ベストロン点眼用を患者さん家族の希望で溶解せずに交付
■作成日 2018/3/27 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私は面薬局に勤務する薬剤師です。
30歳代ですが調剤薬局での勤務歴は今年で2年目で、最近やっと業務に慣れてきた感じです。
私の勤務している薬局の近くには消化器内科のクリニックがあります。そのため処方せんはそのクリニックからのものがほとんどなのですが、駅やバス停が近く交通の便が良いことから市内のあちらこちらから処方せんが持ち込まれます。
処方せん枚数は1日に50枚から100枚程度で、常勤の薬剤師が3~5人いるようにシフトが組まれています。
今回調剤過誤が起きた処方は、薬局から少し離れたところにある総合病院の眼科からのものでした。患者さんは80歳代の女性で、病院から帰宅されたあと、ご家族が処方せんを持って来局されました。
ご家族によると主訴は目やにで、今回はベストロン点眼用のみが処方されていました。いつもは白内障の目薬なども処方されている方なのですが、目やにがおさまるまでは今回処方のベストロン点眼用のみを使うよう医師から指示があったそうです。
ベストロン点眼用は溶解後7日間しか使用できないので、私たちの薬局では患者さんが来局してから使用開始日を確認し、溶解してお渡しするかどうかを決定します。
今回も来局されたご家族に使用開始日を確認したのですが、
「すぐ使うとは思うけど…今日使うかどうかはわからないんだよね。使用期限が短いみたいだから、使う直前に溶かすようにおばあちゃんに言っておくよ。だからそのまま溶かさなくていいよ。」
とのことでした。
80歳代という年齢を考えると溶解することが困難ではないか、とも思われたのですが、上手に溶解できないようならばご家族が手伝ってくれるとのことでした。そこで溶解方法と溶解後の保存方法、使用期限を説明し、溶解しないままお薬をお渡ししました。
1週間後、患者さんが薬剤の入った瓶を持って来局。「目薬と一緒に入っていたこれは何?」と聞かれて溶解せずに使用していたことが発覚
その1週間後のことです。今度は患者さんご自身が処方せんを持って来局されました。今回はベストロン点眼用の処方はなく、カリーユニ点眼液のみの処方でした。
私が服薬指導を行い目の調子を聞いたところ、目やには落ち着いたとのことでした。そこでカリーユニ点眼液が再開されたということもわかりました。良かった、と思いつつ服薬指導を一通り終わった時のことです。患者さんがおもむろに前回お渡ししたベストロン点眼用の薬袋を取り出したのです。そして薬剤が入ったままの瓶を取り出しこう言ったのです。
「前回もらったお薬の中に目薬じゃないものが入っていたのだけれど、これは何だったの?薬局さんに返した方が良いのかしら?」
私は目が点になりました。
「えっ?これは目薬容器に入っていた溶解液で溶かしてから使うようになっていたものなのですけれど…。溶かさずに目薬容器の液だけをさしていたってこと…ですか?」
患者さんは瓶を少し目から離してゆっくり眺めながら
「あぁ。溶かして使うものだったの?なんだ、そうだったのね。なんか見慣れない変なものが入っているわって不思議だったのよね。でも、目の調子はすごく良いのよ。目薬(容器)の液だけでもよく効いたから、溶かさなくても良かったのよね。瓶の中身の方はまた今度使うようにとっておくからいいわ。」
とニコニコしながらおっしゃいました。
しかし、患者さんが瓶の中身を適当なものに溶かして点眼してしまっては大変です。私は使用方法についての説明不足を謝罪しながら、薬剤の入っている瓶については「次回処方された時に使えるよう、薬局で大切に保管しておきますね。」とごまかして患者さんから回収しました。
今回は患者さんが薬剤を溶解せず溶解液のみを点眼してしまったのですが、さいわい健康被害はなく、主訴であった目やにも改善したようです。しかし、これが白内障などの術前に処方された目薬であったら術中術後の感染症を誘発していたかもしれません。
何事もなくてよかったですが、これからは患者さんが間違いなくお薬を使えるように気をつけなければならないと思いました。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回の調剤過誤は、患者さんに溶解液で薬剤を溶かすことが必要な目薬であることがしっかり伝わっていなかったことが原因で生じたと思います。
お薬を取りに来た家族の方は比較的若く(おそらく50歳代)、使う前に溶解することが必要なお薬であることはしっかり理解して下さったようなのですが、残念ながらご本人様には全く伝わっていなかったようです。
後日、ご家族が来局された際に今回の調剤過誤についてお詫びを伝えたのですが、「え?溶かしていなかったの?おばあちゃんにはちゃんと言ったんだけどなぁ。できる?って聞いたらできるって言っていたんだけど、使う時に忘れちゃったんだねぇ。」と残念そうに言っていました。
私は、ご家族が非常にしっかりしていたので大丈夫だろうと思っていたのですが、溶解して使うお薬であることが患者さんにしっかり伝わるようもっと努力をすべきだったと思っています。
ベストロン点眼用は保存用の遮光袋に溶解方法が書いてありますが、字が細かく、高齢の方には見づらいと思われます。そこで、メーカーから配布されている患者さん用のリーフレットをつければよかったと思います。リーフレットには溶解方法が図入りで解説されているので、理解しやすいでしょう。
もっとも、リーフレットも文字の大きさが十分であるとは言い難いです。そのため、リーフレットを拡大コピーしてお渡しするのがベターだったと思います。とはいえ、リーフレットをそのまま薬袋に入れても読んでもらえるとは限りません。
そこで、溶解液と薬剤の入っている瓶を遮光袋に入れ、その遮光袋をリーフレットでくるむようにしてお渡しすれば確実に目を通してもらえると思います。
