皮膚科を受診してゾビラックス眼軟膏が処方された患者さんにゾビラックス軟膏を誤交付。受取人であるヘルパーさんも服薬指導にあたった薬剤師も誤調剤に気づかなかった。
■作成日 2018/3/23 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は、総合病院の門前薬局で働いている30歳代の女性薬剤師です。この薬局での勤務歴は比較的長く、出産・育児休暇を除いても10年以上になります。薬局の規模は大きめで、常勤の薬剤師が5人と非常勤の薬剤師が2人います。
処方せん枚数は1日あたり120枚~180枚程度で、毎年処方せん枚数が増える冬には派遣薬剤師を1人雇っています。
今回の調剤過誤は、処方せん枚数がいつもより多い連休明けの昼近くに発生しました。
患者さんは50歳代の女性で、帯状疱疹でしばらく入院していた方でした。障害があるために施設に入所されており、お薬の管理などはヘルパーさんがしてくれています。
数日前に退院して今日は皮膚科の受診だったとのことですが、非常に混み合っており、10時の予約であったにもかかわらず、病院を出たのは12時過ぎだったそうです。そのため、患者さんもヘルパーさんも疲れ切ってぐったりしている様子でした。
今回処方されていたのは塗り薬1種類のみでした。処方せんには使用部位の記載がなかったので、私は疑義照会をすべきか否か少し悩みました。しかし、その日は処方せん枚数が非常に多く、疑義照会を行うと回答が届くまでに30分以上かかる可能性がありました。
また、付き添いのヘルパーさんが私とは顔なじみで、患者さんの様子などをしっかり伝えてくれる方なので、私は「ヘルパーさんに聞いてもよくわからなかったら疑義照会しよう。」と考え、あえて疑義照会は行いませんでした。
実際、ヘルパーさんの話から使用部位が目の周りであることはすぐに明らかになりました。そこで使い方など一通りの説明を終えてヘルパーさんにお薬をお渡ししました。
この時、お薬の内容もヘルパーさんと一緒に確認したのですが、「ゾビラックスという塗り薬です。ウイルスを倒す働きのある成分が入っているお薬です。」という感じでしか説明しておらず、「軟膏」あるいは「眼軟膏」であることには触れませんでした。
ヘルパーさんの「退院の時にもらったお薬と一緒ね。」という言葉で安心し、くわしい説明を省いてしまったのです。
あの時、薬情を使ってヘルパーさんと一緒に軟膏の種類までしっかり確認しておけばよかったと、後悔しています。
患者さんとヘルパーさんが薬局から出て行った直後、何気なく見た薬歴で調剤過誤に気づく。車が発車する寸前に患者さんとヘルパーさんに追いつき、正しいお薬をお渡し。
調剤過誤に気づいたのは、患者さんとヘルパーさんが薬局から出て行った直後でした。ヘルパーさんとの会話を軽くメモしておこうと薬歴を開き、処方せんを見ながらレセコンの入力内容を確認している時に気がついたのです。
薬歴にはゾビラックス眼軟膏が処方されている旨が記録されており、処方せんには事務さんからの伝言で「使用部位と回数を備考欄に記入して下さい」という付せんが貼ってありました。
ここで私は「あれ?皮膚科なのに眼軟膏?白いフタだったよね?」と違和感を感じました。そして処方せんを再度確認し、処方薬がゾビラックス眼軟膏であることに気がつきました。
ピッキング者にピッキング内容を確認したところ、やはりゾビラックス軟膏をピッキングしていたこともわかりました。
調剤過誤に気がついた私はあわてて駐車場の方を見ました。
患者さんがヘルパーさんに手を引かれてゆっくり歩いており、まだ車に乗っていないことが確認できました。
私は急いでゾビラックス眼軟膏と処方せんをつかみ、2人のところへ走って行きました。患者さんを後部座席に乗せ、ヘルパーさんは運転席に向かおうとしています。
「待って下さい!お渡ししたお薬が間違っていました。そのお薬ではないんです!」と私は思わず叫びました。ヘルパーさんは「?」という顔をして振り返りました。
思いっきり走ったせいで私の息は上がっていました。しかし、説明をしないわけにはいきません。息を整えながらヘルパーさんに、先ほど渡した塗り薬はゾビラックス「軟膏」で、処方されたゾビラックス「眼軟膏」とは違うものであることを処方せんを示しながら説明しました。
