処方せんが集中する時間に受け付けた皮膚科の処方で調剤過誤発生。調剤者・監査者ともに過誤に気づかず、レセコン入力も誤っていた…
■作成日 2018/2/23 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は繁華街にある面薬局に勤務している30歳代の男性薬剤師です。
調剤薬局への勤務歴は10年以上ありますが、チェーン薬局に勤務しているために異動や応援依頼が頻繁にあります。
仕事に慣れたころに異動があるので少々つらいですが、色々な薬局・処方せんを経験できるので楽しんで仕事をしています。
現在勤務している薬局は処方せん枚数が1日に50枚程度ですが、昼前と夕方は処方せんが集中するので結構忙しいです。
今回の調剤過誤は、昼前の処方せんが集中する時間に起きてしまいました。
患者さんは30歳代の女性で、ほほやあご、おでこ、背中の吹き出物がひどいために皮膚科を受診しているという方でした。この方は結婚式を約3ヶ月後に行うとのことで、できるだけ肌の調子を整えて当日をむかえたいとのお話がありました。
今回皮膚科から処方されていたのはミノサイクリンとアクアチムクリームで、いずれも初めての処方でした。
そこで私は薬情の解説部分に赤ラインを引きながら、ミノサイクリンと牛乳などとの飲み合わせの注意・下痢など生じうる副作用などについてしっかり説明し、飲み忘れないよう注意を喚起して服薬指導を終えました。
この時しっかり処方せんを見ながらピッキング・監査を行っていれば過誤を防ぐことができたはずなのですが、忙しさからやるべきことを端折ってしまい、レセコン入力内容のチェックすら行っていなかったことから間違った薬を患者さんにお渡ししてしまいました。
調剤過誤発覚は3日後、調剤録と処方せんの照合時に判明。大きな健康被害はなかったものの、患者さんは来局してくれなくなってしまった…。
調剤過誤が発覚したのは投薬から3日後でした。
事務職員が調剤録と処方せんを照らし合わせてチェックしている時に判明したのです。
チェックをしていた事務職員が私に「すみません、レセコンの入力が間違っていました。ミノサイクリンが100mgで処方されていたのに50mgで入力していました。お会計が変わってくるので、領収書を出し直しておきました。」と言ってきたのです。
最初は「そうですか。それでは患者さんに連絡しておきますね。」と軽く受け答えをしていたのですが、ここ何日かミノサイクリン100mgを投薬した覚えがないので非常に違和感を覚えました。
そこで在庫を確認したところ、ミノサイクリンの100mgと50mgの在庫がずれていることが判明しました。
薬歴を確認して患者さんが結婚式をひかえているという話をしたことを思い出すと同時に、渡した薬がミノサイクリン50mgであることも思い出しました。
私はまず医師に連絡をして謝罪し、指示をあおぎました。
医師からは厳しく叱責され、すぐにミノサイクリン100mgを患者さんにお届けするように言われました。
患者さん宅に電話をかけたところ患者さんご本人にすぐつながったので、まず謝罪をし、そして薬が間違っていたこと・先日渡した薬は成分は処方されたものと同じであるが用量が半分しか入っていないこと・用量が半分しか入っていないので大きな副作用はないと思われるが調子が変わるようならすぐに再受診してほしいこと・処方せん通りの正しい薬を今すぐお届けすることなどを伝えました。
その後、患者さん宅にすぐにうかがい、再度謝罪してミノサイクリン100mgをお渡ししました。
特に気になる体調変化はないとのことでしたが、患者さんは終始不機嫌な様子でした。結婚式を気持ちよくむかえたくて受診したのに薬が間違っていたのだから当たり前です。
私は本当に申し訳なくて、何度も何度もあやまって患者さん宅をあとにしました。患者さんによると後日皮膚科を再受診するとのことでしたが、私たちに対する怒りが収まらなかったのでしょう、その患者さんが処方せんを持ってくることはその後ありませんでした。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回の調剤過誤が発生した一番の原因は、この処方にかかわった薬剤師・事務職員とも処方せんをよく見ずに作業をしていたことにあると思います。
