80歳代の女性のお薬を家族に渡したはずなのに、ご本人がもらっていないというのでお薬を再交付!ご本人の勘違いかと思っていたが…。
■作成日 2018/2/22 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は総合病院の門前薬局で働く30歳代の薬剤師です。
薬局の前にある総合病院は市内で最も大きい病院で、病院の駐車場まわりに6件の調剤薬局があります。
私の勤務する薬局は駐車場の出入口から少し離れた場所にあるので処方せん枚数は比較的少ないのですが、それでも毎日60枚、多い時は120枚程度の処方せんを受け付けています。
今回の過誤は、非常に混み合う平日の昼ちょっと前に発生しました。
その日は整形外科の処方が多く、11時頃から患者さんがたくさん来局していました。
もちろん整形外科以外の小児科や内科の一包化の処方も何件かありました。
私はその日はフルタイムの勤務だったので、午前のみ勤務の薬剤師に調剤を任せて彼女たちの薬歴がたまらないようにして、監査と服薬指導をメインに業務を行っていました。
小児科や一包化の処方に比べて整形外科の処方は内容が複雑ではないので、調剤は早く終わります。そこで、私は調剤の終わった処方を順次監査し、服薬指導も行いました。
昼過ぎ近くになりようやく薬局内がすいてきた頃に、おかしなことに気がつきました。
高齢の女性が、ずっと同じ場所に座っているのです。しかしどの薬剤師に聞いても、服薬指導を行った記憶がないというのです。また、高齢の女性患者さんの処方も調剤室内にはないのです。
不審に思いながらその方にお名前を聞き、処方せんを出したかどうかを確認したところ、「処方せんはもうだいぶ前に出したわよ。お薬手帳は終わったから新しいのを作ってねって女の子(事務職員)に言ったわよ。」とのことでした。
名前に覚えがあったので薬歴を確認したところ、やはり私が服薬指導したことになっています。私がお薬を渡したのは比較的若い女性で、スマートフォンを操作しながら横柄な態度を取っていたのでよく覚えていました。
そこで、「今日はご家族にお薬をお渡ししましたが、入れ違いになってしまいましたか?」と確認したところ、「今日は一人で来たわよ。お薬をもらったらタクシーで帰るの。もうお薬はできたかしら?お薬ができたのならタクシーを呼んでもらえるかしら?」とおっしゃるのです。
私はどういうことか訳がわからず、いったん「少々お待ちください、処方せんとお薬を確認してきます。」といい、管理薬剤師に相談しました。管理薬剤師も「うーん」と言ったきり解決策が思いつかないようで、とりあえず処方せんどおりのお薬を再度用意するように言われました。
そこで、患者さんにお薬をお渡しし、新しいお薬手帳も作ってお渡ししました。
その後、患者さんはタクシーに乗ってお帰りになられたのですが、従業員は全員「何が起こったの?」と混乱した状態でした。
調剤室には調剤が終わって服薬指導待ちの処方がいくつかありましたが、どれも「明日以降来局予定」「外出中」の札がついているものばかりです。
結局、「きっと患者さんが何か勘違いされているのだろう。ご家族がお薬をとりにみえて、何らかのトラブルがあってご家族だけが先に帰ってしまったのだろう。」ということで、私たちは問題を解決したつもりになってしまいました。
実際、施設に入所されている方の中には、会計が必要なお薬は家族が受け取り、送迎は施設職員が行うというケースが時々あるので、今回もそのようなパターンだろうと思いこんでしまったのです。
80歳代の患者さんのお薬を受け取った30歳代の女性が再来局。そこで初めて薬剤を誤交付していたことが発覚
その日の夕方、閉店間際に、問題の処方せんのお薬を受け取った若い女性が薬局にやってきました。そして不愉快そうに「何だかよくわからないけど、全然知らない人のお薬手帳が入っているんだけど、どういうこと?」と言ったのです。
私は「○○様のご家族ですよね。○○様のお薬手帳が入っていると思うのですが…。ただ、今回新しく発行しましたので、今までとは表紙の絵柄が違っているかもしれません。」と答えました。
