東海地方のがん医療の現状と、看護師の働き方

東海地方(岐阜、愛知、静岡、三重)のがん医療の現状と、看護師の働き方

■作成日 2018/6/3 ■更新日 2018/6/3

 

元看護師ライター 紅花子です。

 

連載「看護師による看護師のための5疾病・5事業+在宅医療のミカタ」、前回は「5疾病・5事業および在宅」のうち、近畿地方の「がんの医療体制」について見てきました。今回は、東海中国地方にある4県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県のがんの医療体制について、見ていきたいと思います。

 

各県のがん診療拠点病院などの施設

 

東海地方の各県には、厚生労働省が指定するがん診療連携拠点病院の他にも、複数のがん診療を担う病院が指定されています(図1)。

 

東海地方(岐阜、愛知、静岡、三重)のがん医療の現状と、看護師の働き方

図1 東海地方のがん診療拠点病院の数

 

県によってそのボリュームにはバラつきがあります。人口の違いなども関係していますが、岐阜県と、静岡県および愛知県との間にはおよそ3倍の差があります。

 

それぞれの医療機関の場所を地図で示すと、次のようになります。尚、図1の中には「先進医療施設」は含めていませんが、図2と表1にはこれを含めていますので、各県ごとの医療機関数の合計には差異があります。

 

東海地方(岐阜、愛知、静岡、三重)のがん医療の現状と、看護師の働き方

図2 東海地方におけるがん連携拠点病院と高度先進医療施設

 

愛知県は名古屋市を、三重県は伊勢市を中心とした地域に、それぞれの医療機関が多く存在しています。

 

静岡県は、海沿いに海岸線を沿うようにして医療機関が集中していますが、これも地形や人口分布との関連があります。ところで、今年度からスタートした静岡県の保健医療計画は、第7次ではなく第8次です。他の都道府県よりも1回分多く、どこかの時点で改正が行われたようです。

 

東海地方におけるがん連携拠点病院と高度先進医療施設一覧

岐阜県

 

1.岐阜大学医学部附属病院
2.岐阜県総合医療センター
3.岐阜市民病院
4.大垣市民病院
5.木沢記念病院
6.岐阜県立多治見病院
7.高山赤十字病院

 

静岡県

 

8.静岡県立静岡がんセンター
9.静岡県立総合病院
10.静岡市立静岡病院
11.総合病院 聖隷浜松病院
12.浜松医療センター
13.浜松医科大学医学部附属病院
14.総合病院 聖隷三方原病院
15.磐田市立総合病院
16.藤枝市立総合病院
17.順天堂大学医学部附属静岡病院
18.国際医療福祉大学熱海病院
19.富士市立中央病院
20.静岡医療センター
21.沼津市立病院
22.富士宮市立病院
23.静岡赤十字病院
24.静岡済生会総合病院
25.焼津市立病院
26.市立島田市民病院
27.下田メディカルセンター
28.伊東市民病院
29.静岡県立静岡がんセンター

 

愛知県

 

30.県がんセンター中央病院
31.名古屋医療センター
32.名大附属病院
33.中京病院
34.名市大病院
35.第一赤十字病院
36.第二赤十字病院
37.厚生連海南病院
38.公立陶生病院
39.藤田保健衛生大病院
40.一宮市民病院
41.小牧市民病院
42.市立半田病院
43.厚生連豊田厚生病院
44.県がんセンター愛知病院
45.厚生連安城更生病院
46.豊橋市民病院
47.掖済会病院
48.名古屋記念病院
49.中部労災病院
50.市立西部医療センター
51.愛知医大病院
52.春日井市民病院
53.トヨタ記念病院
54.岡崎市民病院
55.刈谷豊田総合病院
56.名古屋陽子線治療センター

 

三重県

 

56.三重大学医学部附属病院
57.伊勢赤十字病院
58.松阪中央総合病院
59.鈴鹿中央総合病院
60.市立四日市病院
61.県立総合医療センター
62.三重中央医療センター
63.桑名東医療センター(桑名市総合医療センター)
64.三重北医療センターいなべ総合病院
65.もりえい病院
66.四日市羽津医療センター
67.鈴鹿回生病院
68.塩川病院
69.藤田保健衛生大学七栗記念病院
70.岡奈美総合病院
71.上野総合市民病院
72.済生会松坂総合病院
73.松坂市民病院
74.市立伊勢総合病院
75.尾鷲総合病院

 

岐阜県は、岐阜大学医学部附属病院が、県内のがん医療の中心的な存在として、多くの役割を担っています。岐阜県の第7次保健医療計画によると、岐阜県の二次医療圏は5つの圏域に分かれており、「地域がん診療連携拠点病院については、各圏域に1ヶ所以上指定」となっています。

