週1回服用のボナロン錠35mgを患者さんが連日服用!!薬が変わって用法が変わったことをしっかり説明したつもりだったのに、患者さんには何も伝わっていなかった…
■作成日 2018/2/28 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は、公立病院の門前薬局に勤務する50歳代前半のパート薬剤師です。パートとはいえ9時~17時までフルタイムに近い時間で働いていますし、調剤薬局での勤務歴は20年を超えます。患者さんとの関係も非常に良好で、指名が来ることもたびたびあります。
ただ、話好きなので仲の良い患者さんへの服薬指導が長くなりがちです。また若干早口なので患者さんに聞き返されることもたびたびあります。気をつけているつもりなのですが、話がはずむとつい早口になってしまうのです。
しかし、そんな私の「癖」がアダとなり、患者さんが週1回の薬を連日服用してしまうという過誤が起こりました。
「薬が全然足りない」と患者さんが来局して誤服用が発覚
その患者さんは60歳代の女性で、薬局が比較的すいている木曜日の午後に来局されました。この方は今までボナロン錠5mgが処方されていた方で、服薬コンプライアンスは非常に良好だったのですが、病院の採用薬が変わったために規格違いのボナロン錠35mgが初めて処方されたのでした。
もちろん、私は「お薬の内容が変更になりました。今まで処方されていたボナロン錠5mgと成分は同じですが、1錠あたりの用量が多い35mgというお薬が処方されました。」「今まで処方されていたボナロン錠5mgと違って、1週間に1回飲めば良いお薬です。」と薬の内容が変わったことや飲み方が今までとは全く違うことを説明しました。しかし、以前からよく私が服薬指導を担当していた患者さんであったことから世間話で盛り上がってしまい、薬局がすいていたこともあってかなり長い時間話しこんでしまったのです。ひとしきり話をした後、患者さんはお帰りになったのですが、関係のない話が長すぎたためか最初にお話した薬の変更内容などはすっかり忘れてしまっていたようです。
そしてそれから1週間もしないうちに「薬が全然足りない」と言って、患者さんが再来局されたのです。
患者さんによると、受診は約1ヶ月後なのにもう薬がなくなってしまったというのです。処方された薬がボナロン錠35mgであること、また4週間分処方されていたことははっきり覚えていたので、私はすぐに誤服用を疑いました。そして患者さんに毎日服用していたかどうかを確認したところ、思った通り「いつも通り毎朝飲んでいた。」という返事が返ってきたのです。
私の服薬指導が十分でなく、また他の話で盛り上がってしまったために「薬の服用方法が変更になった」という重要部分が患者さんの記憶から抜け落ちてしまったのでしょう。
患者さんに、服用方法が前回から変更になっており間違った飲み方をしていたということを伝えると「え?そうだったの?」と大変驚いていました。薬の形が変わったことや台紙付きになったことには当然のことながら気づいていたそうですが、「ボナロン」と書いてあったので今までと全く同じ薬だと思っていたそうです。
患者さんにはすぐに受診をしていただき、処方医にも連絡をしました。
患者さんに体調変化や検査値異常はみられなかったため、医師からは特に注意はありませんでした。しかし、管理薬剤師から「関係のない話はほどほどにしておいてください。今後はしっかり服薬指導に集中するように気をつけて下さいね。特に重要部分はゆっくり、念押ししながら行って下さい。」と厳しく注意を受けました。
私自身、話が長いことや早口なことは十分自覚していますし、今回はそれが原因で患者さんの誤服用を招いたことは否定できませんので、自分の行動を深く反省しました。今回はたまたま健康被害が発生しなかったので事なきを得ましたが、今後は同じことが起きないよう自分を律しなければ、とも思いました。
