ジャヌビア錠50mgを併売品であるグラクティブ錠50mgのジェネリック品だと勘違いして交付してしまう調剤過誤が発生、ピッキングミスと監査ミスが重なって生じた調剤過誤。

■作成日 2018/3/1■更新日 2018/5/8

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は駅の近くにある面薬局に勤務する30歳代の男性薬剤師です。
大学卒業後、ずっと調剤業務を行っているので経験はそれなりにありますが、現在勤務している薬局は異動してまだ1ヶ月なのであまり慣れていません。

 

この薬局の受付処方せん枚数は1日に20~50枚程度で、常勤の薬剤師は2人、事務職員は1人です。近隣の複数の医療機関から発行される処方せんが1日を通じて絶え間なく持ち込まれるので、どの時間も何となく忙しいという感じです。

 

今回の調剤過誤は、いつもよりも処方せん枚数が比較的多めで忙しい日に発生しました。

 

患者さんは40歳代の男性で、糖尿病のお薬がいくつか処方されている方でした。コンプライアンスは良いのですが、営業職で外食が多く、なかなか血糖値が下がらないという恰幅の良い患者さんでした。
グラクティブ錠が処方されるのは今回が2回めで、ジェネリック品があるのならば変更してもらいたいというご希望がありました。

 

ピッキング用に用意された処方せんのコピーには「ジェネリック品希望」の付せんが貼ってあり、ピッキング者もそれに従いピッキングを行っていました。私たちの薬局では、ジェネリック品をピッキングする場合にはピッキングすべき薬剤名を処方せんのコピーに書き込むことになっています。

 

ピッキング者はこのルールに従って書き込みをしながらピッキングをしていたのですが、グラクティブ錠の横に「ジャヌビア錠」という書き込みをして、ジャヌビア錠をピッキングしていました。

 

そして私は処方せんのコピーと書き込みに従い、監査を行いました。そして薬剤に間違いがないことを確認して投薬カウンターに向かいました。

 

私は患者さんのお名前を呼び、ジェネリック品希望であることを確認した上で服薬指導を行いました。一通りの効能効果用法のほか、ジェネリック品に変更可能なものは変更して用意したことを伝えたのですが、患者さんは少し不満な様子でした。「ジェネリックに変更しても、お薬代はあまり安くならないんだね。」とおっしゃるので薬歴を確認したところ、前回は14日分の処方で今回は28日分の処方であることがわかりました。

 

日数が違うので差額のメリットが感じられないのだろうと判断した私は「今回は日数が前回より長めなので、トータルでみるとお薬代が上がったように感じるのかもしれませんね。変更できるものはすべて変更しましたので、大丈夫ですよ。」とお伝えしました。

 

患者さんは「そうか。ま、仕方がないよね。」と言ってお薬を持って帰って行かれました。

 

この時に患者さんの指摘を重く受け止めて変更した薬剤の内容をしっかり確認していれば、今回の調剤過誤は防ぐことができたのかもしれません。今となっては遅いですが、お薬の値段にもしっかり注意を払わなければならないと感じています。


調剤過誤発覚は半月後の棚卸時

調剤過誤が明らかになったのは、半月後の棚卸の時でした。理論在庫と比較して、ジャヌビア錠50mgが28錠少なく、グラクティブ錠50mgが28錠多かったのです。

 

グラクティブ錠もジャヌビア錠も複数の患者さんに交付されていたので追跡調査に時間がかかりましたが、当該患者さんの薬歴に「ジェネリック品希望。今回はジャヌビア錠でお渡し。」という記録が残っていたこと、一方でレセコン入力が「グラクティブ錠」となっていたことから誤交付した患者さんを突き止めることができました。

 

すぐに処方元の医療機関へ連絡したところ、同成分だからまあ特に問題はないでしょうとのことでしたが、併売品やジェネリック品の有無はしっかり把握するよう厳しくお叱りを受けました。

 

そして、併売品に変更する場合には必ず疑義照会をするようにとの指導を受けました。よくよく考えると、この処方せんを発行した医師はジェネリック品のあるものはほとんど一般名で処方するので、なぜ商品名で処方されているのかをしっかり考えるべきでした。

 

