アルファロールカプセル0.25μgが処方されていたのに、誤って規格違いの1μgを交付。患者さんは約2ヶ月もの間、本来の処方の4倍量の薬剤を服用し続けていた

■作成日 2018/2/28 ■更新日 2018/5/8

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は、地域で一番大きな総合病院の門前薬局に勤務する50歳代の薬剤師です。
薬局での勤務経験は20年ほどで現在は管理薬剤師ですが、調剤に深くかかわるようになったのはここ10年ほどのことです。
現在勤務している薬局には、常勤の薬剤師が私を含めて3名と、パートの事務職員が3名います。

 

処方せんを主に受け付けている門前の総合病院は、数年前にやっと処方せんを院外に出すようになった病院です。
私の勤務している薬局では1日に60~120枚程度、その病院からの処方せんを受け付けています。
処方は長期処方が比較的多く、症状の安定している患者さんには約3ヶ月分の薬が処方されることも多いです。

 

今回報告する調剤過誤は、整形外科を受診されていた70歳代の男性患者さんに対するものです。

 

本来の処方は「アルファロールカプセル0.25μg 1日1回朝食後1回1カプセル91日分」だったのですが、誤って規格違いの「アルファロールカプセル1μg」を91カプセルお渡ししてしまったのです。

 

この患者さんは長い間アルファロールカプセル0.25μgのみが処方されている方で、毎回約3ヶ月分の薬剤が処方されていました。
院外処方せん発行当初から私のいる薬局に来てくださっている方で、薬局が混雑している時には一度帰宅し、時間をあけて薬局がすいている時間に薬をとりに来てくれる方でした。

 

今回の処方があったのは月の初めでした。
患者さんは午前中に来局されたのですが、薬局が非常に混雑していたため、いつものように処方せんとお薬手帳を受付に提出したあと、いったん帰宅されました。

 

その後、午後1時過ぎに再来局されたのですが、その日は午後になっても患者さんが途切れなかったために薬局の混雑がまだ続いている状態でした。
そこで患者さんは「また来るから。」と言って、再度帰宅されました。午後2時頃、今度はご家族の女性(おそらく同居しているお嫁さん)が来局されました。

 

患者さんご本人は用事があって出かけてしまったので、やむを得ず代理で薬をもらいに来たとのことでした。
計3度めの来局となるのですぐに薬を渡したかったのですが、運悪くこの日はほんの少し前の時間まで患者さんが途切れることなく来局していたため、この患者さんの処方せんについてはレセコン入力もピッキングもしていないという状態でした。

 

また、患者さんの波が途切れたタイミングで他の従業員に休憩に入ってもらったために、薬局内に残っていたのは私と一人の事務職員だけでした。

 

そこで、月初のレセプト業務をしていた事務職員にあわててレセコン入力をお願いして、私は調剤にとりかかりました。
いつもなら患者さんが来局した時点あるいは調剤が終わったタイミングで他の薬剤師を呼んだり、場合によっては事務職員にお願いしたりしてピッキングした薬剤の監査を行ってもらうのですが、処方されている薬は1剤だけで特別な注意が必要な内容ではありませんでしたし、事務職員もレセプト業務でとても忙しそうだったので、自己監査のみを行い投薬を行いました。

 

患者さん御本人とは長い付き合いですが、薬を取りに来たお嫁さんとは初対面です。
薬の外観を見せながら効能用法の説明をしたのですが、「よくわからないわ。でもいつもの薬なのよね。本人に渡せばきっとわかるわよね。」と困惑した様子で薬を受け取ってくれました。

 

この時、私が薬情の製剤写真を示しながらお嫁さんと一緒に薬の内容をしっかり確認すれば過誤は防ぐことはできたのかもしれません。
しかし、お嫁さんとは初対面であったこと、またお嫁さんが患者さんの飲んでいる薬のことを全く理解していない様子で困りきった様子だったこと、いつもの薬だからご本人に渡せばすぐにわかるだろう、という思いから、説明を簡単に済ませてしまったのです。

 

