小児の患者さんに抗生剤を処方量の半分で交付。疑義照会でホスミシンドライシロップの規格を変更してもらったものの、あせりから思い違いををしてしまった…

■作成日 2018/2/28 ■更新日 2018/5/8

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は、面薬局に勤務する30歳代の薬剤師です。調剤歴は10年弱ありますが、今の薬局での勤務経験は3年足らずです。
勤務する薬局は商店街にある面薬局で、幼児から高齢者まで幅広い年齢層の患者さんが来局します。
薬剤師はたいてい二人いるのですが、忙しい時間帯や休憩時間などは監査を調剤者が行ってしまうことも多いです。

 

今回の過誤は、患者さんが集中する午前中に起きてしまいました。

 

患者さんは7歳で体重が約24kgの男の子でした。
お母さんといっしょに来局したのですが、ぐったりした様子でとてもつらそうでした。
主訴は下痢・腹痛でどうやら胃腸風邪のようでした。

 

処方されている薬剤のうち、ホスミシンドライシロップ200のみが在庫がなく、規格違いのホスミシンドライシロップ400なら在庫があったので、処方元の小児科に疑義照会を行い、規格を変更してもらいました。

 

私は「これで薬を全て渡せる」とほっとしたのですが、疑義照会に手間取って調子の悪い患者さんをだいぶ待たせてしまったというあせりからあわてて調剤を行いました。
他の薬剤はすでにもう一人の薬剤師が調剤を行ってくれていたので、ホスミシンドライシロップ400だけを計量・分包し、患者さんのお母さんに投薬しました。

 

しかしこの時、私は思い違いをしていて処方せんに記載されている半分の力価で調剤をしていたのです。

 

他の薬剤師の監査を待てば、あるいはレセコンへの入力内容をしっかり確認していたら、今回の過誤は防ぐことができたはず…と思うと非常に残念です。


7日後の棚卸実施時に過誤が発覚。しかし患者さんはすでに薬を飲みきっていた…

調剤過誤が明らかとなったのは、一週間後の棚卸の時でした。
ホスミシンドライシロップ400の在庫が15gも多かったのです。

 

前回の棚卸から今回の棚卸の間にホスミシンドライシロップ400が処方されたのは、私が担当した1回だけでした。

 

そこで、散剤の監査ジャーナルの履歴をプリントアウトして確認すると、本来ホスミシンドライシロップ400が30g計量されているはずなのに、15gしか計量されていないことがわかったのです。

 

もともとの処方は

 

  • ホスミシンドライシロップ200 2400mg力価 1日3回毎食後 5日分

 

だったのですが、処方変更で

 

  • ホスミシンドライシロップ400 2400mg力価 1日3回5日分

 

つまりホスミシンドライシロップ400を1日6g✕5日分なので30g計量しなければならなかったのです。
しかし、私は15gしか計量しておらず、在庫が15gずれていたのです。

 

私はすぐに処方元の医師に連絡し、力価不足で薬剤を交付してしまったことを伝えました。
医師からは「症状が改善していないようなら再受診するよう伝えるように」との指示がされたので、指示通り患者さん宅に連絡をしました。

 

電話に出たのは薬を受け取った患者さんのお母さんでした。
そこでまず謝罪し、先日渡した薬の量が少なすぎたこと、医師からは症状が改善していないようなら再受診するよう指示が出ていることを伝えてました。

 

お母さんによると薬は全て飲みきっているし患者さんの症状はすでに回復しているということで、再受診はしないとのことでした。

 

また薬の量が間違っていたことに関しては、大きなクレームはありませんでした。
しかし、患者さんの具合によっては薬の効果が不十分で症状が悪化する可能性もあったわけです。

 

あのつらそうな状態を思い出すと、本当に申し訳ない思いでいっぱいです。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.どんなに忙しくても、自己監査はしない

 

今回の処方は忙しい時間に持ち込まれた処方だった上に、疑義照会に手間取ってしまったので私自身に非常にあせりがありました。

 

また、私が一人の患者さんにかかりっきりだったためにいつも以上に薬局が混み合ってしまい、もうひとりの薬剤師がほとんど一人で調剤・監査・服薬指導を行っているという状態でした。

 

そんな状態で私が調剤したホスミシンドライシロップの監査をするように頼むのは非常に心苦しく、また具合の悪い患者さんの待ち時間が長くなるもの良くないと思い、自己監査を行ってしまいました。

