チラーヂンS錠50μgが28錠処方されていた患者さんにPTPで薬剤を交付。しかしその中に規格違いのチラーヂンS錠25μgが2錠混入していた
■作成日 2018/5/3 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は30歳代の男性薬剤師です。私が勤務している薬局は、医療モール内にあります。チェーン店ではないので今まで異動をしたことがなく、この薬局ですでに10年以上働いています。
今回ご報告する調剤過誤は、数年前に発生したものです。現在、チラーヂンS錠のPTPは規格ごとに両面の色が異なっています。
しかし、その当時は裏面の色がどの規格も銀色で、記載されている文字やイラストの配置も非常によく似ていました。しかもPTPの大きさがほとんど同じだったので、裏返してしまうと見分けがつきにくい状態でした。
チラーヂンS錠の包装が変更された現在では、規格違いの薬剤を誤ってピッキングしてしまうという調剤過誤は生じにくいと思いますが、他の薬剤で同様の調剤過誤が生じないよう、あえて報告させていただきます。
調剤過誤の被害にあわれたのは、40歳代後半の女性の患者さんでした。甲状腺機能低下症のためにチラーヂンS錠を服用している方で、維持量である50μgが長いこと処方されていました。
毎回同じ処方ですし、4~5週間ごとにしっかり来局されるので、服薬指導時に指導することがほとんどなく、薬を確認して軽く世間話をして終わり、というのがお決まりのパターンになっていました。
また、コンプライアンスが非常に良く、残薬はほとんどないとのことでした。薬剤の服用が毎朝の習慣になっているそうで、「お薬を飲まないと、何だか1日が始まらない気がするのよね。」と笑いながら言っていたこともあります。
調剤過誤が発生した日もいつもと同じように薬を確認しようとしたのですが、「今日は友達と映画へ行く予定なの。それなのにクリニックが混んでいたから、もうあまり時間がなくって…。ごめんなさいね。お薬はうちで確認するから大丈夫よ。」と少し落ち着かない様子でした。
薬局が混んでいたこともあり、私も無理には引き止めず、「では、よろしくお願いいたします。」とだけ言って薬剤を薬袋に入れ、患者さんを見送りました。
しかしこの時、どんなに時間がなくても薬剤の確認だけはしっかりしておくべきでした。
次の日の朝、患者さんから「色の違う薬が混ざっている」という連絡があり調剤過誤が発覚
調剤過誤がわかったのは、次の日の朝でした。患者さんから「昨日、うちに帰って薬を確認したら、色の違うお薬が混ざっていたの。もう薬局さんが閉まっている時間だったから今朝の電話になっちゃったんだけど…。」と連絡があったのです。
詳しく話を聞いてみると「いつものお薬は「50」って書いてある緑色の(PTPの)お薬よね。でも、ピンク色で「25」って書いてあるお薬が2つ混ざっていたの。」とのことでした。
私は処方せんを取り出して正しい薬剤が「チラーヂンS錠50μg」であることを確認し、不足分である2錠を持って患者さんのご自宅にすぐにうかがいました。
患者さん宅のインターホンを押すと、御本人が困った顔で出迎えてくれました。そして「どっちのお薬を飲んでいいのかわからなかったから、まだ今朝はお薬を飲んでいないの。」と言われました。
そこで、今までどおりお薬はチラーヂンS錠50μgで間違いがないことを説明したところ、「あぁよかった。じゃぁ、先にお薬を飲んでくるわね。」と言って奥に入っていかれました。
私は薬を早くお届けすることばかりを考えていて、患者さんにどちらの薬が正しいものであるのか電話では説明していなかったのです。患者さんの不安を解消するためにも、まず電話で正しい薬、飲むべき薬をしっかり伝えるべきであったと反省しました。
しばらくして戻ってきた患者さんは、混入していたチラーヂンS錠25μg2錠を私の手のひらに乗せました。そして「やっと落ち着いて朝を迎えることができたわ。昨夜は「どっちのお薬が正しいんだろう」って悩んでよく眠れなかったの。やっぱり、あわてていてもお薬の確認は薬局でしないと駄目ね。」と言われました。
