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形成外科医師の現状(厚労省医師数調査から)

■作成日 2017/8/11 ■更新日 2017/12/6

全医師平均の2倍の速さで増える形成外科医

 

形成外科医の現状と未来を、国の調査やマスコミ報道などから見ていきますと、形成外科医師の数が急増していることがわかります。

 

厚生労働省の調査によると2014年の形成外科医の人数は2,377人で、医師数の多さランキングでは40科中25位と「少ない方の医師」なのですが、2004年には1,765人しかいませんでした。

 

2004年から2014年までの10年間で612人増え、増加率は34.7%に達します。同期間の医師全体の人数は、40,177人増、増加率15.7%なので、形成外科医の増加スピードは全体の2倍以上です。

 

医師数 2004年(多い順) 2014年(多い順) 増加数(率)
形成外科医 1,765人(19位/32) 2,377人(25位/40) 612人増(34.7%)
医師全体 256,668人 296,845人 40,177人増(△15.7%)

 

1位陥落も「若さ」は維持。ただ高齢化のスピードは速い

 

次に平均年齢を見てみます。

 

形成外科医の2004年の平均年齢は39.8歳で、若さランキングで1位でした。この年の2位は麻酔科医の40.4歳ですので、形成外科医は唯一の30代だったわけです。しかも医師全体の平均年齢47.8歳より8歳も若く、「新人医師に人気の診療科」だったことがうかがえます。

 

平均年齢 2004年(若さ順位) 2014年(若さ順位)
形成外科医 39.8歳(1位/32) 42.9歳(5位/40) 3.1歳上昇
医師全体 47.8歳 49.3歳 1.5歳上昇

 

その10年後の2014年には42.9歳で5位になりましたが、これには「わけ」があります。

 

2014年の若さランキング上位は次の通りです。

 

順位 診療科 平均年齢
1位 臨床研修医 27.9歳
2位 救急科 40.7歳
3位 感染症内科 42.4歳
4位 腎臓内科 42.8歳
5位 形成外科 42.9歳

 

1位から4位までの診療科は、2004年には設定されていませんでした。しかも臨床研修医や救急科は「若い医師が多くて当然」の科です。こうしたことから、若さランキングで1位から5位に転落したものの「形成外科医は依然として若い医師が多い診療科」といえるでしょう。

 

形成外科への転科が増えているから

 

気になることは、高齢化のスピードです。2004年~2014年の10年間で形成外科医は3.1歳上昇しましたが、これは医師全体の1.5歳上昇をはるかに上回ります。

 

医師数が急増しながら、高齢化スピードが速いということは、他科の中堅やベテランの医師が形成外科に転科するケースが増えている、と推測できます。

 

医師全体は病院志向なのに、形成外科医の診療所志向はなぜ?

 

2014年の形成外科医2,377人のうち、80.3%の1,909人が病院に勤務していました。診療所に勤務する形成外科医は468人で、全形成外科医に占める割合は19.7%でした。

 

おおよそ病院医8割、診療所医2割ということになりますが、これは2004年も似たような割合でした。

 

2004年の形成外科医は、病院勤務が1,431人81.1%、診療所勤務が334人18.9%ですので、この10年間で診療所勤務医が若干増えている程度といえるのですが、医師全体と比べると興味深いことが分かります。

 

全医師に占める病院医の割合は、2004年の63.8%から2014年には65.7%へと、1.9ポイントも増えているのです。これは、診療所医になること、つまり独立開業するリスクを回避する傾向が強まっているためと推測できます。

 

このように医師全体のトレンドとしては病院医志向が強まっているので、形成外科で診療所医が微増であろうと増えていることは、興味深い現象です。

 

病院医・診療所医比 2004年 2014年 増減(増減率)
形成外科医数 1,765人(100%) 2,377人(100%) -
うち病院医数 1,431人(81.1%) 1,909人(80.3%) 0.8ポイント減
うち診療所医数 334人(18.9%) 468人(19.7%) 0.8ポイント増

 

全医師数

病院医・診療所医比 2004年 2014年 増減(増減率)
全医数 256,668人(100%) 296,845人(100%) -
うち病院医数 163,683人63.8%) 194,961人(65.7%) 1.9ポイント増
うち診療所医数 92,985人(36.2%) 101,884人(34.3%) 1.9ポイント減

