九州北部（福岡、佐賀、長崎、熊本）のがん医療の現状と、看護師の働き方

元看護師ライター　紅花子です。

新連載「看護師による看護師のための5疾病5事業＋在宅医療のミカタ」、前回までは「5疾病・5事業および在宅」と「がん医療」についての総論をお伝えしてきました。今回から、各地域のがん医療について、具体的に見ていきたいと思います。

最初にご紹介するのは九州北部にある4県、福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県のがん医療事情です。

各県のがん診療拠点病院などの施設

日本の西側に位置する九州北部は、古くから中国や朝鮮半島との交流、オランダやポルトガルとの交易など、諸外国のさまざまな新しい文化を国内に取り入れる玄関口でした。

現在は2つの政令指定都市がある福岡県が、九州北部地方の中核的な役割を担っています。

各県には、どの地域でもがん医療を提供できるように、厚生労働省が指定するがん診療連携拠点病院のほか、各県が独自に指定している拠点病院・中核病院などがあります。九州北部にあるがん関連の指定病院数は以下の通りです。

それぞれの医療機関の場所を地図で示すと、次の地図のようになります。

この他、佐賀県には国内に6カ所しかない重粒子線治療施設「九州国際重粒子線がん治療センター（サガハイマット）」があり、九州におけるがん先端医療の一角を担っています。

福岡県

１．九州がんセンター
２．九州大学病院
３．九州医療センター
４．福岡総合病院
５．福岡大学病院
６．福岡東医療センター
７．久留米大学病院
８．聖マリア病院
９．公立八女総合病院
１０．大牟田市立病院
１１．飯塚病院
１２．社会保険田川病院
１３．北九州市立医療センター
１４．九州病院
１５．産業医科大学病院
１６．浜の町病院
１７．戸畑共立病院
１８．福岡大学筑紫病院
１９．朝倉医師会病院

佐賀県

２０．佐賀大学医学部附属病院
２１．佐賀県医療センター好生館
２２．唐津赤十字病院
２３．嬉野医療センター
２４．九州国際重粒子線がん治療センター（サガハイマット）

長崎県

２５．長崎大学病院
２６．日本赤十字社長崎原爆病院
２７．長崎みなとメディカルセンター
２８．佐世保市総合医療センター
２９．長崎県島原病院
３０．長崎中央病院
３１．壱岐病院
３２．対馬病院
３３．上五島病院
３４．五島中央病院
３５．佐世保中央病院
３６．諫早総合病院

熊本県

３７．熊本大学医学部附属病院
３８．熊本赤十字病院
３９．熊本医療センター
４０．済生会熊本病院
４１．荒尾市民病院
４２．熊本労災病院
４３．人吉医療センター
４４．熊本中央病院
４５．熊本再春荘病院
４６．熊本総合病院
４７．水俣市立総合医療センター
４８．天草地域医療センター
４９．天草中央総合病院
５０．熊本地域医療センター
５１．くまもと森都総合病院
５２．大腸肛門病センター高野病院
５３．山鹿市民医療センター
５４．熊本南病院

福岡県のがん治療拠点は厚生労働省指定の施設数が多く、質量ともに非常に充実しているように見えます。しかし、高度医療を担う施設が都市部に集中しているため、地域偏在が県としての課題でもあるようです。

佐賀県は、県指定の連携拠点病院などはなく、厚生労働省が指定する4病院が核となって県内におけるがん医療を展開しています。

長崎県は離島が多いという状況を加味し、県は4つの病院をがん診療離島中核病院に指定しており、これらが中心となって離島地域のがん医療を担っています。離島中核病院では、緩和ケアと薬物療法を中心とした医療を展開しています。

熊本県は厚生労働省指定の病院を補う形で、県から拠点病院として指定された病院が多く、全体の数としては充実しています。

しかし「専門的ながん診療機能をもつ医療機関が阿蘇圏域には無い」ことが課題となっており、今後はこの地域におけるがん診療連携拠点病院の整備が進められる予定です。

各県のがん患者の状況

次に、各県の主ながん部位別の死亡率を見ていきます。

がん全体での死亡率は、長崎が全国11位、佐賀は全国15位と、ワースト上位に連なっており、福岡と熊本は全国順位のおよそ中央あたりとなっています。

部位別に見ると、福岡と熊本は部位によって死亡率の順位に大きな差がありますが、長崎は胃がん以外の部位はすべてワースト20に入っています。
4県共通の特徴として、肝がんの死亡率がすべてワースト10に入っており、さらなる対策が求められるところです。

各県におけるがん医療体制の特徴

次に、各県ごとのがんの医療体制に関する、細かな施策を見ていきましょう。

福岡県

福岡県では、死亡数全体の30.4％を、がんが占めています。部位別の死亡率を見ると、肺がんが最も高く、次いで増加傾向の大腸がん、そして胃がんの順になっています。

がんの年齢調整死亡率（75歳未満）は減少傾向にあるものの、全国値が人口10万人当たり76.1なのに対して福岡県は80.5と、いまだ高い状態が続いています。また、がん検診の受診率は全国平均を下回っており、受診率の向上が今後の課題です。

県内では九州の他県と比較して高度な医療を行える施設が多く、九州大学医学部は全国に11施設ある「がんゲノム医療中核拠点病院」のひとつに指定されています。「がんゲノム医療連携病院」も、全国約130カ所のうち4施設が福岡県内にあるなど、医療資源は非常に充実しています。

