第7次保健医療計画における「がん」のミカタ

看護師の働き方

■作成日 2018/4/23 ■更新日 2018/4/23

 

元看護師ライター 紅花子です。

 

今年度から新シリーズとしてスタートしている当コラム。前回は「第7次医療計画」の総論についてお伝えしました。今回は、医療計画の中に盛り込まれている5疾病5事業のうち「がん」についての総論をお伝えします。

 

日本のがん診療の現状

 

近年、さまざまなメディアでも取り上げられることが多い「がん」。
現在、日本の死因のトップを走り続けています。以下のような折れ線グラフを見たことはありませんか?

 

主な死因別にみた死亡率の年次推移

図1 日本の主な死因別にみた死亡率の年次推移(人口10万対)

 

このグラフからも分かる通り、1985年ころにはすでに、「がん」は日本の死因のトップでした。それ以前、いわゆる「高度成長期」と呼ばれる時代には、脳血管疾患で死亡する人の割合が高かったのですが、こちらは徐々に減少傾向にあります。

 

世界に目を向けてみると、「がん」が原因で亡くなる人は、増加しているという見方もありますが、死因のトップではありません。統計の出し方に多少の違いはありますが、世界の死因代位1位は虚血性心疾患、2位は脳卒中です。

 

現在は、日本人がん患者が増え続け、2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで死ぬといわれています。

 

ではなぜ、日本人の死因として「がん」がこれだけ多いのでしょうか。

 

日本人にはがん患者が多い?

 

これには、いくつかのキーワードが関係しています。例えば、食生活の変化、生活習慣、検診受診率、高齢化などです。

 

【食生活の変化】

 

かつて、日本の一般家庭の食事は、白米、味噌汁、焼き魚、煮ものなどがメインでした。好みによって、納豆や卵焼きなどが追加されることもありますが、これらは日本人がまだちょんまげを結っていた時代から続く食生活です。

 

生野菜を食べることは少なかったかもしれませんが、果物や山菜などからも栄養補給をしていました。

 

ちょんまげの時代の日本人の寿命は、今よりもずっと短かったのですが、その理由は新生児・乳児の死亡率の高さと、公衆衛生の問題(感染症など)といわれています。

 

したがって、そこを比較するのは難しいのですが、少なくとも「がんが死亡率1位」になることはありませんでした。こうした背景を考えると、前述のような食生活は、日本人の体質に合った食事であり、日本人の健康を考える上では重要なポイントです。

 

しかし、戦後の日本には、多くの欧米食が入ってきました。焼き魚から焼肉やステーキへと嗜好が変わり、ファストフードも子供たちは大好きです。野菜を食べない、肉食が多いなどといった食生活と日本人のがん発症率との関係は、現在もさまざまな研究が行われています。

 

【生活習慣】

 

生活習慣にはさまざまなものがあります。睡眠不足、運動不足、喫煙……どれをとっても、がん発症のリスク繋がることです。

 

例えば、かつての日本人の喫煙率は高く、昭和40年代頃の男性は、80~90%の人が喫煙者でした。しかし「喫煙と肺がん」のリスク関係が取りざたされるようになり、男性の喫煙率は徐々に下降傾向にあります。

 

ただし、禁煙した時期と「肺がん」の発症には20年近くのタイムラグがあるといわれており、喫煙者が減り出してからも肺がんによる死亡は、がん死亡のうちでも上位を占めていました。

 

睡眠不足や運動不足については、日本のテクノロジーの発展とも関連しますが、生活が便利になるのと並行して、日本人は「忙しい国民」になりましたから、ますます「歩くよりも車」という生活に慣れてしまいました。

 

また、日々の忙しさ、仕事量の多さなどから「夜はゆっくり休む」習慣が減り、慢性的な睡眠不足、睡眠障害なども起こりやすい環境にあります。こうした生活は私たちにとって大きなストレスとなり、がんの発症や進行を早めるリスクにもなってしまうのです。

 

【検診受診率】

 

日本は比較的、がん検診の受診率が低い国です。がんの種類、あるいは年齢によって助成がんされるがん検診もありますが、それでも毎回必ず受けている人は、非常に少ないのではないでしょうか。

 

2017年に国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターが公表したデータによると、年々がん検診受診率は上がって来てはいますが、それでも50%を超えるのは男性の肺がん検診のみです。

 

以下のようなグラフを、見たことはありませんか?

 

男女別 がん検診受診率(推計値)の推移

図2 男女別 がん検診受診率(推計値)の推移

 

これによると、2016年の日本人のがん検診受診率は、40%台くらいです。

 

世界に目を向けるとどうでしょうか。例えば大腸がん検診の受診率は、アメリカは50%を優に超えています。乳がん検診では、アメリカは日本の2倍以上、イギリスは3倍以上と推計されています。

 

がん検診を定期的に受けているならば、万が一がんに罹患していても、早期発見・早期治療が望めます。しかし検診すら受けていなければ、がんが見つかった時にはすでに手遅れ……という状況もありますね。するとやはり、完治を望めず、がんで死亡する人は増えていくことになります。

 

【高齢化】

 

がん発症リスクの一つに「加齢」があります。

 

体の中にがんができる原因はいくつかありますが、基本的には「遺伝子の異常が積み重なることで、細胞分裂の際に上手く遺伝子がコピーできなかったことが続くと遺伝子に異常を来し、がん化する」というものです。