 

手術をしたい形成外科医は開業医意欲が強くなる

 

「なぜ形成外科医は開業意欲が強いのか」という疑問の答えのひとつに、「手術をしたいから」という理由が挙げられそうです。

 

埼玉県のある形成外科医は、開業する前に総合病院に勤務していました。そのとき皮膚科の治療ばかりをさせられ、ストレスに感じていました。

 

そこで開業に踏み切りましたが、当然のことながら、創傷やケロイドなどの形成外科の患者数に比べると、皮膚科疾患の患者数は圧倒的です。そこで形成外科と皮膚科の両方を標榜することにしました。

 

当初はやはり皮膚科の患者が多かったのですが、クリニックが認知されるようになり、形成外科疾患も徐々に増えているそうです。皮膚科9割、形成外科1割だったものが、開業1年で8対2程度にまで形成外科疾患が増えました。

 

形成外科のように、ややマイナーな診療科を志した医師は、開業によって自身の取り組みたい医療を行えるようになる、ということです。


形成外科医の求人票ひろい読み

 

医師専用の転職支援サイト「リクルートドクターズキャリア」には、形成外科医の求人が41件掲載されています(2017年8月現在)。これは他の診療科と比べて「とても少ない」数字と言えます。

 

年収最高額は5,000万円も見つかる

 

ただ、この中に、5,000万円を提示する求人票がありました。これも他科ではあまりみかけることができません。そこで次に、41件の中の「最も高い年収」「標準的」「最も低い年収」の3つの求人票を見てみることにします。

 

年収レベル 地域、機関 年収 業務内容 勤務日
東京都町田市

クリニック

2,000万~5,000万円、10年目:2,000万~3,000万円 下肢静脈瘤専門、院長候補、外来週4~5コマ、1コマ20~30人、手術必須、血管内レーザー、形成外科専門医あれば尚可 週5日勤務、年105日休み
山形県庄内町

病院

1,000万~2,500万円、10年目:1,500万円~ 手術必須、形成外科専門医歓迎、外来週1~4コマ、1コマ 1~2名、体表面の変形、機能障害、病棟受け持ち7~8人 週4.5~5.5日勤務、年120日休み、当直なし可
長野市

病院

600万~1,700万円 業務内容未記載 週5.5日勤務、年115日勤務

 

下肢静脈瘤専門クリニックは利益率が高い

 

東京都町田市のクリニックは、提示額の上限の5,000万円も破格ですが、下限の2,000万円も相場をはるかに上回る金額です。

 

それもそのはずで、下肢静脈瘤専門のクリニックです。しかも、院長候補を募集していて、その上、年間休日数は105日しかありません。ワーク・ライフ・バランスを改善するには、最低年120日の休みが必要でしょう。

 

つまりこのクリニックの経営者は「稼げる医師」を求めているということです。

 

このクリニックでは、傷やケロイドなどの一般的な形成外科の治療はあきらめなければならないでしょう。また循環器内科領域の知識も必要になります。
こうしたことから、かなり特殊な求人条件といえるでしょう。

 

地方の人口2万人のマチ、年棒1,500万円は思案のしどころか

 

山形県庄内町は人口2万人ほどの小さなマチです。ここの病院の求人票の業務内容欄には、「体表面の変形、機能障害」とあることから、一般的な形成外科の治療をさせてもらえそうです。外来の患者数が1コマ1~2名と少ないことからも、じっくり自身の専門領域の医療と向き合うことができそうです。

 

しかしこの求人票の年収表示は、少し心配させます。

 

勤務地 山形県庄内町・病院
年収 1,000万~2,500万円、10年目:1,500万円~

 

下限を1,000万円にしているということは、卒後年次を問わず1,000万円は支給するという意味に取れるので、これは歓迎できます。「地方手当」の意味合いもあるのでしょう。

 

しかし上限の2,500万円は、本当に獲得できるのだろうかと思わせます。それは、但し書きに「10年目:1,500万円~」とあるからです。「1,500万円~」の表示を、上限は青天井と理解してはいけません。「1,500万円+100万円以下」と考えておいた方が無難でしょう。

 