なお、患者さんからはおしかりはなく、逆に「ごめんなさいね。私がうっかりしていて…。ちゃんと薬の台紙にも書いてあったのに飲み間違えるなんて、どうかしているわね。」と謝られてしまいました。私のミスなのに患者さんに気をつかわせてしまい、情けない気持ちで一杯になりました。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回は連日服用のボナロン錠5mgから週1回服用のボナロン錠35mgへの処方変更がありました。
しかし、異なる規格・異なる用法であっても患者さんにしてみれば「ボナロン錠」であることは変わりありません。
薬剤師がしっかり説明をしても、ついうっかり今まで通り連日服用してしまう可能性はあるでしょう。ましてや、薬以外の話で盛り上がってしまったら服用方法の変更など忘れてしまうかもしれません。
実際、患者さんはボナロン錠35mgをボナロン錠5mgと同じように連日服用してしまったのですから、もっとポイントをおさえて服用方法の変更をしっかり患者さんに説明すべきでした。
患者さんとの信頼関係を構築するために、薬以外の話をするのは大切なことだと思っています。だからといって薬の説明がおざなりになることは許されません。話が終わってお帰りいただく前に、再度変更点を念押しして伝えるべきでした。
また、ボナロン錠35mgには台紙が添付されているので、これをもっと活用すべきでした。
服薬指導時に患者さんに服用日を決めてもらい、「服用曜日」欄にチェックを入れて「服用日」を具体的に記入すべきでした。
もっとも、台紙に毎日飲む薬ではない旨が記載されているにも関わらず患者さんは連日服用していたわけですから、台紙に服用日などを記載しても誤服用は十分に防げない可能性はあります。
そこで、薬袋にも用法をしっかり記載する必要があると考えました。
今回の場合、薬袋には「1日1回起床時1錠服用 4日分」とだけ記載されていました。これだけでは連日服用なのか週1回服用なのか患者さんに伝わらないでしょう。
ましてや薬を今まで連日服用していた患者さんならば、誤って毎日飲んでしまう可能性は高いでしょう。
誤服用を防ぐため、薬袋にも具体的な服用曜日・服用日の記入は必須だと思います。記入のタイミングにも工夫が必要だと思います。服用曜日などを調剤室内で記入するのではなく、患者さんの服薬コンプライアンスを確認しながら、投薬台で「服用曜日・服用日」を薬袋に記入するのが有効だと考えます。
台紙にも薬袋にも曜日や日付を記入するのは確かに手間がかかります。
しかし、薬袋を捨ててしまう方もいますし、お薬カレンダーに薬をセットするために薬の台紙を切ったりはずしたりしてしまう患者さんも少なからずいます。
そのため、少しでも患者さんの印象に残る方法で用法を伝えるべきであると考えます。
投薬後の服薬管理も重要であると考えます。
薬歴に服用曜日・服用予定日を記録して次回来局時にコンプライアンスをチェックすれば、誤服用や飲み忘れの有無が確認できます。
記録があいまいだと患者さんに何度も服薬日を確認することになってしまうので、毎回「服用曜日・服用予定日」を薬歴に記載し、次回の投薬に備えると良いと思います。
今回のケースでは患者さんが薬を飲み過ぎてしまっていましたが、飲み忘れ時にどうすれば良いかもしっかり指導するべきでしょう。
ボナロン錠35mgは飲み忘れたら次の日以降に服用しても良い薬剤ですが、リウマトレックスカプセルのように決められた曜日以外は飲んではいけない薬剤もあります。
しかし、患者さんにしてみればどちらも同じ「決められた曜日に飲む薬」なので、飲み忘れ時の対応を薬剤ごとに理解していないと副作用が生じる可能性があります。
決められた日、あるいは決められた曜日に飲む薬がある場合には、初回だけでなく定期的に飲み忘れ時の対応を患者さんに伝え、誤服用を防止する措置をとるべきであると考えます。
服用日や使用日に気をつけなくてはならない薬剤は、ボナロン錠35mg以外にもたくさんあります。