 

しかし、自分の気持ちに余裕がない時には過誤が起こりやすいものです。
こういう時こそ複数人体制でチェックする必要があるとあらためて思いました。

 

薬局が混み合っていること、患者さんを待たせることは薬剤師としては本当につらい状況なのですが、だからといって過誤を出していいわけではありません。混雑時には患者さんに声をかけて理解を求めるとともに、今まで以上にしっかり監査をしようと思いました。

 

調剤過誤防止策2.疑義照会で処方内容が変更になったら、変更内容も複数人体制でチェックする。力価表示のものは計量すべき数量を単位を付けて処方せんコピーに書き込む

 

今回は、疑義照会でホスミシンドライシロップの規格が変更になりました。
そのような時は、変更された処方内容に問題がないか、規格変更後の用量が間違っていないかを第三者の眼で監査することが必要だったと思います。

 

特に力価表示されることの多い散剤や水剤は、計算ミスで患者さんに重篤な副作用が起こる可能性があります。

 

力価だけでなく、実際に計量する薬剤の量も単位(gやmL)をつけて処方せんのコピーに書き込み、1日量と全計量数を他の薬剤師にチェックしてもらうべきだと思いました。

 

調剤過誤防止策3.計量すべき量を計算過程も含めて処方せんのコピーに記載をする

 

今回の過誤は、私のメモ書きにも問題があると思いました。

 

私は

 

  • ホスミシンドライシロップ200 2400mg力価 1日3回毎食後 5日分

 

と記載されている処方せんのコピーに「12」、すなわちホスミシンドライシロップ200が1日あたり12g必要というメモをしました。

 

ホスミシンドラシロップの規格が200から400 に変われば1日量は半分の6gになるのですが、疑義照会に時間がかかったことや薬局が混雑していることで集中力を欠いてしまい、なぜか「12」という数字だけが印象に残っていたために、1日あたりの力価を1200mg力価で計算してしまったのです。

 

そのために患者さんに交付する薬剤の量を誤ってしまい、1日量3gを分3で分包してしまいました。

 

このようなミスを防ぐためには、計算過程も含めて処方せんのコピーに記録を残すのが良いと思います。
今回の場合であれば、まず処方変更前のホスミシンドラシロップ200については、

 

  • 2400mg力価÷200mg力価=12g/日 12g/日✕5日分=60g

 

という感じになります。
ホスミシンドラシロップの規格が400に変更された後には、上記の計算式を二重線などで消して、あらためて

 

  • 2400mg力価÷400mg力価=6g/日 6g/日✕5日分=30g

 

というような記録をすべきでした。
変更前の記録を確実に削除して気持ちをリセットした後に計算過程も含めて記録をすれば、今回のような過誤は起きにくくなると思います。

 

計算過程が残っていれば、万が一間違えた場合でもどこでどのようなミスがあったのかがわかりますし、今後の業務改善につなげることもできます。

 

確かに、忙しい時間にこのような作業を行うことは面倒ですしストレスもたまります。
しかし、面倒だからといって簡単にできる作業を省略し、それが原因で過誤が起きてしまっては元も子もありません。

 

これからは、計算過程も含めて記録を残すようにしようと思いました。

 

調剤過誤防止策4.薬剤の常用量をわかるようにしておく

 

よく処方される薬剤であれば、患者さんの体重に対して薬剤の量が常用量より多すぎたり少なすぎたりすれば計量時や監査時に気づくものです。

 

しかし、私達の薬局ではホスミシンドライシロップ400を在庫しているものの処方回数が少なく、私は常用量をしっかり把握していませんでした。
このことも過誤の原因だったかもしれません。

 

ホスミシンドライシロップの1日の常用量は40~120mg力価/kgです。
今回の患者さんの体重は約24kgだったので、1日の常用量は960~2880mg力価、ホスミシンドライシロップ400であれば2.4~7.2gが1日量となります。

 

確かに誤ってお渡しした3gであっても常用量の範囲内ですが、感覚としては少し少なめです。
しかし、ホスミシンドライシロップの処方がまれであるために体重に対して私が計量した薬剤量が適切か否かという判断が十分にできず、そのまま調剤・監査・投薬を行ってしまいました。

 

在庫している薬剤の常用量は一覧表にして薬剤の棚においてあるのですが、忙しい時に一覧表をいちいち確認して計量・監査を行う余裕はありません。

 

