当薬局で初めてペンニードル32Gテーパー6mmが処方された患者さんにペンニードル30G 8mmを誤って交付

■作成日 2018/6/22 ■更新日 2018/6/22

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は30歳代後半の調剤薬局薬剤師です。
薬局は総合病院の門前にあり、1日に140枚から160枚程度の処方せんを受け付けています。

 

この薬局では10年以上働いており、患者さんの多くとは顔見知りです。

 

門前薬局なので採用薬は総合病院の方針に沿って決めていますが、時々対応が後手後手になってしまい、あわてることがあります。

 

そのような時は、近隣の他の門前薬局や総合病院で薬剤を借りたりして急場をしのいでいますが、患者さんをおまたせしたり、薬剤によっては(例えば麻薬など)患者さんに薬局を変わってもらったりと迷惑をかけることもままあります。

 

今回ご報告する調剤過誤は、数年前に発生したものです。病院内の採用品が変更になったのですが門前薬局に情報が十分に伝わっておらず、患者さんにご迷惑をかけた事例です。

 

患者さんは50歳代の男性で、糖尿病を患っている方でした。インスリン注射をスタートするということでしばらく入院指導を受けていたそうですが、退院後初めて院外で注射や針の交付を受けるということでした。

 

薬を受け取りに来たのは奥様でしたが、お話を聞くかぎり注射の手順や針の交換も完璧にこなしており、特に問題はないように見受けられました。とはいえ、院外処方は初めてです。

 

注射の種類が間違っていないか、用法や単位数が間違っていないか、次回受診日まで針が足りるか否かをしっかり確認して、お薬をお渡ししました。

 

奥様はあまり内容を理解されていない様子でしたが、「本人がしっかりしているから大丈夫だと思うわ。」とのことでした。なお、針は70本で処方されていたので、1箱を開封せずにそのままお渡ししました。

 

この時、奥様が「あら、薬局では針を箱でくれるのね。病院では小さい袋で渡されていたから、すぐにどこかへ行っちゃうとかで大変そうだったのよ。便利ね。」とおっしゃったのですが、特に深く考えず「では、これからも可能なかぎり箱でお渡ししますね。」と言って薬と一緒に針をレジ袋に入れました。

 

今更ですが、この時箱を開封して針の小包装を確認してもらっておけばよかった、と本当に後悔しています。


調剤過誤発覚は2週間後!患者さんの指摘で判明

調剤過誤が発覚したのは、2週間後でした。
患者さんご本人が薬局へやってきて「病院と薬局では、注射針はちがうの?」と切り出してきたのです。

 

どういうことだろうと思い詳しく話を聴くと、先日お渡しした針の小包装と退院時に使っていた針の小包装が異なること、針の長さも何となく違う気がしたことなどをお話してくれました。

 

そんなはずはない…と思いながら私は前回の薬歴を確認すると、レセコンの入力内容は「ペンニードル30G 8mm」となっています。

 

そこで、ペンニードル30G 8mmの小包装を持って患者さんに見せると、「うん、この黄色い袋の針は薬局さんでくれたやつだよね。でも、病院でもらった針の袋は青色だったんだよ。ほら。」と実物を見せてくれたのです。

 

その小包装はペンニードル30G 8mmの小包装のように黄色く印刷されている部分はなく、全体的に青色でした。

 

私は包装変更があったものだと思い込み、その旨を説明しようとしたのですが、「針の長さが違う気がする」という患者さんの訴えが気になり、小包装の印字を確認して「あっ!」と思いました。そこには「ペンニードル32Gテーパー6mm」と印刷されていたのです!