その後、患者さんの携帯電話にも連絡し、謝罪とともに、薬情などに掲載されているのは前回処方されたグラクティブ錠となっているが今回お渡ししたのはジャヌビア錠であること、ジャヌビア錠はグラクティブ錠のジェネリック品ではなく併売品であるため値段は同じであること、同成分の薬剤であるため健康被害はおそらくないであろうこと、ただし体調変化があるようなら必ず再受診して欲しいこと、そしてジャヌビア錠もグラクティブ錠もジェネリック品は存在しないことなどを説明しました。

 

患者さんからは特にクレームはありませんでしたが、「それで値段が安くならなかったんだね。納得したよ。」とのお言葉がありました。

 

その後来局された患者さんによると、健康被害は特になく、血糖値も若干下がったとのことでした。しかし、しきりに「もっと安いといいんだけどねぇ。」とぼやいていました。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.併売品とジェネリック品を混同しない

 

今回の調剤過誤は、グラクティブ錠とジャヌビア錠が併売品であることをしっかり把握していなかったことから発生してしまったと考えています。

 

私が異動する前の薬局ではグラクティブ錠しか在庫しておらず、異動して今の薬局で初めてジャヌビア錠をみました。ジェネリック品でも名称が「一般名+メーカー名」になっていない薬剤が時々あるので(カロナールやバイアスピリンなど)、ジャヌビア錠も同様にジェネリック品だけれども商品名で販売されている薬剤だと思いこんでいました。

 

グラクティブ錠は比較的新しい薬剤なので、まだ特許が切れておらずジェネリック品が存在するはずがないということに気がつけばよかったのですが、マーケティングなどにうといため全く気がつきませんでした。

 

加えて、グラクティブの販売メーカーがジェネリック医薬品の製造販売メーカーでないことに気がつけばよかったのですが、メーカーを気にしながら調剤をすることがほとんどないので、残念ながらこちらも気づくことができませんでした。

 

いずれも医薬品に対する勉強不足・注意力不足が原因です。これからはメーカーや卸から送られてくるリーフレットなどにも余裕がある限り目を通していこうと思います。

 

調剤過誤防止策2.監査時にピッキング者の書き込みをうのみにしない

 

そして、ピッキング者が書き込んだ薬剤名をうのみにしてしまったのも良くなかったと思っています。書き込みがあるとそれを読んでしまうものですし、書き込みが間違っていないことを前提に監査をしてしまいがちです。

 

特に忙しいときや知識があいまいなものに関しては、書き込み内容を深く追求せずに監査を行ってしまっている気がします。

 

ピッキングをする上で書き込みをして確認することは大切だとは思います。しかし、監査時には書き込みに頼らないようにして、薬剤のみならず書き込まれた内容も含めてしっかり監査を行わなければならないと痛感しました。

 

調剤過誤防止策3.併売品なのかジェネリック品なのかわからない場合は、電子薬歴の機能を活用したり薬価本で調べて確認をする

 

また、患者さんから値段について指摘されていたにもかかわらず、くわしい薬価を確認せず、患者さんの負担金が高いのは処方日数が長いためであろうと思いこんでしまったことも良くなかったと思っています。

 

私たちの薬局では電子薬歴を使っているので、ジェネリック品のある薬剤については所定の操作を行えば価格の比較ができます。

 

今回の場合は併売品なのでこのような比較はできないのですが、前回の調剤録を表示させて手もとにある今回の調剤録と比較すれば薬剤の薬価差はすぐに確認できます。もしも電子薬歴を使っていなかったとしても、薬価本で調べれば併売品なのかジェネリック品なのかはすぐにわかります。

 

患者さんの疑問に答えるべく薬価差の有無をしっかり調べていれば今回の過誤は生じなかったでしょう。患者さんに薬価差を聞かれることはよくあることなので、これからは手間を惜しまず電子薬歴か薬価本で薬価差をしっかり確認しようと思います。

 

調剤過誤防止策4.薬情に載せる製剤写真は、薬剤だけではなく包装も写っているものにする

 

その他、薬情に載せる製剤写真にも工夫が必要だと思いました。

 

併売品の場合、PTPシートは異なっていても薬剤が非常に似ていることがあります。私たちの薬局では基本的にPTPシートも写っている写真を使っていますが、いくつかは薬剤のみの写真となっています。

