキング」で上位にランクインしています。

しかしこうした状況にも変化の兆しがあるといわれています。少し詳細をみてみましょう。

診療科別年収では在宅、透析、整形に次ぐ4位

診療科別の年収では、精神科医は4位に位置しており、平均年収額は1302万円です。精神科医の上位ランク診療科は、1位在宅医1364万円、2位透析医1329万円、3位整形外科医1317万円となっています。

このランキングとは別の調査になりますが、精神科医の年齢別年収が公表されています。

  • 20代 684万~852万円
  • 30代 936万~1068万円
  • 40代前半 1200万円
  • 40代後半 1344万円
  • 50代前半 1440万円
  • 50代後半 1380万円
  • 60代前半 972万円

まず20代を見てください。最大で168万円も年種高低差があります。研修期間が終了してバリバリ働き出す世代ですので、民間病院勤務であれば1年で数十万円の昇給も不可能ではありません。しかし20代医師の年収を決定するのはアルバイト収入であるのは、精神科医も例外にもれず否めない事実です。

精神科医のバイトは2~3時間という短時間が多く、時給は12,000円程度が相場です。

労働強度的にもバイトがしやすい環境であり、単価も悪くありません。バイトOKの病院に勤務すれば、本業とバイトと合せて年収1000万円を超える20代精神科医は珍しくありません。

精神科医は加齢による年収低下率が相対的に柔らか

精神科医の年収は50代前半にピークを迎えます。このこと自体は他科と変わりありませんが、ポイントはその後です。50代前半から50代後半にかけての「下げ幅」がわずか60万円と、とても小さいのです

脳外科医や心臓外科医、眼科医ですと、この年代は老眼や体力の衰えによってパフォーマンスの低下が懸念されます。ですので、この年代になるまでに院長や診療部長などそれなりの地位を得ていないと、大幅な年収減を招くことになります。

しかし精神科医には、老眼や筋力の衰えは大きなマイナス要因になりません。つまり精神科医は「加齢による年収低下の壁」が低いといえるでしょう。

40代で精神保健指定医となる

さて、2016年9月現在、精神外科医の保健指定医を不正に取得したとのニュースが世間を騒がせております。

資格取得要件である、症例レポートの提出において、架空症例や(禁止されている)他者との同一症例などが多分に見つかったという話です。

精神保健指定医は、重症の精神障害患者を強制入院させる、いわゆる「措置入院」や「医療保護入院」を判断できる精神科医師であるため、この資格そのものが「不正」と判断されると、その不正医師に診断された「措置入院」そのものの判断にも、大きな疑問符が付くわけです。

一刻も早い事件解決を望みます。

読売新聞より引用

それはさておき・・・話を精神科医の年収に戻します。

精神科医に開業医が多い割には、彼らの年収が私たちの想像を上回るほどたかいというわけではありません。それは、「精神保健指定医」を取得するまでにそれなりの年月が必要となり、指定医となってから開業に臨む精神科医が多いからでしょう。

しかも「精神保健指定医」は国家資格です(2016年7月時点で、指定医は全国に1万4793人います)。

他診療科にも「専門医」や「指導医」といった資格がありますが、これらは学会が認定したものです。学会が独自に資格取得の難易度を決めることができます。

しかし国家資格である精神保健指定医は、精神科3年以上を含む5年以上の臨床経験に加えて、統合失調症や老年期精神障害などのレポートを提出しなければなりません(※先にふれた、不正問題で揺れているレポートです)。

これは実務的にはかなり高いハードルであり、合格率は50%程度しかありません(受験者が全員現役の医師である点を鑑みて、この合格率という点に注目してください)

従って、40代でようやく精神保健指定医資格を取得する医師も少なくありません。

病院の経営者も患者もこうした資格には敏感ですので、資格取得が年収を左右します。この資格を応募条件に挙げている求人票はとても多く、精神保健指定医は引く手あまたの状況です。

逆にいうと、精神保健指定医の資格がない精神科の医師は、転職市場における相対的求人弱者となってしまう点、開業市場においても「看板資格」がないということで、年収アップ戦略に関しても容易ざらなる暗雲が立ち込めてしまうわけです。

(※とはいえ、今回の不正資格取得事件が、今後どのように波紋を広げるかには当方も注目をせざるをえません。場合によっては、指定医の転職ニーズや開業指定医に対する「世間の目線」も大きく変わるのかもしれません)

介護施設の精神科求人は高報酬

介護施設が精神科医の求人を出すことがあります。介護施設は介護保険で運営されているので、働く人の給料は一般的には低水準です。しかし精神科医だけは事情が異なり、相当な高待遇で迎えられることが多いです。

精神保健指定医の資格を持っていれば、年収1400万円代もめずらしくありません。しかしこれほどまでに、介護施設による精神科医求人が高給なのは当然理由があります。仕事が特殊で非常にハードだからです。

介護施設での精神医療では、患者のみならず、その家族とも濃厚な人間関係を築かなければなりません。また、重症患者により不慮の事故(いわゆる警察沙汰)になることも珍しいことではありません。

さらに、介護施設には1人しか常勤医師がいないことがほとんどです。看護師求人市場においても、介護施設は「超ハード労働、低人気、だが高収入」の職場代表といえる存在であり、若い看護師よりも民間病院やクリニックで働かない「理由あり」の中高年看護師が多いうようです。

こういった困難事例が多い前提がある職場であり、医師一人の職場では同僚もいないわけで、医療スタッフによる満足な支援が受けにくいという悪条件が揃っているケースが目立ちます。

しかも介護施設における精神科医の役職は、施設長となるケースがあります。こうなると、一見聞こえのいい役職名ではあるものの、本来の医療現場以外にも、施設の全般運営という「余計な仕事」も立場上任されてしまい、ただ疲弊する日々を送ることになる場合もあり得ます。

開業精神科医の将来性

精神科クリニックは、特に中規模都市部で活況を呈しています。初診が1カ月待ちはざらです。これは、仕事によるうつ病の発症や大人の発達障害などが社会問題化したことで、国民の精神疾患に対する理解が深まったためと考えられます。「重症になる前に精神科に通おう」と考えるようになったのです。

このことは、精神科医の収入面を考えると「プラス効果」といえます。

精神科分野には、高年収が期待できる治療がもうひとつあります。認知症の治療です。超高齢社会に突入し、認知症治療へのニーズがかつてないほど高まっています。

認知症を根治することはできませんが、発症を遅らせたり、症状を悪化させない治療が好成績を上げているのです。
認知症は患者本人はもとより、その家族にとっての日常生活に大きな負荷をかける可能性が高いため、症状を薬を使ってコントロールできる医師は、家族の絶大なる信頼を得ることができます。こうした精神科医の中には、講演会などに呼ばれ、ときにはテレビ番組に出演し副収入を得られる機会も増えています。

講演会やマスコミへの露出は、本業の患者を爆発的に増やすことになり好循環が生まれます。

精神科医への転科組

精神科医の将来性でもっとも気がかりなのは市場における競争激化です。

都心部では、これまで精神科疾患の治療をしたことがない医師が、精神科医の高収益性に着目をして、転科もしくは臨床経験なしでの集患営業を始めているケースが目立ってきています。

重労働且つ責任が重く、個人のQOL充実もままならない外科や他の診療科に「嫌気」がさしてしまった先生方もそれらの中には含まれています。

ただし、一部のクリニックでは誤診、真面な診療なしでの薬処方乱発、誤処方などの問題が指摘されており、マスメディアによって糾弾されるケースもでています。

これによって、本来は評価されるに足るべき精神科医の先生が、ひいては、精神科医全体が無用な風評被害や批判にさらされてしまう事を懸念せざるをえません。そうなれば、精神科医全体の収益(年収)が漸減していってしまうこともあり得るでしょう。

ここで精神科を標榜する病院及びクリニックの数と、精神科医人数の推移をみてみます。

  • 精神科クリニック 1996年3198件→2008年5629件(76%増)
  • 精神科医の人数 1996年9500人→2010年14000人(47%増)

精神科医の増加ポイントを上回る形で、精神科クリニックが増えています。一方で「面倒な事を聞かれずに、薬さえもらえればいい」と考える患者にとっては、薬物療法以外の治療に取り組もうとする「まっとうな精神科医」より、すぐに薬を処方してくれる「都合の良い精神科医」の方がはるかに便利です。

医療倫理に触する一面となってしまいますが、現実的に「稼げている精神科医」は、できるだけ診療に手間をかけず回転率を上げていく手法(まるでコンタクトレンズ併設眼科のように)を取っているケースが割と多い…ということになってしまいます。

もちろん、こういった「都合の良い」精神科医クリニックとは明確な差別化をし、患者教育を行いながら熱心に臨床に取り組んでいる(且つ、事業体としての収益もしっかりあげている)クリニックもあるわけですから、難しいところではあります。

どちらのやり方が正解か、といったような子供じみた議論はここでは控えます。

子供の発達障害と女性のメンタルヘルス障害分野での女性医師活躍が鍵

日本精神神経学会は、「精神医学は女性医師が実力を発揮できます」と述べています(https://www.jspn.or.jp/)。それは、子供の発達障害と女性のメンタルヘルス障害の分野において「原因」「発症機序」「診断評価」「薬物療法」の研究が遅れているからだそうです。

そこで同学会は、女性医師にこの分野の治療に取り組んでもらおうと考えています。発達障害も女性のメンタルヘルスも、生活体験を通じて磨いた完成が重要で、女性医師はその点で有利だと考えているからです(日本精神神経学会ホームページから)。

そのため日本精神神経学会は、国に予算配分を要請したり、大学病院に協力を仰いだりして、女性医師が育児などのライフイベントによって仕事が一時的にできない場合でも、キャリアが中断しないような取り組みに着手しています。

キャリアの中断は生涯年収に大きく響くので、こうした取り組みが進める学会が存在することは、女性医師には心強いでしょう。当然、年収にこだわる女性精神科医ならば、こういった業界の流れには敏感になっておくことをお勧めいたします。

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野村龍一

野村龍一

某医師紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。
当研究所が成績優秀コンサルタントを先生のご担当へとブッキング

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野村龍一

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