私は深く謝罪し、チラーヂンS錠50μgを2錠、しっかり確認しながら患者さんにお渡しして薬局へ戻りました。
調剤過誤の詳細については、処方元である医療モール内のクリニックにも報告しました。誤服用がなかったことから大きなお咎めはありませんでしたが、用量違いが患者さんの健康に及ぼす影響も考えてしっかり業務を行って下さい、と注意されました。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
調剤過誤が発生した一番の原因は、私の監査ミスにあると思っています。
ピッキングされていた薬剤は、10錠シート2枚と6錠分+2錠分のシートが輪ゴムでとめてありました。10錠シートは薬剤が内側になるように組み合わされており、その上に6錠分のシートが重ねられ、2錠分のシートは6錠分のシートの上に薬剤が内側、すなわち裏側の銀色面が見えるようにして重ねられていました。
まず私は、10錠シートについて輪ゴムをはめたままシートの色が緑色であることを確認しました。そして6錠分のシートについては、色のついている方が外側になっていたのでひと目で色の確認ができました。
しかし重ねられていた2錠分のシートについては見えている銀色面のみをさっと確認しただけで、PTPの色や記載されている数字まではしっかりと見ていなかったのです。これでは十分な監査をしたとは言えないでしょう。
この調剤過誤の後、私は監査時には輪ゴムを一旦外し、薬剤を並べてしっかり薬剤名・規格を確認するようになりました。忙しい時間帯や薬剤数が多い処方にあたると、できるだけ監査に時間をかけたくないと思ってしまいがちです。
しかしそのような時こそ、落ち着いてしっかり監査をしなければならないと考えています。処方内容がいつもと同じでも、1剤だけでも、気を抜かずしっかり業務を行おうと心がけています。
またこの調剤過誤の経験から、ピッキング時に薬剤を輪ゴムでとめる方法を工夫すれば監査時の見落としが減るのでは、と私は考えました。
例えば今回のような場合、10錠シートについては従来どおり薬剤を内側にして2枚組み合わせれば良いと思いますが、6錠分のシートと2錠分のシートは重ねるのではなく、6錠+10錠+10錠+2錠という順番になるようにして、かつ6錠分のシートと2錠分のシートの薬剤が見える状態で重ねて輪ゴムでとめるのが良いと考えました。
この方法では、10錠シートについては薬剤が内側になっているので輪ゴムをしたままでは監査しづらいですが、小さなシートが薬剤の見える状態で外側にとめられているので、監査は格段に楽になります。
確かに、処方されている薬剤の錠数でシートの組み方が変わってきてしまうので、すべての場合に使える方法ではありません。しかし、小さなシートをできるだけ薬剤が見える状態にして輪ゴムでとめる方法は、調剤過誤防止に結構有効だと思っています。
また服薬指導時に患者さんに薬をしっかり確認してもらえるので、私は可能な限り実践するようにしています。
もちろん監査時だけではなく、ピッキング時にもシートに記載されている薬剤名・規格をしっかり確認することが大切です。今回、2錠のみ別規格が混入してしまった理由はいくつか考えられますが、ピッキング時にミスに気がつけば調剤過誤を防ぐことができます。
どんなに忙しくても、また業務に慣れていて棚の薬剤名を確認しないでピッキングする自信があっても、しっかり薬剤名・規格を処方せんと照らし合わせて確認しながらピッキングをすべきであると考えます。
今回、調剤過誤の原因となったチラーヂンS錠25μgは50μg錠の隣に配置されていました。両剤の薬剤ケースには「規格違いあり!」と大きな札が貼ってあったのですが、見慣れてしまうと札には注意しなくなってしまうものです。そこで、札を作り直すことが他の薬剤師から提案されました。
もっとも、ただ単に札を貼るのではなく、札をラミネート加工し、フタのようにしてケースに貼り付け、簡単には薬剤を取り出せないように工夫するという提案でした。実際この方法を採用したところ、フタを作るのに手間はかかりましたが、簡単に薬剤を取り出せなくなったため、調剤過誤は若干減ったように感じています。
