ビソプロロールフマル酸塩錠0.625mgを処方されていた80歳代の患者さんに、誤ってビソプロロールフマル酸塩錠2.5mgを交付

■作成日 2018/6/4 ■更新日 2018/6/4

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は30歳代の調剤薬局薬剤師です。
働き始めて今年でちょうど10年目になります。

 

勤務している薬局はチェーン店なのですが、異動が少ないため一か所で長く働いています。

 

現在勤務しているのは総合病院の門前薬局で、1日に150枚前後の処方せんを受け付けています。薬剤師は7人いるのですが非常に忙しく、いわゆる「ヒヤリ・ハット」事例に遭遇することも少なくありません。

 

今回ご報告する調剤過誤も「ヒヤリ・ハット」事例に近いものですが、自分に対する戒めのためにもご報告させていただきます。

 

被害にあわれた患者さんは、80歳代の女性です。心臓が悪く、複数の薬剤を服用中の方でした。

 

たくさんの薬を飲んでいることから一包化を提案したこともあったのですが、薬の管理は家族の女性(お嫁さん)がしているとのことで、一包化は不要とのことでした。

 

もっとも、ご家族も60歳代ということで間違えてしまうのが怖い、とのことだったので、一包化はしないものの、薬袋を「朝食後」「昼食後」「夕食後」にわけ、用法ごとに薬をPTPシートのまま入れていました。

 

この日もいつもと同じように、私はピッキングされた薬剤を用法ごとに輪ゴムでとめ直し、トレーに並べて投薬カウンターに向かいました。

 

そして患者さんと一緒に、朝食後の薬は7種類、昼食後の薬は2種類、夕食後の薬は4種類あることを確認し、それぞれの薬袋に薬を入れてお渡ししました。

 

患者さんは「いつもありがとうね。こうして分けてあると面倒がなくていいってお嫁さんも喜んでいるよ。」とにっこりしながら言いました。

 

 

この患者さんはご自宅が薬局のすぐ近くということで、悪天候でない限りシルバーカーを押して帰宅する方でした。この日は天気が良く、お散歩日和の日だったので、「今日は帰るのも楽でいいわ。」と言いながら、シルバーカーを押して自動ドアに向かいました。

 

私も一緒にドアへ向かい、ドアがしまってしまわないよう押さえながら「お大事にしてください。」と患者さんを見送りました。

 

しかし今思うと、患者さんがお元気そうであったことや薬の内容に変更がなかったこと、また薬の管理はご家族だから大丈夫だろう、という思いから、服薬指導が少しいいかげんになっていたかもしれません。

 

また、薬を用法ごとに分けなければならないことから投薬準備に時間がかかり、「1人の患者さんに時間をかけすぎてはいけない。」というあせりの気持ちがあったことも否めません。

 

患者さんが帰った直後、私は自分の行いや考えを非常に後悔する羽目になったのでした。


投薬後、処方せんのコピーにメモを残している最中に調剤過誤に気がつく!すぐに患者さんを追いかけて正しい薬をお渡し

患者さんを見送った後、私は投薬カウンターに戻りトレーや薬歴を片付けました。
そして処方せんのコピーに患者さんとの会話の内容を軽くメモしようとして「あれ?」と思ったのでした。

 

処方されている薬は一般名処方と商品名処方が混在していたのですが、その中の一つが「メインテート錠2.5mg 0.25錠 分1 朝食後 56日分」となっていたのです。

 

メインテート錠2.5mgのところには2重線がひかれており、かわりに「ビソプロ2.5mg」と書き込みがありました。実際、ピッキングされていたのはビソプロロールフマル酸塩錠2.5mg56錠で、私はそれをそのままお渡ししてしまいました。

 

しかし、処方の1回量は2.5mgの0.25錠、すなわち0.625mgです。そして、この患者さんは以前から「メインテート錠2.5mg 0.25錠」という処方に対してビソプロロールフマル酸塩錠0.625mgをお渡ししていたのです。

 

「間違えた!」と気がつき、私はビソプロロールフマル酸塩錠0.625mgを56錠握りしめて患者さんの後を追いかけました。

 

患者さんはすぐ近くの横断歩道で信号待ちをしていました。私は大きな声で患者さんに呼びかけたのですが聞こえなかったようで、信号が青に変わると横断歩道を渡り始めてしまいました。