 

しかし、薬剤の写真だけでは刻印がよく写ってないことも多いですし、視力の悪い患者さんはよく似た形のほかの薬剤と間違えてしまう可能性があります。そこで、薬情の製剤写真は可能な限り薬剤だけではなく包装も写っているものにすることになりました。

 

今回の場合、レセコンに入力されていたのは処方通りのグラクティブ錠でした。そのため薬情の写真はPTPシートに入っているグラクティブ錠のものでした。

 

グラクティブ錠とジャヌビア錠はPTPシートが全く異なるので、服薬指導時に私が薬情をしっかり確認していたら入力内容と用意したお薬が異なることに気がつくことができたはずでした。にもかかわらず、薬情を使わずに服薬指導を行ってしまったので反省しています。

 

若い患者さんは病識や薬識が高く、コンプライアンスの良い方も多いので「くわしく説明しなくてもきっと大丈夫だろう。」と薬剤師側に油断が生じてしまうこともあります。

 

そのため、コンプライアンスの悪い方にするような説明を省いてしまうことも少なくありません。特に忙しいときには説明を省略しがちです。しかしこれでは今回のような過誤を防ぐことはできません。

 

服薬指導はお薬に関する話をするだけのものではなく、調剤過誤防止に役立つものであることを肝に銘じ、これからはどの患者さんにも薬情を使ってていねいに対応しようと思いました。

 

調剤過誤防止策5.併売品を在庫している場合には、注意を喚起するカードなどを引き出しやケースに貼り付ける

 

私たちの薬局では、今回の調剤過誤をきっかけに併売品のある薬剤については「併売品あり!併売品:○○○」というカードを引き出しや錠剤を保管しているケースに貼り付けることになりました。

 

薬局で在庫している併売品の数は思っていた以上に多く、「ジャヌビア錠」と「グラクティブ錠」、「アムロジン錠」と「ノルバスク錠」、「シングレア」と「キプレス」の各剤形、「コンスタン錠」と「ソラナックス錠」、「ランドセン錠」と「リボトリール錠」、「リカルボン錠」と「ボノテオ錠」などがありました。

 

面薬局であるがゆえに処方元となる医療機関が多く、在庫の種類が多くなってしまうのは仕方のないことだとは思います。しかし、メーカーさんにも思惑があるとは思いますが、調剤過誤のもとになるので販売名を統一して欲しいと心から思いました。

 

調剤過誤防止策6.グラクティブ錠とジャヌビア錠以外にも併売品は多く存在する

 

上記のほかにも併売品は多く存在します。ざっと調べただけで以下のものがありました。

 

  • 「クラリス」と「クラリシッド」
  • 「サワシリン」と「パセトシン」
  • 「イルベタン」と「アバプロ」
  • 「リピディル」と「トライコア」
  • 「オステラック」と「ハイペン」
  • 「ムコソルバン」と「ムコサール」
  • 「ボナロン」と「フォサマック」
  • 「コロネル」と「ポリフル」
  • 「ウリトス」と「ステーブラ」
  • 「サイレース」と「ロヒプノール」
  • 「セルシン」と「ホリゾン」
  • 「レボトミン」と「ヒルナミン」
  • 「コントミン」と「ウィンタミン」
  • 「デジレル」と「レスリン」
  • 「ヒベルナ」と「ピレチア」
  • 「デプロメール」と「ルボックス」
  • 「リフレックス」と「レメロン」
  • 「バランス」と「コントール」

 

などです。

 

これらのほかにも、ジェネリック品で薬価が同じだけれども商品名が異なるもの(例:ロキソニン錠のジェネリック品など)も数多く存在します。

 

ジェネリック品で名称が「一般名+メーカー名」となっているものはすぐにそれとわかるのですが、商品名で販売しているものはジェネリック品かどうかがよくわからないことがあるので本当に困ります。ジェネリック品のみでもいいので、名称の表示方法を統一してほしいと願っています。

 

 

参考資料

 

日経メディカル ジャヌビア錠50mg
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/39/3969010F2030.html

 

日経メディカル グラクティブ錠50mg
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/39/3969010F2022.html

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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