 

岐阜県は地形的な要因もあり、南北の2つに分けて捉えられることが多いようです。南側には県内のがん診療拠点7病院のうち、6病院が集中しています。
北側の離れたところに1つだけあるのが、高山赤十字病院です。おおよその人口分布も南北で大きく分かれますが、高山赤十字病院は、がん診療以外にも、地域における中核的な役割を多く担っている病院です。

 

静岡県は、一見すると(海沿い限定とはいえ)満遍なくがん診療拠点が存在しているように見えますが、実際は、4つのエリアに集中しています。

 

西側から順番にあげると、浜松市、焼津市とその周辺エリア、静岡市(県庁所在地)、沼津市とその周辺エリアです。

 

都道府県がん診療連携拠点病院は県立がんセンターですので少し外れた地域にありますが、地域がん診療連携拠点病院は、浜松市に4つ、静岡市に2つです。この2つの市はそれぞれ、1市のみで二次医療圏を形成しています。

 

愛知県は、県がんセンター中央病院と、名大附属病院のある名古屋市内に、がん診療拠点と先進医療施設が集中しています。しかしそれ以外の市町、豊田市や岡崎市にもがん診療拠点が複数存在しています。

 

ただし、放射線療法や薬物療法を行っている病院を医療圏別、がんの部位別にみると、医療圏による差がみられており、愛知県ではさらに医療のレベルの均一化を図るため、原則として二次医療圏に1か所以上のがん診療連携拠点病院の指定を目指す方針です。

 

三重県は、県庁所在地である津市からその西側にある伊賀市にかけての地域と、四日市市、鈴鹿市から愛知県堺にかけた地域に、がん診療拠点病院が集中しているようです。そこから少し南東方向に離れた地域は、伊勢神宮のある伊勢市になります。

 

三重県の北側は「北勢医療圏」ですが、ここの人口は県内でもっとも多く、県全体の半数近くがこの地域に住んでいることになります。そのため、医療機能も集中する傾向にあるようです。

 

各県のがん患者の状況

 

次に、主な部位別の死亡率を各県ごとに見ていきます。

 

東海地方(岐阜、愛知、静岡、三重)のがん医療の現状と、看護師の働き方

図3 東海 各県のがん部位別死亡率と全国順位

 

東海地方の各県は、がんによる死亡順位が、比較的低位(全国比較)となっています。岐阜県は複数の部位のがんで中位~定位、静岡県と三重県も低位よりの中位ですが、愛知県は子宮がんと乳がんを除くと5つのがんで40位代です。

 

がんは、加齢とともに罹患者数、死亡者数ともに増えていく疾患ですが、愛知県は東海4県のうちでもっとも高齢化率が低く、印象としては比較的若い県ではないかと思います。

 

愛知県の第7次保健医療計画によると、平成 27年度の愛知県内でのがん検診の受診率は、胃がん検診 9.1%、子宮がん検診 29.2%、乳がん検診 26.5%、肺がん検診 14.9%、大腸がん検診 15.7%、となっています。

 

検診受診率は全国的にみても低い傾向にありますが、一方でがんによる死亡率も低いというのは、高齢化率の低さや、医療機能の充実度と関連しているのかもしれません。

 

各県におけるがん医療体制の特徴

 

次に、各県ごとのがんの医療体制に関する、細かな施策を見ていきましょう。

 

岐阜県

 

岐阜県は一見、がん診療拠点病院等が少ないように見えますが、人口 100 万人当たりの設置数は、全国と同水準とのこと。県全体でみれば、全国平均と同等レベルでの医療資源が確保できています。

 

病理専門医は全ての拠点病院に配置されていますし、人口10万人あたりのがん専門・認定薬剤師は、全国平均を上回っています。

 

しかし、がん治療認定医、放射線治療専門医、がん看護専門看護師・認定看護師・認定看護管理者については、人口10万人あたりの全国平均よりも、少ない状況のようです。

 

一方、緩和ケア病棟は、西濃圏域以外ではすでに整備されており、県全体の人口 10 万人当たりの病床数は、全国と比較すると高くなっています。しかし、リハビリテーションを実施する医療機関は、まだ十分には設置されていないようです。

 

さらに、緩和ケアを提供する体制にも拠点病院ごとのバラつきがあり、岐阜県では今後、こういった面での体制づくりにも力を入れていく方針の様です。

 

静岡県

 

静岡県は東西に長い県ですが、県立がんセンターが県の東部、県立病院や赤十字病院が中央、浜松医大の付属病院や聖隷病院グループの大病院が西側にあります。

 