すると、「はぁ?○○ってだれ?私はそんな名前じゃないけれど。」とイラついた様子でお薬手帳をレジ袋から出したのです。
そんなはずは…と思い患者さんのお名前を改めて確認したところ、別人であることがわかりました。ここにいたって、私もほかの従業員もお薬の渡し間違いがあったということにやっと気がつきました。
お名前から、お薬を誤交付してしまった患者さんは、「外出中」の札がついている処方の30歳代の女性患者さんであることがわかりました。そこで正しいお薬を渡そうとしたのですが、「薬はもうもらっているから!」ときびすを返して帰ろうとしたのです。
あわてて「私どものミスで、○○様のお薬をお渡ししてしまいました。お薬の袋のお名前が○○様になっているはずです。こちらが正しいお薬ですので、こちらをお持ち下さい。」と呼び止めたところ、「何言ってんの?」と言いつつも戻ってきてくれました。
すかさず私は「失礼します!」とレジ袋を患者さんの手から外し、中に入っている薬袋を取り出し、名前の部分を指し示しました。そこで初めて患者さんは違う人のお薬を受け取っていたことに気がついたようで「あれ?何?わけわかんないんだけど?」と困った様子になりました。
そこで私は患者さんと一緒に待合の長椅子に座り、経緯を説明しました。
まず、患者さんが外出(駐車場で喫煙していたそうです)から戻られたことに気づかなかったこと、お名前を呼び出して投薬カウンターに来た患者さんを○○さんの家族だと思い込んでしまったこと、スマートフォンを操作中だったので説明を簡単に済ましてしまったこと、などをできるだけ丁寧にお話し、お薬をあやまって渡してしまったことを謝罪しました。
患者さんも納得されたようで、「おかしいと思った。だって、頼んでおいたのと違う湿布が入っていたんだもの。また先生が処方間違えたって思っていたよ。飲み薬はどうせ効かないから飲むつもりもなかったし見てもなかったんだけど。」とのことでした。
その後、患者さんは正しいお薬を確認して満足し、帰って行かれました。
一連の謎がとけ、また大事に至らなかったことからホッとしたものの、正直どっと疲れてしまいました。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回の過誤が発生した最大の原因は、服薬指導時に本人確認をしっかりしなかったことにあると思います。実は私は呼び出した患者さんの年齢と投薬カウンターにみえた方の年齢が大きく違うことには気がついていたので、「○○様のご家族ですか?」と確認はしていました。
しかし、スマートフォンを操作しながらうわの空で「うん」という患者さんの態度に辟易としてしまい、それ以上の確認をしなかったのです。そこでしっかり念押しをしていたら今回の過誤は起きなかったのに、と思うと非常に残念です。
なお、処方せんに記載されていた80歳代の女性患者さんの方は年相応に耳が遠かったようです。そのため、自分の名前が呼ばれたことに気が付かなかったのでしょう。
何度かお名前を呼べば気がついたのかもしれませんが、今回は1度お名前を呼んだ時点で運悪くほかの患者さんが投薬カウンターにすぐ来てしまったことから全く気づくことができなかったようです。長時間おまたせしてしまった上、患者さんにとって不快な対応をとってしまったので、本当に申し訳なく思っています。
そこで今回の過誤を反省して、服薬指導時に本人確認をしっかりするよう管理薬剤師から指示がありました。
本来ならば、投薬カウンターに来た人にだれの薬を取りに来たのか名前を口頭で答えてもらうのが一番良いと思うのですが、周りの人に名前を聞かれたくない人もいるかもしれません。そこで、処方せんあるいは薬袋に書かれた名前を指し示して「こちらのお名前で間違いありませんね。」と確認することになりました。