ヘルパーさんはピンとこない様子でしたが、眼や眼のまわりに塗る軟膏は「眼軟膏」という特別な種類の軟膏でなければならないことを説明したら納得したようでした。
ヘルパーさんは頷きながら「なるほどね。それで退院の時にもらったお薬の袋には「眼のまわり」「顔」って大きく書いてあったのね。同じ薬なのにおかしいなぁって思っていたのよ。」と言いました。どうやらヘルパーさんは軟膏と眼軟膏が別のお薬であるという認識がなかったようです。
念のため使い分けをしていたかどうかを確認したところ、「ずっと青いフタの方を使っていたから、そっちがなくなっちゃったの。それをお医者さんに伝えたらお薬を出してくれて。さっき薬局でもらったのが白いフタの方だったから、何だやっぱりどちらを塗っても良かったんだ、って思っていたのよ。」と答えてくれました。
ただ、私の説明で使い分けの重要性は理解していただけたようで、これからは気をつけてくれるとのことでした。
ゾビラックス軟膏もゾビラックス眼軟膏も有効成分は同じですが、濃度が違います。そして何より基剤が全く違います。あやまって軟膏を塗り、眼に入ってしまっていたら大変なことになっていたかもしれません。私の調剤過誤がきっかけとは言え、塗り分けの大切さがヘルパーさんにしっかり伝わってよかったです。
正しいお薬をお渡しした後、私は患者さんとヘルパーさんに何度も謝罪しながら2人の乗った車を見送りました。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回の調剤過誤は、ピッキング時・監査時・服薬指導時に処方せんの内容をしっかり確認していたら防ぐことができたと思います。薬剤が1剤のみであったことから油断が生まれ、また処方せん枚数がいつもより多く待合が混み合っていたことから業務が雑になってしまったのでしょう。
実際、ピッキングや監査の時に使った処方せんのコピーにはまったく書き込みがされておらず、チェックしたかどうかもわからない状態でした。
さらに、私は服薬指導時に「ゾビラックス」としかヘルパーさんに説明しておらず、薬情の製剤写真も見せていませんでした。これでは調剤過誤があっても気づくことはできません。
これからは商品名だけでなく剤形や規格、種類も患者さんや付き添いの方と一緒に確認しなければならないと思っています。もちろん薬情の製剤写真もしっかり活用して、調剤過誤を防ぎたいと考えています。
今回は軟膏と眼軟膏を取り間違えるという調剤過誤でしたが、軟膏とクリームでも同様の調剤過誤は発生しがちです。点眼薬や錠剤の規格違い、湿布薬の剤形違いでも同じような調剤過誤が起こる可能性はあります。
調剤業務にあたっては、処方内容にかかわらず業務に集中し、適宜チェックを入れながらミスを防ぐ努力をしていかなければならないと改めて思いました。
そして、服薬指導時には薬剤と指導内容に食い違いがないかも気をつけなければいけません。
今回私は薬剤の使用部位が眼の周りであることを確認したにもかかわらず、あやまってゾビラックス軟膏を渡してしまいました。処方元が皮膚科であることから処方される薬剤は「軟膏」であるという先入観があり、主に眼科で処方される「眼軟膏」であるはずがないと思い込んでしまったのです。
またヘルパーさんの「退院時に処方された薬剤である」との発言から、調剤内容に間違いはないと自信を持ってしまったのです。本当にうかつでした。
ゾビラックス軟膏は顔に使うことはあっても眼に入る可能性のある部位に使うことはありません。使用部位が眼のまわりであることを確認しながら軟膏を渡してしまったのは、注意不足といわれても仕方がないと思います。
さらに今回の場合、処方せんに塗り薬の使用部位が記載されていなかったことも調剤過誤を誘発した原因であると考えています。処方せんに「目」あるいは「眼瞼」との記載があれば、「軟膏」をピッキングすることはまずありません。
万が一「軟膏」がピッキングされていても、監査時に発見できたでしょう。
しかし、患者さんもヘルパーさんも明らかに疲れていましたし、処方せん枚数が多くて薬局がいつも以上に忙しかったことから、私は使用部位について疑義照会することをためらってしまいました。またヘルパーさんと懇意にしていたことから、甘えもあったのかもしれません。
