抗生剤と一緒に処方されていたラックビー微粒Nを、思い込みでビオフェルミンR散で調剤してしまう調剤過誤が発生

■作成日 2018/5/7 ■更新日 2018/5/8

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は、30歳代前半の男性薬剤師です。
勤務しているのは大手チェーン薬局なので異動が多く、ドラッグストアから調剤専門店までいろいろなタイプの店舗を経験しています。

 

今回は、私の自宅近くの総合病院が院外処方せんを発行することになったので、新規店舗の立ち上げスタッフとして、総合病院近くにできた調剤店舗に異動になりました。その店舗のスタッフの中で、調剤経験が一番長いのは私でした。

 

管理薬剤師は50歳代の男性薬剤師でしたが、薬剤の管理・発注などは当面私の担当ということになっていました。

 

ちなみに、開店前の予想では1日の処方せん枚数は120枚程度であったことから、常勤の薬剤師数は6人になっていました。しかし、実際は1日の処方せん枚数は半日で150枚を超えており、薬剤師6人では業務をとどこおりなく遂行するのが困難な状態でした。

 

また、当然のことながら新規の患者さんばかりなので確認事項なども多く、薬剤師はもちろん事務職員のストレスも過大なものとなっていました。

 

今回報告する調剤過誤は、私の思い込み調剤により発生しました。門前の総合病院からの処方に慣れていなかったとはいえ、注意すれば防ぐことのできた調剤過誤だったので、とても反省しています。

 

患者さんは4歳の男の子でした。小児科からの処方で、抗生剤と一緒にラックビー微粒Nが処方されていました。

 

後から知ったのですが、当時この病院では耐性乳酸菌製剤の採用がなく(数カ月後に採用になりましたが)、抗生剤と一緒に処方される整腸剤はラックビー微粒Nのみでした。

 

しかし、私はそんなことはまったく知らず、抗生剤が処方されていたことから、在庫してあったビオフェルミンR散を思い込みで調剤してしまったのです。

 

ビオフェルミンR散は未開封であったため、私が封をあけ、散剤瓶に移し替えました。そのとき「どうして未開封なんだろう?」と一瞬思ったものの、あまり気にしないで調剤を行ってしまいました。

 

なお、未採用薬であるはずのビオフェルミンR散が在庫されていたのは、他薬局で誤発注してしまったビオフェルミンR散を管理薬剤師がもらってきたからだったそうです。

 

管理薬剤師は総合病院の採用品をしっかり確認せず、また、まさかビオフェルミンR散が未採用品だとは思わず、散剤の在庫棚においておいたそうです。

 

発注担当者である私が、病院の採用品や薬局の在庫を把握していなかったことも問題ですが、管理薬剤師のずさんな在庫管理も、今回の調剤過誤を誘発した一因だと思っています。


監査者が投薬しようとしたところ、受取人である患者家族が不在。その後、別の者が投薬・服薬指導

私は調剤後、監査・服薬指導を担当していた管理薬剤師に薬剤の入ったトレーを渡しました。管理薬剤師は私の調剤ミスに気づかず、そのまま投薬カウンターへ向かいました。

 

しかし、患者さんも患者さんの家族も不在だったため、事務職員に声をかけて調剤室に戻ってきました。

 

その数分後、患者さんの家族が戻ってきたと事務職員が調剤室に報告に来ました。しかし、私は他の処方の調剤中で、管理薬剤師は別の処方を監査している最中でした。

 

すると、管理薬剤師が経験の浅い若い女性薬剤師に向かって「それ、俺が監査したヤツだから出しておいて!」と怒鳴ったのです。怒鳴られた女性薬剤師はちょっとビクついた様子でしたが、トレーの中身を確認しはじめました。

 

そこでさらに管理薬剤師が「だから監査してあるってば!出せって!」と怒鳴ったのです。

 

女性薬剤師はあわてて投薬カウンターに向かい、患者さんのお母さんに服薬指導をしました。管理薬剤師からすれば、女性薬剤師の行動はのんびりとしていて「患者さんをムダに待たせている」と感じたのかもしれませんが、怒鳴ったりせず彼女に任せておけば調剤過誤は未然に防ぐことができたかもしれないのに…と思うと、本当に残念です。

 

調剤過誤発覚はその日の夕方、発注時に調剤過誤に気づく

 

調剤過誤が発覚したのは、その日の夕方でした。発注のために出庫履歴をチェックしているときに、私が気づいたのです。

 