調剤時・監査時・レセコン入力時あるいはレセコン入力内容チェック時・服薬指導時と少なくとも4回は処方せんをチェックする機会があったにもかかわらず、だれもが思い込みで業務を行い、間違った薬を患者さんに交付してしまったのです。
しかも今回は調剤と監査は別の者が担当したにもかかわらず過誤が生じているわけですから、これでは薬剤師複数人体制でダブルチェックを行っている意味がありません。
そこで、これからは調剤にかかわる業務は必ず処方せんのコピーをしっかり確認しながら行う、ということを薬剤師・事務職員とも徹底することになりました。
至極当たり前のことなのですが、情けないことにその当たり前のことがいつの間にかできなくなってしまっていたのです。
処方せんのコピーならばどれだけ書き込みをしても問題ありません。
そこで、規格・用法に下線や丸印、✓印を書き込む、ピッキングすべき錠数や計量すべき数量を書き込む、分包する薬であれば分包数を書き込む、水剤であれば1回量やボトルの大きさ・使った目盛りを書き込む、などなどありとあらゆる「メモ」を書き込むことにしました。
もっとも、メモのせいで処方の内容が見えづらくなってしまっては本末転倒です。そこで、処方せんの文字に重ならないようにメモを書き込むということにしました。
しっかりメモが残っていれば、万が一ミスが生じてもどこでミスが起きたかが明確になります。
一方、レセコン入力については処方せんの原本を用いて行うことが多いので書き込みが難しいのですが、鉛筆でチェックをしながら入力をすることになりました。
また、万が一処方せんに書き込みをしてしまっても消せるように、入力を行う事務職員の机の上に置くカラーペンは消すことのできるフリクションペンのみにすることとなりました。
また今回の調剤過誤は、薬剤師の知識不足にも原因があると考えています。患者さんに処方されていたのは「ミノサイクリン錠100mg 1錠分1」でした。それにもかかわらず私たちは処方を「ミノサイクリン錠50mg 1錠分1」と思い込み、患者さんに渡してしまいました。
しかし添付文書上、成人で「ミノサイクリン錠50mg 1錠分1」という用法は存在しません。
調剤時あるいは監査時に「成人でこの用量はおかしいのでは?」と気がついていれば、過誤は間違いなく防ぐことができたでしょう。
私自身、ミノサイクリン錠の用法は1日1~2回という認識はありましたが、用量不足の認識がありませんでした。
患者さんがよほど小柄であったり高齢であったりしない限り成人で50mgという用量はありえないのですが、患者さんはごく普通の成人女性で年齢は30歳代でした。
それにもかかわらず用量不足に気づかなかったのは、実際に患者さんと接して投薬した私の責任と言えるでしょう。
ミノサイクリンの処方頻度が低いからといってあいまいな知識で服薬指導にあたることは許されません。これからはもっと用量用法に注意をはらい、知識にあいまいな点がある場合にはその場で添付文書を確認するようにしたいと考えています。
今回被害にあわれた患者さんは3ヶ月後に結婚式を予定しているということで、切実な思いで受診をされていました。
私は患者さんの話に気を取られて、服薬指導時から薬歴記入時までさまざまなチェックが若干おろそかになってしまっていたように思います。せめて薬歴記入時にミスに気がついていたら、患者さんが薬を服用してしまう前に過誤に気づくことができたと思います。
患者さんの話をしっかり聞いて背景を理解し、適切な服薬指導を行うことは大切なことです。
だからといって患者さんの話に気を取られてやるべきことができなくなってしまうようではいけません。
服薬指導時には話に流されることなく副作用や飲み合わせの注意を喚起しなければなりません。
コンプライアンス維持にも配慮が必要です。
薬歴記入時には患者さんの話を客観的にとらえ次につながる記録を残し、同時にレセコン入力内容のチェックなどもしっかり行うべきだと考えます。
