九州南部のがん医療の現状と、看護師の働き方

九州南部

■作成日 2018/5/3 ■更新日 2018/5/3

 

元看護師ライター 紅花子です。

 

連載「保健医療計画から読み解く5疾病・5事業および在宅医療のミカタ」、前回は「5疾病・5事業および在宅」のうち、九州北部地方の「がんの医療体制」について見てきました。

 

今回は、九州南部地方にある4県、大分県・宮崎県・鹿児島県・沖縄県のがんの医療体制について、見ていきたいと思います。

 

各県のがん診療拠点病院などの施設

 

日本の南西部に位置している九州南部。昔から政治・経済の中心からは距離があるものの、その歴史は古く、日本神話の発祥の地として日本書紀・古事記などの書物にも記されています。

 

また、鹿児島・沖縄県は古くから海外との交易も盛んで、特に沖縄県には独自の文化が現在も多く残されています。2011年には九州新幹線の鹿児島ルートが全線開業し、交通は一層便利になっています。

 

各県には、どの地域でもがん医療を提供できるように、厚生労働省が指定するがん診療連携拠点病院のほか、各県が独自に指定している拠点病院・中核病院などがあります。九州南部にあるがん関連の指定病院数は以下の通りです。

 

九州南部のがん拠点病院の数

 

では、それぞれの医療機関の場所を地図で示してみましょう。この他、鹿児島県には国内に14カ所ある陽子線治療施設のひとつ「メディポリス国際陽子線治療センター」があり、世界で唯一のリゾート滞在型陽子線がん治療施設として、新しいがん治療のスタイルを発信しています。

 

九州南部のがん連携拠点病院と高度先進医療施設

 

大分県

 

1.大分大学医学部附属病院
2.別府医療センター
3.大分県立病院
4.大分赤十字病院
5.大分県済生会日田病院
6.中津市民病院
7.大分医療センター
8.大分市医師会立アルメイダ病院
9.大分県厚生連鶴見病院

 

宮崎県

 

10.宮崎大学医学部附属病院
11.県立宮崎病院
12.都城医療センター
13.県立日南病院
14.県立延岡病院

 

鹿児島県

 

15.鹿児島大学病院
16.鹿児島医療センター
17.鹿児島市立病院
18.今給黎総合病院
19.県立薩南病院
20.済生会川内病院
21.南九州病院
22.鹿屋医療センター
23.県立大島病院
24.南風病院
25.鹿児島厚生連病院
26.今村総合病院
27.鹿児島市医師会病院  
28.サザン・リージョン病院
29.指宿医療センター
30.川内市医師会立市民病院
31.出水総合医療センター
32.霧島市立医師会医療センター
33.県立北薩病院
34.曽於医師会立病院
35.大隅鹿屋病院
36.おぐら病院
37.出水郡医師会広域医療センター
38.種子島医療センター
39.メディポリス国際陽子線治療センター

 

沖縄県

 

40.琉球大学医学部附属病院
41.沖縄県立中部病院
42.那覇市立病院
43.北部地区医師会病院
44.沖縄県立宮古病院
45.沖縄県立八重山病院

 

大分県は、厚生労働省指定の9施設でがん医療を担っていますが、その施設のほとんどは別府湾沿岸の都市部に集中しています。

 

宮崎県は施設が比較的分散していますが、やはり沿岸部に設置されている施設がほとんど。九州は中央部に山地を形成され、大分・宮崎は県内の多くが山林になっているため、沿岸部に人口が集中していることが関係していると思われます。

 

鹿児島県は厚生労働省指定の医療機関のほか、県指定の医療機関を数多く設置して、県内すべての二次保健医療圏にがん診療の拠点となる病院を確保しています。

 

また、上記のほかにも特定領域がん診療連携拠点病院(乳がん)として相良病院を指定しており、施設の質・量共に九州南部では最も充実しているのかもしれません。

 

