中国地方のがん医療の現状と、看護師の働き方

中国地方(山口、岡山、広島、鳥取、島根)のがん医療の現状と、看護師の働き方

■作成日 2018/6/4 ■更新日 2018/6/4

 

元看護師ライター 紅花子です。

 

連載「看護師による看護師のための5疾病・5事業+在宅医療のミカタ」、前回は「5疾病・5事業および在宅」のうち、四国地方の「がんの医療体制」について見てきました。今回は、中国地方にある5県、山口県、岡山県、広島県、鳥取県、島根県のがんの医療体制について、見ていきたいと思います。

 

各県のがん診療拠点病院などの施設

 

中国地方の各県には、厚生労働省が指定するがん診療連携拠点病院の他にも、複数のがん診療を担う病院が指定されています(図1)。
中国地方(山口、岡山、広島、鳥取、島根)のがん医療の現状と、看護師の働き方

図1 四国のがん診療拠点病院の数

 

お隣同士に位置する鳥取県と島根県では、指定がん診療病院などに「準じる病院」が指定されていたり、地域のがん診療病院などが指定0という区分もあります。

 

広島県や山口県も、指定が0となっている病院の区分がありますが、県全体では10程度の医療機関が「がん医療」の中心的な医療機関として機能しているようです。

 

それぞれの医療機関の場所を地図で示すと、次のようになります。尚、図1の中には「先進医療施設」は含めていませんが、図2と表1にはこれを含めていますので、各県ごとの医療機関数の合計には差異があります。

 

中国地方(山口、岡山、広島、鳥取、島根)のがん医療の現状と、看護師の働き方

図2 中国地方におけるがん連携拠点病院と高度先進医療施設

 

上記の地図からも分かるように、中国地方は基本的に、海に面した土地の人口が多く、医療機能も海沿いの地域を中心に存在しています。山口県などは、すべてが海沿いの地域に、ある程度の距離を保ちながら存在しているように見えます。

 

岡山県、広島県では、山間部にもいくつかの医療機関があります。中でも岡山県の先進医療施設である「岡山大学・津山中央病院共同運用 がん陽子線治療センター」は、中四国地域の全体をカバーする、完全予約制の高度先進医療施設となっています。

 

中国地方におけるがん連携拠点病院と高度先進医療施設一覧

鳥取県

 

1.鳥取大学医学部附属病院
2.県立中央病院
3.鳥取市立病院
4.県立厚生病院
5.米子医療センター
6.鳥取赤十字病院
7.鳥取生協病院
8.野島病院
9.山陰労災病院
10.博愛病院

 

島根県

 

11.島根大学医学部附属病院
12.松江赤十字病院
13.松江市立病院
14.県立中央病院
15.浜田医療センター
16.益田赤十字病院
17.松江医療センター
18.益田地域医療センター医師会病院

 

岡山県

 

19.岡山大学病院
20.岡山赤十字病院
21.岡山医療センター
22.岡山済生会総合病院
23.倉敷中央病院
24.川崎医科大学附属病院
25.津山中央病院
26.高梁中央病院
27.金田病院
28.岡山労災病院
29.岡山市立市民病院
30.川崎医科大学総合医療センター
31.倉敷成人病センター
32.岡山大学・津山中央病院共同運用 がん陽子線治療センター

 

広島県

 

33.広島大学病院
34.広島市民病院
35.広島赤十字・原爆病院
36.県立広島病院
37.安佐市民病院
38.呉医療センター
39.尾道総合病院
40.福山市民病院
41.市立三次中央病院
42.東広島医療センター
43.廣島総合病院
44.呉共済病院
45.中国労災病院
46.尾道市立市民病院
47.福山医療センター
48.中国中央病院

 

山口県

 

49.山口大学医学部附属病院
50.岩国医療センター
51.周東総合病院
52.徳山中央病院
53.県立総合医療センター
54.済生会下関総合病院
55.長門総合病院
56.都志見病院

 

鳥取県では、全てのがん拠点病院で各種がん治療に対する「多職種によるキャンサーボード」を開催するなど、支持療法の推進に努めています。

 

また、二次医療圏で放射線治療施設の集約化・役割分担の推進(鳥取放射線治療ネットワークの構築)や、薬剤師外来を設置する医療機関を二次医療圏ごとに1つ以上確保するなど、集約的治療の推進にも力を入れているようです。

 

島根県では、平成 18年9月に「島根県がん対策推進条例」が制定されており、がん予防対策の推進、がん医療水準の向上、緩和ケアの推進、患者への支援などがうたわれています。

