ミクロの世界を覗いてみよう Vol.8 食いしん坊細胞 - マクロファージと好中球2

医療と看護にまつわるミクロの世界 - 食いしん坊細胞―マクロファージと好中球2

■作成日 2018/6/4 ■更新日 2018/6/4

 

今回も前回に引き続き、食細胞のマクロファージと好中球を中心に、そのはたらきを見ていきましょう。


貪食をさらに進める秘密の物質

とにかく食いしん坊のマクロファージと好中球ですが、その食べっぷりを助けるものがあります。

 

オプソニン化と呼ばれる現象で、細菌などの異物の表面に、抗体や補体が結合します。この時、マクロファージなどの貪食細胞による貪食(食べつくす)作用を促進する因子(抗体や補体)の総称で、「味付け」という意味でオプソニンと呼ばれています。

 

マクロファージと好中球はその物質に対するレセプターを持っているので、より効率的に、細菌を貪食することができるようになります。白米が貪食すべき対象、ふりかけや海苔などのいわゆる「ごはんの友」がオプソニン、と考えると分かりやすいでしょうか。

 

また、肺炎球菌などのように莢膜を持つ細菌はもともと貪食に抵抗性を示しますが、オプソニン化することで、このような細菌でも食細胞は貪食することができるようになります。

 

苦手な食材でも味付けを変えると食べやすくなるという、私たちの食生活をイメージすると、分かりやすいですね。

 

2つのオプソニン

 

マクロファージと好中球の食作用を助けるオプソニンには、補体と抗体があります。

 

オプソニン1:補体成分

 

補体には、次のような特徴があります。

 

  • 「抗体の抗菌活性能や食細胞の貪食能を補うもの」という意味から「補体」と呼ばれる
  • 蛋白質の一種で9つの主成分がある
  • 通常は不活性の状態で血漿内に存在している
  • 病原体と反応して連鎖的に動き始める(=活性化する) ※性質を持つ

 

※連鎖的に活性化していくことを、カスケード反応といい、上流から下流へと決まった順序で起こるドミノ倒しのような反応のこと。

 

活性化により生成される補体のうち、C3bと呼ばれる補体が、病原体に結合する性質を持っています。この性質により、病原体と補体成分が結合する反応がオプソニン化です。

 

すると、食細胞の表面にあるC3bレセプターがC3bと結合し(捕まえる、というイメージ)、食細胞は病原体を食べることができます。

 

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尚、病原体を丸呑みした食細胞(マクロファージ)は、消化酵素を使って、病原体を分解しています。

 

オプソニン2:抗体

 

抗体とは、チーム白血球のB細胞によって産生される糖タンパクで、次のような流れで産生されます。

 

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抗体は、1種類の抗原とだけ特別に強く結合できる性質(=特異性)を持っており、細かなアンテナ分子(=抗原レセプター)に結合する物質です。

 

血液、リンパ液、組織外液、分泌液などによって体内の各部位へ分布しており、B細胞がもつレセプター(=BCR)とほぼ同じ構造をしています。また、血清中のタンパクのうちグロブリンに分類されるため、免疫グロブリン(Ig)とも呼ばれます。

 

抗体のはたらきとしては、病原体などの異物表面に結合することで、食細胞による貪食が効率的に行われるようにサポートします。これがオプソニン化です。さらに、食細胞の表面には特定のFcと特異的に結合するFcレセプターがありますので、貪食が促進される、というわけです。

 

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尚、オプソニン作用の強さには、強い、弱いという考え方があります。

 

何もないものを「弱い」とすると、C3bのみ、FCのみの順で強くなり、これらを2つとも併せ持つパターンが、もっとも強いオプソニン化をしている、となります。

 

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このようにして、食いしん坊細胞のマクロファージと好中球は、病原体をどんどん食べていきます。しかし、体の中に侵入した病原体は、これで本当に食べつくせたのでしょうか?

 

答えはNOです。

 

実は、ここまで見てきたのは「細菌」に対しての仕組み。

 

わたしたちのからだの中に侵入してきてしまう、細菌よりも厄介な病原体と言えば……そうウイルスです。ウイルスは細菌よりもずっと小さい病原微生物です。

 

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ウイルスが細菌よりも厄介な点は、ウイルスは細胞内に入り込んでしまうという点です。一方の細菌は、そのほとんどが細胞の外までしか侵入できないため、食細胞たちの活躍で体を守る(免疫)ことが期待できました。

 

しかし細菌よりもずっと小さなウイルスは、細胞の中まで入り込んでしまうだけでなく、入り込んだ細胞の増殖の仕組みを乗っ取ってしまい、自らをどんどん増殖させるのです!こうなると、いくら食いしん坊細胞と呼ばれるマクロファージや好中球でも、お手上げの状態になってしまいます。
そこで大活躍するのが、生まれながらの殺し屋 NK(Natural Killer)細胞です。次回は、NK細胞活躍までの前段階として、ウイルス侵入を察知したチーム白血球の細胞たちがどのような連携プレーを見せるのか、というところからお伝えしていきます。

 

 

参考資料

 

1.始めの一歩は絵で学ぶ 免疫学 「わたしの体」をまもる仕組み
著者:田中稔之 出版社:株式会社じほう
発行:平成28年8月31日

 

2.病気がみえるvol.6免疫・膠原病・感染症 第1版
編集:医療情報科学研究所 出版社:株式会社メディックメディア
発行:平成27年3月3日 第1版第9刷

 

3.免疫ペディア 101のイラストで免疫学・臨床免疫学に強くなる!
編集:熊ノ郷淳 出版社:株式会社羊土社
発行:平成28年7月1日 第1刷

 

4.人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版
総編集:坂井建雄・河原克雅 出版社:日本医事新報社
発行:平成26年2月10日 第2版2刷

 

5.一般社団法人 日本血液製剤協会 免疫グロブリン製剤 免疫について
http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/globulin/glo_02.html

 

6. 特定非営利活動法人 日本免疫学会
免疫学Q&A
http://www.jsi-men-eki.org/general/q_a.htm

 

7.摂南大学 感染と防御第4回
http://www.setsunan.ac.jp/~p-bisei/Lecture_files/NID13-04.pdf

 

この記事をかいた人


紅 花子 (べに はなこ)
正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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