透析治療中の60歳代の患者さんにアレグラ錠60mgが2錠分2で処方されていたものの、透析治療中であることを見落としそのまま薬を交付
■作成日 2018/6/22 ■更新日 2018/6/22
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は、20歳代の派遣薬剤師です。
大学卒業後、一旦小さな調剤薬局に就職したのですが、いろいろな職場を経験してキャリアアップしたいと思い、派遣薬剤師となりました。
現在の職場は、医療モール内の調剤薬局です。1日の処方せん枚数は80枚程度ですが、さまざまな診療科の処方せんを経験することができるので非常に勉強になっています。勤務時間は週40時間です。
私はこの薬局に派遣されて間もない頃に、ある調剤過誤を出してしまいました。
患者さんは、透析治療中の60歳代の女性でした。いつもは市内の比較的大きな透析病院に通われているのですが、ときどき医療モール内の眼科などを受診しているという方でした。
今回、患者さんは体のひどいかゆみのために皮膚科を受診したとのことでした。診察の結果、おそらくダニによるアレルギーが原因であろうと言われたそうです。皮膚科から処方されていたのは、アレグラ錠60mgが2錠分2でした。
アレグラ錠はジェネリック医薬品があるので変更を提案したのですが、「ジェネリックってちょっと不安だわ。」ということだったので処方せんどおりのアレグラ錠を用意しました。
患者さんにアレグラ錠が処方されるのは初めてだったので、私は効能用法、気をつけるべき副作用の初期症状などをしっかり伝えました。
また、アレルギーの原因となっているダニについて相談を受けたため、布団の干し方や掃除の仕方などをインターネットで検索し、説明を行いました。
さらに、患者さんが私が新顔であることに気がつき、私の話し方(おそらく訛り)から同郷であることもわかり、だいぶ話が盛り上がりました。
たまたま他の患者さんの少ない時間帯であったことから、私も患者さんも周囲に気を使うことなくたっぷり話をすることができたので、楽しい気分のまま私は服薬指導を終わり、患者さんを見送りました。
しかし、話に夢中になっていて私は患者さんが透析治療中であることを見落としていたのです。また後にわかったことですが、透析病院からジェネリック医薬品は極力使わないよう患者さんに指示が出ていたそうです。
添加物や薬物動態が先発品と必ずしも同じでないことから、予期せぬ副作用が生じる可能性があるからでしょう。「ジェネリックが不安」と言った患者さんの言葉の真意をしっかり受け止めていれば、今回の調剤過誤は発生しなかったかもしれません。
本当に悔やまれます。
患者さんが透析治療中であることに気がついたのは薬歴記入時。疑義照会を行ったところ用量変更となる
患者さんが透析治療中であることに気がついたのは、その日の夕方の薬歴記入時でした。患者さんの併用薬や病歴などを再チェックしているときに「透析治療中」の記録に気がついたのです。
念のためアレグラ錠の添付文書を確認した私は血の気が引きました。
添付文書には、過量投与の項に「本剤は血液透析によって除去できない。」とあり、さらに腎機能障害患者における体内動態の項には「透析患者におけるフェキソフェナジンのCmaxは健康成人に比し、1.5倍高く、平均消失半減期は1.4倍長かった。」とあったのです。
私は急いで患者さんのご自宅に電話をしました。
15コールほどしてやっとつながったので、まず私は透析治療中であるかどうか、またそれを医師に伝えたかどうかを確認しました。
患者さんによると、透析治療中だけれども今回医師にはその旨を伝えていない、とのことでした。だいぶ以前だけれど言ったことがあるような気がするから…ということで、医師にはあえて伝えなかったそうです。
そこで、先程渡したアレグラ錠について医師に確認しなければならないことがあるということを説明し、医師からの回答があるまでは薬を飲まないようお願いしました。
患者さんは「多分、大丈夫だと思うわよ。」と笑っていましたが、疑義照会しないわけにはいきません。
続いて私は、処方元の皮膚科医に疑義照会を行いました。医師に患者さんが透析治療中であることを伝えたところ「え?そうなの?」と大変驚いていました。患者さんがかゆみを訴えている部分が主に背中や腰であったため、シャントには気づかなかったそうです。
医師は「ちょっと内容を見直すから」と電話を切り、その数分後に「量を減らします。アレグラ錠は30mgで。用法は2錠分2でお願いします。」と処方内容変更の連絡をくれました。
医師によると、クリニックの方には患者さんが透析治療中であるという記録はなかったそうです。
「教えてくれてありがとう。」と医師には言われましたが、私が薬歴をしっかり確認していたら投薬前に疑義照会ができたはずです。医師にも患者さんにも、すまない気持ちで一杯になりました。
患者さんには医師からの回答をすぐに電話で伝え、私はアレグラ錠30mgを持って患者さんのご自宅へうかがいました。そして、透析治療中であるのに注意が必要な薬を誤って交付してしまったことを謝罪しました。
加えて、医師には透析治療中であることを可能なかぎり伝えるようお願いしました。
患者さんは「私、透析していることをあまり知られたくないからいつも長袖を着ているし、腕は出さないようにしているの。皮膚科でも、背中や腰は見せたけど腕は隠していたのよね。お医者さんは知っているものと思っていたけれど、やっぱり毎回言わないとダメなのね。」と悲しそうに言いました。
ひょっとしたら、私の口調がややきつかったのかもしれません。
自分の不注意で患者さんを危険にさらしてしまったのに、患者さんに悲しい思いをさせてしまって、本当に自分の至らなさを反省しました。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回の調剤過誤は、私が薬歴に記載されていた「透析治療中」という注意事項を見落としたことが原因で生じたと思っています。
