応援で入った一人薬剤師の薬局で調剤過誤!やっと探し当てて交付した薬剤は規格違いのものだった…

■作成日 2018/2/28 ■更新日 2018/5/8

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は大手チェーン薬局のエリアマネージャーです。エリアマネージャーと言っても薬剤師ですから、薬剤師が欠勤したり人手が足りない場合には該当薬局へ応援に入り調剤業務を行っています。

 

調剤経験は20年近くあり、エリアマネージャーという立場上、業務はそつなくこなしているつもりです。しかし、慣れない薬局で慣れない処方を扱うのはいつも非常に緊張します。

 

先日、一人薬剤師の薬局で薬剤師が急病で入院してしまい、しばらくの間その店舗に常駐することとなりました。この薬局は私の自宅から車で1時間もかかるので、毎日応援に行くのは正直なところ体力的に厳しいと感じていました。

 

応援先の薬局は一日の処方せん枚数が10~25枚程度で、処方せんの8割が薬局から車で30分程のところにある大病院からのものでした。「処方せんをFAXで送っておくと待たずに薬をもらえる」ということがよく周知されており、多くの患者さんがFAXを送ってくれるという状況でした。

 

逆に言えば処方せんのFAXが届いてから少なくとも30分の余裕があるわけで、在庫に不足がなければストレスなく調剤業務を行える薬局でした。

 

もっとも残りの2割の処方せんは、ほとんどが持ち込みです。他県の大病院から近隣の小さな医院まで様々な診療科の処方せんを幅広く受け付けていたので、規模の割に在庫の種類が多い薬局でした。

 

また、入院した薬剤師が2年近く無欠勤であったため、私はその薬局に応援に行ったことがほとんどなく、在庫をあまり把握していませんでした。

 

さらに田舎のせいか、いつもと違う薬剤師が対応すると人見知りをして話をしてくれない患者さんが多く、「服薬指導のやりづらい薬局」というのが本音でした。

 

そんなあまり馴染みのない薬局で、私は患者さんに規格違いの坐剤を渡してしまうという過誤を出してしまいました。

 

夕方、そろそろ受付終了という時刻に、一組のご夫婦がお子さんを抱っこしながら処方せんを持ってやってきました。処方元は薬局から車で2時間近くかかる県内の小児科病院で、FAX送信はされていませんでした。

 

患者さんは熱性けいれんの既往歴のある3歳の女の子でした。ご両親によると「残薬が少なくなったので早めに薬を処方してもらった」ということで、エスクレ坐剤が5回分処方されていました。今までに何度か処方せんを受け付けた履歴がありエスクレ坐剤の交付歴もあることから、在庫はあるのだろうと思い私は調剤業務に取り掛かりました。

 

ところが、エスクレ坐剤の保管場所がわからないのです。どこかにあるはず…と、事務さんと一緒に右往左往しながら調剤室内を探し回り、やっと冷蔵庫の中にあるのを見つけました。私は「よかった」とほっと胸をなでおろし、投薬の準備をしました。

 

服薬指導時に患者さんのご両親と一緒に薬剤を確認し、保管方法などを念のため説明したのですが、「いつももらっているお薬だからわかっていますよ。娘の状態を見ながら気をつけて使っているから大丈夫ですよ。」と言うだけで、それ以上の話はさせてもらえない雰囲気でした。

 

正直「またか。どうしてこの薬局に来る人たちは僕だと会話をしてくれないんだ!」と思いました。しかし、受診でお子さんが大変疲れてしまっており、ご両親が早く帰りたがっているのは明らかでした。また、私自身も閉店業務を早く済ませて家へ帰りたい気持ちがあり、それ以上特別な指導もせず、薬剤を渡してしまいました。

 

今思えば、この時少し強引でもしっかり服薬指導をし、薬剤名や規格までしっかりお伝えするべきでした。


規格の違う坐剤が薬袋入っていることに患者家族が気づいて過誤発覚

しかし数日後、ご両親がまた処方せんを持って来局されたのです。ご両親によると「先日、医師にエスクレ坐剤500mgを処方してくれるようにお願いしたのに、薬袋に入っていたのはエスクレ坐剤250mgだった。医師に言ったら「あれ?処方を間違えたかな?」と言いながら処方せんを書いてくれた。今回はちゃんと500mgが処方されていると思う。」とのことでした。

 

私は血の気が引きました。

 

事務さんにお願いして前回の処方せんを出してもらったところ、そこには「エスクレ坐剤500mg 1回1個 5回分」と書いてありました。レセコン入力は正しく行われており、入力に問題がなかったこともわかりました。

