患者さんのご希望でプラバスタチン錠10mgを0.5錠ずつ分包。1個入っていないことに気づかずそのままお渡し
■作成日 2018/4/10 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は、面で処方せんを受けているドラッグストア併設薬局に勤務する薬剤師です。
私の勤務する薬局で受けている処方せんの枚数は、1日あたり10~25枚程度です。そのため、調剤業務を行う薬剤師は私1人だけです。
調剤薬局に就職してたった5年で1人薬剤師の店舗を任されたので、その責任の重さが時々ストレスとなっています。しかし、それ以上にうれしいこと・楽しいことが毎日あるので何とかがんばっています。
私が勤務する店舗があるのは、最寄り駅まで車で30分以上もかかるという田舎です。
そんな田舎なので、患者さんとの距離は非常に近いです。
私がドラッグストアの方で味噌やら砂糖やらの品出しをしている時でも「ねぇ、ちょっと、薬剤師さん。」と気安く声をかけてくれます。
そして日々の体調変化や健康食品、服用中のお薬のことから介護に関することまでいろいろ相談に来てくれます。顔を覚えてもらえるのは、もちろんうれしいです。中には私を頼って買い物もないのにドラッグストアに来てくれる常連の患者さんもいるので、とてもやりがいを感じます。
今回の調剤過誤は、そんな「常連さん」ともいうべき患者さんの処方で発生しました。
患者さんは40歳代の大柄な男性で、市内で一番大きな総合病院の内科から何種類かお薬が処方されている方でした。
ほとんどのお薬はPTPでのお渡しでしたが、プラバスタチン錠10mgだけは1回分である0.5錠を1個ずつ分包してほしいとのご希望がありました。以前はPTPでお渡ししてご自身で割って服用していたのですが、「錠剤が小さくて上手に割れない」との相談があったのです。
この相談があった時に、私はプラバスタチン錠を5mgに変更することを提案しました。
しかし、成分量が半分になってもご負担金額はほとんど変わらないこと、今後の薬価改定の内容によっては5mg1錠を使うと10mgを分割する場合に比べてご負担金額が増える可能性もあることを説明したところ、「今まで通り薬は半分に割って飲みたい」とのことでした。
ただ、「錠剤を薬局で割ってもらうと手数料がかかる」という情報を何かで見たことがあったそうで、負担金額が増えることを非常に気にしていました。
しかし、前述のようにプラバスタチン錠には5mg錠があります。
そのため薬局で分割しても自家製剤加算を患者さんからいただくことはできません。
そのことを伝えたところ「じゃぁ、割って欲しい」とのリクエストがあったので、毎回0.5錠ずつ分包してお渡ししていました。
調剤過誤の発生した日は、運の悪いことに総合病院のファックスカウンターにあるファックスが故障していたそうです。そのため、患者さんは処方せんを直接薬局に持ってきました。
処方の内容はいつもと同じ内容だったのですが、処方日数が84日分だったのでプラバスタチン錠の分包に少し時間がかかってしまいました。私は分包機に分割したプラバスタチン錠をセットして、その間に先に用意できていたPTPの薬剤についての服薬指導を行いました。
その後、分包が終わったプラバスタチン錠をざっと監査して患者さんにお渡ししました。
今思うと、分包されている薬剤が1種類だけだったこと、また患者さんと話をしながら作業を行ったことなどから監査が雑だったのでしょう。
私は空包が1包混ざっていることに気づかないまま患者さんにお薬を渡してしまいました。そしてその数時間後、私は自分の業務がスキだらけであることを思い知らされました。
プラバスタチン錠が1回分入っていないことに気がついたのはその日の閉店作業時。分包機のタブレットカセットに残っていた薬剤に気がついて調剤過誤が発覚
調剤過誤に気がついたのは、その日の閉店作業を行っていた時でした。分包機の掃除をしている時にプラバスタチン錠の半錠が1個、分包機のタブレットカセット内に残っていることに気がついたのです。
