狭心症のために長期間ニトロダームTTSが処方されていた患者さんに、薬を体のあちらこちらに貼ってしまう誤使用が発生。患者さんは、ニトロダームTTSを単なる痛み止めだと勘違いしていた…
■作成日 2018/2/28 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は内科クリニックの門前薬局で働く30歳代の薬剤師です。
以前は医薬品卸のDI部門で働いていました。
調剤薬局へ転職してまだ1年ですが、仕事が楽しく日々勉強にいそしんでいます。
門前の内科クリニックからは、毎日だいたい100枚前後の処方せんが薬局に持ち込まれます。もっとも、比較的人員に余裕があるので、患者さんへ服薬指導を行う時間は十分にとることができます。
私たちの薬局にみえる患者さんは高齢の方が比較的多いのですが、元気な方が非常に多く、90歳を超えていてもご本人が投薬口まで薬を取りに来られるというケースもまれではありません。
今回の過誤は、そんな元気な高齢の女性患者さんに起きてしまったものです。
患者さんは80歳代後半の女性で、クリニックや薬局の行き帰りは家族が送り迎えをするものの、いつもご本人がお薬を取りに来ていました。
体調変化はあまりないようで、毎回同じお薬が処方されていました。
そのため、どのお薬も長いこと使っているもので服薬指導すべき内容がほとんどない、というのが私たちの本音でした。
もちろん年相応に色々お薬が出ているのですが、渡しているお薬のうち飲み薬は一包化しており、用法ごとに色分けもしていることから、「飲み忘れはあるかもしれないけれど、飲み間違いはまずないだろう。」とどの薬剤師も思っていました。
長雨の続くある日のこと、いつものようにその患者さんは一人で薬局にやってきました。
しかし、前日に雨で滑ってしまい少し足首をひねってしまったということで、杖をついての来局でした。
整形外科のクリニックを受診してレントゲンを撮ってもらったものの骨に異常はなく、経過観察で大丈夫とのことで安心した様子でした。
いつもならば投薬台で服薬指導をするのですが、足が痛い様子なのでこの日は待合の長椅子で服薬指導をすることにしました。
待合で服薬指導時に、患者さんがニトロダームTTSを2枚も足に貼っていることを発見
前日に整形外科のクリニックを受診しているということなので、私は調剤室でお薬手帳を確認しました。整形外科のクリニックからは頓服で痛み止めが処方されており、湿布も処方されていました。
私たちの門前の内科クリニックで胃薬が処方されているため、胃薬の処方はないようでした。お薬手帳が役立っていることをうれしく思いながら、私は患者さんの座っている長椅子まで薬を持っていきました。
内科クリニックからの処方は、この日もいつもと同じ内容でした。
そこで、一包化された薬を用法ごとに説明し、色分けの内容も確認しながら薬を薬袋に入れ、同時に処方されているニトロダームTTSについても効能・用法や枚数を一緒に確認しました。
しかしそこで、私は患者さんの足首に肌色の楕円形のものが貼ってあることに気がつきました。それはニトロダームTTSでした。しかも、2枚も貼ってあるのです。私は思わず「えぇっ!」と大きな声を上げてしまいました。
患者さんは私が何をみて叫んでいるのかわからなかったようで、理由をたずねてきました。
そこで私は一生懸命気持ちを落ち着けて「この貼り薬はいつもお渡ししている心臓の貼り薬ですよね。どうして足に貼っているのですか?」と患者さんに聞いてみました。
すると、患者さんはこう答えたのです。
「この絆創膏(!)は痛み止めなんでしょ。いつも薬剤師さんがそう言っているものねぇ。転んで足首が痛いけど、整形でもらった湿布は大きいし足首が曲げにくくなるし、かゆくなるから貼りたくなくてねぇ。だから、いつももらっている絆創膏がちょうどいいから貼っておいたんだよ。いくつも余っているからもったいないしね。」
私はあいた口がふさがりませんでした。
しかし、過量投与で血圧低下などの症状が起きては大変です。
あわてて「ごめんなさいね。これは使いすぎると血圧が下がりすぎたりすることのあるお薬だから、ここではがさせてもらいますね。」といって、その場で足に貼ってあったニトロダームTTSを2枚ともそっとはがしました。
しかし、患者さんは何故はがさなくてはいけないのかあまり理解できていない様子であったので、続けて「これは、狭心症などの症状が出ないようにするお薬なんです。今まで「痛みをおさえるお薬ですよ」という感じの簡単な説明しかしていなかったと思うのですが、心臓の痛みが出ないようにするお薬なんです。転んだりした時の打ち身とかの痛みにはまったく効かないお薬なんです。今まで説明不足でしたね。申し訳ありませんでした。」と説明をしました。
すると、患者さんは「なぁんだ、そうだったんだね。今までも手を切っちゃった時とか虫に刺された時に貼っていたんだけれど、それで全然効かなかったんだねぇ。」と今までも何度か誤った使い方をしていたことを告白してくれたのです。
その後の話で、過量投与にともなう副作用は今までのところないようであることは確認できました。
しかし様々な不安が拭いきれなかったので、私は患者さんとじっくり話をすることにしました。
まず、ニトロダームTTSは服薬指導時に「痛みをおさえる薬」と説明されることが多かったので、痛み止めだと勘違いしていたことがわかりました。
また、サイズが小さいことから絆創膏のようなものだと思っていたこともわかりました。
そして、たくさん余っているということだったのでコンプライアンスを確認したところ、ほとんど貼っていないということも判明しました。
ニトロダームTTSを心臓の薬ではなく痛みをおさえる絆創膏と認識していたわけですから、コンプライアンスが悪いのは致し方ないかもしれません。
さらに深く話を聞いてみると、薬の管理をしているのは患者さんご本人であること、薬は引き出しに入っているはずだけれど時々どこにあるかわからなくなってしまうこと、飲んだかどうかわからなくなる時があること、飲み薬の残薬もかなりたくさんあること、などがわかりました。