沖縄県では二次医療圏ごとにがん医療の提供体制を整えています。宮古医療圏、八重山医療圏などの離島にも、それぞれ県立の地域がん診療病院を配置して、各島でがん医療が受けられるようになっています。

 

各県のがん患者の状況

 

次に、主ながん部位別の死亡率を、各県ごとに見ていきます。

 

九州南部 各県のがん部位熱死亡率と全国順位

 

がん全体の死亡率を見ると、沖縄は全都道府県の中で最も低くなっていますが、その他の県は、中位からやや上位となっています。

 

部位別に見ると、大分県には他県と比較して突出するような、死亡率の高い部位がありません。一方、沖縄はほとんどの部位について、全国でも低い死亡率の水準を維持していますが、子宮がんと図表にない白血病だけが共に全国5位と非常に高くなっており、部位によって大きな差が見られるようです。

 

また、鹿児島は肝がんが5位、宮崎は子宮がんが全国1位と死亡率が高く、胃がんの死亡率は宮崎県以外の3県で非常に低くなっています。4県に共通しているのは、乳がん死亡率が全国平均よりもずっと低いことです。

 

各県におけるがん医療体制の特徴

 

次に、各県ごとのがんの医療体制に関する、細かな施策を見ていきましょう。

 

大分県

 

大分県では、全死亡数の25.2%をがんが占めています。部位別の死亡率を見ると、肺がんが最も高く、次いで増加傾向の大腸がん、そして胃がんの順になっています。

 

さらにすい臓・肝臓を加えた5部位で、がんによる死亡割合の半分以上を占めています。県内ではがん検診の受診率が胃がん41.6%、肺がん46.1%、大腸がん37.0%、乳がん41.3%、子宮がん41.6%と低いため、平成35年度までに検診受診率を各々50%以上まで引きあげることを目標に掲げています。

 

また、緩和ケアにも力を入れており、がん診療に関わるすべての医療従事者が、緩和ケアの知識と技術を習得することを目指しています。さらに、患者サロンの開設を支援するなど、心のケアを含めた緩和ケアの提供体制を整備する方向です。

 

なお、平成30年4月現在、大分には厚生労働省指定の「がんゲノム医療連携病院」がなく、早期の指定病院誕生が待たれます。

 

宮崎県

 

宮崎県では、がんによる死亡者の割合が全体の約30%を占め、年齢調整罹患率と75歳未満年齢調整死亡率が共に全国平均を上回っています。がん検診については、胃がん・肺がん・大腸がん・子宮頸がん・乳がん、すべてのがん検診の受診率が全国平均を下回っているため、受診率の向上が課題となっています。

 

県内では宮崎大学医学部附属病院が「がんゲノム医療連携病院」に、指定されています。また、県では独自に4つの「がん医療圏」を設定し、各々の拠点病院が中心となって地域の医療従事者への研修を行うなど、地域全体のがん医療水準の向上と各圏域のがん医療の充実を目指しています。

 

さらに、平成35年度までに緩和ケアチームのある病院数を2施設増加、末期がん患者の在宅医療を提供する医療機関数を12施設増加など、具体的な数値目標を掲げてがん医療の環境整備を進めています。

 

鹿児島県

 

鹿児島県では、独自に「県がん対策推進計画」を策定し、5年ごとに改訂しています。

 

冒頭のように各医療圏に拠点病院を設置しているほか、陽子線治療施設「メディポリス国際陽子線治療センター」もあり、がん医療の提供体制は、手厚く整えられていると言えます。

 

予防の面では、がん検診の受診率が大腸がんを除いて全国を上回っており、肝炎ウイルス検査や子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの普及啓発なども進めています。

 

また、鹿児島大学病院は「がんゲノム医療連携病院」に指定されており、クリティカルパス「私の手帳」を作成してがん医療機関の連携を推進するなど、県のがん医療体制の中核機能を担っています。

