ピタバスタチン錠が初めて処方された患者さんは、シクロスポリンカプセルを服用している患者さん。併用禁忌であることに気づかず、そのまま交付。

■作成日 2018/3/6 ■更新日 2018/5/8

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は30歳代の女性薬剤師です。
調剤薬局勤務歴は10年以上ありますが、新卒で就職してから今日にいたるまでずっと同じ薬局で働いています。
勤務している薬局は総合病院の門前薬局で、毎日100枚前後の処方せんを受け付けています。

 

午後診は予約の患者さんがほとんどなので比較的余裕があるのですが午前中は非常に忙しく、常勤の薬剤師5人と事務職員6人で毎日せわしなく業務を行っています。

 

今回の調剤過誤は、いつものように忙しい午前中に発生しました。

 

患者さんは60歳代の男性で、以前から糖尿病・脂質異常症・高血圧の薬が処方されている方でした。脂質異常症に関してはずっとプラバスタチン錠が処方されていたのですが、なかなか数値が下がらないので今回からピタバスタチン錠に変更となっていました。

 

お薬手帳の記録から、皮膚科のクリニックからシクロスポリンカプセルなどが処方されていることはわかっていたのですが、今回の処方変更はスタチン系薬剤からスタチン系薬剤への変更なのでとくに問題はないだろうと思い、私は監査を行ってそのまま投薬カウンターへ向かいました。

 

服薬指導時に、私は患者さんに今回の処方変更の内容を説明しました。

 

今回初めて処方されるピタバスタチン錠は今まで飲んでいたプラバスタチン錠と同系統のお薬であること、ただし原因不明の筋肉痛やコーラのように色の濃い尿が出たら副作用の初期症状の可能性があるのですぐに受診すること、その他湿疹が生じるなど体調変化があるようなら再受診すること、など一通りの説明を行いました。

 

医師からもしっかり説明があったようで、患者さんへの説明はスムーズに行うことができました。患者さんからは皮膚科のクリニックで処方されているお薬との飲み合わせについて質問がありましたが、「同じ系統のお薬だから大丈夫ですよ。」と答えました。

 

ここでしっかり添付文書を確認していたら、今回の調剤過誤は防ぐことができたのですが…。とても残念です。


調剤過誤発覚は3日後。シクロスポリンカプセルを調剤した薬局からの問い合わせで発覚

3日後、駅前にある皮膚科クリニックの近くにあるA薬局から問い合わせの電話が入りました。
女性薬剤師が少しいらついた様子で、私を指名してきたのです。

 

「3日前の○田さんの処方について教えてください。シクロスポリンカプセルと併用禁忌のピタバスタチン錠が処方されていますが、これは今回が初めての処方なんですよね?処方医に疑義照会はされているのでしょうか?もし疑義照会をされているのならば、医師の回答も含めて内容を教えていただけないでしょうか?」

 

と早口にまくしたてられました。

 

私はあせりながら「少々お待ちください。」と言って保留ボタンを押し、ピタバスタチン錠の添付文書を確認しました。そしてそこで初めて、ピタバスタチン錠とシクロスポリンカプセルが併用禁忌であることを知りました。

 

保留ボタンを解除し、疑義照会をしていないのですぐに医師に確認をとると言ったところ、電話口の薬剤師に「ピタバスタチンの血中濃度が上がって横紋筋融解症になったらどうするんですか!」とひどくしかられてしまいました。

 

もっとも、疑義照会で患者さんを待たせるのは申し訳ないので、この電話のあと帰っていただくからあわてなくて良いと言われました。
ただし、疑義照会の内容を私から患者さんに連絡するのはもちろんのこと、A薬局にも疑義照会結果をフィードバックするよう指示されました。

 

医師へ疑義照会を行ったところ、ピタバスタチン錠は処方削除

 

私は急いで処方医に疑義照会を行いました。
医師からはすぐに連絡がありました。

 

そして、シクロスポリンカプセルを服用しているのならばピタバスタチン錠は処方から削除すること・とはいえコレステロール値が高く治療なしで放置することはできないので以前から服用しているプラバスタチン錠に処方を戻すこと・次からは医師にもお薬手帳を見せるように患者さんに伝えてほしいこと、という回答がありました。