そこで、今回の過誤をきっかけに常用量を薬剤ごとにカードにして、散剤ボトルにつけておくことにしました
ボトルにカードがついていると計量時に邪魔になりますが、過誤をおこすよりは良いと思います。

 

調剤過誤防止策5.監査ジャーナルも用いてレセコン入力内容と食い違いがないかを確認する

 

今回はレセコン入力に間違いがなかったので、レセコン入力の内容もしっかり確認しておけば良かったと後悔しました。

 

散剤は計量時に監査ジャーナルに記録がされます。
いつもは監査ジャーナルを処方せんのコピーに貼り付けるだけなのですが、もっとしっかり監査や薬歴記入時のチェックに利用すべきだと考えました。

 

今回は私の思い込み調剤でさらに監査を私自身が行っているので、監査時に過誤を見つけることは難しかったと思います。

 

しかし、薬歴記入時あるいは事務さんの入力チェック時に、落ち着いて監査ジャーナルの内容とレセコン入力の内容を見比べていたら、計量ミスがあったことに気がついた可能性があります。

 

事後監査で過誤が見つかっても確かに手遅れかもしれませんが、今回のように患者さんが薬を飲みきってしまってから過誤が発覚するより良いと思います。

 

せっかく監査ジャーナルで客観的な記録を残しているのだから、これからはこれをもっと利用して過誤を可能な限り早く見つける努力をしたいと思います。

 

調剤過誤防止策6.複数の規格がある薬剤はホスミシンドライシロップだけではない

 

今回はホスミシンドライシロップの規格変更に伴う過誤でしたが、複数の規格がある散剤・水剤は他にもあります。

 

例えば、エリスロシンは「エリスロシンドライシロップ10%」「エリスロシンドライシロップW20%」「エリスロシンW顆粒20%」の3規格があります。アスベリンは散剤が2規格あり「アスベリン散10%」「アスベリンドライシロップ2%」、さらに水剤が2規格あり「アスベリンシロップ0.5%」「アスベリンシロップ「調剤用」2%」となっています。

 

コデインリン酸塩やジヒドロコデインリン酸塩は様々なメーカーから発売されていますが、「散1%」と麻薬である「散10%」「原末」があります。

 

他にも、ガスター散、カロナール細粒、デパケン細粒、ドグマチール細粒など多くの散剤に規格違いがあります。

 

錠剤は刻印やヒートなどで視覚的に監査ができることが多いですが、散剤や水剤は計量して混合してしまうと監査が難しくなってしまいます。

 

監査ジャーナルなどの記録があっても、今回のように思い込み調剤や自己監査では過誤の発見ができない可能性があります。
そのため、複数の規格がある散剤・水剤の調剤は特に注意が必要だと思います。

 

特に異動や応援などで普段勤務していない薬局で業務を行う場合は、いつも使っている薬剤と処方される薬剤・薬局においてある薬剤の規格が異なることがあります。

 

それに気づかず調剤を行ってしまうと、患者さんに重大な健康被害が生じる可能性があります。慣れていない薬局での業務ではもちろん、いつも勤務している薬局であっても規格の確認は注意して行う必要があると考えます。

 

同様のミスが目薬や散剤の分包品、外用剤でも起こる可能性があると思います。

 

例えば、クラビット点眼液やヒアレイン点眼液には規格が2種類あります(それぞれ0.5%と1.5%、0.1%と0.3%)。サンピロ点眼液は0.5%、1%、2%、3%、4%と5種類も規格違いがあります。

 

散剤の分包品の例としては、アローゼン顆粒(0.5gと1.0gの2規格)、マーズレンS配合顆粒(0.5gと0.67gの2規格)などがあります。

 

外用剤の例では、モーラス(パップ30mg、パップ60mg、パップXR120mg、パップXR 240mg、テープ20mg、テープL40mgの6規格)などがあります。

 

成分が同じでも、濃度が違えば当然別の薬です。
患者さんのご負担金も変わってきます。

 

今回過誤を出してしまったホスミシンドライシロップだけでなく、他の薬剤でも同様の過誤が生じる可能性があることを肝に銘じて、今後も過誤のない安全な調剤をめざしたいと思います。

 

 

参考資料

 

日経メディカル ホスミシンドライシロップ200
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/61/6135001R1025.html

 

日経メディカル ホスミシンドライシロップ400
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/61/6135001R2110.html

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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