今回処方された薬は患者さんに初めて処方された薬で、患者さん自身が薬の間違いに気づくことは不可能な状況でした。患者さんの手もとに処方せんは残らないわけですから、私たち薬剤師はミスなく患者さんに薬を渡さなければなりません。
そこで、処方された薬、特に初めて処方された薬に関しては、用法だけでなく規格まで患者さんと一緒に確認すべきであると思います。
確認時には写真の入っている薬情を使うのが良いと思うのですが、今回のようにレセコンの入力ミスがある場合は薬情の内容も間違ったものになってしまいます。したがって、薬の用法・規格の確認は処方せんあるいは処方せんのコピーを使ってするのが望ましいと思います。
非常に面倒な作業となってしまいますが、すべての薬ではなく初処方の薬のみを対象とすればそれほど困難ではないと考えます。
用法・規格を確認した後に薬情を使って副作用や飲み合わせを説明すれば良いと思いますし、万が一薬情の写真と患者さんに渡す薬が異なれば、そこでレセコン入力のミスに気づくことができます。
紙の薬歴では薬の変更や新規処方があっても確認しづらいですが、電子薬歴であれば処方変更や新規処方の薬剤については薬剤名の色が変わっていたり、薬剤の変更履歴を簡単に確認したりすることができます。
私たちの薬局では電子薬歴を導入しているので、この便利な機能をフル活用して入力内容のチェックや服薬指導にしっかりと役立てていきたいと思います。
今回の調剤過誤が発覚したのは3日後でした。
事務職員が調剤録と処方せんを照合している時に発見できたのです。
私たちの薬局では服薬指導終了後に薬剤師が当該処方せんに印鑑を押したり備考欄に書き込みを行ったりします。そしてそれを事務職員が回収し、調剤録と処方せんの照合を行います。そのため、調剤録と処方せんの照合までに時間がかかることが多く、今回のように3日もかかることもまれではありません。
この段階であっても調剤過誤が判明することはありがたいことですが、数日もたっていると患者さんがすでに薬剤を服用してしまっていることが多く、場合によっては健康被害が生じている可能性もあります。
そこで、調剤録のチェックを薬剤師が服薬指導前に行うことになりました。
もちろん、下線や丸印を入れながらしっかりチェックを行うのです。
忙しい時間に作業が増えるのは正直つらいです。
他の従業員からは「薬歴記入時でいいのではないか?」「調剤録ではなく薬歴画面で入力内容をしっかり見ればよいのではないか?」という声もありました。
しかし、服薬指導前にミスをみつけることができれば調剤過誤防止に役立つという私の意見が採用されました。
確かに薬歴をチェックすれば入力ミスはある程度みつけることができます。
しかし、加算の有無などは薬歴をチェックするだけでは見逃してしまうことがあります。
調剤録をチェックすれば加算内容も一目瞭然です。
また、加算内容のミスに関しては患者さんのご負担金額が変わるだけで薬の内容には関係ないことが多いです。
しかし、金額が変わることで患者さんが薬局に対する不信感を抱く可能性がありますし、実際そういったトラブルで薬局を変える患者さんも少なからずいます。私たちは患者さんの生命身体のみならず財産にも配慮が必要だと考えます。
もっとも、私は診療報酬の内容を十分に理解しているとは言い難く、頻繁に改定される診療報酬に辟易としています。
しかし、保険薬剤師なのですからそんなことは言っていられません。この機会にしっかり診療報酬を勉強して、調剤ミスのみならず、レセコンの入力ミス、加算ミスにもしっかり対応していきたいと思います。
参考資料
日経メディカル ミノサイクリン塩酸塩錠50mg「サワイ」
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/61/6152005F1095.html
日経メディカル ミノサイクリン塩酸塩錠100mg「サワイ」
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/61/6152005F2113.html
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