 

その要因として、前述のような食生活や生活習慣の変化などが関係します。

 

一方で、食生活や生活習慣に気を使っていても、細胞分裂の際に起こる遺伝子の異常は、年齢を重ねるごとにリスクが高くなります。細胞分裂が起こるたびに、ほんの少しずつのコピーエラーが起これば、やがて遺伝子の異常、細胞のがん化を招くことになります。

 

厚生労働省の人口動態調査から、各年代の死亡原因として、がんによるものをピックアップし、年代別で比較してみました。

 

年代別 死因(がんおよびがん以外)による死亡者数

図3 年代別 死因(がんおよびがん以外)による死亡者数

 

男女ともに、60歳を過ぎたあたりからがんによる死亡者数が増えていることが分かります。80代くらいになると、男性は年間でおよそ40万人、女性は年間25万人以上の人が、がんで亡くなっていることになります。

 

医療計画に組み込まれている「がん」

 

では実際、医療計画の中にはどのような内容が盛り込まれているのでしょうか。

 

日本には、「がん対策基本法(平成18年法律第98号)」という法律があります。
この中には、「政府は、がん対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、がん対策の推進に関する基本的な計画(以下「がん対策推進基本計画」という。)を策定しなければならない。」とあります。

 

これに対し厚生労働省ではがん対策推進基本計画の目的として「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す。」というのを挙げています。具体的には

 

  • 科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実
  • 患者本位のがん医療の実現
  • 尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築  があります。

 

さらに「がん対策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項」として「都道府県による計画の策定」というものがあります。これが、医療計画に書かれていることになります。国、厚生労働省、各都道府県の関係性を見てみましょう。

 

医療計画における国、厚生労働省、各都道府県の関係性

 

都道府県が策定する医療計画(2018年度からの6年間は第7次)では、大きく2つの事柄が書かれています。

 

一つは「その都道府県が、目指す方向性」です。これは、厚生労働省が公開している「がん対策推進基本計画」に則った内容でなければいけません。厚生労働省では「がん対策推進基本計画」の中で、がんに対する国の方針として、

 

  • がん予防
  • がん医療の充実
  • がんとの共生
  • これらを支える基盤整備  

 

を掲げています。

 

都道府県ではさらに「それぞれの地域でのがんの現状を踏まえる」ことが求められており、これらが「検診率向上に向けた施策」や「がん治療を行う医療機関の整備」などにつながっていきます。

 

さらにもう一つ、「各医療機関との連携」もあります。
都道府県は現在、自県の中にある病床数をコントロールしたり、医師や看護師など医療者の確保対策も考える立場にあります。

 

がんの治療にはさまざまな段階があり、医療機関によって出来ること、出来ないことがあります。これを踏まえて「どの地域にどのような医療機能を持つ医療機関を設置しておくのか」や「医療機関同士がどう連携すべきか」などもまとめていくことになります。

 

病院側からすれば(人員が確保できれば)病床数を増やした方が良いと思われるかもしれませんが、「来年から●●床、増床します」ということを、勝手には決められない側面もあるのです。

 

また、医療機能として「最新式の画像検査装置」や「最新式の治療機器」を導入することもありますが、医療機関にはそれぞれ「当道府県の中での役割」もあるため、その方針に則った利用を進めていくことになります。

 

これらの事柄を踏まえ、医療計画の中には「都道府県としてはこうしたい」という方針が、明記されていることになります。

 

まとめ - 当コラムでお伝えしていきたいポイント

医療計画における国、厚生労働省、各都道府県の関係性

 

当コラムでは今後、医療計画の「がん医療体制」について、掘り下げていきます。

 

1回あたり複数の都道府県、例えば九州地方を南北の2つに分けたり、関東地方を南北に分けたりはしますが、近隣の都道府県ではどのような方針となっているのか、すぐお隣の都道府県ではがん治療の中枢をどの医療機関としているのかなど、比較検討もできるようにしていきます。

 

また、看護師視点で考えた時、「がん」に関する認定看護師や専門看護師の情報も、欲しいところですよね。

 

看護師は、看護師資格を取得したら終わりではありません。
自分自身が看護師として、どのような仕事をしていきたいのか、そこには認定看護師や専門看護師として、その道を極めたいという気持ちを抱く人もいるでしょう。

 

また、どのようなライフワークバランスで働き続けて行きたいのかなど、少しでも看護師ライフのヒントになるような事柄を、医療計画の中からピックアップしていければと考えています。

 

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看護師紹介会社(転職エージェント)を通じた転職メリット

 

参考資料

 

厚生労働省 医療計画 医療計画について
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000159901.pdf

 

同上 疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000159904.pdf

 

同上 第3期がん対策推進基本計画(平成30年3月9日閣議決定)(概要)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000196974.pdf

 

e-Gov 平成十八年法律第九十八号 がん対策基本法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=418AC1000000098#37

 

厚生労働省 平成28年(2016)人口動態統計(確定数)の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei16/index.html

 

厚生労働省の最新たばこ情報 成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査)
http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd090000.html

 

国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター がん検診受診率
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening.html

 

同上 がん死亡率・がん検診受診率の国際比較
https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2009/fig21.pdf

 

この記事をかいた人


紅 花子 (べに はなこ)
正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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