良い病院で働くための労働法基礎知識
■作成日 2018/2/27 ■更新日 2018/5/9
元看護師ライター 紅花子です。
新年度を控えて、転職や再就職はシーズン真っただ中。
当コラムではこれまで、各都道府県の「保健医療計画」をもとに全国の看護師確保状況をお伝えしていますが、今回は転職を考える際の「労働法」の基礎知識について、日本看護協会「病院看護実態調査」および同協会ホームページ「看護職のためのQ&A(労働編)」をもとに見ていきたいと思います。
一般に他職種と比べると看護師は離職・転職が多いと言われます。
他の職種と比べてどのくらい違うのでしょうか。
2016年度の常勤看護職員の離職率は常勤10.9%で、11人に1人が退職する計算です。
新卒でさえも同年の離職率は7.8%となっていますから、新卒100人のうち7~8人程度は1年足らずで離職していることになります。
看護師養成課程の1学年が100人ならば、同期の看護師7~8人程度は、2年目には居ないということです。
看護師が退職する理由はさまざまですが、主なものとして挙げられているのは、
- 出産・育児のため(22.1%)
- 結婚のため(17.7%)
- 他施設への興味(15.1%)
- 人間関係がよくないから(12.8%)
- 超過勤務が多いため(10.5%)
- 通勤が困難なため(10.4%)
- 休暇がとれない・とりづらい(10.3%)
- 夜勤の負担が大きいため(9.7%)
などです(2011年3月公表 厚生労働省「看護職員就業状況等実態調査」より)。
最も多いのは「出産・育児」、次いで「結婚のため」となっており、女性の多い看護師にとって、こうしたライフイベントと仕事の折り合いをつけることが、切実な問題となっていることがうかがえます。
女性の出産・育児を守る母性保護規定
本来、労働基準法では「母性保護」として、妊婦が希望した場合は、時間外労働や休日労働、深夜業をさせてはならず、負担の軽い業務に転換させなければいけません。
1日8時間、週40時間を超える労働(労働1日10時間を超える夜勤など)は認められず、本人が希望した場合でも、制限時間(1カ月24時間、年150時間まで)を超える残業はできません。
さらに、妊娠出産を理由にした退職強要や、正職員からパートへの変更命令が禁止されているのは皆さんご存知の通りです。
超過勤務には報酬と代替休暇が必須
人手が足りない医療機関では、超過勤務になりがちです。多忙な看護職の場合、結婚後にパートナーと過ごす時間を確保するために退職したり、業務負担の軽い施設への転職を選んだりすることもあるでしょう。
労働基準法第32条では、「1日8時間・1週間40時間」を労働時間と定めています(休憩時間を除く)。
これを超える労働には労使協定(36協定)が必要ですが、それでも限度時間数には上限があります。
救急など不測の事態への対応が求められる職種では、超過勤務や休日出勤になることも少なくはないでしょう。その場合は必ず代替休暇を取得し、時間外手当・夜勤手当などを受け取ることが必要です。
なお、週休2日の施設で1日しか休日がない、日祝日に休めないという場合ですが、平日でも週1日休みがあれば労働基準法違反にはなりません。
慢性的な人不足で有給休暇を取らせないのは違法
前から楽しみにしていたイベントなどのために有休を申請して、渋い顔をされたことはありませんか?
その時期が繁忙期などではない限り、有給休暇を取らせないのは違法です。
有休は職員の希望する日に取得させることが原則で、「上司が部下に有休をとらないよう伝える」「日数の限度を示す」「理由を限定する」などは労働基準法違反となります。
雇う側は、繁忙期などと重なる時には取得期日を変更する権利(時季変更権)がありますが、いつも人が足りず忙しい場合は、これに該当しません。「日程をずらす」権利はあっても、「取得をやめさせる」ことはできないのです。
看護協会では「職員の有休を制限する前に、法律を守れる、ゆとりある職員配置にすることが大切です」とアドバイスしています。
子供の看護休暇は有休休暇とは別に取得可能
改正育児・介護休業法では、幼稚園児や保育園児の父親・母親が取得できる看護休暇が定められました。
子供1人なら年5日、2人以上なら年10日の看護休暇が認められます。
子供の病気やケガだけでなく、予防接種や定期検診などの時も休めます。
法律で定められた労働者の権利なので、社内に規定がなくても取得することができます。また、有給休暇と違って雇い主側に時季変更権がありません。
有給か無給かは法律で定められていないので、施設によって異なります。公務員は有休、民間の場合は無給の場合が多いようです。
看護師の負担が大きい夜勤の実態
病院勤務の看護師にとって大きな負担となるのが夜勤です。
「病院看護実態調査」によると、月72時間を超える夜勤を行う看護師の割合が高い病院ほど離職率が高い傾向が見られました。
法律上、夜勤を制限する規定はなく、その負担に応じた賃金追加支給制度についても「特になし」という医療施設が 59.8%にのぼりました(複数回答あり)。
夜勤の形態は「二交代制」が半数以上を占めています。では、その手当はどうなっているでしょうか。
夜勤手当の平均額は、三交代制準夜勤で 4,076円、同深夜勤で5,023 円、二交代制夜勤は1万772円で、金額はここ数年、ほぼ横ばいの状況が続いています。
日本看護協会は、夜勤負担に対する賃金の追加や夜勤手当の引き上げを提言していますが、改善の進んでいない医療機関が多いのが現状です。
こうした法律を知ってはいても、「わがまま」「周囲の負担を考えろ」といった現場の圧力を感じると、なかなか休みを言い出せないもの。
しかし自治体や日本看護協会では、不足している看護師の定着に向けて、こうした休めない・働きづらい環境を改善する方向に大きく舵を切っています。
働きやすさについてわかりやすいチェックポイントは、勤務形態の多様さです。時短勤務正職員やフレックスタイムなど柔軟な制度を導入している施設なら、ワーク・ライフ・バランスを重視する一連の「働き方改革」に、しっかり対応できていると言えるでしょう。
参考資料
日本看護協会「2016年病院看護実態調査」結果速報
http://www.nurse.or.jp/up_pdf/20170424103637_f.pdf
日本看護協会「看護職のためのQ&A(労働編)」
http://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/faq/index.html
日本看護協会プレスリリース 「2016 年 病院看護実態調査」 結果速報
http://www.nurse.or.jp/up_pdf/20170404155837_f.pdf
厚生労働省 看護職員就業状況等実態調査結果
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf