【医療ニュースPickUp 2018年1月9日】餅による窒息で院外心停止する事故は三が日に集中 - 大阪府での研究で判明
日本の正月に欠かせない食品といえる「餅」だが、食品による窒息事故の原因となっている。
これを裏付けるデータとして、その疫学的な数値が、大阪府を集団ベースとした研究によって検証された。
研究の結果、大阪府で起きた窒息による院外心停止(OHCA)のうち、約10%が餅によるもので、その25%が正月の三が日に集中していたという。
大阪府心肺蘇生効果検証委員会のウツタイン大阪プロジェクトによる集団ベースの観察研究で明らかになった。
餅による窒息事故の多さは、こんにゃくゼリーによる窒息死亡事故の際にも話題にのぼったが、実態はこれまでよくわかっていなかった。
この研究では、大阪府の人口ベースのOHCAレジストリから2005~2012年のOHCAデータ計4万6911例を取得。
そのうち救急医療サービス(EMS)の到着前に窒息によるOHCAを経験した20歳以上の患者を対象に、窒息の原因(餅と餅以外)で分けて、患者の特性、病院前医療、転帰を比較した。主要アウトカムはOHCA後の1カ月生存率となっている。
主な結果は、以下の通り。
- ・対象期間中にOHCAとなった成人は46,911例
- ・成人のOHCA 46,911例のうち、窒息によるものは7.0%(3,294/46,911例)
- ・窒息によるOHCAのうち、餅が原因の窒息は9.5%(314/3,294例)
- ・餅による窒息のうち24.5%(77例)が正月の三が日に発生していた
- ・粗分析による1カ月生存率は、餅による窒息では17.2%(54/314例)、それ以外では13.4%(400/2,980例)
- ・すべての原因による窒息の例を多変量解析すると、1カ月生存率の高さに有意に関連していたのは、「年齢が若い」「心停止の場に居合わせた人がいる」「EMSへの早い対応時間」という条件を満たす場合
こうした一連の結果から、研究チームは「餅による窒息の予防対策を確立すること、窒息状態に早く気付くこと、その場に居合わせた人が早急に救急車に電話するよう促すさらなる努力が必要である」と結論づけている。
この研究結果は「Journal of epidemiology」誌のオンライン版2017年10月28日号に掲載されている。
参考資料
Epidemiology of Out-of-Hospital Cardiac Arrest Due to Suffocation Focusing on Suffocation Due to Japanese Rice Cake: A Population-Based Observational Study From the Utstein Osaka Project.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/29093354/
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【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
日本人の正月の食卓を彩る「餅」ですが、窒息の原因となる可能性があることは、日本人なら誰でも知っていることかもしれません。
私が子供の頃は、周りの大人たちから「餅が喉に詰まったら、掃除機で吸い出す」といわれていたような記憶があります。
「餅」のルーツは、縄文時代だという説があります。
炊いた米を長期保存するために「餅」に加工したのが始まりだったと考えられているようです。
その後、平安時代になり、正月に「鏡餅」を飾る習慣が広まり、「餅」はハレの日の食べ物として珍重されてきました。
現在の日本では、「餅」は一年を通して手に入りますから、必ずしも「正月の食べ物」とは言えなくなっているのかもしれません。
しかし、日常的に食べるものでも、正月の「餅」はやはり格別なのでしょう。
鏡餅だけではなく、雑煮としても「餅」は全国的に消費されています。
雑煮は地域差が大きい食事ではありますが、「餅」はほとんどの地域で雑煮に入るものですから、正月の三が日だけでもその消費量は多いのでしょう。
まさに「ハレの日の食材」と言えるのではないでしょうか。
しかし、これで亡くなる人が「意外に多い」というのが、この論文を読んだ率直な感想です。
大阪府の中だけで、7年間で77名、年平均では11人の方が「餅」が原因で亡くなっていることになります。
実は昨年の11月には、東京消防庁からも「餅による窒息事故に注意」という注意喚起が出されていました。
東京消防庁の統計によると、「過去5年間で餅をのどに詰まらせて救急搬送された方は毎年100人前後おり、その多くの方が65歳以上の高齢者です」とのこと。
過去5年間で最も多かった年齢層(5歳単位)は80~84歳だったそうです。
その中には軽症や中等症も含まれていますが、およそ半数が重症以上ですから、やはり死亡事故につながる食材と言えるのかもしれません。
この先、高齢化がますます進む日本ですから、「餅」の食べ方一つでも、何かしらの変化が起こるのではないでしょうか。
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