卒後10年目の中堅の形成外科医でも1,500万円ほどとなるので、2,500万円に到達するまでに何年かかるのが疑問です。もちろん、1,500万円の金額は大きなものですが、ただ立地を考えると医師としては思案のしどころとなるのではないでしょうか。

 

約3倍の幅は誠意が感じられない

 

長野市の病院は、600万~1,700万円という提示をしています。600万円という下限の低さもさることながら、上限と約3倍の開きがあることに、誠意さを疑ってしまいます。

 

また、業務内容が記されていないことも気になります。もちろん、病院側としては「詳細は直接お問い合わせていただいたときにご回答します」という気持ちなのだと思いますが、それでももう少し情報をいただかないと、詳細を尋ねようという気持ちがわきません。

 

形成外科医師の年収・収入・将来性と転職条件

資料出典:リクルートドクターズキャリア


形成外科分野の今とこれから

 

マスコミ報道を元に、形成外科分野の今とこれからの動向を見てみます。

 

形成外科領域は遠隔診療に向いている

 

株式会社メドレー(東京都港区)が展開するスマホ通院アプリ「クリニクス」は、スマホで医師の診察を受けられるサービスです。遠隔診療のひとつです。患者は自身のスマホに専用アプリをダウンロードして、登録します。診察を受けるときは、スマホにビデオ通話を立ち上げて、テレビ会議の要領で医師と会話をします。

 

このシステムを導入した形成外科クリニックの院長は、日本経済新聞の取材に対し、次のようなメリットを挙げています。

 

  • 形成外科領域は長期治療を要する疾患が多く、患者の通院負担が大きい。スマホシステムはそれを軽減できる。
  • 子供の患者の親や、高齢患者から喜ばれている。
  • 訪問診療や往診の負担が減る(医師側のメリット)

 

受診に関わる患者の負担を減らすことで、治療を継続してもらえることは、形成外科医にとっても利点が多いでしょう。

 

このクリニクスでは、初診は来院による直接対面診療が必要です。医療保険も使えますし、クレジットカードでの決済も可能です。ちなみに2017年8月現在、クリニクスに登録している形成外科クリニックは3件ありました。全科の登録件数は約350件ほどです。

 

 

形成外科医らがアートメイク学会を立ち上げ

 

アートメイクとは、皮膚の表面に色素を入れて眉毛などを描く美容医療です。医療行為ですから医師しか施術できないのですが、医師免許を持たない業者が横行し、トラブルが起きています。

 

この対策に形成外科医と皮膚科医たちが立ち上がり、医療アートメイク学会を立ち上げました。

 

トラブルとしては、違法業者のサロンでアイラインを入れたところ、違った形になった上に、まぶたが腫れあがる症状も出た、といった事例が報告されています。この女性はその後、医療機関にかかってまぶたの治療を行い、レーザーでアイラインを消したそうです。

 

アートメイクは、専用の針で皮膚の表面に色素を注入していきます。医療現場では、事故で負った顔のケガに肌色の色素を入れて隠したり、乳がん手術で失った乳輪を描いたりして使っています。

 

厚生労働省は、2001年にこうしたアートメイクは医療行為であると明確に判断し、医師免許を持たずに施術した業者を摘発してきました。摘発件数は年間およそ50件に及びます。

 

医療アートメイク学会は、こうした状況を改善すべく2017年1月に発足しました。正しい知識の普及や、施術の安全性を高める取り組みを行っています。

 

参考:「医療アートメイク学会」

 

参考:「アートメイクは医療機関で 無資格サロンでトラブル目立つ」(日本経済新聞2017/1/27)

 

遠隔診療もアートメイクも最先端のトレンドといえるしょう。形成外科の治療でもトレンドをしっかりキャッチした上で転職対策をすることで、様々な就業先への対応が可能になるでしょう。

 

 

この記事を書いた人


野村龍一(医師紹介会社研究所 所長)

某医療人材紹介会社にて、10年以上コンサルタントとして従事。これまで700名を超える医師の転職をエスコートしてきた。担当フィールドは医療現場から企業、医薬品開発、在宅ドクターなど多岐にわたる。現在は医療経営専門の大学院に通いながら、医師紹介支援会社に関する評論、経営コンサルタントとして活動中。40代・東京出身・目下の悩みは息子の進路。

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