8歳と5歳の兄弟のお薬を渡す際に、お兄ちゃんのお薬の一部を薬袋に入れ忘れ、そのままお渡ししてしまった

■作成日 2018/3/12 ■更新日 2018/5/8

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は総合病院の門前薬局に勤務する30歳代の女性薬剤師です。調剤薬局への勤務歴は10年ほどです。

 

私の勤務しているエリアは病院もクリニックも少なく、総合病院は市に一つしかありません。また小児科は市内に開業している医師が1人しかいないので、入院歴があったり重症だったりする小児患者さんのほとんどが門前の総合病院を受診します。

 

今回、お薬の渡し忘れがあったのは8歳の男の子の患者さんです。喘息で入院したことがあり、いつも5歳の弟と一緒に受診しています。二人を連れてくるのはお母さんなのですが、育児に疲れているのか薬局では子どもたちに話しかけている姿をほとんどみたことがありません。

 

子どもたちはそんなお母さんの様子に慣れているようで、いつも二人でおとなしくキッズコーナーで遊んでいます。そして名前が呼ばれてお母さんが投薬カウンターへ向かうと、お兄ちゃんがおもちゃを片付けて弟に靴を履かせ、待合の椅子に座って服薬指導が終わるのを待っています。

 

今回の処方は2人分で、お兄ちゃんのお薬は1日2回の喘息の定期薬が4週間分・1日3回の風邪薬が1週間分・貼り薬が2週間分、弟のお薬は1日3回の風邪薬と貼り薬がそれぞれ1週間分でした。

 

お母さんから「子どもたちが自分で飲めるようにお薬の色分けをしておいて欲しい。」といつもリクエストがあるので、お兄ちゃんの喘息のお薬は緑のマーカーでラインを2本引き、風邪薬は同じく緑のマーカーでラインを3本引きました。

 

今回は弟にもお薬が出ているので、弟のお薬は黄色のマーカーでラインを3本引きました。

 

なお、私たちの薬局では分包紙に用法と名前を印字しており、必要に応じてひらがなやカタカナで印字を行うこともできるのですが、こちらのお母さんは

 

「弟はまだ字が読めないから名前を印字しても意味がない。」
「名前が印字されているものを捨てると個人情報がもれるから印字はいらない。

 

」ということでかたくなに名前の印字を拒否しており、兄弟でお薬が処方されている時には飲み間違いを防ぐために必ず色分けをするよう希望されていました。

 

調剤されたお薬の監査を終え、投薬カウンターでお名前を呼ぶと、いつもどおりお母さんがけだるそうにやってきました。そしてお薬の説明をしようとした矢先、

 

「あのさー。子どもが薬を飲む時、袋がつながっているとちぎる時に破っちゃうんだよね~。一つずつちぎっておいてくれない?今回だけではなく、これから毎回。」

 

と言われたのです。

 

確かに分包紙は注意してちぎらないと破れやすく、ましてや子どもであれば失敗してしまう可能性は高くなります。

 

そこで私は「承知いたしました。」と言い、調剤室に戻りました。そして分包紙を一包ずつに分けたのですが、「どうしてお母さんが手伝ってあげないのだろう?服薬管理は誰がしているのだろう?」と思いながら作業を行いました。

 

一包ごとに分けた分包紙のラインを確認しながら薬袋に入れ、投薬カウンターに戻ると、お母さんは雑誌を読んでいました。どうやら私が作業をしている間、立ったまま投薬カウンターで雑誌を読んでいたようです。

 

待たせて申し訳ないことをしてしまった、と思い謝罪したのですが、雑誌に夢中なのか全く返事をしてくれません。

 

困ったな、と思いつつそのまま服薬指導を行おうとしたのですが、

 

「あ、もういいから。ちぎったんでしょ?ライン引いてくれた?飲み方ごとに線の本数を変えてくれた?子どもが飲めるならいいよ。」

 

と顔もあげずに言われてしまいました。

 

それでも、と思い

 

「お薬の管理はどなたがされているのですか?」

 

とおそるおそる聞いてみると、

 

「は?子どもが飲めるようにしてくれたんでしょ?じゃぁ管理する必要ないし。」

 

