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血液内科医師の現状(厚労省医師数調査から)

■作成日 2017/8/11 ■更新日 2017/12/6

医師数が4割も増える人気の秘密とは

 

厚生労働省の調査によると2014年の血液内科医の人数は2,534人でした。医師の多さランキングでは全40科中24位ですので「医師数が比較的少ない診療科」といえます。全医師296,845人に占める割合は0.9%です。

 

医師数は少ないのですが、増加率がとても高いという特徴があります。血液内科医は、2008年から2014年の間に667人増え、増加率は35.7%でした。

 

一方、医師全体は、2008年の271,897人から2014年の296,845人へと、24,948人、9.1%しか増えていないのです。なぜこれほど急激に血液内科医が増えたのでしょうか。

 

医師数 2008年(多い順) 2014年(多い順) 増加数(率)
血液内科医 1,867人(26位/40) 2,534人(24位/40) 667人増(35.7%)
医師全体 271,897人 296,845人 24,948人増(9.1%)

 

新人医師の希望も他科からの転科も多い診療科

 

血液内科医急増の「わけ」を探すために、平均年齢を見てみましょう。

 

血液内科医の平均年齢は、2008年の41.8歳から2014年43.1歳へと、この期間で1.3歳増えました。若い医師が多い診療科で、若さランキングでは2008年は5位、2014年でも6位でした。

 

一方、医師全体の平均年齢は同期間に48.3歳→49.3歳へと1.0歳しか上昇していません。このことから、血液内科医の高齢化スピードは、医師全体の高齢化より速いといえます。

 

しかし医師全体の高齢化のスピードと血液内科医のスピードの差は、わずか0.3歳ですので、血液内科医の高齢化スピードは「少し速い」くらいです。血液内科医の人数は同期間に4割近く増えているので、新人医の志望者も多く、なおかつ他科から転科する医師も多い、といえます。

 

平均年齢 2008年(若さ順位) 2014年(若さ順位)
血液内科医 41.8歳(5位/40) 43.1歳(6位/40) 1.3歳上昇
医師全体 48.3歳 49.3歳 1.0歳上昇

 

血液内科の人気の高さの一因として考えられるのは、がんの免疫細胞療法の広がりです。かつては医療系ベンチャー企業が細々と行っているイメージがありましたが、最近では大学や大手企業も力を入れ始め一代医療ビジネスに成長しています。

 

がん免疫細胞療法の最近のトレンドについては、後述します。

 

血液内科医の開業意欲はそれほど落ちていない

 

次に見ていただくのは「病院医:診療所医比」です。診療所医の多さは、独立開業の意欲の強さを測る上で参考になります。

 

2014年では、血液内科医の2,534人のうち、99.3%にあたる2,515人が病院医でした。「血液内科医はほとんど病院に勤務している」といった状況です。

 

2008年の血液内科医の病院医の割合は98.5%でしたので、「血液内科医の病院医志向は強まっている」といえます。つまり「血液内科医の独立開業の意欲は落ちている」ということです。

 

病院医・診療所医比 2008年 2014年 増減(増減率)
血液内科医数 1,867人(100%) 2,534人(100%) -
うち病院医数 1,840人(98.5%) 2,515人(99.3%) 0.8ポイント減
うち診療所医数 27人(1.5%) 19人(0.7%) 0.8ポイント増

 

全医師数

病院医・診療所医比 2008年 2014年 増減(増減率)
全医数 271,897人(100%) 296,845人(100%) -
うち病院医数 174,266人(64.1%) 194,961人(65.7%) 1.9ポイント増
うち診療所医数 97,631人(35.9%) 101,884人(34.3%) 1.9ポイント減

 

ただ、全医師の傾向を見ると、診療所医の割合は2008年の35.9%から2014年の34.3%へと1.6ポイントも減っています。これは血液内科医の診療所医の減少率より高い数値です。

 

多くの医師の開業意欲が落ちているのは、診療報酬の減額が今後も続くことが見込まれるからです。しかし血液内科医の先生たちは、開業についてそれほど悲観していない、と見ることもできるのです。


血液内科医の求人票ひろい読み

 

医師専用の転職支援サイト「リクルートドクターズキャリア」には、血液内科医の求人が74件掲載されています(2017年8月現在)。

 

