【医療ニュースPickUp 2018年4月23日】歯に貼って食べたものがわかる超小型デバイスを開発
2018年3月、医療に役立つ可能性を秘めた新しいツールが、アメリカマサチューセッツ州のタフツ大学工学部(Tufts University School of Engineering)にて開発された。
このツールは、歯の表面に直接貼りつけるだけで口にした食べ物や飲み物を識別する、超小型チップを搭載。このチップを歯の表面に装着すると、摂取した飲食物のグルコース・塩分・アルコールの情報をセンサーが読み取り、無線で携帯型デバイスに送信されるというもの。
現在、工学系の分野では、身体に装着して使用するウェアラブルデバイスの開発が数多く行われており、生理学的な情報を継続的にモニタリングして、個々に最適化される「医療に役立てる強力なツール」として浮上している。
開発者によると、これまでにも飲食物の情報を集めるデバイスは開発されていたが、いずれもマウスガードや大がかりな配線が必要で、センサーの劣化も早いため、たびたび交換がになるなど、さまざまな制約があったという。
このウェアラブルデバイスに関する論文の著者は、電気工学とコンピューターサイエンスが専門の米タフツ大学工学部Fiorenzo Omenetto教授や、バイオメディカルエンジニアリングの専門家ら5人。今回開発されたデバイスは、わずか2mm四方のサイズで、凹凸のある歯の表面にも貼り付けることができる柔軟な素材でできている。
チップは三層になっており、中央層には栄養素やさまざまな化学物質を吸収・検知する「生体反応層」があり、それを2枚の正方形の金の枠がはさんだ構造をしている。これらが小さいアンテナのような役割を果たし、検知した情報を電波で送受信する仕組みだ。
このデバイスは、すでに広く普及しているRFID(radio frequency identifier)というICタグなどを利用した情報通信技術を応用したもので、理論的には、より幅広い種類の栄養素や化学物質、生理学的反応を検出することもできるという。
また、歯だけでなく、皮膚など他の部位に装着することも可能で、その装着した部位の情報を読み取って携帯デバイスに情報を送受信することで、他にもさまざまな用途に活用できる可能性がある。
なお、研究の詳細は米科学雑誌「Advanced Materials」3月23日付オンライン版に掲載されている。
参考資料
Advanced materials (Deerfield Beach, Fla.). 2018 Mar 23;e1703257. doi: 10.1002/adma.201703257.
https://pmc.carenet.com/?pmid=29572979
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
「工学の研究成果や技術力を医療へ」という動きは、日本に限ったことではありません。現在、世界中で「工学部が開発した新しい医療機器(または医療機器になり得るモノ)」が、開発・公表され、実用化への道を進み始めています。
その背景には、いわゆる「第四次産業革命」や「IoT革命」といった、世界的な流れもあるといえます。
さて、今回はこのような「工学部が開発したモノ」の中でも、「歯に貼りつける」という斬新な方法で食事内容を把握するという、センシング技術による製品開発に注目してみました。
実際にいろいろと検索してみると、「歯に貼りつけた」状態の写真を、見ることが出来ます。一見「歯にゴミ?」とも思われるような写真ですが、この製品が収集するデータは、どれだけ膨大なデータとなるのでしょうか。
今のところは「何を食べて何を飲んでいるかを集約する」ところにとどまっているようですが、医療者がこれを利用するとしたら「収集したデータをどのように医療に活かしていくのか」と考える必要がありそうです。
しかし現代は、さまざまな疾患に対する「食事療法」があり、患者さんが実際に何を食べているのか、それが本当に正しい食事内容なのか、医療者が細かく精査するシーンは、少ないのではないでしょうか。
患者さんからすれば「○○をこれだけ食べました」という申告は、入院していない限り、すべてを記録して受診の際に申告して…というのは難しいと思われますし、医療者側もそれを全て聞き取るのは、現実的ではないでしょう。
その点、このセンサーを使えば、患者さんの「自己申告」との乖離も分かるかもしれません。
また、このセンサーは必ずしも「歯」に貼ることが必須なのではなく、皮膚に貼るなど別の使い方もできるようです。その場合、何をセンシングするかにもよりますが、例えば咽頭付近で利用すれば「誤嚥」が分かるとか、胸部に貼ることで「呼吸状態が分かる」など、応用できる分野が広がっていけば良いと、個人的には考えます。
そうなると、実際に収集された膨大なデータの中から、必要なデータを選択していく必要がありますが、その辺りも現在のテクノロジーでカバーできるのではないでしょうか(もちろん、「開発する」という工程は必要ですが)。
工学部により開発された、「将来、医療機器として利用できるかもしれないモノ」は、医療者が思いつかなかったような「何か」を、もたらしてくれるかもしれません。今後も、こうした製品から、目が離せなくなるのではないでしょうか。
この記事をかいた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート