Eテレ「きょうの健康」 H29年1月31日 13:35~より
2017年1月29日放送のEテレ「きょうの健康」ではデスクワークにも問題が?5人に1人!つらい胸やけ「胃食道逆流症」をテーマに放送していました。以下は番組内容の要約ですので、番組を見落とした方などはチェックしてみてください。
※画像はEテレ「きょうの健康」ウェブサイトより http://www.nhk.or.jp/kenko/
出演医師:愛知医科大学 春日井邦夫教授
胃食道逆流症とは
食後に胸焼け。胃液がこみあげて酸っぱい感じ。
このような症状に覚えのある人は「胃食道逆流症」を疑ったほうがよい。
胃食道逆流症とは、一旦胃の中に入ったものが食道まで逆流することで様々な問題を引き起こす病気。胃の中には食べ物を消化するために強い胃酸が出ているが、その胃酸で自らを溶かさないための粘膜が胃にはある。だが、食道には胃酸から保護する粘膜がない。
だから逆流してきた胃酸のせいで食道に傷がつき、つらい胸焼けなど、色々な症状が起こる。
番組司会の黒沢保裕・岩田まこ都の両キャスターが、グラフ図で説明を始める。
「胃食道逆流症はイギリスやアメリカなど欧米でおおい病気でした。日本ではかつて少ないとされてきたが、20年ほど前から急増」
1970年代まで横ばいだった日本の患者の割合のグラフは、1980年以降に急上昇を描く。
「今や日本人の5人に1人はこの胃食道逆流症にかかっているとされています」
スタジオに登場した、愛知医科大学(消化管内科)春日井邦夫教授によると、胃食道逆流症には「逆流性食道炎」「非びらん性胃食道逆流症」の2つのタイプがあるという。
胃カメラの写真を使って説明。
「びらんというのは、皮膚や粘膜にできる赤く爛れた(ただれた)部分のことです。逆流性食道炎には、写真のように、そのびらんが見てとれます。しかし、非びらん性胃食道逆流症は、食道に「びらん」がないんです。なので長い間、逆流性食道炎の軽傷型と思われてきたのですが、症状の強さは、逆流性食道炎と差がないことが判ってきました」
発症の傾向の違いもある、と春日井邦夫教授は続ける。逆流性食道炎は高齢者や肥満に多く見られるのに対し
「非びらん性胃食道逆流症は若い痩せ型の女性に見られる傾向があるんです。そして注意したいのは、日本人の胃食道逆流症の6割が非びらん性胃食道逆流症ということ」
では、その胃食道逆流症では、胃の中でなにが起こっているのか?
胃カメラで捉えた食道の映像を見てみる。
食道と、その奥に通じる胃とのつなぎ目は、開いたり閉じたりしている。そのつなぎ目の外側を覆う「下部食道括約筋(かつやくきん)」が付いている。この筋肉が、食道と胃のつなぎ目を締め付けるので、胃の中のものが逆流せずに済む、と説明。
「ところが、ある程度、胃にものが溜まってくると、食道を締め付けた下部食道括約筋が緩んで、胃に溜まった空気を外に出そうとします。これが「げっぷ」です。このとき、空気とともに胃に溜まった胃酸も逆流してしまうことがある。その逆流が頻繁に起こるのが、胃食道逆流症の主な原因です」
写真では、逆流性食道炎は、胃酸の逆流で粘膜が傷ついてるのがわかる一方、非びらん性胃食道逆流症は、一見するとなにも起きていないようにみえる。
しかし非びらん性胃食道逆流症は、食道が過敏になっているので、弱い酸の刺激でも、胸焼けなどの症状を起こすことがあるとのこと。
さらに最近は、非びらん性胃食道逆流症に関して、胃酸の逆流がなくても、精神的な要因などによって症状をきたすことが判ってきたというのだ。
黒沢保裕キャスターが、素朴な疑問を春日井邦夫教授にぶつける。
「げっぷは誰にでも起こる。誰にでも起こるのに、胃食道逆流症になる人ならない人がいるのはなぜ?」
「胃食道逆流症になりやすい人にはある傾向があります。次のチェック項目に当てはまるかどうか、テレビをご覧の皆さんもチェックしてみてください」
チェック項目として挙げられたのは、
「食べ過ぎ・早食いの傾向がある」「食べてすぐ寝る」「高脂肪の食べ物が好き」
「アルコール・喫煙の習慣がある」「肥満気味」「前屈み姿勢・猫背になりがち」
まず初めに、食べ過ぎると胃が大きく膨らむ。早食いはよく噛まずに胃に押し込まれる。よって、食べ物と一緒に空気も流し込んでしまう。すると下部食道括約筋が開きやすくなって、胃酸の逆流を招く。
「食べ過ぎ・早食いの傾向がある」人は要注意、と春日井邦夫教授は続ける。
「「食べてすぐ寝る」と、食べ物を消化しようとして胃の中に多くの酸が溜まります。横になることによって胃の中の酸が逆流。その酸が食道の中に長時間溜まることによって炎症を起こします。だから、食べてから寝るまでには3〜4時間を空けてほしい」
「てんぷらやトンカツなどは高脂肪の代表。多く含まれる脂肪を摂取すると胃酸がたくさん出ます。さらに下部食道括約筋を開きやすくする消化管ホルモンが分泌され、胃酸の逆流が起こりやすくなります」
「アルコールや喫煙は食道を刺激するだけではなく、括約筋の働きを弱めてしまう。肥満、特に内臓肥満は、内臓脂肪によって腹圧が上昇してしまい、胃を圧迫することで逆流につながるのです」
そして最後の意外な項目、「前屈み姿勢・猫背になりがち」の解説へ。
「デスクワークなどの前屈みの姿勢、猫背は、おなか全体が圧迫されることで、逆流が起こりやすくなるのです。さらには「食道裂孔(れっこう)ヘルニア」に注意が必要です」
食道裂孔ヘルニア?それは一体…?岩田まこ都キャスターの表情が曇る。
春日井邦夫教授が模型を用いて説明を行う。
「胸の周りに張っている筋肉、横隔膜。横隔膜には食道裂孔という穴が空いていて、そこを食道が通っています。通常、食道裂孔には、胃と食道のつなぎ目がある。食道裂孔に付いている下部食道括約筋が食道の開閉を行っている。
しかし、前屈みの姿勢や猫背を続けていると、全体が圧迫され、胃が押し上げられてしまうのです。すると、胃が食道裂孔を押し広げ、横隔膜自体もずり上がってしまいます。この状態が「食道裂孔ヘルニア」です。
この食道裂孔ヘルニアになってしまうと、胃と食道のつなぎ目が開いたままになってしまい、胃食道逆流症が治りにくくなってしまうのです」
胃食道逆流症にかかったら、生活改善が治療の鍵なのだろうか?
「生活習慣の改善も大切。そして基本は薬物治療」主に用いられるのは「プロトンポンプ阻害薬」。この薬は胃酸の分泌を強力に抑えることができ、「逆流性食道炎」のおよそ8割に改善がみられるとのこと。
ホッとした黒沢保裕キャスターが
「ずいぶん効果があるんですね、「非びらん性胃食道逆流症」では?」と聞くと、
「実は改善率は、およそ5割なのです。薬の種類や摂取方法を変えたり、消化管運動機能改善薬・漢方・制酸薬・アルギン酸を併用したり、或いは他の病気も疑う。胸焼けを起こす病気は様々なものがあり、精密検査も行います」
仮に症状改善しても、だからといって直ぐにプロトンポンプ阻害薬を中止すると、実に83%の人が半年内に再発するという。再発を繰り返すと合併症を引き起こす可能性もある
出血、食物の通りが悪くなる狭窄(きょうさく)、食道粘膜が胃の粘膜に変化し「バレット食道」
の状態になる危険性も。
「バレット食道の状態になると、痛みはないまま、食道ガンに至る危険性があるのです」
これに驚く両キャスター。
このような合併症を引き起こさないためにも、「胃食道逆流症」では、継続的な治療や検査が必要とのこと。
最後に、春日井邦夫教授はこう締めた。
「胃食道逆流症は、簡単に命にかかわる病気ではありません。しかしその辛い症状によって、日常生活が損なわれることが多いことが知られています。
思い当たる方は専門医にご相談していただきたい」
Eテレ「きょうの健康」2017年1月31日放送「デスクワークにも問題が?5人に1人!つらい胸やけ「胃食道逆流症」」より引用、要約、および台詞等一部書き起こし
この記事を書いた人
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