 

島根県では、各二次医療圏域の中核医療機関を中心にがん診療を行っていますが、東西での医療資源格差がみられること、拠点病院のない空白の二次医療圏域が4圏域あることなどが課題となっています。

 

岡山県では、県内に「岡山県がん診療連携協議会(以下「連携協議会」)を設置し、地域におけるがん診療を担う医療機関が参加し、がん診療の質の向上及びがん医療の連携協力体制構築を目的に、情報交換が行われています。

 

地域の医療機関との連携のあり方や、情報共有も含めた課題について協議を行い、地域における適切な医療を提供するべく、取組みを行っています。

 

広島県では、全ての国指定・県指定がん診療連携拠点病院において、5大がんの地域連携クリティカルパスを整備しており、これに適応する患者数は、平成28年時点で200名を超えています。

 

また、一定の施設基準を満たす施設が参加した「広島県がん医療ネットワーク」の構築が、平成 24(2012)年度末で完了し、集学的治療を行う医療機関は、各部位ごとのがん医療拠点として、中心的な役割を担っているようです。

 

山口県は、山口大学医学部付属病院が、都道府県と地域がん診療連携拠点病院を兼ねており、全部で9の医療機関が、がん診療拠点病院に指定されています。

 

山口県のがん医療については、治療後のリハビリテーションに力を入れているほか、薬物療法等のがん治療による合併症を予防する目的にて、歯科医師との連携により、治療前口腔ケア等の取組みを進めています。

 

各県のがん患者の状況

 

次に、主な部位別の死亡率を各県ごとに見ていきます。

 

中国地方(山口、岡山、広島、鳥取、島根)のがん医療の現状と、看護師の働き方

図3 四国 各県のがん部位熱死亡率と全国順位

 

島根県は、膵臓がんが全国ワースト1位、肝臓がんが全国ワースト3位、悪性新生物全体でも全国ワースト3位となっています。

 

お隣の鳥取県では、肺がんや子宮がんが全国でワースト10位以内、山口県は肺がん、大腸癌、胃がんが全国ワースト10位以内に入っており、悪性新生物の全国順位でもこの3県は死亡率が高い状況にあります。

 

一方、岡山県と広島県は、上記のすべての部位について中位~低位を維持しており、悪性新生物全体で見ても、全国ワースト順位はだいぶ低い方になります。

 

中国地方全体で見ると、鳥取県、島根県、山口県の3県と、岡山県、広島県の2県では、近隣地方であるにも関わらす、がんによる死亡率に大きな差があるようです。

 

各県におけるがん医療体制の特徴

 

次に、各県ごとのがんの医療体制に関する、細かな施策を見ていきましょう。

 

鳥取県

 

鳥取県は、がん検診の受診率が全国平均よりは高い(肺がんを除く)のですが、がん罹患率は多くの部位で全国よりも高く、特に生活習慣に関する指標(喫煙、食生活、運動等)に対する数値が、全国平均よりも悪い傾向にあるようです。

 

また、これは地形とも関連するのですが、訪問看護ステーションや在宅療養支援診療所が少なく、在宅医療サービスに係る調整等が困難な地域もあります。

 

これらの課題に対し鳥取県では、5大がんに関する地域連携クリティカルパスと、患者用パス(わたしのカルテ)とをあわせた運用を平成24年から開始しています。

 

さらに在宅療養中の緊急時受入れ病院の確保、24時間訪問診療や訪問看護が提供できる体制、疼痛緩和のための麻薬処方が可能な「かかりつけ医」の増加など、今後も県としての対応が必要な課題があります。

 

島根県

 

島根県内のがん医療体制の課題としては、拠点病院のない、4つの「空白の二次医療圏域(雲南、大田、益田、隠岐)」が存在していることです。

 

特に雲南、大田、隠岐圏域は自医療圏での完結率が低い一方で、隣接圏域の拠点病院への通院が、高齢化の影響もあり負担となっている状況です。

 

これらに対して島根県では、高度医療や集約的治療体制の推進と並行し、二次医療圏域でのがん治療が受けられる体制づくりを進めたい方針です。

 

そのためには、がん治療が行える専門医の確保だけではなく、がん治療に対する専門的な知識を持つ看護師や放射線技師、薬剤師などの確保に力をいれたい方針です。

 

岡山県

 

岡山県は、いくつかのがんでは全国と比較してがん検診受診率が高くなっていますが、岡山県が目標とする60%にはまだ届いていません。県民からは「受ける時間がない」「健康状態に自信がある」などの意見が集まっているようです。