他科に比べて少ないといえ、これは専門性が高いことと、患者数が比較的少ないため、血液内科を標榜する医療機関が大学病院や地域の拠点病院に限定されるため、と考えられます。

 

年収2,000万円の大台は困難か

 

その74件の求人票のうち「年収1,800万円~」の求人票がゼロ件でした。「1,600万円~」が1件あっただけです。

 

2,000万、3,000万が頻発する皮膚科と比べるべくもありませんが、一般内科と比較しても寂しい金額といえます。「血液内科医が2,000万円の大台を獲得するのは困難」といえるでしょう。

 

山形県の公的病院は要求は高度だが1,600万円

 

最も高い年収を提示していたのは山形県鶴岡市の公的病院で、提示額は1,600万~2,050万円です。ところが但し書きに、卒後10年目の医師の年収は「1,600万円~」となっています。つまり9年目以下の先生は1,600万円を割り込むということです。

 

また「1,600万円~」と書かれてあっても、上限が青天井であるという意味ではありません。これは「1,600万円付近」という意味と理解しておいた方が無難です。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務日
山形県鶴岡市

公的病院

年収1,600万~2,050万円、10年目:1,600万円~ 外来週2~3コマ、1コマ10~20人、病棟受け持ち15~20人、鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、溶血性貧血急性白血病など 週5日勤務、年120日休み、当直必須

 

業務内容を見ると、難治性の病気が並んでいます。さらに地方の公的病院ということで、近隣医療機関の駆け込み寺的な存在であると推測できます。かなり高度な医療が求められていることは間違いありません。

 

つまり卒後10年目の中堅医師ですら、2,000万円からはるか遠い金額になってしまう、ということです。

 

無菌室を使った難しい治療を要求されても1,400万円

 

血液内科医の年収の標準は1,200万~1,400万円というデータがあります。その近辺の年収を提示している2件の求人票を見てみましょう。

 

地域、機関 年収 業務内容 勤務日
東京都調布市

病院

1,200万円~、10年目:1,400万円~ 外来週2~3コマ、1コマ20~25名、病棟受け持ち7~10人、慢性の腫瘍性疾患、非腫瘍性疾患、専門医歓迎 週5日勤務、年120日休み、当直の記載なし
兵庫県川西市

病院

1,400万円~、10年目:1,400万円~ 外来週1~2コマ、1コマ15~20人、病棟受け持ち10人以上、貧血、悪性リンパ腫など、無菌室を設置予定 週5日勤務、年110日勤務、当直なし可

 

東京都調布市の病院も、兵庫県川西市の病院も、卒後10年目の医師に1,400万円~を提示しています。繰り返しになりますが、これは「ほぼ1,400万円の提示」という意味です。

 

しかし治療内容や労働環境では、兵庫県川西市の病院の方がややハードです。近く無菌室を設置するので、より難しい疾患を扱うことになるからです。

 

さらに年間休日数が110日しかありません。正月休みや祝祭日を除いた完全週休2日制の場合、年間の休日数は104日となります。つまり年110日休みとは、完全週休2日制+大晦日+元日+GW2日+お盆2日しかありません。


血液内科分野の今とこれから

 

報道や血液内科医へのインタビューから、最新の血液内科トピックスを紹介します。

 

九州大学の免疫細胞療法の取り組み

 

九州大学の先端医療イノベーションセンターは、研究室と臨床を合わせた機関です。両者が合わせることで、より高度な研究と臨床試験の短期化の実現を目指しています。
このセンターの目玉のひとつが、がん免疫細胞療法です

 

※がん免疫細胞療法には是々非々論ある最中ではありますが、血液内科分野の注目度が高いトピックスの1つとしてここでは取り上げさせていただきます。

 

このプロジェクトを率いるのは、血液内科医の水野晋一先生です。

 

T細胞と樹状細胞を使用

 

九大先端医療イノベーションセンターでの免疫細胞療法にはいくつか種類があり、まとめると以下のようになります。

 

活性化自己リンパ球療法

 

・アルファ・ベータT細胞療法、ガンマ・デルタT細胞療法…がん患者の体内からT細胞を取り出し、数を増やして攻撃力を強めてから再び体内に戻す。

 