とだけ言うと、振り返りもせずさっさと出口に向かって歩いていってしまいました。待合で待っていた兄弟は、お兄ちゃんが弟の手を引いてあわててお母さんのあとをついていきました。

 

お母さんの面倒な要求と子どもたちの様子に気を取られて気づかなかったのですが、この時私はお兄ちゃんの喘息のお薬を6包薬袋に入れ忘れていたのです。お母さんのペースに惑わされず、しっかり包数まで目の前で確認しておけばよかった…とあとから悔やみました。


お薬の入れ忘れに気がついたのはその日の夕方。電話も通じず住所もわからず、やむを得ず病院へ連絡。しかし個人情報保護のため連絡先は教えてもらえず…。

お薬の入れ忘れに気がついたのは、その日の夕方でした。分包機の近くで印字のない緑のラインが2本引かれた分包紙が6包見つかったのです。それは、お母さんの要望で私が一包ずつにちぎったお兄ちゃんの喘息のお薬でした。

 

当面の間のお薬は患者さんの手もとにありますが、3日分お薬が足りなくなってしまいます。そこで薬歴に記載されていた携帯電話の番号に電話をかけて連絡を試みたのですが、使用されていない番号であるというアナウンスが流れてきました。

 

それならばご自宅までお薬をお届けしようと思い住所を確認したのですが、薬歴に「住所記入拒否」と記載されていたため、行き詰まってしまいました。

 

管理薬剤師に相談し、門前の総合病院に事情を説明して住所を教えてもらおうとしたのですが、当然のことながら

 

「個人情報になりますのでお教えすることはできません。」

 

と言われ、

 

「患者さんのご住所ぐらいしっかり確認しておいてくださいね!」

 

としかられてしまいました。

 

そこで、やむを得ずお薬を保管し、患者さんのご家族がみえたらすぐにお渡しできるように用意しておくことになりました。

 

今回は兄弟とも風邪薬が処方されていたので、ひょっとして定期薬が終わる前に再受診するのでは…と期待していたのですが、患者さんが次に来局したのは残念ながら4週間後でした。

 

4週間後の再来局時にお薬を入れ忘れたことを謝罪。しかしお母さんは子どもを叱責。病院と連携してコンプライアンス改善を目指すことに。

 

4週間後に来局したお母さんはいつものように雑誌を読み、兄弟はキッズコーナーで仲良く遊んでいました。私は調剤を他の薬剤師に任せてお母さんのもとに向かい、前回お兄ちゃんの喘息のお薬が3日分不足していたことをていねいに謝りました。

 

お母さんは私の話を聞くと無言で立ち上がってキッズコーナーへ向かい、お兄ちゃんの手をつかんで

 

「あんた!薬飲んでいなかったんでしょ!また入院だよ!」

 

とすごい剣幕で怒り始めたのです。お兄ちゃんも弟も固まってしまい、泣くことすらできないようでした。

 

しかしお薬を入れ忘れたのは私です。悪いのはお兄ちゃんではありません。
そこで

 

「あの、私の責任です。お子さんをしからないでください。」

 

と言ったところ、

 

「うちの問題だから口出ししないで!」

 

と怒鳴られてしまいました。
それをみていた管理薬剤師が私を下がらせ、結局他の薬剤師が服薬指導を担当することになりました。

 

お母さんは他の薬剤師の服薬指導もあまり聞かず、ずっと子どもをにらみ続けていました。子どもたちは萎縮して、ずっとうつむいていました。服薬指導後に薬剤師が電話番号と住所を尋ねたのですが、「必要ないでしょ!」と今回も教えてもらうことができませんでした。

 

患者さんたちが帰った後、私と今回担当した薬剤師、管理薬剤師の3人で相談をし、事の顛末を処方医に知らせることになりました。

 

お薬の管理を子どもにすべて任せていること、子どもはしかられることが恐くて飲んでいなくてもお母さんに言えないらしいということ、服薬指導を全く聞いてくれないこと、このままではコンプライアンス維持が難しいと思われること、などを文書にして提出し、医師の指示を仰ぐことにしたのです。

 

医師もお母さんの様子に常々疑問を持っていたようで、私たちが報告した内容は予想していたようです。そこで、病院から自宅に連絡をし、可能ならばお母さん以外の保護者に話をしてくれるという約束をしてくれました。