 

しかし、横断歩道の途中で私に気がついて立ち止まったら、車にひかれてしまうかもしれません。私はそれ以上あえて声はかけず、黙々と走り続け、横断歩道を渡りきったところで何とか患者さんに追いつくことができました。

 

歩道の広い部分で患者さんにはシルバーカーに腰掛けてもらい、私は先ほど渡した薬が間違っていたことを伝え、お詫びしました。患者さんは「いや、間違ってないと思うけどねぇ…。」と言いつつも薬を出してくれました。

 

そして、薬袋に間違って入っていたビソプロロールフマル酸塩錠2.5mgと私が差し出したビソプロロールフマル酸塩錠0.625mgを見比べつつ、「言われてみると、少し(PTPシートの)色やら文字やらが違う気がするけど…。

 

裏側は色が違うけど、表側は違いがよくわからないねぇ。」と困ったように言いました。

 

私が間違って薬の成分が4倍入っているものを渡してしまったことを説明すると、「そうなのか。同じように見えても、薬は難しいねぇ。教えてくれてありがとう。薬剤師さん。」と言ってくれました。

 

ご自宅が目の前ということで「お礼にお茶でも…。」と誘われたのですが、ミスをした上にお茶までいただくわけにはいきません。丁重にお断りして、患者さんをご自宅までお送りして薬局へ戻りました。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.薬剤が多くても、例外的な作業が多くても、監査はしっかり行う

 

今回の調剤過誤は、私のケアレスミスだと思います。薬剤がたくさん処方されている患者さんで、一包化ではないものの用法ごとに薬袋を分けて薬剤を入れなければならず、作業が通常より煩雑であったことから監査時にピッキングミスを見落としてしまいました。

 

処方せんのコピーに「ビソプロ2.5mg」というメモがあったことには気がついていましたが、処方せんに記載されていた「0.25錠」を見落とし、ピッキングされていたビソプロロールフマル酸塩錠2.5mg56錠をそのまま朝の薬袋に入れてしまいました。

 

私が監査時に使用した処方せんのコピーを見直したところ、薬剤名と規格の部分には下線やチェックが入っていましたが、用量用法の部分にはほとんど何もチェックが入っていませんでした。これでは監査が行われたのかどうかもよくわかりませんし、万が一何か事故があった時に「監査がなかった」と言われても反論できないと思いました。

 

今回は投薬直後に調剤過誤に気がつき、患者さんが薬を使用する前に薬を交換することができましたが、毎回このようにタイミングよく調剤過誤を発見できるとは限りません。

 

どんなに忙しくても、処方されている薬剤数が多くても、通常とは異なる業務が必要であっても、しっかり監査を行わなければならないと思いました。そして監査時には、処方せんのコピーを確認しながら、薬剤名・規格・用量・用法までチェックし、監査したことが明らかとなるように記録を残さなければならない、と反省しました。

 

特に今回のように、ジェネリック医薬品に変更してなおかつ規格まで変更する場合には、変更後の薬剤名と規格まで(今回の場合ならば「メインテート錠2.5mg0.25錠→ビソプロ0.625mg1錠」という感じで)処方せんのコピーに記録を残す必要があると考えています。

 

調剤過誤防止策2.可能な限り、患者さんと一緒に薬剤を確認する。商品名や一般名だけではなく、規格や剤形まで確認する

 

私は、原則として服薬指導時に患者さんと一緒に薬剤を確認するようにしています。しかし処方されている薬剤が多い場合は、商品名や一般名の確認はするものの規格や剤形までは確認しないケースが多かったように思います。

 

規格違いや剤形違いのない薬剤はそれで十分だと思いますが、今回のように複数の規格がある薬剤や、剤形違いがある場合にはそれでは不十分だと思いますし、今回のような調剤過誤が生じやすいと思います。

 

すべての薬剤を規格や剤形まで確認するのは困難ですが、規格違いや剤形違いがあるとわかっているものに関しては、これからはできるだけ確認していこうと思います。

 

ちなみに、今回の調剤過誤の原因となったビソプロロールフマル酸塩錠は、私たちの薬局では日医工のものを採用しています。

 