出庫履歴の中にビオフェルミンR散がないことに気が付いた私は、まず事務職員の入力ミスを疑いました。

 

そこで、男の子のお母さんに服薬指導をした薬剤師に確認をしたところ、「すみません。今日はすごく患者さんが多かったので…まだその子の薬歴は書けていないんです。」と申し訳なさそうに言われました。

 

私は彼女から薬歴を受け取り、処方せんとレセコンの入力内容をチェックしました。そして処方されていたのはラックビー微粒NであってビオフェルミンR散ではないことを知り、同時に自分が調剤過誤を出したことを知りました。

 

私はあわてて管理薬剤師に報告し、処方通りの薬を調剤して患者さん宅に電話をしました。患者さんのお母さんに事情を説明し、謝罪したところ、病院から帰った患者さんは疲れてぐっすり眠ってしまったため、結局まだ薬を飲んでいないとのことでした。

 

「よかった」と思いつつ私はすぐに患者さん宅に向かい、正しい薬を患者さんのお母さんにお渡しし、何度も謝罪をして薬局へ帰ってきました。

 

薬局に着くと閉店時間を過ぎていました。早く薬剤の発注をしなければ、とあせって調剤室に戻ると、管理薬剤師の大きな声が聞こえてきました。問題の薬を投薬した女性薬剤師を叱っている声でした。「どうしてしっかり監査しなかったんだ!他の薬剤師に謝罪に行かせて!本当はお前のミスなんだぞ!」という内容のことを言っているようでした。

 

思わず私は「それは違う。」と管理薬剤師と女性薬剤師の間に入って言ってしまいました。管理薬剤師は不愉快な顔をしましたが、自分より調剤経験の長い私の意見は聞く気があるようでした。

 

そこで、今回の調剤過誤は私の思い込み調剤が原因であること、監査を行ったのは他でもない管理薬剤師であること、女性薬剤師が監査をしようとしたら怒鳴って早く投薬するように言ったのも管理薬剤師であること、確かにラックビー微粒NとビオフェルミンR散は色が微妙に違うけれど色の濃い抗生剤(今回の場合はメイアクトMS小児用細粒10%)と混ざってしまうと色の違いが判別しづらいこと、今回の調剤過誤について責められるべきなのは調剤者である私自身と監査者である管理薬剤師であること、などを淡々と述べました。

 

管理薬剤師も女性薬剤師もしばらく黙ったままでしたが、管理薬剤師は怒りがおさまったのか、「わかった。悪かった。」と言って、帰ってしまいました。女性薬剤師は「すみません。私が監査をしていれば…。」と言っていましたが、私が「あの人(管理薬剤師)は気が短いけど、今回の件は自分が悪いってわかったみたいだから、大丈夫だよ。」と言ったところ、ホッとしたように帰っていきました。

 

新規店舗の立ち上げで、だれもがピリピリしているところに発生した調剤過誤だったので、管理薬剤師は頭に血が上ってしまったのでしょう。

 

その原因を作ってしまったのは私なので、管理薬剤師にも、女性薬剤師にも、そしてその一部始終を見ていたスタッフ全員に本当に申し訳ないと思いました。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.処方せんをしっかり確認しながら調剤を行う。思い込み調剤をしない

 

今回の調剤過誤は、私の思い込み調剤が原因で発生しました。抗生剤と一緒に処方される整腸剤は耐性乳酸菌製剤である、という先入観から処方せんをよく確認せず、調剤してしまいました。

 

当たり前のことですが、調剤時には処方せんをしっかり確認して調剤を行わなければならないと思いました。特に、異動直後の場合や院外処方せんが発行されはじめた直後などは、処方の「クセ」に慣れていないためにミスをしがちです。

 

初心に戻り、しっかり処方せんを確認しながら調剤業務を行いたいと思います。

 

調剤過誤防止策2.監査者は、散剤監査ジャーナルをしっかり確認する。適宜チェックなどの書き込みを行う

 

そして、監査も調剤同様処方せんをしっかり確認しながら行わなければなりません。数量のみでなく、計量したものが処方せんの内容と一致しているかどうかを監査しなければなりません。

 

適宜、処方せんのコピーや散剤監査ジャーナルに✓印やマーカーでラインを引くなどする必要もあるでしょう。

 

今回の場合、新規店舗立ち上げにあたり、あちこちの薬局からさまざまなキャリアを持つ薬剤師が集められました。そのため、調剤時や監査時のチェック方法がバラバラであったように思います。

