ノボラピッド注フレックスタッチが処方されていた患者さんに、誤ってノボラピッド注フレックスペンを交付
■作成日 2018/4/17 ■更新日 2018/5/8
薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。
私はもうすぐ40歳代になる調剤薬局薬剤師です。
私が勤務しているのは、小さなチェーン薬局です。チェーンの中では私の勤務する店舗がもっとも規模が大きく、毎日150枚前後の処方せんを門前の総合病院から受けています。
他の2店舗は単科クリニックの門前にあります。私は単科クリニックの門前薬局を数年経験した後、現在勤めている薬局に異動してきました。以前の薬局に比べると毎日が忙しく眼が回りそうですが、やりがいがあります。
そんな忙しい日々の中で、今回の調剤過誤は生じました。
患者さんは60歳代の糖尿病の患者さんで、インスリンを投与している方でした。2種の注射剤で血糖値をコントロールしており、持効型インスリン製剤と超速効型インスリン製剤を使用していました。また非常に几帳面な方で、毎回残薬を医師に伝えてインスリンを過不足なく処方してもらっていました。
今回、持効型インスリン製剤は残薬があるとのことで、超速効型インスリン製剤であるノボラピッド注が2本のみ処方されていました。
インスリンの注射剤は間違っているものをお渡ししてしまうと患者さんの生命身体に関わる副作用が生じる可能性があるので、私は服薬指導時に患者さんと一緒に注射剤本体の色がオレンジ色であることを確認し、薬情の写真とも照らし合わせました。
そして使用する単位数と次回予約日を確認し、残薬も含めて十分に薬剤があることを確認して針と一緒にお薬をお渡ししました。
この時、私も患者さんも注射剤本体の色はしっかり確認したのですが、薬剤名の確認は不十分でした。
この日は糖尿病の患者さんが非常にたくさん来局しており、一包化の処方も多かったため、私の心に少しあせりがあったのでしょう。いつもなら必ず行っている薬剤名の確認をおこたってしまったことを、非常に後悔しています。
3日後、患者さんから「いつもの注射と太さが違う」との問い合わせがあり、薬剤を持って患者さん宅を訪問。患者さん宅に行って初めてノボラピッド注フレックスペンを交付していたことに気づき、調剤過誤が発覚
調剤過誤が発覚したのは、3日後の午前のことでした。
患者さんから
「今朝まで残っていた注射を使っていたんだけど、昼は新しいのをおろさないと足りなさそうだったから先日もらったのを紙袋(薬袋)から出してみたんだよね。そしたら、なんだかいつもの注射と太さが違う気がして…。色は一緒なんだけど、長さも微妙に違うし細長い気がするんだよね。今回、注射変わったの?」
と電話で問い合わせがあったのです。
私は急いで在庫の確認をしようと思ったのですが、午前中の混み合っている時間で納品された薬剤のチェックすら終わっておらず、またこの日も注射剤の処方が何件かあったためノボラピッド注フレックスタッチの正確な在庫数を確認することができませんでした。
処方せんが次から次へとファックスされてくるので、できれば対応は後回しにしたい、とも思ったのですが、本当に薬剤が間違っていたら大変なことになります。また次回の投与は昼なので、昼までには患者さん宅に行って薬剤の確認をしなければなりません。
やむを得ず私はノボラピッド注フレックスタッチを2本保冷バッグに入れ、他の薬剤師に謝りながら患者さん宅へ向かいました。
患者さん宅へ着くと、患者さんご本人が出迎えてくれました。そして困惑気味に包装されたままの注射剤を私に差し出しながら
「いつもの薬と違う気がするんだけど、何がどう違うかってことまではよくわかんないんだよね。違っていたらいけないと思って、ビニール袋は破っていないんだけど…。」
と言いました。
確かにぱっと見た目、注射剤の本体はオレンジ色です。
「何だ、やっぱり薬は間違っていなかったんだ。あぁ、無駄足だった…。」
と一瞬思ったのですが、確かに違和感があります。おかしい、と思い薬剤名を確認して私は愕然としました。そこには「ノボラピッド注フレックスペン」と書かれていたのです。