樹状細胞ワクチン療法

 

がん患者の体内から樹状細胞を取り出し、人工的にがん細胞の目印を取り込ませ、患者の体に戻す。癌細胞の目印を取り込ませるために、患者自身の冷凍がん細胞を使う場合と、人工的につくったがん抗原ペプチドを使う場合がある。

 

・エレクトロポレーション法…がん細胞の目印を取り込ませるための新しい方法。従来方式よりがん細胞への攻撃力が数倍から数十倍になる。

 

この中で最も金額が高いのは「樹状細胞ワクチン療法+エレクトロポレーション法」です。

 

初診料32,400円、相談料16,200円、技術料1,836,000円(6回分)、管理料324,000円(6回分)となり、総額約220万円です。医療保険は適用されません。

 

同センターでは、医療機関との連携を呼びかけています。

 

例えばある病院で抗がん剤治療を受けている患者が、「九大のがん免疫細胞療法を受けたい」と希望すれば、その病院の主治医から同センターに対し診療情報提供書や血液検査や画像診断のデータを提供してもらいます。がん免疫細胞療法を受けながら、元の病院で従来の診療を継続することもできます。

 

 

クリニックや企業も免疫細胞療法を注視

 

1件で153万円の売上、クリニックとしては収益への貢献度は高い

 

がん免疫細胞療法は、最近では血液内科クリニックでも広く行われています。

 

大阪市のある血液内科クリニックでは、T細胞や樹状細胞のほか、NK細胞を使った方法も導入しています。治療過程は九大のシステムと同じで、患者のNK細胞を取り出して増やし、がん細胞への殺傷能力を活性化させた上で再び患者に戻します。

 

NK細胞療法の料金は、初診料16,200円、相談料16,200円、血液検査5,400円、技術料(6回)1,490,400円で、トータル約153万円です。

 

「内科クリニックの収益」としては、かなり大きな金額といえるでしょう。

 

関連企業は東京のテレビ局並みの規模

 

がん免疫細胞療法の老舗企業であるタカラバイオ株式会社は、東証一部上場企業で、時価総額は約1,700億円です。時価総額とは、株価と発行株式数を掛け合わせた金額で「企業の値段」といえます。

 

時価総額2,000億円規模の企業には、日本製紙やテレビ朝日など名門がずらりと並びます。

 

タカラバイオは、T細胞の遺伝子を操作するときに必要なウイルスベクターを製造したり、改変した後のT細胞を培養したりしています。そのため「治験に必要なパーツがそろう百貨店」と呼ばれることもあります。がん免疫細胞療法は、医療ビジネスで巨大マーケットを築き上げている状況です。

 

 

訪問診療に専念することにした血液内科医の気持ち

 

最後に、大学病院の血液内科医だった先生が、訪問診療に転身した話を紹介します。

 

これは転職支援サイト「リクルートドクターズキャリア」に掲載されていました。

 

Y先生は、自身も妻も血液内科医という、医療界でも珍しい状況にありました。病院時代のY先生の専門は、白血病や悪性リンパ腫などの治療です。患者のほとんどは、病棟で亡くなるか、再発での来院者です。

 

抗がん剤の副作用に苦しむ患者の姿を見ることや、病院からの頻繁な呼び出しに疲れ、「夫婦ともにこの忙しさを続けることは難しいだろう」と判断し、Y先生が訪問診療のクリニックに転職したのでした。

 

開業も検討したそうですが、一般内科のスキルを新たに獲得する必要がありますし、自宅周辺にはクリニックがあふれていて、集患に苦労することは目に見えていました。

 

転職した先は、訪問診療クリニックや訪問看護ステーションなどを10カ所以上展開する、医療法人でした。訪問診療医としてのY先生の重要な任務は終末期医療で、毎月1、2人をお看取りしているそうです。

 

訪問診療には一般内科の他、耳鼻科や皮膚科の知識も必要ですが、訪問診療クリニックの医療法人には非常勤を合わせて約120名の医師がいるので、協力を仰ぐことができます。

 

Y先生は「個人宅を訪問して、患者や家族の声に耳を傾け、安心してもらうことに深い喜びを感じている」と話し、転科の決断は間違っていなかったと考えています。

 

 

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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