手書き処方せんに「デスモプレシン」と記載されていたが、疑義照会を行わず思い込みで「デスモプレシン点鼻液0.01%」を交付

■作成日 2018/4/3 ■更新日 2018/5/8

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は30歳代の女性薬剤師です。私の勤務している薬局には、常勤の薬剤師が私を含めて5人います。

 

この薬局は公立病院の門前なので土日祝日・年末年始にしっかりお休みがあります。そのためとても働きやすく、私はここで10年もの間勤務しています。薬局で受け付ける処方せんは1日100~150枚程度で、そのほとんどが門前の公立病院から発行されるものです。

 

日に10枚程度近隣のクリニックの処方せんが持ち込まれますが、新規の患者さんが処方せんを持ってくることはほとんどありません。

 

今回はそんなレアケース、つまり新規の患者さんが処方せんを持ち込んだケースで起きた調剤過誤について報告します。

 

処方せんが持ち込まれたのは、比較的混雑する午前中のことでした。処方せんの発行元は市内のクリニックで、処方せんを持ってきたのはヘルパーさんでした。

 

患者さんはつい最近引っ越してきたばかりという70歳近い女性でした。ヘルパーさんによると、患者さんはつい最近ご主人を亡くされたそうです。しかし1人で暮らすのは心もとないということで、娘さんご夫婦宅の近くにあるアパートに引っ越してきたそうです。

 

今回は、引っ越し前に処方してもらった定期薬がそろそろなくなるので市内のクリニックを受診したとのことでした。もっとも、飲み薬についてはまだ2週間ほど残薬があるので、今回は「鼻にシュッシュする薬」だけを処方してもらったというお話でした。

 

医師は薬を処方する時、「うーん、うちには登録のない薬だなぁ。」と言いながら手書きで処方せんを発行してくれたそうです。

 

そして「うちの前にある薬局には、このお薬は多分ないんじゃないかなぁ。大きな薬局なら取り扱いがあると思うから、市内の他の薬局をあたったほうがいいよ。」というアドバイスがあったそうです。

 

そこで、何度か利用したことがある私たちの薬局に処方せんを持ってきたとのことでした。

 

処方せんには「デスモプレシン 1本 1日1回点鼻」と書かれていました。
門前の公立病院ではデスモプレシン点鼻液0.01%の採用があるのですが、処方はあまり多くありません。そのため在庫は少なめにしているのですが、1本ならば問題なくお渡しできます。

 

私たちは在庫が間違いなくあることを確認し、使用期限も十分に長いことをチェックした上で「大丈夫ですよ、このお薬なら私どもの薬局でご用意できますよ。」とヘルパーさんに声をかけました。

 

ヘルパーさんは「あってよかったぁ。」とホッとしたように言いました。
そこで私たちは薬剤を用意し、ヘルパーさんに服薬指導を行いました。

 

デスモプレシン点鼻液は使い方が少々面倒なので70歳近い患者さんが正しく使えるかどうかが心配だったのですが、「もう長いこと使っているみたいだから大丈夫だと思うよ。」とのことだったので、安心してヘルパーさんにお薬をお渡ししました。

 

お薬手帳の提示も求めたのですが、車で待っている患者さんが持っているということだったのでシールだけお渡しし、次回からは処方せんと一緒にお薬手帳も薬局へ持参するようお願いしました。

 

しかし、この時私が車まで行ってお薬手帳を確認すべきでした
お薬手帳を確認すれば、今まで処方されていたのは私たちが用意した「デスモプレシン点鼻液0.01%」ではなく「デスモプレシンスプレー10」であったことがわかったはずだからです。

 

忙しい時間帯であったことからお薬手帳の確認を行わず、シールを安易に渡してしまったことを反省しています。


患者さんから「いつももらっている薬とは違う」という問い合わせがあり、調剤過誤が発覚

お薬を渡した日の昼過ぎのことです。患者さんご本人から電話がありました。「今日、そちらでお薬をもらったのだけれど、お医者さんにお願いしたものと違うお薬が入っていたの。このお薬は使ったことがないから、使えないわ。どうすれば良いのかしら?」との内容でした。

 

私はあわてて処方せんを確認しました。「デスモプレシン」と書いてあるので間違いはないはず、と思い患者さんの話を再度よく聞くと、「いつもはこんな棒みたいなもの(チューブのこと)はついていないのよ。瓶は黄色で、鼻にさしてシュッシュするのよ。」とのことでした。

 

デスモプレシン点鼻液の瓶は茶色です。
おかしいと思いつつ、患者さんの手もとにある今まで使っていたお薬の名前を読み上げてもらうことにしました。すると「デスモプレシンスプレー10」と答えてくれたのです。

 

デスモプレシンに複数の剤形があることを知らなかった私はひどく動揺してしまいました。しかし患者さんを不安に陥れるわけにはいきません。

 

なんとか平静を装い、「では、処方元のお医者さんにお薬の内容を確認して、再度ご連絡いたしますね。」と患者さんに伝えて電話を切りました。

 

私はあわてて薬価本を確認しました。
そしてデスモプレシンには点鼻液の他、スプレーがあることを知りました。
私は頭を抱えながら、処方元の医師に確認の電話を入れました。

 

その時間は昼過ぎの中抜け時間にあたるため医師は不在でしたが、留守番の看護師さんがすぐに対応してくれました。
そしてクリニックに保管されていたお薬手帳のコピーから、処方は「デスモプレシンスプレー10」であることが明らかになりました。

 

医師も他規格があることを知らなかったようで、処方せんには「デスモプレシン」としか記載しなかったようだ、とのことでした。

 

私はため息をつきながら卸に連絡をして、デスモプレシンスプレー10を1本急配してくれるように依頼をしました。患者さん宅にも連絡をして、医師に処方内容が確認できたのでデスモプレシンスプレー10が用意でき次第お届けすることを伝えました。

 

1時間後、急配してもらったデスモプレシンスプレー10を持って私は患者さん宅にうかがいました。そして、処方内容をしっかり確認せず間違ったお薬をお渡ししてしまったことをおわびし、デスモプレシンスプレー10をお渡ししました。

 

患者さんはニッコリして「そう、このお薬よ。これじゃないと使い方がよくわからないの。」とおっしゃいました。念のためお薬手帳を確認すると、そこにはしっかり「デスモプレシンスプレー10」との記載がありました。

 

私は今回分の正しいシールをお薬手帳にはり、次回は処方せんと一緒にお薬手帳をヘルパーさんに渡すようお願いしました。

 

今回の調剤過誤は処方元と薬局の思い込みで起きてしまったものといえますが、私たちが処方せんの内容について疑義照会をしていれば、あるいはお薬手帳をしっかり確認していれば発生を食い止めることのできた調剤過誤だったと思います。

 

とても残念です。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.処方せんに剤形・規格の記載がない場合には薬価本で剤形・規格違い品の有無を確認。必要に応じて疑義照会を行う

 

今回の調剤過誤は、処方元である医師が「デスモプレシン」の剤形・規格が複数あることを知らなかったこと、また、処方せんを受けた私たちが「デスモプレシン=デスモプレシン点鼻液」だと思いこんでしまったことが原因で生じたと思います。

 

確かに他規格や他剤形が存在しない場合は、商品名の記載だけでも処方せんの記載内容に不備はないことになります。しかしそういった商品は少ないため、規格や剤形についての記載がない処方せんは原則として疑義照会の対象と考えるべきでしょう。

 

今回の場合も、原則どおり疑義照会を行うべきでした。しかし、忙しい時間帯に持ち込まれた処方せんで、デスモプレシンは1規格しかないという思い込みから疑義照会を行わずに一連の調剤業務を行ってしまいました。

 

今後はこのようなことがないよう、処方せんに剤形や規格の記載がない場合にはまず薬価本を確認し、処方せんの記載のみでは薬剤が特定できない場合には必ず疑義照会を行わなければならないと思いました。

 

なお、今回の調剤過誤については次の日の朝礼にて概要を全従業員に知らせました。さらに後日、調剤過誤報告書を作成して情報を共有し、疑義照会の必要な事例についての周知徹底を行いました。

 

調剤過誤防止策2.思い込み調剤をしない。剤形違い・規格違いはあるものと考え調剤を行う

 

また、今回思い込み調剤を行ってしまった原因も考えてみました。

 