ノボラピッド注フレックスタッチはフレックスペンに比べて若干太く、本体の長さが短めです。キャップを開けてカートリッジ部分を見れば違いは明らかなのですが、患者さんは外観しか見ていなかったので違う薬剤であることをはっきり認識できなかったのでしょう。
私はすぐに謝罪して、正しいお薬をお渡ししました。患者さんには「やっぱり違っていたんだ。届けてくれてありがとう。」と言われましたが、私は監査ミスにショックを受けていました。
ノボラピッド注フレックスペンとノボラピッド注フレックスタッチは、デバイスは異なるものの成分は全く同じなので、私たちからしてみれば「同じ薬」です。しかし患者さんにしてみれば、デバイスが異なれば全く違うお薬です。
患者さんが誤って使ってしまっても健康被害は発生しませんが、あってはならない調剤過誤であったといえるでしょう。
今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか
今回の調剤過誤は、ピッキング者および監査者の確認ミスで発生しました。ノボラピッド注フレックスタッチとフレックスペンは名称の最後の部分が違うのみですし、見た目もそっくりなので、間違えないようにしなければなりませんでした。
しかし、非常に忙しい時間帯であったこと、またピッキング者がベテランであったことから信じ切ってしまい、無意識のうちに監査の手を抜いてしまったのでしょう。
インスリン注射は製剤ごとに色が特徴的なので、調剤業務を行う時も服薬指導時も「色」が間違っていないかということに気を取られてしまいがちです。今回は服薬指導時に薬情の写真もしっかり活用したのですが、写真だけではノボラピッド注フレックスタッチとフレックスペンの違いを見分けることは困難です。
これからは、注射剤に関しては調剤業務時および服薬指導時に処方せんに記載されている薬剤名をしっかり声に出して読み上げ、調剤過誤防止に努めたいと思っています。
今回の調剤過誤はノボラピッド注フレックスタッチとフレックスペンの取り間違いでしたが、名称や外観がよく似ている薬剤は他にもあります。特にノボ社のインスリンプレフィルド製剤は、名称も外観も非常に良く似ています。
中には製剤ごとに異なる「色」ですら、よく似ているものもあります。色がよく似ているものは名称が全く異なるので間違える可能性は非常に低いとは思いますが、油断は禁物です。
そこで、私たちは注射剤を保管している冷蔵庫内を整理することにしました。
まず、注射剤を保管している冷蔵庫内にブックエンドを設置し、隣り合わせの薬剤が混在しにくいようにしました。そして、色がよく似ているものは同じ段におかないように配置を変更しました。
さらに、注射剤に関しては薬剤名・規格・デバイスをしっかり確認し、ピッキング時には処方せんのコピーの該当部分に✓を、監査時には◯を書き込むことになりました。
加えて商品名の記載されている注射剤の箱のフタ部分を薬歴記入時まで保管し、処方せん内容・レセコン入力内容と薬剤が一致していることを確認したら廃棄してよい、ということになりました。
正直、これらの作業は非常に面倒です。しかし、ほんの少しの手間で調剤過誤やそれに関連する患者さんの健康被害を防ぐことができるのであれば、面倒だとは言っていられません。
これからは、どんなに忙しくてもていねいに調剤業務を行いたいと思います。
ちなみに、今回薬局でノボラピッド注フレックスタッチとフレックスペンの両剤を在庫していたのは、門前の総合病院が薬剤を切り替えたからでした。
今まではノボラピッド注フレックスペンが処方されていたのですが、半年ほど前にフレックスタッチに処方が切り替えられたのです。切り替え直後は両剤を間違えないように注意していたのですが、だいぶ時間が経ってしまったので気がゆるんでしまったのかもしれません。
今思うと、フレックスペンを間違ってピッキングしないよう、切り替えのタイミングで保管場所を変えるべきだったのかもしれません。もしくは、総合病院では処方されない薬剤であることを記載した札などを貼り付けて保管をするべきだったのかもしれません。
今回の調剤過誤を受けて、管理薬剤師が従業員全員に注意を促しましたが、そもそもピッキングしないようにする工夫がもっと必要かもしれないと考えました。