がん医療体制に関してみると、県立がんセンターが国からの指定を受けており、AYA世代のがんを含む小児がんや希少がん、がんゲノム医療、先進医療などの中心的な病院といえます。

 

静岡県はがん検診の受診率が比較的高く、2016 年の検診受診率は、胃がん42.6%、肺がん52.4%、大腸がん43.5%、乳がん45.4%、子宮頸がん43.2%でした。

 

要精密検査となった者のうち、精密検査を受けた者の割合も、2014年は子宮頸がんをのぞいて軒並み65%を超えており、さらなる検診受診率の向上を目指すようです。

 

ところで、静岡県には現在、がん診療拠点病院の無い二次医療圏が1つだけあります。県ではこの圏域での拠点病院の設置を進めていくようです。

 

愛知県

 

愛知県内には、他の圏域と比較すると医療機能が不足する医療圏があり、県ではこの圏域について、他の医療圏との機能連携を推進していく方針です。

 

例えば、放射線療法や薬物療法を行っている病院を医療圏別、がんの部位別でみると、医療圏による差異があります。また、緩和ケア病棟が無い圏域もあるようです。

 

こうした「地域格差」は、どの都道府県でも起こり得ることではありますが、愛知県ではこうした格差を解消すべく、さまざまな課題をあげています。

 

しかし、がんの部位などによっては、手術などの治療を受けるために、名古屋・尾張中部医療圏や西三河北部医療圏へほとんどの患者が流出している圏域もあるのが現状のようです。

 

各県のがん対策におけるナース需要

 

では、それぞれの県には、今どれくらいの認定看護師、専門看護師がいるのか。がんに関する分野の認定看護師と、がん看護専門看護師の人数を調べてみました。

 

東海地方(岐阜、愛知、静岡、三重)のがん医療の現状と、看護師の働き方

図4 東海 がん関連の認定看護師・専門看護師数

 

東海地方の4県について、実際の都道府県別人口と認定看護師・専門看護師の人数は、おおよそ比例しています。

 

しかし、岐阜県の第7次保健医療計画によると、岐阜県は人口10万人あたりの認定看護師・専門看護師が、全国平均よりも少ない状況にあり、分野によっては認定看護師・専門看護師が居ない圏域もあるようです。

 

一方、三重県では、看護師そのものの人数が不足しており、三重県「医師看護師需給状況調査」によると、看護師の需給ギャップ(需要と供給のギャップ)は平成32年頃には-5%に上る見込みです。

 

愛知県や静岡県でも、看護師の養成や確保、高度な知識やスキルを持つ看護師の養成など、看護師不足に対する課題を抱えており、今後も看護師教育や認定看護師・専門看護師の育成を後押しするような施策が講じられています

 

まとめ

東海地方(岐阜、愛知、静岡、三重)のがん医療の現状と、看護師の働き方

 

本州のほぼ中央に位置し、温暖な気候の地域と、山間部の厳しい気候が隣り合わせに存在している東海地方。さまざまな顔をもつこの地方は、がんによる死亡率が全国的にみると比較的低い地域もあり、がん医療体制がある程度整いつつある地方なのかもしれません。

 

一方で、県や保健医療圏域によっては、医療機能の偏在や看護師不足が喫緊の課題となっている地域もあり、それぞれの県で看護師確保対策、がん看護に対する専門的な知識とスキルを持つ看護師の確保対策に力を入れています。

 

これからがん関連のキャリアアップを目指したいナースには学びを得られる地域であり、すでに高いスキルを持つナースにとっては充実した「がん看護」を実践できる、2つの側面を持つ地域ではないでしょうか。

 

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参考資料

 

第7期 岐阜県保健医療計画
http://www.pref.gifu.lg.jp/kodomo/iryo/horei/11229/7hokeniryokeikaku.html

 

第8次静岡県保健医療計画
http://www.pref.shizuoka.jp/kousei/ko-410/hi-keikaku.html

 

第7次三重県医療計画
http://www.pref.mie.lg.jp/IRYOS/HP/24199023348_00001.htm

 

愛知県第7次保健医療計画
http://www.pref.aichi.jp/soshiki/iryofukushi/iryokeikaku.html

 

この記事をかいた人


紅 花子 (べに はなこ)
正看護師歴10年、IT技術者歴10年という少し変わった経歴をもつ。現在は当研究所所属ライターとして、保健医療福祉分野におけるライティング業を生業としている。この分野であれば、ニュース記事の執筆・疾患啓発・取材・書籍執筆・コンテンツ企画など、とりあえずは何でも受ける。東京都在住の40代、2児の母でもある。好きなマンガは「ブラック・ジャック」。

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