 

そこで理論在庫を調べたのですが、「エスクレ坐剤250mg:23個」「エスクレ坐剤500mg:15個」と表示されたのです。また出庫履歴も同時に確認し、処方されているのはその患者さんのみであることも判明しました。

 

でも、私の記憶では冷蔵庫にあったエスクレ坐剤は一種だけだったはずです。

 

おかしい、と思いつつ冷蔵庫の中を再度くまなく確認したところ、冷蔵庫の1段目に250mgが、冷蔵庫の2段目に500mgが置いてあったのです。そしてどちらの箱も規格部分に赤丸が打たれており「規格違い注意!!」との書き込みがありました。前回もこの書き込みは見たはずなのですが、慌てて箱を開けたせいか全く見た覚えがありませんでした。

 

絶望的な思いを抱えながら箱を開けて在庫を確認すると、250mgは18個しかなく、500mgは20個ありました。私が処方と異なる規格のエスクレ坐剤を渡してしまったのは、明らかでした。

 

すぐさま患者さんのご両親に謝罪し、前回処方分と今回処方分のエスクレ坐剤500mg計10個をお渡ししようとしたのですが「同じのがたくさんあっても困るから」と5個しか受け取ってもらえませんでした。

 

処方元の医師にも報告したのですが「やっぱり前回は500mgだったよね~。ま、患者さんに健康被害はなかったみたいだからいいよ。次から気をつけてね。」と言われ特にお咎めはありませんでした。しかし私は、薬局のミスの可能性を指摘せず黙って処方せんを書いてくれた医師に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

 

幸い、薬を管理されているご両親が規格違いに気が付き誤投与はなかったのですが、もし初めて使う薬だったら規格違いに気づかなかったかもしれない…と思い、改めて慣れない薬局での業務の難しさを感じました。

 

なお、常勤の薬剤師になぜエスクレ坐剤の両規格をわざわざ違う段においていたのかを尋ねたところ「外箱の外観が非常に似ていて大きさもほぼ同じなので、重ねたり横においたりすると同じ薬だと思いこみピッキングしてしまう可能性がある。

 

また、多くの薬剤は規格が異なれば包装などの色や模様が異なることが多いのでピッキング時に違う薬だと気づくが、エスクレ坐剤の2規格はPTP包装も包装されている薬剤自体も見た目が酷似しているので、間違えてピッキングすることがないようあえて違う段に置いていた。」との回答が返ってきました。

 

確かに勤務しているのが常任の薬剤師のみならば、これで過誤は防止できたでしょう。

 

しかし、応援に入った薬剤師が過誤を出すようでは十分な過誤防止策とはいえません。誰が調剤しても過誤を出さないシステムの構築が必要である、と強く思いました。

 

過誤防止策を施したはずなのに、再度調剤ミス!そして患者さんは来局しなくなった

 

過誤発覚後、私はエスクレ坐剤の2規格の配置を変えました。両剤をわざと横に並べて「規格違いあり」の札を外箱に貼り付けたのです。札はあえて規格部分に貼り、札をはがさなければ規格を確認できないようにしておきました。

 

このようにすれば、規格違いがあることはわかるし、札をはがさなければ規格の確認ができないわけですから、間違いなく処方せんと規格を照らし合わせて確認することになるでしょう。

 

これで大丈夫と思ったのですが、後日また調剤ミスが生じたのです。

 

その日は私が会議で不在となるため、調剤歴が半年程度の若手薬剤師を二人、薬局に配置していました。一人ではないし、互いに監査しあうから大丈夫と思ったのですが、考えが甘かったようです。

 

前回の調剤過誤を目の当たりにしていた事務さんがたまたま不在の時間に、先日の患者さんのご両親がいつものように処方せんを持って来局されたそうです。二人の薬剤師は私と同じように薬剤を探し回り、冷蔵庫のエスクレ坐剤を見つけたそうです。そして私の狙い通り「規格違いあり」の札を目にしたのですが、二つある箱の外観がほとんど同じであることから二つが同じ規格だと思い込み、使用期限の短い方の箱から薬剤を取り出し交付しようとしたそうです。

 

しかし、服薬指導時に患者さんのご両親に薬剤の規格が間違っていることを指摘され、そこで調剤ミスに気がついたそうです。あわてて冷蔵庫に戻り、正しい規格の薬剤を探し出して渡したそうですが、「こういったことが続くと、ちょっと任せられないわね。子供の薬だし…。」と残念そうに言われたとのことでした。

 