日医工のビソプロロールフマル酸塩錠は、0.625mg錠と2.5mg錠のPTPシートの外観が似ている上に、錠剤の大きさはほぼ同じです。添付文書で調べたところ、直径はどちらも6.0mm、厚さは0.625mg錠が2.6mmで2.5mg錠が2.9mmです。

 

目の悪い人、特に高齢の方はPTPシートでも錠剤本体でも見分けがつかない可能性があります。錠剤の刻印は確かに違いますが、そこまで見る人はほとんどいないと思います。

 

このように一般の人では区別することが難しい薬剤もあるので、これからは可能な限り薬剤の規格や剤形まで患者さんと一緒にしっかり確認したいと思います。
また、今回は門前の総合病院からの処方でしたが、それ以外の医院や病院からの処方については思い込みで使い慣れている薬剤を誤って調剤してしまう可能性もあります。門前の病院以外の処方については、同様の注意が特に必要であると考えています。

 

調剤過誤防止策3.投薬直後にもう一度、ざっと処方内容などを見直す

 

今回の調剤過誤は、患者さんが薬を服用する前に薬を回収することができました。たまたま患者さんのご自宅が近く、歩いてご帰宅であったために走って追いつくことができたことも幸いしました。

 

このようなケースはまれだと思いますが、調剤過誤があっても患者さんが誤った薬を服用してしまう前に過誤に気づき、薬を回収することはとても大切だと思います。

 

私はたいてい投薬直後に患者さんとの会話や引き継ぎ事項などをざっと処方せんのコピーにメモをするのですが、この時に処方内容も一緒に見直せば、調剤過誤があってもすぐに気がつくことができます。

 

忙しい時間帯は難しいですが、患者さんが薬を服用する前、できれば夕食の時間前までにはその日に服薬指導した処方についてはチェックできると良いと思います。

 

処方の内容が複雑なものについては薬歴の記録を後に回してしまいがちですが、そういった処方こそ積極的に早めに仕上げる努力も必要かもしれません。

 

私たちの薬局では1日を通じて患者さんが来るのですが、午前の患者さんが落ち着く午後1時半過ぎから午後の診察が始まる午後3時くらいまでは若干余裕があります。これからはその時間に、書くのに時間がかかる複雑な処方の薬歴を書こうと思います。

 

実は今までは、とりあえず数をこなそうという考えで、書きやすい薬歴を優先して書いていました。そして午後の患者さんが来局しはじめるころにはほとんどの薬歴が終わっているのですが、書きづらい薬歴が2~3件残っていることが多いという状態でした。しかし、書きやすい薬歴は後に残しておいてもそれほど時間はかかりません。

 

これからは薬歴を書く順番にも気をつけようと思いました。

 

薬歴記入時にはもちろん、処方内容やレセコン入力内容、投薬した薬剤などについてチェックする必要があると思っています。複雑な処方は事務職員が行う調剤録のチェックにも時間がかかるので、こういった処方の薬歴を早く仕上げることは事務職員の負担軽減にもつながると考えています。

 

調剤過誤防止策4.規格違い・剤形違いのある薬剤については、あらゆる方法で調剤過誤防止の努力をする

 

今回、調剤過誤の原因となったビソプロロールフマル酸塩錠は、0.625mg・2.5mg・5mgの3規格があります。5mgはPTPシートの色が全く異なりますが、今後も調剤過誤に注意しなければなりません。

 

もちろん、ほかにも規格違い・剤形違いの薬剤は薬局内にたくさんあります。こういった薬剤には引き出しや保管場所に「規格違いあり注意」「剤形違いあり注意」といった札をつけるようにしていますが、それでもピッキングミスは度々発生しています。

 

ピッキングミスの多いものは、各薬剤師がピッキング時に声を出したり指差し確認をしたりしながら注意をしていますが、それでもミスをゼロにすることは難しいです。

 

そこで、今後、ピッキングミスの多いものについては1日の最後に棚卸をすることも考えなければならないと考えています。

 

その日のうちに在庫のズレに気がつくことができれば、最悪の事態は避けることができると思います。大変な作業になるかもしれませんが、入出庫のあったものに限って行えば品目数はそれほど多くならないと思うので、やる価値はあると思います。

 

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参考資料

 

日経メディカル ビソプロロールフマル酸塩錠2.5mg「日医工」
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/21/2123016F1131.html

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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