ボナロン錠とおなじビスホスホネート系薬剤は、連日服用のものの他に週1回服用のもの、月に1回(4週に1回)服用のものがあります。ビスホスホネート系薬剤は一度に2錠分を飲まない限り、若干服用日がずれても大丈夫です。
血糖降下剤であるDPP-4阻害薬の中にも、週1回服用のものが発売されています。こちらの薬剤も、一度に2錠分を飲まない限り若干服用日がずれても大丈夫です。
一方で、飲み方が厳しく決まっている薬剤もあります。
リウマトレックスカプセルは、決められた曜日・決められた時間に、決められた量だけ服用しなくてはなりません。飲み忘れた場合には、その回は飲まないでおいて次の決められた時間に決められた量だけを飲まなくてはなりません。
また、抗がん剤も服薬スケジュールが厳しく決められています。抗がん剤を交付する場合には、服薬日だけでなく休薬日も薬袋などに記入し、残薬があっても休薬日には服用しないよう説明する必要があります。
なお、投薬スケジュールは医師や患者さんの予定・検査結果によって変更になる可能性が常にあります。念のため投薬スケジュールは毎回確認し、不明点があるようなら疑義照会をして事故を防止する必要があります。
その他、チャンピックス錠やオテズラ錠など、徐々にドーズアップが必要なものも飲み方をしっかり患者さんに伝える必要があります。
スタート用パッケージを使っていても、飲む順番を患者さんが正しく理解していないと誤服用の可能性があります。台紙に服用日を記入しつつ用法も念押ししながら伝えると良いと思います。
さらに、自己注射剤として交付される薬剤にも投与間隔に注意が必要なものがあります。
ビデュリオンなど2型糖尿病に使用される週1回投与型の注射剤は、次の注射日が近い場合には使ってはいけないことになっています。
また、関節リウマチやクローン病他様々な疾患に適応のあるヒュミラは、打ち忘れたら気がついた時に1回分を打っていいものの、その後は2 週間に1 回の注射となるよう次の注射を行わなくてはなりません。
上記の薬剤以外にも服用日・使用日に注意が必要な薬剤はいくつもあります。
これらのような薬剤を交付する際には、服用(使用)予定日を患者さんと一緒に確認し、薬剤に添付されている台紙だけでなく薬袋にも日付を書き込むべきでしょう。
抗がん剤など休薬日のあるものは、休薬日も合わせて記載する必要があります。
あわせて薬歴にも記録を残し、コンプライアンス(飲み忘れだけではなく飲み過ぎ、休薬日を守っているかどうか)を毎回確認すべきです。
こういった作業を行うことになると、薬歴記入の負担が増えますし服薬指導に時間がかかるので面倒かもしれません。しかし、誤服用を防ぎ患者さんの健康被害を未然に防ぐのには有効な手段の一つだと考えます。
今回の場合、病院の採用薬が変わったために医師への処方提案は行いませんでしたが、可能ならば以前のボナロン錠5mgへ処方を戻してもらうという方法もありだったのでは?と思います。
以前はしっかり薬を飲めていたのに、用法の違う薬剤に変更になってしまったために服薬コンプライアンスが悪化するということはよくあることです。
病院の都合や医師の治療方針、患者さんの負担などを考えると処方提案は安易にできませんが、誤服用や拒薬があってそれが患者さんの健康を損ねる可能性があるのならば、変更前の処方に戻してもらったり、患者さんのライフスタイルなどを考慮しながら服用しやすい薬剤への処方変更を医師に提案するのも良いと思います。
処方変更の提案などは代替薬のない薬剤についてはなかなかできないものですが、処方の変更(薬剤の変更だけでなく用法・用量の変更も含めて)によって誤服用などが生じている場合には、その旨だけでも医師に伝えるべきであると考えます。
患者さんの中には、医師に服薬状況を正直に伝えられない方も少なからずいらっしゃいます。患者さんの服薬状況や誤服用・拒薬を生じやすい用法・用量などを医師に伝えるのもまた、薬剤師の仕事であると考えます。
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