その後、患者さんとそのご家族は処方せんを持ってきてくれなくなりました。おそらくかかりつけ薬局を変えたのでしょう。残念ですが、仕方がありません。

 

これは、二度目のミスを防ぐことのできなかった私の責任と言えるでしょう。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.悪条件が重なっても監査はしっかりと

 

今回の過誤の最大の原因は、慣れていない薬局で慣れていない薬が処方されたことで焦ってしまったことにあると思います。

 

特に今回のケースでは、薬剤の保管場所がわからず薬局内を探し回り患者さんたちをお待たせしてしまったこと、また受付終了間際で閉店業務が気にかかっていたことなどの要因も重なり、過誤を誘発する悪条件がそろっていました。

 

そんな悪条件が重なっている時こそ落ち着いて調剤に当たらなければならないはずですが、それが全くできていませんでした。

 

このような時に過誤を回避するには、調剤時に薬剤名を声に出してしっかり読み上げたり、指差し確認しながらピッキング・監査をするべきでしょう。

 

また一人薬剤師の薬局では自己監査になりがちですが、今回のような思い込みによる過誤は自己監査では発見しにくいです。そこで、事務さんと一緒に薬剤名・規格を声に出して監査すると良いと思います。ピッキングの監査システムがある場合には、それを活用することで一人薬剤師でも過誤を未然に防ぐ事ができると考えます。

 

調剤過誤防止策2.必要ならばレセコンで在庫確認を

 

また、レセコン上で在庫確認が簡単にできるにもかかわらず、確認を怠ったことも原因のひとつでしょう。

 

在庫確認時に規格違いの薬剤があることに気がつけば、おそらく今回の過誤は防ぐことができたと思われます。

 

調剤過誤防止策3.誰もがわかりやすい薬剤の配置を

 

薬剤の配置にも工夫が必要だと思いました。

 

今回は、まず常任の薬剤師が過誤を防ぐためにあえて別の場所に規格違いの薬剤を置いていたのですが、それが原因で応援の薬剤師が規格違いの薬剤があることに気づかず、最初の過誤を招いてしまったと言えます。

 

次に、薬剤をわざと横に並べて「規格違いあり」の札を外箱に貼り付けておいたのですが、それでも調剤ミスが生じてしまいました。札はあえて規格部分に貼り、はがさなければ規格を確認できないようにしておいたのですが、規格が視覚的に確認できなかったことが良くなかったと考えます。

 

このように外観が類似している規格違いの薬剤については、「規格違いあり」と注意を促すだけでなく、具体的に「250mgは冷蔵庫1段目左側、500mgは冷蔵庫1段目右側」と両規格の所在を明確に記載しておくのが良いと思われます。

 

調剤過誤防止策4.服薬指導はポイントをおさえて

 

そして、服薬指導時には薬剤の外観だけでなく規格まで患者さんと一緒に確認すべきでした。

 

確かに、お子さんが疲れているようでしたし、いつもと違う薬剤師ということでご家族はあまり話をしたくなかったかもしれません。だからといって服薬指導する側が話をしなくていいというわけではありません。ポイントをおさえてしっかり話をするべきでした。

 

調剤過誤防止策5.入力内容と交付する薬剤が一致していることを確認する

 

さらに、薬歴記入時にも規格違いを交付したことに気づかなかったわけですから、薬歴の利用方法も改善すべきでしょう。

 

今回の場合、入力にはミスがなかったわけですから、服薬指導前に処方せんと入力内容に齟齬がないかだけではなく、入力内容と交付する薬剤との間に齟齬がないかも確認すれば過誤を防ぐことはできたと思われます。

 

調剤過誤防止策6.薬袋に薬剤名を記入

 

今回の過誤・ミスの後、私は薬袋に薬剤名を手書きで記入することにしました。

 

すでに担当エリア内の他の薬局では薬剤名が薬袋に印字されるようにシステムが変更されていたのですが、この薬局は処方せん枚数が少ないので後回しになっていたのです。

 

処方せんを確認しながら薬剤名を記入することで、監査も同時にすることもできます。こうすることで作業量は増えましたが、調剤ミスは確実に減らすことができるようになりました。

 

ただ、今後システムが入れ替えられて薬剤名が薬袋に印字されるようになると、作業量が減るかわりにせっかくの監査の機会が少なくなってしまうことになります。そこで、この薬局についてはシステム変更をしないという選択肢もありではないか?と思うようになりました。

 

 

参考資料

 

日経メディカル エスクレ坐剤「250」
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/11/1123700J1020.html

 

日経メディカル エスクレ坐剤「500」
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/11/1123700J2027.html

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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