しかしながらその結果、患者さんは本来の処方の4倍量の薬剤を長期間に渡り服用することになってしまったのです。


約2ヶ月後に行った棚卸で在庫数がずれていることが明らかとなり、調剤過誤が発覚

調剤過誤が発覚したのは、約2ヶ月後に行われた棚卸の時でした。アルファロールカプセル0.25μgが91カプセル多く、規格違いのアルファロール1μgが91カプセル少なかったのです。

 

出庫履歴を確認すると、アルファロールカプセル0.25μgが処方されている患者さんはこの方一人だけでした。

 

他の患者さんに処方されていたアルファロールカプセルの規格は1μgもしくは0.5μgでした。
もちろんレセコンへの入力ミスの可能性も考え処方せんの原本も確認したのですが、入力ミスがないことはすぐに確認できました。

 

私があわてて患者さん宅に電話をしたところ、患者さんご本人とお話することができました。

 

患者さんによると、いつももらっていた薬とPTPシートの色が違うことにはすぐに気がついたそうです。しかし、お嫁さんに「薬剤師さんがいつもの薬だって言っていたよ」といわれたため、あまり気にとめなかったそうです。また、PTPの中身がいつも飲んでいる薬と同じような大きさのコロコロした球であったので、疑問も感じずに毎日飲んでしまっていたとのことでした。

 

私はすぐに本来の処方薬であるアルファロールカプセル1μgを患者さん宅に持参してお詫びにうかがい、病院で診察を受けるようにお願いしました。
翌日の診察の結果、患者さんに健康被害は何もありませんでした。

 

しかし、本来の処方の4倍量を約2ヶ月に渡って服用されていたわけです。本当に何事もなくてよかったです。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.どんな処方でも複数人体制で調剤にあたること。「この処方なら自己監査でも大丈夫」という油断は絶対にしない

 

今回の調剤過誤の最大の原因は、私の油断にあったと思います。
「いつもの薬だから。」「1剤しか処方されていないから。」という気持ちのゆるみが調剤過誤を招いてしまったのでしょう。

 

また、他に薬剤師が二人もいたにもかかわらず休憩中であることから呼ぶことを躊躇してしまい、また事務職員のレセプト業務を邪魔したくないために自己監査を行ったのも良くなかったと思います。

 

複数人体制で調剤業務にあたることのできる恵まれた環境が整っていたのですから、調剤過誤を防ぐために他の従業員の手を遠慮せずに借りるべきであったと後悔しています。

 

調剤過誤防止策2.調剤時にも監査時にも処方せんのコピーにチェックや書き込みを行う

 

処方が非常に簡単な内容であったことから、ピッキング時に特に何もチェックを行わなかったことも反省すべき点だと思います。
処方内容にかかわらず、調剤をする時には処方せんのコピーに書き込みなどを行うべきだと考えます。

 

「薬剤名」「規格」「用法用量」「処方日数」のそれぞれをチェックし、特に「規格」はピッキングしながら○印やレ点、下線などをつけるべきであると考えます。
これは規格違いの薬剤の有無にかかわらず行うべきだと思います

 

同様に監査時にも、処方せんの内容をチェックしながらコピーに適宜書き込みを行う必要があると思います。

 

しかし、今回のような思い込み調剤の場合には監査でも同様のミスをする可能性があります。
そのため、監査時には書き込みをするだけでなく、声を出して薬剤名や規格を読み上げたり、指差し確認したりするのも良いと思います

 

また、レセコンの入力内容とピッキングした薬剤が一致しているかどうかも確認すると良いと思います。
今回の場合、入力内容には間違いがなかったのでこの点もチェックすべきであったと反省しています。

 

以上のように業務を行えば、調剤時・監査時・入力内容確認時の計3回も薬剤を確認する機会があることになります。

 

なお、私のいる薬局では導入していませんが、薬剤バーコードピッキングシステムがあれば、より効率よく調剤過誤を防ぐことができるかもしれません。

 

調剤過誤防止策3.服薬指導時には患者さんと一緒に薬を確認。薬情も活用して調剤過誤を未然に防ぐ

 

服薬指導時に患者さんと一緒に薬剤を確認することも、調剤過誤防止に役立つと思います。

 