私たちの薬局では現在、ノボラピッド注フレックスペンが不動在庫となっています。冷所品は医薬品卸に返品ができないため、やむを得ず冷蔵庫内に保管しているのですが、不動在庫となっている薬剤で返品可能なものは、早めに可能な限り返品するべきだと思います。
確かに返品すると、万が一当該薬剤が処方された時に患者さんに迷惑をかけてしまうことになるので、躊躇する気持ちもあります。しかし、今回のような調剤過誤を防ぐためには返品を積極的に行うのも一つの方法だと思います。
また、出入庫記録を確認すれば薬剤の回転サイクルや出庫の有無もわかるので、これを確認しながら返品すればそれほど困ることはないと思います。
もっとも、返品を希望しても医薬品卸に断られることがあります。そこで、入庫後どれくらいならば返品可能かを大手の卸に確認したところ、「おおむね3カ月ならば返品が可能、ただし冷所品は返品されても受け取れないし、包装変更があったものについても返品が難しいことがある」とのことでした。
総合病院の処方は長期処方が多く、3カ月サイクルで不動在庫か否かをチェックするのは難しい品目もあります。しかし、確実に処方される薬剤であれば在庫しておいても良いと思いますし、3カ月が経過する直前で薬剤を発注し、在庫している旧品を返品しても良いと思います。
しかし、頻繁に返品するのは卸へ迷惑をかけることになるのでは?と思い、この点についても確認してみたのですが、「むしろ、ありがたい」と言われました。返品伝票を発行する作業は発生するものの、返品が早ければ使用期限までの期間が長く、他の薬局に回すこともできるので大丈夫だとのことでした。
確かに、返品が遅くて使用期限が短いと卸で当該薬剤を廃棄することとなり、卸側の損失が増大してしまいます。私たちの薬局では3カ月に1回全薬剤の棚卸しをするので、これからは棚卸時に不動在庫のチェックをしようと思います。
なお、大きなチェーン薬局ならば、不動在庫を他店舗に移動するという方法もあるかもしれません。
しかし、私が勤務している薬局は小さなチェーン薬局で、他の店舗は皮膚科の門前薬局と整形外科の門前薬局なので在庫薬剤に非常に偏りがあります。
そして今回問題となったノボラピッド注フレックスペンは、他店舗ではいまのところ取り扱いがないため移動することはできません。だからといって、調剤過誤を誘発する薬剤を在庫しておくのはやはり問題があると考えます。
そこで、少し乱暴な考えかもしれませんが、ノボラピッド注フレックスペンについては廃棄をすべきであると思っています。
患者さんに誤交付した2本についてはすでに廃棄済みなのですが、冷蔵庫内には未だに数本フレックスペンが残っています。今後同じような調剤過誤を二度と出さないために、廃棄という選択も考慮すべきでしょう。
薬剤を廃棄すると店舗の損失となりますし、業績にも響きます。特に注射剤は薬価が高いので、廃棄するには惜しい気がします。しかし、今後門前の総合病院で処方されることはありませんし、使用期限が切れたらやはり廃棄せざるを得ないのです。
医薬品卸を通じて近隣の医院でノボラピッド注フレックスペンの処方の有無を調べてもらい、私たちの薬局に処方せんが持ち込まれる可能性が低いようであれば、フレックスペンの廃棄を管理薬剤師に提案しようと思います。
参考資料
日経メディカル ノボラピッド注フレックスタッチ
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/24/2492415G6025.html
日経メディカル ノボラピッド注フレックスペン
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/24/2492415G1031.html
【AAA評価(最高評価)】…登録を強くおすすめする薬剤師転職サイトです。組織力がありコンサルタントの能力が標準化されているので担当者に外れが少ない。組織経営規模も大きく、大型の医療機関とでも対等に交渉ができ、強力な情報網で他社に比べて求人数も圧倒的に多く保有。安心して転職サポートを委ねられます。この評価の薬剤師転職サイトをとりあえず1つ抑えて基準とし、追加でAA評価もしくはA評価の薬剤師紹介会社を1つか2つ登録すれば、大変満足のいく転職活動を行うことができます。