その日、プラバスタチン錠の半錠を分包したのは当該患者さんのみでした。またその患者さんの後、分包機のタブレットカセットが必要となる処方はありませんでした。
「静電気で機械に錠剤がくっついちゃって落ちなかったんだ。他の患者さんの薬に入ってしまわなくてよかった…。」と思ったものの、患者さんのお薬が1日分足りないことは間違いありません。
そこで、私はすぐに患者さんのご自宅に電話をしました。しかしなかなか電話がつながらず、結局患者さんと連絡が取れたのは閉店から1時間以上過ぎた夜10時過ぎでした。
やっとつながった電話で、私は患者さんにプラバスタチン錠を1個入れずにお渡ししてしまったことを伝えました。
すると患者さんは
「なぁんだ。そんなことか。深刻な声でこんな時間に電話してくるから何か大変なことでもあったのかと思った。大丈夫だよ、1週間分くらい飲み忘れはあるから足りなくなることはないよ。」
と言い、大笑いしました。
さらに、
「明日でも良かったのに。残業になっちゃったんでしょ?悪かったねぇ。」
と気遣う言葉までかけてくれました。
確かに緊急性はないですし、患者さんの言う通り次の日でも良かったのですが、調剤過誤を出したことに責任を感じていた私に「次の日」という選択肢はありませんでした。私は「申し訳ありません。とにかく早く伝えなければ、と思いあせってしまって…。」と正直に答えたところ、また笑われてしまいました。
患者さんが大笑いをして許してくれたとはいえ、調剤過誤には違いありません。私は再度お詫びを伝え、電話を切りました。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回の調剤過誤は、私が監査をしっかり行わなかったために生じました。たとえ患者さんが目の前にいて余裕のない状態であっても、また分包されている薬剤が1剤だけであったとしても、慎重にしっかり監査を行うべきでした。
そして、「ながら作業」を行ってしまったことも調剤過誤を誘発した原因だと思います。分包されたプラバスタチン錠の監査は調剤室内で行いましたが、服薬指導の続きで大きな声で患者さんと話をしながら監査を行っていました。
このような状態では集中して監査ができるはずがありません。いくら患者さんとの距離が近い薬局とはいえ、監査が十分にできないほど患者さんとの話がはずんでしまうようではいけません。
これからは、どのような状況下でも監査はしっかり集中して行わなければならないと反省しました。そして受付カウンターにいる事務職員にも協力してもらい、待ち時間に患者さんを退屈させない接客を行おうと考えています。
また今回の調剤過誤は、分包機のタブレットカセットに薬剤がくっついてしまい、分包紙内に薬剤が投下されなかったために生じました。晴天が続いていたので、静電気でタブレットカセットに錠剤がくっついてしまったのでしょう。
確かに分包機の部品の多くは帯電防止加工がされており、薬剤が付着しにくくなっています。しかし、調剤室内の湿度が低いと静電気で薬剤がタブレットカセットにくっついてしまうことはよくあります。
逆に湿度が高いと、糖衣錠の糖衣が湿り気を帯びてタブレットカセットに付着するケースも時々あります。もっとも、湿度に関係なくタブレットカセットに付着したり分包時に飛び出してしまう薬剤もあります。
経験的には、ラニラピッド錠やトリクロルメチアジド錠、イミダプリル塩酸塩錠などが乾燥時に静電気でタブレットカセットにくっついてしまうことが多いように思います。一方、湿度が高い時はペルサンチン錠25mgなどがタブレットカセットに残ることが多いように感じます。
また、軟カプセルも条件によってはタブレットカセットに残りやすいように思います。さらに、軟カプセルのうちアルファロールカプセルのように小さく丸いものは跳ねやすく、タブレットカセットから分包紙に入る時に跳ねてどこかへ行ってしまうこともあります。