今回のケースでは若い方が間違って投薬カウンターに来てしまいましたが、高齢の患者さん、特に耳の聞こえの悪い患者さんは目が合うとカウンターに来てしまう方もいます。そういった患者さんは口頭でお名前を確認してもこちらの言葉がはっきり聞き取れず、会話が成立しない場合すらあります。
そういったケースがあることを考慮すると、お名前を文字で確認するのは良い方法だと思います。
また、服薬指導時に処方内容をしっかり確認しなかったことも過誤につながったと考えています。
お薬を誤交付してしまった患者さんはお薬をほとんど見ようともしませんでしたが、処方内容がほかの患者さんと全く同じということはほとんどないので、処方内容をしっかり確認すれば誤交付を防ぐことができたかもしれません。
実際のところ、80歳代の女性患者さんと30歳代の女性患者さんでは処方されている飲み薬はもちろん湿布の内容も異なっていました。
患者さんご本人も帰宅後に湿布が違っていることに気がついたわけですから、湿布だけでもしっかり確認しておけばよかった、と非常に後悔しました。
今回、服薬指導時に処方をしっかり確認できなかったのは、スマートフォンを操作していた患者さんに積極的に声をかけるのをためらってしまったからです。
私が何を話しかけてもうわの空で生返事だったことから、患者さんが話を全く聞いていないことは明らかでした。しかしスマートフォンをしまってくださいとも言えず、結果として誤交付が発生してしまいました。
そこで、患者さんがスマートフォンなどを使っていて服薬指導が十分に行えない場合には、服薬指導を行わないこととなりました。
とはいえ、何も伝えず黙ってお薬を渡すわけではありません。投薬カウンターに来てもスマートフォンなどをさわっている方、あるいは服薬指導中に電話がかかってきた方には「お手すきになりましたらお声がけ下さい。可能な限り優先的にお薬をお渡しするように致します。」とやんわり伝えることになりました。
それでも「大丈夫だから早く薬をちょうだい」という方はいらっしゃるでしょう。しかしその場合でも、最低限お名前は確認することになりますので、今回のような誤交付は防ぐことができるはずです。
また今回の過誤の原因の一つは、外出されていた患者さんが帰ってきたことに気づかなかったことにもあると考えます。
多くの患者さんは外出時に事務職員に声をかけてくれますし、外出から帰ってきた時にも声をかけてくれます。しかし今回の件で、「外出時などには声をかけてくれるのが当たり前」だと薬局の従業員が思いこんでしまっていたことに気づかされました。
そこで、処方せん受付をする事務職員のいるカウンターに「外出時にはスタッフにお声がけ下さい。戻られましたら、再度スタッフにお声がけ下さい。戻られたことが確認できない場合、お薬をお渡しする順番が遅くなることがあります。」と大きく書いた張り紙をすることにしました。
加えて、外出される患者さんにはお薬手帳と同じくらいの大きさの「外出札」をお渡しすることにしました。
そして外出札は外出から戻られたら返却していただき、戻ったことが確実にわかるようにしました。
外出札には番号のほか薬局の連絡先も記載し、万が一当日中に再来局できない場合には受付時間内に電話をするようお願いする内容も記載しました。
外出札にかかわる業務は主に事務職員が担当することになり負担が増えてしまうのですが、事務職員からは意外なことに歓迎されました。
以前から外出にかかわるトラブルが多く、「ちょっと外に行ってきただけなのに、どうしていつまでも薬をもらえないんだ!」などと患者さんからくってかかられた経験のある事務職員も少なくなかったからです。
外出から戻ってきたことが確実にわかれば、その時にどの程度の時間でお薬が用意できるか伝えることも可能になりますし、服薬指導の準備ができていれば薬剤師の手が空き次第お薬を渡すこともできます。
実際、外出札を使うようになってからは患者さんからのクレームは減ったようです。事務職員も患者さんの出入りに神経質にならなくて良くなったと、喜んでくれています。
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