心不全による体液貯留に対してサムスカ錠7.5mgが処方されていた患者さんに、誤ってサムスカ錠15mgを交付してしまう調剤過誤が発生。ほとんど処方されることのない薬剤がたまたま処方されたこと・一包化に時間がかかったこと・自己監査を行ったこと…悪条件が重なり、過誤は生じた。
■作成日 2018/2/23 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は総合病院の門前薬局で働く40歳代の薬剤師です。
私の勤務している薬局では1日に50~120枚程度の処方せんを受け付けています。そして、どの時間帯も薬剤師が2~4人いるようにシフトが組まれています。
しかし忙しい時間帯(特に平日の午前中)は一包化希望の患者さんや小児科の患者さんが何組も来局されるので、息をつく間もないくらい大変です。
私は調剤薬局での勤務経験は10年以上ありますが、子育てのため5年ほどブランクがあり職場復帰したばかりです。
以前は比較的大きなチェーン薬局に勤務していたのですが、休職期間中に新居を建てて転居した先が当該チェーン薬局の店舗がまったくないエリアであったので退職しました。現在勤務している薬局は、働き始めてまだ半年ほどしかたっていません。
私が子育てで休職している間に大型新薬がたくさん発売されて、復職直後は知識が追いつかず大変でした。しかし最近はやっと慣れてきて、仕事にも余裕が出てきました。
そんな矢先に、私は規格違いの薬剤を交付してしまうという調剤過誤を犯してしまいました。
患者さんは70歳代後半の男性で、ほとんど寝たきりの状態の方でした。そんな状態なのでご本人は調剤薬局には来局せず、いつも奥さんがお薬をとりにみえていました。
総合病院からFAXで処方せんを送ってくれるのですが、処方の内容が非常に重く、また一包化の指示があるためにいつも長時間お待たせしていました。
この日もいつものようにFAXで処方せんを送ってくれたのですが、連休明けであったこと、また冬場で処方せん枚数がいつも以上に多かったことからどの薬剤師も手一杯でした。
患者さんの処方せんのFAXを受け取って一包化を行ったのは私自身でした。処方日数は14日分と短めだったのですが、ワーファリン錠1mgが6.5錠、他にも心血管系の薬剤がいくつも処方されていました。
薬剤の多さに圧倒されつつ分包すべき薬剤・分割すべき薬剤をピッキングしてそろえていったのですが、サムスカ錠がどうしてもみつかりませんでした。ベテランの先輩薬剤師の手がすくのを待ってサムスカ錠の保管場所を聞き、やっとそろえた薬剤をPTPから押し出しながら全自動錠剤分包機で一包化する準備を行いました。
そして分包機に手撒きの薬剤をセットしたところで、患者さんの奥さんが来局されたことを事務職員から告げられました。あわてて分包された薬剤を監査していたのですが、ワーファリン錠の分包ミスがいくつかみつかりました。
ここ何日か全自動錠剤分包機の調子が悪かったのでその影響であることはすぐわかったのですが、分包し直さなくてはなりません。
私は待合にいる患者さんの奥さんのもとへ直接出向き、分包機の調子が悪くて調剤に時間がかかること・薬剤数が多く監査に時間がかかること・大切なお薬ばかりなので慎重に監査を行いたいことなどを伝えました。
患者さんの奥さんは「わかっているから大丈夫よ。主人は疲れてしまって車で寝ているけれど、私は待てるから大丈夫よ。」とおっしゃってくれました。
患者さんのご家族の了承があったとはいえ、のんびりしているわけにはいきません。私は可能な限り早く薬を再分包し、一包化された薬を監査しました。そして投薬口で患者さんの奥さんをおよびした時には、すでに来局から15分以上たっていました。
前回の処方も14日分だったのですが、今回は約1ヶ月ぶりの来局であったこと・また処方されている薬剤の内容がいくつか変わっていることから、奥さんにいろいろお話を聞くことにしました。
奥さんによると、前回の受診直後に体調が急に悪くなったため受診したところ、即入院になってしまったとのことでした。
そして入院中にサムスカ錠が処方されるようになり、尿量が増えること・水分補給が必要なことなどの注意は十分理解しているとのことでした。