 

さらに、「がんと診断された時からの緩和ケア提供体制」を目指し、県内の拠点病院で緩和ケア研修会を実施するほか、さらなる機能向上や医療の充実に向けて、施設の運営や設備整備への補助など支援を進めています。

 

沖縄県

 

47都道府県の中で、がんによる死亡率が最も低い沖縄県。受療率も、入院・外来共に全国平均より低い値で推移しています。

 

一方で、県内のがん患者はやや増加傾向にあり、平成26年の外来受療率は平成8年の約3倍に増加。しかし入院の方は横ばいから、やや減少傾向にあります。

 

がん死亡の75歳未満年齢調整死亡率も減少傾向にあることから、治療が入院から外来へと移行し、全体として患者の生存率も向上しているのかもしれません。ただし、女性の大腸がん、乳がん、子宮がんの死亡率が増加しているのが、若干気にかかるところです。

 

がん検診の受診率は全体的に増えており、乳がん・子宮がん・胃がんの受診率は全国平均を超えていますが、肺がん・大腸がんは全国平均に届かず、さらなる受診率の向上が課題といえます。

 

県は二次医療圏ごとに専門的ながん医療を提供できる体制を整え、がん診療の連携協力体制を整備してきましたが、大分と同様、まだ「がんゲノム医療連携病院」指定の病院がなく、早期の設置に向けて検討中です。

 

また、治療や痛みなどの症状緩和に効果的な放射線治療の活用に向けて、医療従事者の知識の向上を目指しています。

 

各県のがん対策におけるナース需要

 

では、それぞれの県には、今どれくらいの認定看護師、専門看護師がいるのか。がんに関する分野の認定看護師と、がん看護専門看護師の人数を調べてみました。

 

九州南部 がん関連の認定看護師・専門看護師数

 

各県のがんに関連する分野の認定看護師・専門看護師の数を見ると、鹿児島県が最も多く、宮崎県が最も少なくなっています。

 

鹿児島では、医療施設が充実していることもあってか認定看護師が多くなっていますが、逆に専門看護師は少なくなっています。その一方、大分・宮崎は共に専門看護師数が比較的多くなっています。

 

沖縄は大分県より人口が多いのですが、認定看護師数は少ないようです。

 

宮崎も認定看護師が少なく、九州南部で唯一「がん放射性療法看護」の認定看護師がいないため、今後の需要があるかもしれません。

 

まとめ

九州南部鹿児島

 

各県で、がん罹患の状況も医療体制もさまざまな九州南部。宮崎、大分は過疎化が進んでいることから、人口10万人当たりの看護師数は1200人を超えて全国の数値を大幅に上回っていますが、資格を持っているかキャリアアップを考える看護師ならば、通常よりも就職しやすいかもしれません。

 

第7次保健医療計画では、がん医療についてはどの県も特に緩和ケアへの取り組みが重視されています。病院内での医療従事者への研修も行われているため、緩和ケア認定看護師のニーズは高いのではないでしょうか。

 

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参考資料

 

大分県第7次保健医療計画
http://www.pref.oita.jp/soshiki/12620/iryoukeikaku.html

 

宮崎県第7次保健医療計画
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/iryoyakumu/kense/kekaku/page00109.html

 

鹿児島県第7次保健医療計画
http://www.pref.kagoshima.jp/ae01/kenko-fukushi/kenko-iryo/iryokeikaku/keikaku30-3.html

 

沖縄県第7次保健医療計画
http://www.pref.okinawa.lg.jp/site/hoken/iryoseisaku/kikaku/iryoukeikaku.html

 

公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団 日本の粒子線治療施設の紹介
http://www.antm.or.jp/05_treatment/04.html

 

厚生労働省「がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療連携病院の一覧表」(平成30年4月1日現在)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000199651.pdf

 

この記事をかいた人


紅 花子 (べに はなこ)
正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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