患者さんに、ジェネリック医薬品の提案をしなければならなかったこと・初処方の薬であるから効能用法注意点をしっかり伝えなければならないこと・ダニに関する相談を受けたこと、などから頭が一杯になり、さらに、同郷であることがわかって話が盛り上がってしまったことなどから、薬歴の確認がおざなりになってしまったのでしょう。
ピッキング時や監査時に、患者さんの薬歴を確認して属性までチェックすることは時間のあるときでも難しいと思いますし、忙しい時間帯であればなおのことチェックは難しくなると思います。
そのため、患者さんの属性(今回のように透析治療中であるか否かだけではなく、アレルギー歴、副作用歴など)のチェックは、服薬指導担当者がするべきであると考えます。
これからは服薬指導前にしっかり患者さんの情報に目を通し、服薬指導に備えなければならないと考えています。
なお、今回の調剤過誤を受けて、薬局内で透析治療中の患者さんに関する情報を共有することになりました。
具体的には、電子薬歴のポップアップ画面に赤字で「透析治療中」との記録をすることになったのです。今までも透析治療中の患者さんについては、属性欄に✓をつけることになっていたのですが、画面をスクロールしなければ確認できず不便でした。
しかし、患者さんの情報を呼び出したときに赤字で「透析治療中」と書かれたポップアップ画面が立ち上がれば必ず目につきます。
また、ポップアップ画面をチェックして消さなければ、それ以降の薬歴入力やレセコン入力内容のチェックができないようになっているので確認しないわけにはいきません。
こちらの薬局では透析を受けている患者さんの数はあまり多くありませんが、多くないからこそ見落としがちです。しかし、ポップアップ画面の設定で、透析患者さんの見落としはほぼなくなりました。
透析中の患者さんへの投与に注意が必要な薬剤、と言われて薬局内の該当薬剤をすべてあげることのできる薬剤師は少ないと思います。私もそうです。
そこで、透析中の患者さんへの投与に注意が必要な薬剤が記載された一覧表を作ることになりました。とはいえ、在庫しているすべての薬剤について添付文書を調べたりメーカーに確認をとったりすることは不可能です。
そこで、日本腎臓病薬物療法学会のホームページに掲載されていた「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」を利用することにしました。
もっとも、すべての薬剤が網羅されているわけではないので、同じような一覧表をインターネット上でいくつか探し出し、在庫している薬剤について一覧表を作成することになりました。
日本腎臓病薬物療法学会のホームページに掲載されていた一覧表には、透析性の有無や禁忌だけではなく、実際に用量変更する場合にはどのようにするかなども記載されています。
また、禁忌の場合には禁忌の理由も記載されているので、とても便利です。疑義照会時に医師に処方提案を求められたとしても、まごつくことなくすぐに答えることができると思います。
これらの一覧表に掲載されていない薬剤については、その都度添付文書やメーカーへの確認が必要でしたが、今までより安心して調剤業務に臨むことができるようになりました。
また調剤室内でも、透析治療中の患者さんに使いづらい薬剤については、薬剤棚や引き出しに注意喚起のシールを貼ることになりました。
透析治療中の患者さんに禁忌の薬剤については赤い枠の中に腎臓のイラストが書いてあるシール、用量変更が必要な薬剤については青い枠の中に腎臓のイラストが書いてあるシール、その他の注意が必要な薬剤(例:併用薬によっては投与禁忌になるもの、など)については黒い枠の中に腎臓のイラストが書いてあるシールを用意しました。
そして、シールと作った一覧表をリンクさせるために、一覧表の該当薬剤の部分をそれぞれピンク色・水色・グレーで色分けしました。
こちらの薬局は電子薬歴を使っていますし、薬歴から添付文書を確認することも可能です。
しかし、投薬カウンターで薬剤師が難しい顔をしてパソコンの画面を見ていると患者さんが不安になりますし、薬剤師4人に対して投薬カウンターが3つしかないので患者さんの多い時間帯にはできるだけ投薬カウンターをあけておきたいとも思います。
そこで、調剤室内でも注意が必要な薬剤をチェックできるようにシールを貼ることになったのです。
調剤室内で注意が必要な薬剤がチェックできれば何かと便利ですし、疑義照会を患者さんの目の前で行って患者さんを不安にさせることも少なくなります。
今のところシールがあって「すごく助かった!」という事例はあまり経験していませんが、これからじわじわと効果が上がると思っています。
今回、調剤過誤の被害に合われた患者さんは透析治療中でしたが、そのことを他の人に知られたくない、と強く思っているようでした。そのため、ジェネリック医薬品に対する不安を口にしつつもその理由をはっきり言わなかったのでしょう。
薬局に来局する患者さんは、何らかの病気やケガを抱えているのが当たり前です。
しかし患者さんの中には病気やケガのみならず、病院や薬局に通うことすら恥ずかしいと感じている方もいらっしゃいます。服薬指導にあたっては、そんな患者さんのデリケートな気持ちに配慮しなければならないと思っています。
また、患者さんが口にするちょっとした言葉から、重要な情報を得ることも不可能ではありません。
今回の場合であれば、ジェネリック医薬品を希望しないと言った時点で薬歴をしっかり確認し、その理由を推し量っていたら、調剤過誤の発生は防ぐことができたかもしれません。
その他、体調変化に関するちょっとした情報から、副作用発生の有無をさぐることも不可能ではないと思っています。
調剤過誤防止に直接結びつけることは難しいかもしれませんが、これからは患者さんと漫然と話すのではなく、患者さんの言葉から患者さんの気持ちや体調変化、治療に関する悩みなどをくみ取る努力をしたいと思っています。
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