また、薬袋に「お薬を溶かしてから使って下さい(目薬と一緒に入っている紙に溶かし方が書いてあります)。」と大きな字で書くことも必要だと思います。
そして、溶かし方がわからなければ薬剤師に連絡するよう、薬袋に記載されている電話番号を示しながら一言添えるのも忘れてはいけないと思います。
今回の患者さんは、1週間後に眼科を再受診しました。次回の受診日が1週間後であるならば、それまでにベストロン点眼用を使い切ることを前提として処方がなされていると思われます。
ベストロン点眼用の使用期限は溶解後7日間なので、今回の場合であるならばお薬を溶解してお渡ししても良かったと考えられます。
また使用開始日が処方日でない場合であっても、医師から「3日間使用」などの指示があれば溶解してお薬をお渡しできるケースもあると思います。
実際、近くの総合病院の眼科から術前投与のためにベストロン点眼用が処方される場合には「術前3日間投与」という指示がついていることが多いので、手術日を確認して可能な限り溶解してお薬を渡すようにしています。そして「○月○日から・右(あるいは左・両)目に使用」と大きな字で薬袋に書くようにしています。
医師からの指示が不明の場合や次回受診日が決まっていない場合には、必要に応じて疑義照会を行っても良いと思います。医師からの指示を確認し、溶解可能であれば溶解してお薬を渡すのが確実であると考えます。
患者さんが高齢である、あるいは手が不自由であるなどの理由で目薬を上手に溶解できないと予想される場合には、医師に処方変更を提案することも時には必要だと思います。
ベストロン点眼用は唯一のセフェム系点眼液です。しかし患者さんの症状によっては他の系統の薬剤でも代用はできると思われます。例えば、クラビット点眼液1.5%であれば添付文書上の適応症はベストロン点眼用と全く同じですし、抗菌スペクトルも広いです。
確かに耐性菌の発現などを考慮すると、抗菌スペクトルの広いものよりピンポイントで使用できるものの方が便利です。
また医師の処方権を侵害するようなことは避けなければなりません。加えて、病院の場合は採用薬でなければ処方ができないので処方提案が難しいこともあります。
そこで、患者さんの現状(神経障害などがあって上手に目薬を溶解できない、家族の協力が得られない、など)を伝え、目薬を溶解できないことを伝えるだけでも良いと思います。
ちなみに、今回の患者さんについては、付き添いの家族の方が後日医師に「ベストロン点眼用は使い勝手が悪いのでもう処方しないでほしい」という希望を伝えたそうです。
今回誤使用が発生したのはベストロン点眼用でしたが、溶解して使用しなければならない薬剤は他にもたくさんあります。以下にいくつか例をあげますが、それぞれ溶解後の使用期限や保存方法が異なるので注意が必要です。
まず、「ベストロン耳鼻科用1%」はベストロン点眼用と同様に溶解する必要があります。溶解後は冷所に保存し、7日以内に使用することとなっています。
ただし、鼻科用としてネブライザーを用いて室温で使用・保存する場合には、溶解後20時間以内に使用することとされています。点耳に用いる場合は通常1回6~10滴を耳に滴下して耳浴を1日2回行うとなっているので、片耳につき1本でちょうど7日前後で使い切ることになります。
なお、ベストロン点眼用は1回1~2滴を1日4回点眼となっているので、使い方によっては使用期限である7日間を過ぎたあとも薬剤が残っている可能性があります。
次に、白内障に適応を持つ「カタリン点眼用0.005%」と「カタリンK点眼用0.005%」です。これらはいずれも溶解後は冷所にて遮光保存し、3週間以内に使用することとされています。カタリン点眼用もカタリンK点眼用も容量が15mL/本なので、1本あたり約300滴です。用法は1回1~2滴、1日3~5回なので、両目に使ったとしても1日の使用量は6~20滴です。
そのため処方内容や患者さんの使い方によっては、使用期限である3週間を過ぎても残薬がある可能性があります。漫然と使い続けていると使用期限を過ぎてしまうことがあるので、患者さんに注意を喚起する必要があります。
同じく白内障に適応を持つ「ピレノキシン点眼用0.005%「ニットー」」も使用前に溶解する必要があります。溶解後は冷暗所に保存し、5週間以内に使用することとされています。こちらも用法は1回1~2滴、1日3~5回で、1本あたりの容量は15mLです。しかし使用期限が溶解後5週間と長いので、だいたい使い切れる容量となっています。
開放隅角緑内障および高眼圧症に適応がある「ピバレフリン点眼液0.04%」「ピバレフリン点眼液0.1%」も溶解が必要な薬剤です。こちらは溶解後1カ月が使用期限となっています。容量は5mLですが、用法が 1日1~2回なのでこちらも残薬が生じる可能性があります。
その他、薬剤と溶解液が別になっている注射剤も同様の注意が必要です。調剤薬局では見かけることはありませんが、病院内で使用されるステロイド注射剤であるソル・コーテフ注射用やソル・メドロール静注用などは薬剤と溶解液が別になっているので溶解液のみをあやまって投与してしまうという過誤が時々報告されています。
このような薬剤は輪ゴムでまとめるなどして薬剤と溶解液が同時に認識できるよう工夫すると良いと思います。
病院内で使用される薬剤のうち、薬剤と溶解液が別になっているものは他にも多数あります。そしてメーカーごとに包装の方法がバラバラで、溶解液と薬剤が二段に分かれて包装されているものもあれば、両者が交互に並べられているものもあります。
また、両者が別の箱に入っているケースすらあります。誤投与を防ぐために包装方法を統一するなど、メーカーにも協力を求めたいと思います。
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