また散剤の場合も、量が少なくかつ帯電しやすい薬剤の場合は、湿度が低いと均等に分包できないことがあります。そして、湿度が高いとホッパーやフィーダー、円盤あるいはVマスに薬剤が残ることもあります。
散剤については、ジスロマック細粒小児用10%やフェノバール散10%を少量で分包するとばらつきが大きくなりやすいと感じています。また、粉砕した錠剤などは条件によっては分包機に付着することがあります。
よほど大量に分包機内に付着していれば監査時の計量で気がつくことができますが、監査者が分包機に残っている薬剤のチェックまですることは難しいです。そこで、可能であれば調剤者が分包後に分包機内の残薬をチェックするのが良いと考えます。
もっとも、私の勤務している薬局は1人薬剤師店舗なので調剤も監査も私が行います。これからは調剤を行った後に分包機内に残薬がないかどうかをしっかりチェックし、それから監査を行おうと思います。
なお、分包機内に薬剤が残っていると、次の調剤時に残薬が混入する可能性があります。
当然のことながら調剤前には分包機を掃除しますが、残薬があるとあせりますし、今回のような場合には調剤過誤を発生させてしまったことに動揺して立て続けに調剤過誤を起こしてしまう可能性があります。
これからは、可能な限りその場で分包機内をチェック・掃除し、調剤過誤を未然に防ぎ、次の業務に備えたいと考えます。
後日談:調剤過誤をきっかけに患者さんからの信頼を得ることができ、ご家族全員の処方せんを受けることに…
この話には後日談があります。
数日後、患者さんがプラバスタチン錠の入っていない空の分包紙を持って薬局にやってきたのです。
そして、
「あんた、正直だなぁ。こんなもの黙っていれば気がつかなかったかもしれないのに。」
とニコニコしながら話をしてくれたのです。
そして、
「今まで他の市の公立病院や市内のクリニックのお薬はそれぞれの門前薬局でもらっていたけれど、次からは私たちの薬局でお薬をもらいたいと言ってくれたのです。お薬手帳も持参してくれ、「薬はほとんど変わらないから、ここに載っているお薬を用意しておいてくれればいいよ。もし薬がなくて取り寄せになっても、ここで薬をもらいたいからまた取りに来るよ。」
とも言ってくれたのです。
調剤過誤を出したのに、なぜ?と思い理由をたずねると「だって、あんた、悪いことできなさそうだから。」とまた笑いながら答えてくれました。そして「おふくろと妹にも言っておくから。」と言って帰って行かれました。
さらに後日、患者さんが近隣のクリニックの処方せんを2枚持って来局されました。その処方せんは、患者さんのお母さんと妹さんのものでした。
「おふくろたちも薬局を変えるって言ってる。多分夕方に本人たちがお薬手帳を持ってくるから、薬用意しておいてね。」
といって帰って行かれました。
そして言われた通りお薬を用意していると、夕方に妹さんが2人分のお薬手帳を持って来局されました。
ひょっとして無理をして薬局を変えたのでは?と思いおそるおそる妹さんに聞いてみたところ、
「いいの。今まで行っていた薬局は待ち時間が長いし、ミスがあっても『あ、そうですか』とか『どこかに置き忘れたんじゃないですか?』みたいな感じで私たちが悪いみたいな言い方するからものすごく感じ悪いし。ここはドラッグストアがあって買い物にも便利だから、こっちでお薬がもらえるならその方がいいの。薬局を変えるとお薬がないことがあるよって前の薬局の人に言われていたんだけど、ここの薬局でも同じお薬をもらえるのがわかったから、もう前の薬局には行かないわ。こんなことならもっと早くに薬局を変えればよかった。」
とのお話でした。
今までの薬局で調剤過誤を経験し、その対応に不信感を抱いていたのでしょう。お話を聞いて、妹さんたちが薬局を変えた理由がわかりました。
これからは患者さんやそのご家族の信頼を裏切ることのないよう、今まで以上に誠実に業務を行いたいと思います。もちろん、調剤過誤をこれ以上出さないよう気をつけます。
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