 

また、薬局側も分包紙に日付を入れたり一日分ずつ小分けにしたりして子どもでも確実にお薬が飲めるように工夫をするよう求められました。

 

私たちは医師の指示に従い、次回からは一日分ずつチャック付きビニール袋に分包したお薬や貼り薬を入れ、チャック付きビニール袋には日付を記入することにしました。

 

非常に時間のかかる作業ですが、お母さんの協力が期待できない以上仕方がありません。お兄ちゃんのコンプライアンスを維持して喘息発作を起こさないようにするため、私たちががんばることになりました。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.子どものお薬は用量用法のみならず数量まで、必ず保護者に確認してもらう

 

今回の過誤の一番の原因は私の確認ミスなのですが、保護者であるお母さんにお薬の確認をしてもらえなかったことにも原因はあると思います。

 

子どもの年齢にもよりますが、お薬の管理は基本的に保護者の方にしてもらわなくてはなりません。そこで、子どものお薬については用量用法のみならず数量も、服薬指導時に保護者に確認してもらわなくてはならないと思います。

 

多くの保護者の方は協力的なのですが、中には日本語の不自由な方もいますし、今回のお母さんのように子どもにお薬の管理を任せてしまう方もいます。

 

しかしそれでは飲み間違いや副作用の発生時に十分に対応できません。

 

少し強引ですが、お薬を投薬カウンターにすべて並べ、説明をしながら薬袋に入れるなどの方法で保護者にしっかりお薬を確認してもらわなければならないと考えます。

 

調剤過誤防止策2.ネグレクトなどが疑われる場合には、処方医へ連絡・相談する

 

しかし、今回のお母さんのように全く話を聞いてくれなかったり、ネグレクトを疑うようなケースもないわけではありません。そのような場合には薬局のみで対応することは難しいので、処方医に連絡・相談をする必要があると思います。

 

実際、今回のケースでは医師が直接患者さんの自宅に電話をし、患者さんのお父さんと話をすることができたようです。どのような話があったのか詳しくはわかりませんが、次の予約日からはお父さんがお子さん二人を連れて来局するようになりました。

 

お父さんによると、ご自身が不在がちで子どもたちのことはお母さんに任せっきりだったとのことでした。またお兄ちゃんは幼い頃から入退院を繰り返しており、それでお母さんは疲れ切ってしまっているのだろう、とも言っていました。

 

お薬は子どもが自分で飲めるようにこれからも一日分ずつチャック付きビニール袋に入れてもらいたいということでしたので、ご希望に従うことにしました。

 

そして、子どもの病気のことでだいぶお母さんが追い詰められてしまっているようなので、これからは可能な限りお父さんが子どもたちを病院に連れてくるとのことでした。

 

ご家族のことはよくわかりませんが、お父さんがお子さんの治療に今までより参加してくれることがわかったので、私はホッとしました。

 

調剤過誤防止策3.定期的に患者さんの住所や電話番号の確認を行う

 

また、今回患者さん宅に連絡がつかなかったことから、定期的に患者さんの住所や電話番号の確認を行うことになりました。特に連絡先の電話番号が携帯電話の番号になっている人は、少なくとも1年に1回は番号を確認することになりました。

 

けっこう大変な作業ですが、電話番号の確認は薬剤師が行うこととし、電話番号に変更がある場合は同時に住所も確認することになりました。

 

また、保険証が変更になっている場合には、保険証の確認と同時に住所の確認を行うことになりました。保険番号の確認はレセコン入力を担当する事務職員が行うので、保険番号の変更があった場合には保険証に記載されている住所もチェックしてもらうことにしました。

 

もっとも、保険証の住所と現住所が異なる人もいます。そこで、保険証の住所と薬局が記録している住所が異なる場合には、連絡のつく現住所を確認することとなりました。

 

中には電話番号や住所を絶対に知られたくないという人もいますが、そういった人でも病院には連絡先を伝えていることが多いものです。そのような患者さんに関しては病院にも協力をお願いして、病院経由で連絡が取れるようなシステムが構築されると良いと考えています。

 

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この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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