この調剤過誤でピッキング者がミスをしたのは、チラーヂンS錠50μgのケースに25μgが混入していたからだ、という可能性も否定できません。というのは、後日、チラーヂンS錠50μgのケースに25μgが混入しているのを他の薬剤師が発見したからです。
おそらく、ピッキングミスをした人が薬剤を戻し間違えたのでしょう。
しかし、ピッキングミスをするとだれでもあわててしまうものです。忙しい時間帯には特にそうです。そんな状態で取り間違えた薬剤を戻すと、戻し間違いが生じやすくなります。そこで、ピッキングミスをしたら、ミスした本人ではなく第三者が時間のある時に薬剤を棚に戻すということになりました。
具体的には、ピッキングミスに気づいた時点で誤っている薬剤を専用のトレーに入れ、患者さんの少ない時間帯に当番の薬剤師が薬剤を棚に戻す、ということになりました。
この方法には3つのメリットがあります。まず、落ち着いた状態で薬剤を戻すので戻し間違いが少なくなります。
そして、私たちの薬局ではインシデントをノートに記録して情報を共有しているのですが、インシデントの記録漏れが少なくなりました。さらに、インシデントの記録が充実するようになったので、ピッキングミスを起こしやすい薬剤の傾向を調べることができるようになりました。
そして実際、把握できたピッキングミスの傾向をふまえて、薬剤の棚の配置をだいぶ変えました。
ピッキングミスで多かったのは、やはり規格違いの薬剤をピッキングしてしまうというパターンでした。
これについては、前述のように薬剤ケースにフタをつけることでピッキングミスを減らすことができました。
そのほかに多かったのは、薬剤名の似ているものをピッキングしてしまうというパターンでした。中には「ついうっかり隣や上下のケースから薬剤を取ってしまった」というものもありました。
これらのミスは、ピッキング時に薬剤ケースをしっかり目で確認していないことが原因であると考えられました。そこで、思い切って薬剤を50音順ではなく薬効別に並び替えることにしました。並び替えは非常に大変で、2日程かかりました。
また配置を覚えるまでは薬剤を探して右往左往することもありました。そのため配置を変更してしばらくの間、提案者である私は他の薬剤師からかなりブーイングを受けました。
しかし、ピッキング時に薬剤ケースをしっかり確認するようになったので、ピッキングミスは激減しました。皆がそのことに徐々に気づき始め、「配置を変更してよかったね」と言われた時には、本当にうれしかったです。
ただ、最近はジェネリック医薬品の処方や在庫が増えてきたため、薬効別で並べてあるとついうっかり先発品を誤ってピッキングしてしまうこともあります。
また、PTPの外観が先発品とそっくりなジェネリック医薬品もたくさんあるので、私が犯したチラーヂンS錠の調剤過誤と同じような調剤過誤が発生する可能性が否定できません。
確かに先発品からジェネリックに変更になった際に外観が大きく変わると、「今までと全然違うお薬だから飲みたくない」といってコンプライアンスが悪化する患者さんもいます。
そのため、私の勤務する薬局ではできるだけ先発品と同じような外観のジェネリック医薬品を採用しているのですが、調剤過誤防止という点では好ましくないかもしれません。
今後、ジェネリック医薬品が今まで以上に世の中に浸透し、「ジェネリック医薬品は外観が異なっても有効成分は同じ」ということが当たり前になれば、もっと安全でミスの少ない業務を行うことができるようになると思います。
参考資料
日経メディカル チラーヂンS錠50μg
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/24/2431004F1056.html
日経メディカル チラーヂンS錠25μg
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/24/2431004F2052.html
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