 

あわてて患者さんが持参した今回分の処方せんを確認すると、そこにはしっかり「ペンニードル32Gテーパー6mm」と記載されていました。ひょっとして、と思い前回の処方せんを引っ張り出して確認すると、そこにもやはり「ペンニードル32Gテーパー6mm」と記載されていました。

 

管理薬剤師に調剤過誤を出してしまったことを伝えると、管理薬剤師が患者さんに調剤過誤の内容を説明し、謝罪をしました。

 

その間に私は総合病院へ行き、ペンニードル32Gテーパー6mmを借りてきました。

 

なぜならその時、薬局にはペンニードル32Gテーパー6mmを在庫していなかったのです。

 

その後、私も患者さんに調剤過誤について謝罪をしたのですが、患者さんは特にお怒りのご様子もなく「やっぱり長さが違うんだよね。短いほうが怖くないっていうか痛くなさそうだから聞いてみたんだけど、これからは短いのをもらえるんだよね。よかった。あ、でも箱で出してね。箱、便利だから。」と安心したように笑っていました。

 

患者さんによりますと、退院時に処方された針が余っていたのでそちらを先に使っており、針が間違っていたことにはしばらく気がつかなかったそうです。

 

箱を開けて初めて小包装が違うことに気がついたものの、注射にはめるのには特に不都合はないし、針の長さもなんとなく長い気がする、という程度だったのであまり気にすることはなかったそうです。

 

ただ、ほんの少し痛みが強くなった気がしたので聞いてみた、ということでした。

 

なお念のため確認したところ、患者さんに健康被害はなかったようです。しかし、針の長さ・太さが違うだけでも患者さんの手技に差が出て効果が変わることもあるそうです。

 

また、たとえ針が同じ太さであっても針が長いほうが患者さんの心理的負担が大きくなることがあり、痛みを強く感じることもあるようです。私の不注意で患者さんに無用なストレスを与えてしまったことを、とても申し訳なく思いました。

 

患者さんはその後も私たちの薬局に来局してくれていますが、毎回のように「針大丈夫?」と確認をしてから薬や針を受け取って帰っていかれます。そのたびに、私は「ごめんなさい」という思いでいっぱいになります。

 

この調剤過誤が判明したその日のうちに、私たちの薬局では過去数か月に処方された針の内容を処方せん原本と付き合わせてすべて確認し直しました。

 

不幸中の幸いと言うべきか、ペンニードル32Gテーパー6mmが処方されていたのはこの時点では当該患者さんだけでした。

 

しかしペンニードル32Gテーパー6mmと並行してペンニードル30G 8mmも処方されていることもわかったため、総合病院にどのような患者さんに対してペンニードル32Gテーパー6mmが処方されるのかを確認しました。

 

すると、「原則として、院内処方の患者さんと、入院して院内で針の処方を受けたことのある方にはペンニードル32Gテーパー6mmを処方しています。」との回答がありました。

 

つまり、入院時に処方する針がペンニードル32Gテーパー6mmであるため、退院した後もペンニードル32Gテーパー6mmを引き続き処方しているとのことでした。

 

一方で外来の患者さんについては、医師が前回の処方をコピーして処方せんを発行することが多く、いまだにペンニードル30G 8mmが継続して処方されているとのことでした。

 

病院としては順次ペンニードル32Gテーパー6mmへ切り替える方針であるとのことでしたが、切り替え時期が明確に決定していないので門前薬局にはその旨を知らせていなかったそうです。

 

病院からは「これからもしばらくの間は2種類のペンニードルの処方が混在することになりますので、気をつけてくださいね。」と軽く注意されたのですが、できれば院外処方を開始する前に門前薬局には採用品の追加・変更を知らせてほしい、と強く不満を感じました。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.門前の病院からの処方であっても、規格はしっかり確認する

 

今回の調剤過誤は、レセコン入力者・ピッキング者・監査者が処方せんをしっかり確認せず、思い込みでレセコンに登録および在庫しているペンニードル30G 8mmを入力・ピッキング・監査してしまったことが原因で発生してしまったと思います。

 

門前の病院以外からの処方であれば、処方に慣れていないことが当たり前なので細心の注意を払って業務を行うのですが、「慣れ」が調剤過誤を誘発してしまった残念な事例といえるでしょう。

 

採用薬について病院からの情報に頼り切ってしまっていることも、原因といえるかもしれません。

 

これからはどんなに慣れている病院からの処方であっても、しっかり入力・ピッキング・監査時にチェックを確実に行い、薬歴記入時や調剤録確認時に最終チェックをしたいと思っています。