私たちの薬局は小さなチェーン薬局で異動はほとんどありませんし、他店舗への応援もありません。また離職率が低く、他の薬局を経験したことのある人も少ないです。

 

異動が少なく離職率の低い職場というのは非常に良い職場だと思いますが、他薬局との交流が少なく、いろいろな意味で刺激が少ない職場ともいえます。そのような状況下にあるとどうしても業務がマンネリ化し、知識の幅がせまくなってしまいます。

 

実際、今回「デスモプレシン」と聞いて点鼻液以外の剤形があることを思いついた薬剤師は1人もいませんでした。
これは由々しきことです。

 

最近は手書き処方せんはほとんどありませんし、今回のように規格も剤形も書いていないような処方せんは年に数回見かける程度です。しかし、ゼロではありません。したがって、規格や剤形が不明な場合には必ず疑義照会を行わなければなりません

 

また、取りあつかい経験のある薬剤であってもすべての剤形・規格を取りあつかっているわけではありません。どのような薬剤でも規格違い・剤形違いはあるものと考え、業務に臨まなければならないと考えます。

 

調剤過誤防止策3.患者さんにはお薬手帳を持参してもらう。そしてお薬手帳で処方歴を確認する

 

さらに、患者さんあるいは代理の方にはお薬手帳を持参してもらうよう働きかけることも大切だと感じています。

 

お薬手帳で薬剤の使用歴が明らかになれば、お薬の変更の有無が確認できます。それに、処方せんの内容に瑕疵がある場合には、お薬手帳は適切な疑義照会をするための大きな手がかりとなります。

 

今回は処方せんを持参したのがヘルパーさんで、お薬手帳は車で待っている患者さんが持っていました。
お薬手帳が確認できる状態にあったのに確認しなかったのは、薬剤師側の怠慢といえます。

 

そしてお薬手帳をしっかり確認していたら、今回の調剤過誤は防ぐことができたかもしれません。

 

お薬手帳を持参するかどうかは患者さんに一任されていますが、これからは可能な限り持参を促そうと思います。
特に他院の受診歴がある患者さん、初めて来局される患者さんについてはお薬手帳の記録が非常に重要になります。

 

安易に患者さんにシールを渡すのではなく、お薬手帳の正しい使い方を啓蒙していきたいと思います。

 

調剤過誤防止策4.剤形違い・規格違いのある薬剤でこんな経験をしたことも

 

今回の調剤過誤はデスモプレシン点鼻液とデスモプレシンスプレーについてでしたが、過去に手書き処方せんでこんな経験をしたこともありました。

 

手書きの処方せんに「(頓)ボルタレン 1回1個 5回分」とだけ書いてあったのです。これではボルタレン錠なのか、ボルタレンSRカプセルなのか、ボルタレン坐剤なのかさっぱりわかりません。しかも坐剤であれば規格が3種類もあります。

 

患者さんの薬歴やお薬手帳を確認したところ、ボルタレン錠25mg・ボルタレンサポ25mg・ボルタレンサポ50mgについて処方歴がありました。

 

患者さんご本人に確認しても、「医師には長く効く痛み止めをちょうだいって言ったけど、何を出してくれたかはよくわからない。」とのことで処方された薬剤の手がかりはほとんどありません。

 

医師に疑義照会したところ、ボルタレンSRカプセル37.5mgを処方する意図で処方せんを書いていたことがわかりました。

 

医師は「1回1cap」と書いたつもりだったと言っていましたが、たとえそのように記載されていたとしても内容があまりに漠然としていたため疑義照会をしたことでしょう。

 

ボルタレンについては剤形違い・規格違いがあることを知っていたので迷わず疑義照会を行いましたが、今回のデスモプレシンでも同じように疑義照会をすべきでした。

 

これからは薬局や門前の病院の採用薬以外にもしっかり興味を持ち、勉強をしなければならないと思いました。特に調剤過誤を起こした薬剤については全従業員で情報を共有し、同じような例が過去になかったか、今後どのようにすべきかを検討すべきだと考えています。

 

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「大手調剤薬局」を辞めて「小規模調剤薬局」への転職体験

 

参考資料

 

日経メディカル デスモプレシン・スプレー10協和
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/24/2419700R2029.html

 

日経メディカル デスモプレシン点鼻液0.01%協和
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/24/2419700Q1035.html

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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