 

これに対して県では今後も、市町村や関係団体等と連携し、効果的な受診勧奨や普及啓発を行う必要があるとしています。

 

岡山県には、県独自で「がん診療連携推進病院」を、4病院指定し、さらにそれぞれの地域のがん医療の均てん化に取り組んでおり、がん診療連携拠点病院などでの緩和ケア研修会を開催、緩和ケアに携わる医師の増加と資質向上を図っています。

 

しかし、医療機関によっては緩和ケアチームが存在していなかったり、実際の介入状況などにより、緩和ケアの提供状況は施設間での差が生じている状況です。

 

広島県

 

広島県では、国が都道府県がん診療連携拠点病院に指定している広島大学医学部付属病院を中心とし、全県のがん診療の質の向上とがん診療の連携協力体制の構築を進めています。

 

また、広島圏域の4医療機関は「ネットワーク型がんセンター」として機能を分担し、県全体を対象とした高度専門治療の提供や人材育成等で,県内の医療機関を支援する体制をとっています。

 

ところで広島大学医学部附属病院は、平成 25(2013)年 2 月から、中四国地域における小児がん医療及び支援を提供する中心施設である「小児がん拠点病院」に指定されています。

 

広島県ではこれまでに、5大がん(乳がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、大腸がん)から、がん予防・治療などの対策を進めてきました。今後はこれらの対策を5大がん以外にも拡大し、小児がんや、希少がん、難治性がんなどの医療を提供していきたい方針です。

 

山口県

 

山口県では、全ての市町村で5大がん検診が行われていますが、全国平均と比較するとその検診率は低い状況です。特に女性の受診率が低いため、女性のがん検診受診の意識が高まるよう、今後は普及啓発を強化する必要があるとしています。

 

一方、山口県内には圏域ごとになんらかの「がん診療拠点病院」が配置されており、圏域内におけるがん医療の中核的医療機関として、専門的ながん治療の提供だけではなく、地域におけるがん医療の連携体制の構築、がん患者に対する相談支援や情報提供など、がん医療における幅広い機能を、それぞれの圏域で担っています。

 

しかしがん罹患数やがん死亡者数を減らすためには、がん治療を行う専門医や、専門の知識やスキルを持つ看護師などの医療従事者を、さらに確保していきたい方針です。

 

各県のがん対策におけるナース需要

 

では、それぞれの県には、今どれくらいの認定看護師、専門看護師がいるのか。がんに関する分野の認定看護師と、がん看護専門看護師の人数を調べてみました。

 

中国地方(山口、岡山、広島、鳥取、島根)のがん医療の現状と、看護師の働き方

図4 四国 がん関連の認定看護師・専門看護師数

 

鳥取県と島根県は元々人口が少ない県ですので、看護師全体数も少ないのが現状です。そんな中でも特筆すべきは、島根県の「緩和ケア」の認定看護師数。

 

これは、岡山県や山口県よりも多くなります。島根県では、離島や山間地域、中小病院などを中心に看護師確保対策を講じていますが、「島根県がん対策推進計画」において「緩和ケアに精通した看護師の確保」を掲げており、それに対する施策が功を奏しているのかもしれません。

 

一方、5大がんへの対策をさらに他のがんへも拡大しようとしている広島県は、元々の人口の多さもさることながら、専門的な知識やスキルを持つ看護師数が、中国地方では断トツです。

 

緩和ケアの認定看護師数は群を抜いており、ここまでに至る県の取り組みや、看護師教育体制の強化などが、形となって表れているのかもしれません。

 

まとめ

中国地方(山口、岡山、広島、鳥取、島根)のがん医療の現状と、看護師の働き方

 

山陰、山陽と同じ地域内でもそれぞれの特色が強く出ている中国地方。それだけではなく、山間部が多いことから、医療機関が沿岸部の都市に集中することで、山間部に住む住民への医療機能の提供、在宅医療体制の整備や訪問看護体制の強化など、県ごとにいくつもの課題を抱えており、十分ながん医療を提供するための施策を推進しています。

 

特に世界的な高齢化地域ともいえる山口県や、人口減少が進む鳥取県、島根県は現在、がんによる死亡率が全国ワースト10位以内に入っているものがあり、今後はがん予防やがん治療体制の強化に力をいれていくことになるでしょう。

 

これからがん関連のキャリアアップを目指したいナース、すでに大きなスキルを持つナースにとっては、充実した「がん看護」を実践できる地域と言えるかもしれません。

 

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この記事をかいた人


紅 花子 (べに はなこ)
正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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