 

また、卸の方やメーカーの方たちにも声をかけ、病院で新規採用になった薬剤や材料に関しては情報提供をしてもらおうと思っています。必要に応じて病院の方たちと一緒に勉強会を開催してもらう、というのも良いかもしれません。

 

せっかくですから門前薬局であるというメリットを最大限活かし、調剤過誤を防ぐ努力をしていきたいと思います。

 

調剤過誤防止策2.服薬指導時には、薬剤名・規格・外観などを患者さんや薬を管理する人と一緒にしっかり確認する

 

今回の調剤過誤は、患者さんと一緒にペンニードルの小包装を確認していたら発生を防ぐことができた可能性があります。

 

当たり前のことですが、服薬指導時には薬剤名・規格・外観などを患者さんと一緒にしっかり確認しなくてはならないと再認識しました。

 

特に、退院後の処方や転院後の処方は、以前の処方と内容が異なっているケースがよくあります。規格違いの薬剤が処方されている頻度も高いように感じます。

 

また、門前以外のクリニックなどからの処方の場合、薬局に在庫している薬剤とは規格や剤形が異なる薬剤が処方されていることもよくあります。したがって、これらのケースでは特に注意をして薬剤の確認を行わなければならないと考えています。

 

とはいえ、薬局に薬を取りに来るのが患者さん本人とは限らないですし、たとえ本人であったとしても薬を管理しているのは同居の家族というケースが少なからずあります。

 

そのような場合には、自宅などで薬を直接管理している人にしっかり薬を確認してもらい、問題がある場合にはすぐに薬局に連絡をしてくれるようお願いをする必要があります。

 

口頭でお願いをしても心もとない場合には、メモを入れたり、場合によってはご自宅に電話をしても良いと思います。

 

ただし毎回連絡するのはご迷惑になるので、新しい薬が出た時、大きな体調変化があった時などに限定して連絡をするのが良いと思います。

 

調剤過誤防止策3.規格違いのある薬剤を新規に採用した場合には、薬局内スタッフで情報を共有する。また、必要に応じて調剤過誤の情報を他の門前薬局とも共有する

 

この調剤過誤の後、私たちの薬局ではペンニードルを2規格在庫することになりました。
しかし調剤過誤発生時にたまたま休暇をとっていたスタッフもいます。

 

そこで、規格違いのペンニードルを在庫することになったことを全スタッフに周知しました。もちろん、在庫するに至った経緯、調剤過誤の詳しい内容なども一緒に情報共有しました。

 

なお今回の調剤過誤の一件は、管理薬剤師の判断で近隣の門前薬局にも伝えられました。中には、私たちの薬局同様ペンニードル30G 8mmを交付しそうになり、すんでのところで気がついてペンニードル32Gテーパー6mmを取り寄せてお届けした、という薬局もありました。

 

しかしほとんどの薬局は知らなかったようで、「処方せんを見直したらペンニードル32Gテーパー6mmが処方されていた」という事例も数件見つかったようです。

 

そこで、各薬局の管理薬剤師が連名で一連の調剤過誤を報告し、病院にも調剤過誤防止に協力を求めたところ、「今後は可能なかぎり院外に処方される可能性のある品目については、処方開始時期が決まっていなくても門前薬局へ連絡する」との回答が得られました。

 

確かに処方開始時期が決まっていない薬剤を在庫することは、薬局にとっても不動在庫のリスクを抱えることになります。しかし、使用期限や使用頻度を勘案し、門前薬局が協力しあって在庫を確保することは不可能ではありません。

 

特に急配が難しい薬剤については、門前の薬局のいずれかが在庫しておけば、安心感はまったく違います。

 

どの薬局が不動在庫のリスクを抱えるかは今後の課題になると思いますが、チェーン店などは他店舗での使用状況を見ながら在庫することも可能だと思います。

 

門前薬局同士は競争相手ではありますが、薬の貸し借りをしたり情報共有したりすることもある協力仲間でもあります。患者さんのために、これからも仲良く協力体制を築いていきたいと思っています。

 

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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