確かに、処方されている薬剤の種類が多かったり一包化されていたりすると、服薬指導時に薬剤を確認するのは非常に大変な作業となります。
しかし、今回のように処方されている薬剤の種類が少ない場合には、患者さんと一緒に交付された薬剤を確認することは決して難しくありません。

 

ただ、服薬指導を受けるのが患者さん本人とは限りませんし、薬の管理に全くかかわっていない家族である可能性もあります。
また、患者さん本人に服薬指導を行う場合であっても、視力が弱かったり認知機能が落ちていたりする患者さんもいらっしゃるので、必要に応じてゆっくりていねいに確認をする必要があると考えます。

 

そして、薬情を発行している場合には、薬情に記載されている製剤写真も調剤過誤防止に非常に役立ちます。
製剤写真と薬剤を照らし合わせれば、万が一患者さんが気づかなくても服薬指導を行った薬剤師が調剤過誤(もしくはレセコンへの入力ミス)に気づくことができます。

 

確かに薬情の写真はアップデートが遅かったりメンテナンスに手間がかかったりする場合も多いです。
しかし、麻薬などの一部の特別な薬剤を除きメーカーのホームページなどで公開されていることが多いですし、最近は画像編集ソフトも使いやすいものが増えてきているので、自力でメンテナンスすることも以前に比べてだいぶ容易になってきていると思います。

 

調剤過誤防止策4.病院の処方傾向に惑わされない。処方される薬剤は患者さんごとに異なるのが当たり前

 

今回の調剤過誤の原因は、他にもあると考えています。
処方元の総合病院がアルファロールカプセルを0.25μg・0.5μg・1μgの3規格を採用していたこと、そしてその処方のほとんどが1μgで他の2規格の処方が少ないことに薬剤師が慣れてしまっていたことも原因の一つだと思います。

 

実際、私は処方されることの多い1μgを誤ってピッキングしてしまい、監査も思い込みで行ってしまったために薬剤が間違っていることに気がつきませんでした。

 

しかし、処方は患者さんごとに異なるのが当たり前です。
病院の処方傾向に惑わされず、採用のある薬剤はどれも処方される可能性があることを念頭に置いて調剤業務にあたるべきであると考えます。

 

調剤過誤防止策5.規格違いのある薬剤は、配置方法にも工夫が必要

 

また、規格違いのある薬については調剤室内での薬剤の配置を工夫することによって注意を喚起したり、ピッキングミスを防いだりすることがある程度できると思います。

 

今までアルファロールカプセルの3規格はあえて場所を離して配置していましたが、これでは別規格が存在することが瞬時に判断できません。
そこで、3規格を横並びで配置して採用されている全規格が一度に視界に入る状態にしてみました。
こうすることでピッキング時に別規格が存在することに気づきやすくなり、処方せんを再確認してミスのないピッキングができるようになりました。

 

もちろんそれだけでは十分ではないと思うので、「規格違いあり!処方せん再確認!」の札を棚に貼り付け、札を取り除かなければピッキングできないようにしました。

 

調剤過誤防止策6.薬歴にも投薬内容を記録。規格違いがある場合はPTPシートの色なども可能な限り記録する

 

薬歴記入も調剤過誤防止に役立てることができると思います。
薬歴記入時に、交付した薬剤のPTPシートの色や薬剤の色・形状を記録することにより、処方された薬剤を間違いなく交付しているかどうかを再確認することができるようになります。

 

もっとも、服薬指導から薬歴記入までに間があると記憶があいまいになってきます。
したがって、処方せんのコピーなどにPTPシートの色や薬剤の色・形状などを記録しておく必要があるかもしれません。

 

もっとも、これらの記録をすべての薬剤で行うと薬歴記入にとても時間がかかってしまいますし、負担が増えることでさらなる調剤過誤を起こしてしまう可能性があります。

 

また、負担が多くなるとせっかくルールを決めても継続することが困難になっていまいます。

 

したがって、すべての薬剤について細かな記録を行うのではなく、類似薬剤があるものや複数の規格がある薬剤のみについて記録を残せば良いと考えます。

 

 

参考資料

 

日経メディカル アルファロールカプセル0.25μg
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/31/3112001M1046.html

 

日経メディカル アルファロールカプセル1μg
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/31/3112001M3065.html

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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