しかし、高度医療を提供する施設は都市部に集中しており、医療機能の地域偏在も大きな課題であり、二次医療圏を越えて受療する患者さんも見られます。

県ではがん診療拠点を4ブロックに分けていますが、この領域を越えた受療は少なく、拠点病院を各ブロックに整備することで、地域偏在のないがん医療体制の構築を進めています。

佐賀県

佐賀県は、がんによる10万人当たりの75歳未満年齢調整死亡率が、平成23年の92.0から平成28年は79.8へと低下し、全国平均に近づきつつあります。

しかし、未だ前掲の全国値よりも高い水準であり、特に肝がんの死亡率は全国で5位以内と、死亡率の高さが伺えます。次いで多いのは胃がんで、以下大腸がん、乳がん、肺がんとなっています。

こうした現状を受けて、県内では肝がん予防の一環としての「ウイルス性肝炎対策」に、重点的に取り組んでいます。また、胃がんの予防対策として、中学3年生を対象にピロリ菌の検査や、感染確認後の除菌治療を行うなど、がんと関連する感染の予防対策を行っています。

佐賀県では前掲の「サガハイマット」があるほか、佐賀大学医学部と佐賀県医療センター好生館の2施設が「がんゲノム医療連携病院」に指定されるなど、県内ではがん医療の充実が着実に進んでいる状況です。

長崎県

長崎県は、昭和60年時点でがん死亡率が全国ワースト1位でしたが、平成28年にはワースト11位になるなど、がん医療における改善が見られています。

この傾向は現在も続いているようですが、75歳未満年齢調整死亡率を見ても、全国でのがんによる死亡者が人口10万人当たり76.1であるのに対し、長崎県は80.7と、4.6ポイント上回っており、依然として高い死亡率となっています。

死亡者数が多いのは肺がん、大腸がん、胃がん、肝がんの順で、各部位の死亡率を都道府県で比較すると、表には載っていない白血病が全国ワースト3位、乳がん6位、肺がん8位、肝がん9位となっています。

長崎県内にはATL（成人T細胞白血病・リンパ腫）の患者さんが多く、県が医療機関と共に「ATLウイルス母子感染予防対策事業」を推進しています。

さらに、長崎大学病院が「がんゲノム医療連携病院」に指定されており、県全域のがん医療を牽引しているようです。

熊本県

熊本県は、がんの75歳未満の年齢調整死亡率が減少傾向にあり、全国値よりも低くなっています。胃がん、肺がん、大腸がん、子宮がん、乳がんの5大がん検診の受診率は全国平均を上回っています。

九州北部の他県の様子からは、がん検診の受診率が全国平均より低い中などの課題がある中で、熊本県はがん予防の取り組みが徐々に功を奏してきているのかもしれません。

しかし国の目標値に達しているのは胃がんのみ。今後も受診率の向上を図るほか、伸び悩んでいる肝炎ウイルス検査の受検者を増やしていくことが、課題となっています。

また、緩和ケアの充実にも力を入れており、研修を修了した医師をはじめとする医療従事者が、県内では年々増加しています。今後は患者さんがより身近な地域で緩和ケアを受けられる体制を整えるため、緩和ケアに取り組む医療従事者の育成を更に進めていく方針です。

ところで、熊本県は平成28年4月に、大きな地震に見舞われました。熊本県内では、被災した病院から転院するがん患者さんの情報が医療機関で共有できず、結果的にスムーズな連携が進まなかったことから、がん診療情報の共有体制の整備も進めていく予定です。

各県のがん対策におけるナース需要

ではそれぞれの県には、今どれくらいの認定看護師、専門看護師がいるのか。がんに関する分野の認定看護師と、がん看護専門看護師の人数を調べてみました。

人口が他3県の2～6倍以上で、がんの専門的な医療を行う施設の多い福岡県は、がん関連の専門看護師、認定看護師ともにその数は九州北部の中で群を抜いています。

しかし福岡県では放射線療法や薬物療法などの専門知識・技術を持った医療従事者が足りない状況のため、その分野の人材を確保・育成していくことが課題です。

佐賀県はそもそも看護師数が長崎・熊本の半数以下と少ないため、専門看護師、認定看護師の数も他県より少なくなっています。看護師の資質向上については、「看護の専門知識と共に社会人基礎力を養う教育が必要」としています。

長崎県では、認定看護師の資格取得への補助や専門看護師育成研修などを行っており、がん診療拠点病院やがん診療推進病院では、がん専門看護師、がん放射線療法認定看護師、がん化学療法認定看護師のほか、緩和ケアチームにがんに関連する認定看護師を適正配置することを目指しています。
また、熊本県では看護師のキャリアアップの支援体制が整っている都市部に専門的な看護師が集中し、他圏域では少なくなっています。県では圏域ごとに専門知識を有する看護師を増やすことを目標に掲げており、専門看護師を年2人、認定看護師を年30人増やすことを目指しています。

特にがんについては、在宅医療関連のニーズが高まっているので、各地域の連携拠点病院などでも、キャリアアップの支援体制が整備されていくかもしれません。

まとめ

日本で最も死亡率が高いがん。九州北部のがん死亡率は4県すべてが全国平均を超えており、この地域でのがん対策は、特に重要な課題となっています。

国の施策として在宅医療が進められている中、地域に密着した緩和ケアの需要は特に高まっており、各県で看護師のキャリアアップを後押しする環境も着々と整備されているようです。

また、化学療法や放射線療法などの認定看護師も需要があるので、そうした資格を持つ、もしくはこれから資格取得を目指すナースにとって、九州北部地方も転職の選択肢のひとつとなるでしょう。

この記事をかいた人