その他変更のあった薬剤についても確認したのですが、入院中の処方と変わりないということだったのでしつこく説明はしませんでした。そして長時間お待たせしてしまったことをお詫びして、お薬を渡しました。
薬剤発注時に調剤過誤が判明。すぐに正しい薬を一包化し直して患者さん宅に直行
午前の忙しさが一段落し、従業員が休憩に入ったり、薬歴を書いたり、薬剤の補充・発注をしたりしている時のことでした。空箱のバーコードをスキャンしながら発注をしていた薬剤師が「今日ってサムスカ錠の処方があったの?」と聞いてきました。
そこで私は「Kさんに処方されました。14日分です。」と答えました。
すると「Kさんは初処方のはずだよね。入院していたのかな。規格は15mgで良かったんだよね。7.5mgじゃないんだよね。」と聞き返してきたのです。そこで初めて、サムスカ錠に規格が複数あることに私は気がついたのです。
祈るような気持ちで処方せんのコピーを確認すると、記載されていたサムスカ錠の規格は7.5mgでした。そして、ゴミ箱に捨ててしまったサムスカ錠のPTPを確認すると、「15mg」と記載されていたのです。
患者さんに処方されていたサムスカ錠は朝食後のみだったのですぐに服用してしまう可能性は低かったのですが、処方の倍量の薬剤を一包化してしまったのです。
私はあわてて患者さん宅に電話をしました。
しかし、電話は全くつながりません。
そこで、取り急ぎ朝食後の薬を処方通りに一包化し、今度は監査を他の薬剤師にしっかり行ってもらい、私は患者さん宅に急いで向かいました。
患者さん宅に行くと、いつも来局時に使っている車がありました。
そこでホッとしながらインターホンを押したのですが、だれも出てきてくれません。
やむを得ず玄関の扉を開けて大きな声で呼びかけると、手を泡だらけにした奥さんが出てきてくれました。そして「ごめんね、いま主人をお風呂に入れているから、もう少し待ってね。」と言われました。
しばらくすると奥さんが戻ってきたので、薬が間違っていたことを説明し、お詫びをして正しい薬を渡しました。もちろん、間違っていた薬はすべて回収しました。
奥さんはサムスカ錠の規格が間違っていることに全く気づかなかったそうです。
分包紙に入っている薬の数と色を確認して、院内で処方されていたものと同じだと思っていたそうです。
薬を見る時に目から離して見ていたので、おそらくあまり視力が良くないのでしょう。サムスカ錠の7.5mgと15mgは大きさや形は若干違いますが色が同じなので、奥さんには同じ薬にみえたのかもしれません。
奥さんは「教えてくれてありがとう。大変なことにならなくてよかったわ。」とうれしそうに言ってくれましたが、私としては自分のミスで患者さんに重篤な副作用が起こる可能性があったわけですから、奥さんの優しい言葉がかえってつらかったです。
薬局に帰ると、管理薬剤師から厳重注意を受けました。
調剤には緊張を持ってあたること・監査は必ず他者に行ってもらうこと・患者さんから回収した薬剤は廃棄せざるを得ないが、今回のように比較的高価な薬剤の廃棄は薬局の経営にも響くので注意して欲しいとのことでした。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回発生した調剤過誤の原因の一つは、非常に忙しい時間に受付した一包化の処方をあわてて調剤したことにあると思います。当たり前のことですが、どんなに忙しくても調剤は落ち着いて行わなければなりません。しかし調剤時の私は処方薬の多さや複雑さに圧倒されて、冷静さを失っていました。
全自動錠剤分包機のモニターに表示される内容をチェックして入力内容が間違っていないかを確認し、手撒きすべき薬剤をピッキング、分割が必要な薬剤を分割、モニター表示されているけれど分包せずにPTPで渡す薬剤を用意し…と、このあたりから段々落ち着きがなくなってきたような気がします。
そして、普段あまりあつかうことのないサムスカ錠がどこを探してもみつからないことでだいぶあせってしまいました。