 

そして、併用薬を確認しなかったことは医師のミスでもあるから申し訳なかった、と謝罪の言葉までいただきました。

 

医師からの回答を受けて、私はすぐに患者さんのご自宅に電話をしました。患者さんご本人がすぐに電話に出てくれたので、まず併用禁忌の薬剤が処方されていたのに気づかず、そのままお薬をお渡ししてしまったことについて謝罪しました。

 

そして、医師からの指示でピタバスタチン錠の処方が中止となり、以前から処方されているプラバスタチン錠に処方が変更されたことを伝えました。また、次回からは医師にも薬情やお薬手帳を見せて併用薬をしっかり伝えるようにお願いしました。

 

患者さんによると、「気になる体調変化は今のところない」とのことでした。しかし併用禁忌のお薬が処方・調剤されてしまったことに非常に不安を感じているようで、「他のお薬は大丈夫だろうか?本当に飲んでも良いだろうか?」としきりにおっしゃっていました。

 

他のお薬は併用禁忌ではないことを確認してあるので大丈夫ですよ、と伝えたものの、調剤過誤を出してしまった私が言っても信じてもらえないかもしれないな…とちょっとむなしく感じました。

 

その後、併用禁忌について連絡をくれたA薬局にも電話で連絡をしました。処方変更の内容や、患者さんに体調変化は今のところないことなどを伝えたところ、「良かった…」とホッとした声で言われました。

 

対応してくれた薬剤師によると、A薬局では以前に今回と同様の調剤過誤があり、患者さんが横紋筋融解症で入院してしまったことがあったそうです。その話を聞いて、疑義照会をしていないためにひどくしかられた理由がわかりました。

 

自分の渡したお薬で、ましてや調剤過誤が原因で患者さんが入院してしまうなんて経験は絶対にしたくないものです。併用禁忌であることを連絡してくれた薬剤師に、私はとても感謝しました。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.併用薬は必ず確認する。処方内容が変わった場合には、併用禁忌の有無を確認する。

 

今回の調剤過誤は、処方内容が変更になったにも関わらず、併用薬との飲み合わせをしっかり確認しないまま薬剤を交付してしまったために生じました。

 

服薬指導時には、お薬手帳の有無にかかわらず併用薬を確認しなければなりません。また、初めて処方されるお薬を交付する場合には、新たに処方される薬剤とその他の薬剤との併用の可否を確認しなければなりません。それにもかかわらず、私は確認をおこたってしまいました。

 

今回問題となった処方は、プラバスタチン錠からピタバスタチン錠への変更でした。どちらもスタチン系薬剤であることから、私は安易に併用可であると判断してしまいました。しかし、スタチン系薬剤のうち、ピタバスタチンとロスバスタチンは他のスタチン系薬剤と異なりシクロスポリンカプセルと併用禁忌です。

 

このように同じ系統の薬剤であっても薬剤ごとに併用の可否が異なる場合があるということに気づかなかったのは、私の勉強不足です。

 

また、たとえこれらを知らなかったとしても添付文書を確認すればピタバスタチン錠とシクロスポリンカプセルが併用禁忌であることはすぐにわかるので、私の確認不足、怠慢と言われても仕方がありません。

 

手間を惜しまなければ防ぐことができた調剤過誤なのに…と思うと、後悔しかありません。

 

調剤過誤防止策2.知識のあいまいな薬剤をあつかう場合には、添付文書の内容を調べる。

 

あともう一つ、私自身がシクロスポリンカプセルをあつかったことがなかった、ということも理由としてあげられます。

 

門前の総合病院ではシクロスポリンカプセル(ネオーラルカプセル)を採用しているのですが、シクロスポリンカプセルは院内のみの採用で院外にはシクロスポリンカプセルの処方が来ないのです。

 

私は他の薬局を経験したことがなく、門前の総合病院の処方ばかりあつかっていたので、シクロスポリンカプセルに関する知識がほとんどなかったのです。

 

10年以上も同じ薬局で勤務していると業務には慣れますが、採用薬以外の薬剤については知らず知らずのうちに興味を失っていた気がします。

 

実際、患者さんのお薬手帳をみて「あれ?これ何の薬だろう?」と言うものが時々あります。今まで、そういった薬剤については薬歴の書き込みを確認して「併用可」と判断してしまうことも少なくありませんでした。あとから確認しようとは思うのですが、忙しさにかまけて確認をおこたってしまったことが何度もあります。

 

しかし、知らない薬剤であっても添付文書はインターネットですぐに調べることができます。

 

これからは知識のあいまいな薬剤をあつかう場合には添付文書をしっかり確認し、併用の可否などを自分で調べて、自信を持って患者さんにその内容を伝えたいと思います。

 

なお、門前の総合病院がなぜシクロスポリンカプセルを院外処方にしないのかを院内の薬剤部に聞いたところ、

 

「シクロスポリンカプセルは先発品同士(ネオーラルとサンディミュン)でも生物学的に同等ではない。ジェネリックはネオーラルと生物学的に同等と言われているものが多いようだが、全てを把握しているわけではないので院外で後発品に変更されて患者さんに健康被害があっては困る。そのために処方を院内のみにしている。」

 

との回答がありました。

 

先発品同士であっても生物学的に同等でない薬剤があるということも、薬剤部へ問い合わせるまで私は知りませんでした。

 

このことはネオーラルやサンディミュン、その他のシクロスポリンカプセルの添付文書には記載されているそうですが、手もとにあるピタバスタチン錠の添付文書からは知ることができません。あらためて自分の勉強不足を痛感しました。

 

調剤過誤防止策3.患者さんにお薬手帳をしっかり活用してもらう

 

今回、調剤過誤の被害にあわれた患者さんはいつもお薬手帳を持って来てくださる方でした。そのお陰で、私の犯した調剤過誤をA薬局に気づいてもらうことができました。

 

しかしその一方で、患者さんが医師にもお薬手帳を見せてくれていたらなぁ、と残念に思ったのも事実です。

 

そこでこの調剤過誤のあと、私は患者さん達にお薬手帳の記録を医師にも積極的に見せるようにと勧めるようになりました。患者さんの中には、他科を受診していることがバレると医師からとがめられるのでは?と危惧する方もいらっしゃいます。

 

しかし今ではお薬手帳を持っている方がほとんどですし、お薬手帳から併用薬がわかれば今回のような調剤過誤を医師の処方段階で阻止することができます。患者さんの生命・身体を守る上で非常に有用なツールなのですから、これを活かさないのはもったいないです。

 

これからは病院や診療所でも、お薬手帳を出して併用薬を確認してもらうのが患者さんにとって当たり前のことになると良いと考えています。

 

調剤過誤防止策4.患者さんに「かかりつけ薬局」「かかりつけ薬剤師」制度の利用を勧める

 

さらに、調剤過誤を防ぐために患者さんに「かかりつけ薬局」や「かかりつけ薬剤師」制度を利用してもらうのも良いと考えています。

 

患者さんの服用している薬剤を一元管理できるようになれば、また、担当の薬剤師が決まっていれば、患者さんの服用している薬剤のみならず、病状などもしっかり把握することができるようになります。

 

とくにかかりつけ薬剤師制度を利用してもらえれば患者さんとの距離が近くなりますし、担当となった薬剤師は「自分の患者さんは自分が守る」という責任感が芽生えます。

 

もっとも、患者さんのご負担金が若干高くなりますし、条件付きとは言え、かかりつけ薬剤師はいつでも対応できるようにしなければならないので薬剤師側の負担も少なくありません。

 

また、場合によっては1人の患者さんのために在庫を増やさなくてはならない可能性もあるので、薬局の経営にも影響を及ぼす可能性があります。

 

しかし、調剤過誤を防ぐにはとても有効だと思います。

 

今回、被害にあわれた患者さんにもかかりつけ薬剤師制度はご紹介したのですが、負担金が増えることがネックとなり断られてしまいました。
これからは、患者さんが「負担金が増えても良いからかかりつけ薬剤師に指名したい!」と言われるような薬剤師を目指したいと思っています。

 

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参考資料

 

日経メディカル ピタバスタチンCa錠1mg「EE」
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/21/2189016F1036.html

 

日経メディカル シクロスポリンカプセル10mg「BMD」
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/39/3999004M3080.html

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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