思っていた以上にコンプライアンスが悪いことがわかったので、その日に渡す予定だった一包化したお薬をもう一度患者さんから受け取り、その場で分包紙に服薬予定日を太いマジックペンで書き込みました。
患者さんにはとても感謝されましたが、今までコンプライアンス不良や誤使用に気づかなかったことが非常に悔やまれ、また服薬指導が十分でなかったことが思い知らされた一件でした。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回の過誤(誤使用)は、患者さんに薬効をしっかり説明していなかったために発生したと考えます。漫然と同じ説明を繰り返し、かつ簡単な説明しか行っていなかったことが患者さんの薬識不足につながったと思います。
患者さんの理解度に応じて平易な言葉を使って服薬指導をするのは当然のことですが、効能効果や用法が伝わっていないのでは全く説明していないのと同じです。
ましてや、説明が原因で患者さんが効能を誤解し、誤った使い方をしていたのですから、間違った服薬指導をしていたということになるでしょう。
患者さんに服薬指導をする時には、たとえいつもと同じ薬であっても「何に対する薬か」「何のために処方されているのか」をしっかり説明し、用法も合わせて伝えるべきだと思います。
また必要に応じて、薬を正しく使わなかった場合に生じうるデメリットも説明するべきだと考えます。
同じ薬が長期間処方されている場合には、定期的にコンプライアンスをチェックすることも大切だと思いました。
「症状が変わらないから薬が変わらないのだろう」「いつもと同じ薬だからわかっているだろう」という思い込みがあると、服薬指導の内容もいい加減になりがちです。
いつもと同じ薬であっても、残薬の有無や使用方法のチェックは必要だと思います。
残薬がある場合には、飲めない理由を可能な限り探るべきだと思います。
飲み忘れが多いのか、副作用など不都合があって飲まないのか、飲まなくても調子が良いから飲まないのか、患者さんによって理由は様々だと思います。
今回のように、薬剤師の説明不足がノンコンプライアンスにつながっている可能性もあります。残薬が生じる理由によっては医師にフィードバックを行い、処方変更などを提案する必要もあると思います。
ちなみに今回の過誤について医師にフィードバックを行ったところ、次の処方でニトロダームTTSの処方が中止になりました。
医師には「しっかり効能用法を説明するように!」と厳しく叱られましたが、同時に「服薬状況を教えてくれてありがとう」という御礼の言葉もいただきました。
患者さんの情報については、薬剤師間での情報共有も大切です。
特に、今回の患者さんについては服薬指導が十分でなかったために誤使用が発生したわけですから、誤使用の内容・誤使用が発生した経緯・今後注意する点を薬歴に記入し、口頭でも全薬剤師に注意を促しました。
また、今後同様の過誤が発生しないように、患者さんに薬を渡す際には効能用法をわかりやすく誤解のないように、時には服用方法・使用方法を患者さんに確認しながら服薬指導を行うこととされました。
また、同時に残薬の確認も積極的に行うようになりました。
服薬指導時に行った指導内容や残薬の有無・コンプライアンスの良否については、詳しく記載するように管理薬剤師から指示がありました。
特に残薬やコンプライアンスについては、具体的に「残薬は朝が○日分、夕が◆日分。」「昼に薬を飲めないことが多い。」「湿布は残なし。」などと記入するにようになりました。
今後はこれに加えて、残薬やコンプライアンス不良の理由も詳しく記入できると良いと思います。
今回の患者さんは、薬の管理をご本人がしていました。
しかし、飲み忘れが多く、飲んだかどうかもわからなくなってしまうこともあるとのことでした。
そこで、薬局に迎えに来たご家族に誤使用があったこととその経緯を説明してお詫びし、同時に薬の管理にご家族が関与していただけるようお願いをしました。
その日はそのまま患者さんを連れてお帰りになられたのですが、後日服薬管理について相談をしたいとご家族(同居しているお嫁さん)が来局されました。
ご家族によると、薬の管理は本人に任せてあるが、時々洗面所や台所に薬が落ちていることがある、夜の薬袋に朝の薬が入っているのをみたことがある、朝の薬を2回飲もうとしたことがある、など管理に不安のある状況であることがわかりました。
ただ、ご家族は仕事の都合で家にいないことが多く、薬の管理に関与するのが難しいとのことでした。
そこで、薬局で販売していたお薬カレンダーを紹介しました。
一週間分の薬を用法ごとに入れておけることを説明したところ、「これならいちいち家族が薬を用法ごとに渡さなくてもいいし、一週間分の薬をセットしておけば飲み忘れのチェックもできるから便利。」と非常に喜んでいただけました。
その数週間後、薬を取りに来られた患者さんに服薬状況を確認したところ、「お嫁さんが薬をセットしてくれているから、ちゃんと飲めているよ。」とうれしそうに答えてくれました。
迎えに来たお嫁さんにも話を聞いたところ、「飲み忘れはやっぱりあるけれど、飲み間違いはないみたい。今までとは違って飲めているかどうかがよくわかるから、安心です。」ということでした。
今回の患者さんはご家族と同居中だったので、ご家族の協力でコンプライアンスが向上しました。
しかし、一人暮らしの方やご家族の協力が得られない方もいらっしゃいます。
在宅医療を受けられている方であれば医療従事者が服薬コンプライアンスにも関わることができますが、そのような方たちばかりではありません。
まわりの手助けをなかなか受けられないような方たちのコンプライアンスを向上するにはどうすればよいだろうか、ということを今後考えなければならないと思います。
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