先輩薬剤師に保管場所を聞いてサムスカ錠をみつけた時には、規格を確認することなどすっかり忘れていました。加えて、患者さんの奥さんが来局したこと、全自動錠剤分包機の不調で分包ミスがあったことなどで、精神的に全く余裕がなくなってしまいました。
調剤過誤は薬剤師に余裕がない時に生じるものです。今回はまさに典型的なパターンだったといえるでしょう。
余裕がない時こそ落ち着いて処方せんをしっかり確認し、調剤にあたるべきでした。
精神的にも時間的にも余裕がない時に落ち着くのは難しいことですが、今回の調剤過誤を教訓に冷静に調剤にあたりたいと思いました。
また、調剤時・監査時に処方された薬剤の規格をしっかり確認しなかったことも原因の一つだと思います。調剤や監査にあたっては、処方せんのコピーに丸印や下線を引きながら確認すべきだと思います。
以前勤務していたチェーン薬局では、調剤・監査時に処方せんのコピーに書き込みをすることが義務づけられていました。しかし現在勤務している薬局はそのようなルールはなく、調剤・監査時のチェック方法は各薬剤師にまかされています。
復職直後は以前の調剤薬局のクセが抜けず処方せんのコピーにこまめにチェックを入れていたのですが、職場や仕事に慣れて余裕が出てきたころから、いつの間にかチェックがおざなりになってしまっていました。
そして今回も、規格をしっかり確認しないまま調剤を行い、調剤過誤を出してしまいました。これは、私の気のゆるみといえるでしょう。
これからは処方せんのコピーに適宜書き込みをして、規格や剤形をしっかり確認していきたいと思います。
また、一包化に使った薬剤のPTPシートを早々に捨ててしまったのも、良くなかったと思っています。
以前は薬剤名の書いてあるPTPシートの耳の部分を処方せんのコピーに貼り付けて交付した薬剤の確認が事後にもできるようにしていたのですが、不要紙を処理する際に貼り付けたPTPの破片をはがさなくてはならず、手間がかかることから貼り付けることをやめてしまいました。
しかし貼り付けなくても、調剤あるいは監査した薬剤のPTPシートを薬歴の記入終了まで箱などに入れて保管しておくことは不可能ではありません。
そこで、これからは薬歴を書き終わるまでPTPシートを保管しておくことにしました。このようにしておけば、薬歴記入時に交付した薬剤の規格を再度確認することができますし、万が一調剤過誤があっても早急に対応することができます。
さらに、私を含め4人も薬剤師がいたにもかかわらず、調剤を行った私自身が監査をしたことも調剤過誤を誘発した大きな原因だと思います。
この患者さんの処方せんがFAXされた時間帯は最も患者さんの多い時間帯で、どの薬剤師も余裕がなく、何かを頼める状況ではありませんでした。
しかも分包ミスがあったために待ち時間が長くなっており、早く薬剤を交付したいというあせりから自己監査を行ってしまいました。
しかし、せっかく薬剤師が複数人体制で勤務しているのですから、監査は他の人に行ってもらうべきであったと反省しています。
確かにいろいろな意味で余裕のない状況ではありましたが、だからといって手順をはしょって調剤過誤を起こしていいわけではありません。余裕のない時こそ、協力しあって過誤防止に努めるべきだと思います。
また一包化された薬剤に関しては、方法を工夫すれば監査の時間を短縮することもできると考えています。
やむを得ず調剤者が監査を行った場合には、第三者がランダムで何包か分包された薬剤をチェックするのです。そこで分包されている薬剤の内容にミスがなければ十中八九ミスはないと考えられます。
今回も、一包でも他の薬剤師に監査をしてもらっていればサムスカ錠の規格が間違っていることは発見できたはずですから、本当に悔やまれます。
参考資料
日経メディカル サムスカ錠7.5mg
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/21/2139011F2020.html
日経メディカル サムスカ錠15mg
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/21/2139011F1023.html
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