 

どのような方法がベストであるか、というのは明らかではありませんが、少なくとも調剤時や監査時に薬剤名・規格・数量くらいはチェックをしなければダメだと思います。

 

そこで、今後は調剤時には薬剤名・規格に✓をいれ、計量あるいはピッキングする総数を処方せんのコピーに書き込み、監査時には薬剤名・規格がピッキンングした薬剤と一致していれば✓に◯をつけ、書き込まれた数量についても一致していれば◯で囲むというようにしたいと思っています。

 

もちろん、私一人ががんばっても仕方がないので、管理薬剤師と相談し、統一したチェック方法を導入したいと思っています。

 

調剤過誤防止策3.監査者と服薬指導者が異なる場合は、ざっとでもいいので監査を行う

 

あと、監査者と服薬指導者が異なる場合には、処方内容を把握するためにも再度監査をする必要があると思います。処方内容が重たい場合に再監査を行うと患者さんの待ち時間が長くなってしまいますが、今回のような調剤過誤は今後も発生するかもしれません。

 

一包化の薬剤であれば、すべてではなく用法ごとに2~3包監査すれば十分でしょうし、散剤については散剤監査ジャーナルをチェックするだけでも調剤過誤の発生率は全然違うと思います。

 

患者さんをお待たせするのは非常に心苦しいですが、可能な限り再監査は行いたいと思います。

 

調剤過誤防止策4.薬歴記入時に散剤監査ジャーナルのチェックも行う

 

今回の調剤過誤は薬歴の記入前に発見できたのですが、薬歴記入時に散剤監査ジャーナルなどのチェックをしっかり行うことも大切だと考えます。

 

今回のように、発注時に調剤過誤に気づくのはレアケースだと思います。そのため、薬歴記入時には処方せんの内容とレセコン入力の内容に齟齬がないかをチェックし、必要に応じて散剤監査ジャーナルや一包化した薬剤の記録などのチェックも行うべきだと考えます。

 

もちろんこれらは監査時にチェックすべき内容なのですが、人は必ずミスをするものです。重大な調剤過誤防止のため、また被害を最小限におさえるために、薬歴記入時にもチェックをすることが大切であると考えます。

 

調剤過誤防止策5.人員に余裕がない場合には、窮状をエリアマネージャーや人事担当者に具体的に伝える

 

今回の件で私が残念に思ったのは、スタッフの余裕のなさです。管理薬剤師が怒ってしまったのも、女性薬剤師があわててしまったのも、薬剤師の人数に対して処方せん枚数が多すぎ余裕がなかったことが大きな原因だと考えています。

 

新規店舗立ち上げ時には、処方せん枚数の予測が難しいために薬剤師の過不足が生じることがあります。会社としては異動は最小限におさえたいでしょうし、費用対効果を考えれば最小限の人数で店舗運営をしたいと思うのは当然でしょう。

 

とはいえ、予測と現実があまりにかけ離れている場合には、早急に人員のメンテナンスをしなければ調剤過誤を誘発する可能性がありますし、患者さんの待ち時間が長くなりクレームにつながることも明らかです。

 

今回の調剤過誤が発生したのは2月で、風邪やインフルエンザの処方だけでなく花粉症の処方も増え始める非常に忙しい時期でした。この時期の処方せん枚数にあわせて人事異動をすると、のちのち人員過剰になる可能性はありますが、半日で150枚の処方せんを6人の薬剤師で処理するのは非常に困難です。
そこで、私はエリアマネージャーを通じて窮状を訴えました。ただ「忙しい」と言っても聞いてはもらえないと思ったので、処方せん枚数と必要と考えられる人員を具体的に伝えました。

 

すると、翌日からエリアマネージャーが、数日後には本部から薬剤師が2人応援に来てくれるようになり、数週間後には派遣薬剤師が3人派遣されてきました。

 

派遣薬剤師が来てからは、エリアマネージャーも本部の薬剤師も本来の職務に戻りましたが、総勢9人体制で業務にあたることができるようになり、ストレスがだいぶ少なくなりました。

 

今後も、本部の方針に甘んじるだけではなく、積極的に連絡をとり、スタッフの働きやすい環境を整えたいと考えています。

 

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参考資料

 

日経メディカル ラックビー微粒N基本情報
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/23/2316014B1030.html

 

日経メディカル ビオフェルミンR散
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/23/2316004B1036.html

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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