もしあの時しっかり疑義照会を行っていれば使用部位が明らかになったでしょうし、疑義照会の回答を待っている間に再度監査を行う余裕もあったでしょう。
これからは忙しくても状況に甘えることなく、可能な限り疑義照会を積極的に行おうと思っています。
今回発生したような調剤過誤が二度と起こらないようにするために、在庫している薬剤の配置を変更することにしました。
今まで塗り薬については痔疾に用いられる薬剤を除いて50音順に引き出しに入れており、軟膏・クリーム・ローション・眼軟膏・その他もすべて同じ引き出しに入っている状態でした。
そこでまず、眼軟膏については目薬棚にすべて移動し、その他の塗り薬も若干配置を変えることになりました。
皮膚科などで主に処方される塗り薬・はり薬については「軟膏」「クリーム」「ローション・その他」に分類して異なる引き出しに在庫を入れるようにし、それぞれ50音順に並べ替えました。
一方で主に整形外科で処方される痛み止めなどの塗り薬については「主に整形外科」という引き出しを新たに作り、そこに該当する薬剤を配置することになりました。
なお、痔疾の薬剤については箱が大きく場所をとるものが多いので、今まで通り他の塗り薬と分けて大きめの引き出しに配置することになりました。
このような配置になれば、ピッキング時に剤形を必ず確認しなければならなくなります。今までも軟膏とクリームのピッキングミスはよくあったので、この配置変更は薬剤師全員に歓迎されました。
私たちの薬局では、ゾビラックス軟膏もゾビラックス眼軟膏も同じメーカーのものを使っています。両者はチューブが白く外観がよく似ているのですが、フタの色が異なるので二つをならべて置けば見分けることは容易にできます。
しかしどちらか一つだけの場合、あるいは軟膏と眼軟膏があることを知らない人の場合(例えば今回のヘルパーさん)、間違えてしまう可能性があります。
そこで私は、併売品である他社のゾビラックス眼軟膏について調べてみました。
こちらのメーカーのゾビラックス眼軟膏は、販売元こそ異なりますが製造元は前述のメーカーとなっています。製造元が同じなので、両メーカーの眼軟膏は添加物も含めて全く同じものと言えます。
しかし、製品の外観はまったく異なるのです。
併売品のゾビラックス眼軟膏は、フタが白色でチューブに青っぽい緑色の太いラインが入っているのです。
これだけ外観が異なれば軟膏と眼軟膏を間違えることはまずないでしょうし、視力があまり良くない人であっても判別は可能でしょう。また調剤業務を行う薬剤師としても、外観が異なればピッキングミスや調剤過誤を出しにくくなります。
在庫が多い場合や病院からメーカー指定があると薬剤の変更は難しいですが、変更ができるのであれば変更する方が良いと思いました。
門前の総合病院の薬剤部へ問い合わせたところ、病院ではゾビラックス軟膏・ゾビラックス眼軟膏とも現在私たちの薬局で採用しているメーカーのものを使っているとのことでした。病院と異なるメーカーのものを門前薬局が採用するのは何かと問題がありますし、実際メーカー変更について薬剤部に相談したところ難色を示されました。
しかし「製造元が同じなら、良いですよ。聞いたこともないジェネリック医薬品に変更されることだってあるのですから、それに比べたら良いと思います。ただし院内のものと外観が違うので患者さんにしっかり説明をして下さいね。」とのことで、一応メーカー変更は可能であるという結論に達しました。
今後は管理薬剤師とも相談して、ゾビラックス眼軟膏についてはメーカーを変更したいと考えています。
参考資料
日経メディカル ゾビラックス眼軟膏3%
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/13/1319719M1046.html
日経メディカル ゾビラックス軟膏5%
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/62/6250701M1027.html
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