【医療ニュースPickUp】2015年5月19日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
健康維持には“知識”が必要 健康リテラシーと心不全死亡率との関係
“健康に関する情報の理解力が乏しい患者”は、急性心不全による入院後、死亡リスクが34%高くなる可能性があることが示唆された。自らの健康を維持するためには、“知識力”“理解力”が重要となるようだ。
この研究は、アメリカのヴァンダービルト大学医療センター(テネシー州ナッシュビル)助教授のCandace McNaughton氏らによるもの。
Candace McNaughton氏によると、“健康リテラシー”の低い患者は、疾患や治療に関する知識としての悪化の徴候の認知、具合が悪いときの連絡先の知識などのほか、医療従事者との意思疎通、医療システムの利用などにも困難がみられることがある。
例えば“心不全で入院した患者”は、その退院時に医師や看護師などから非常に多くの医学的指示を受け、食事や生活習慣を大きく変えるよう求められ、さらに毎日多数の薬剤を服用しなくてはならない。
McNaughton氏は「患者が最適となる薬の服用法を理解できなければ、症状は悪化し、入院が必要となる。これにより、入退院を繰り返す悪循環に陥ることもある」と述べている。
今回の研究は、2010年から2013年までに、急性心不全で入院した1,300以上の患者に対し、アンケート調査により“医療関連書類を1人で記入する自信”、“医療情報の読解能力”などについての自己評価を調査した。
その結果、“健康リテラシー”が低いと考えられる心不全患者は、高い患者に比べ、平均21カ月の追跡期間中に死亡する確率が34%高いことが分かった。
健康リテラシーの低い患者の傾向として、男性、高齢、政府の医療保険への加入、高校中退、などがみられた。その一方で、他の分野で高い教養や学歴がある患者でも、医療情報の読解については難しいケースがあるという。
ペンシルベニア大学 ペン心血管センターのMariell Jessup氏は「指示の理由が理解できなかったり、指示に従うのが困難な患者は、経過が悪くなるのは当然だ」と述べている。
さらにMcNaughton氏は、家族や支援者の同行の下で受診することで、問題を解決できると指摘、「患者は、医師からの指示を自分の言葉で反復することで、混乱の解消、疑問点を解決できるのではないか」と述べている。
患者が医師の話を理解できないときは、率直に伝えるのがよいということだ。
そもそも”健康リテラシー“とは何であろうか。
米国疾病管理予防センターでは、The Patient Protection and Affordable Care Act of 2010として、5つの項目をあげている。
その中で、“健康リテラシー”とは、個人が健康に対する適切な意思決定を行うために、基本的な健康情報、サービス、そのプロセスを理解するためのコミュニケーション能力を有する程度、としている。具体的には次の5項目が重要なようだ。
●(必要な)情報やサービスを探すこと
●健康やヘルスケアについて(他の人々と)コミュニケーションを図ること
●明確に、かつ暗黙のうちに求めているものを(自らが)処理すること
●情報やサービスの選択肢、結果およびコンテキストを理解すること
●自らが行動できるように、ニーズや好みに合った情報やサービスを選択すること
では医師はどうすれば良いだろうか。Jessup氏は「患者は自己管理の可能性について正直かつ現実的である必要」がある一方で、「医師は患者の訴えを聞き、服薬をできる限り簡潔にできるよう調整する必要がある」と述べている。
参考資料
HealthDay
Knowledge Is Power for Patients With Heart Failure
http://consumer.healthday.com/cardiovascular-health-information-20/heart-attack-management-and-prevention-news-365/knowledge-is-power-for-patients-with-heart-failure-study-shows-698930.html?lexp=true&utm_expid=38353063-4.pIV1hUrQR8K_MJ1_OqjLag.1&utm_referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.co.jp%2F
Centers for Disease Control and Prevention
Learn About Health Literacy
http://www.cdc.gov/healthliteracy/learn/index.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
日本とアメリカでは保険制度が違いますので「政府の医療保険への加入」は少し事情が違いますが、男性、高齢、というのは、分かる気がします。
また、その患者の持つ知識レベルが関係していること(高校中退、と具体例が出るのは驚きですが)は、どちらの国でも共通しているリスクファクターだと思いますし、他の分野では非常に優秀でも“健康リテラシーが低い患者”は実際に多いのかもしれません。
さらにこのことは、急性心不全だけではなく、他の疾患でもいえることではないか、とも思います。
私の知人にも、比較的高齢になってから糖尿病と癌を発症した男性がいました。糖尿病で自己血糖測定とインスリン自己注射をしていましたが、血糖測定後にまんじゅうを食べていたり、遠出をするのにインスリンを忘れて家を出たり、ということがよくありました。
癌についても病識が非常に低く、癌を発症してから5年目、いよいよ末期になってから「もう治療法がない」と医師から宣告されて、初めてもう長くは無いことに気付いたのだそうです。遅いって。
現役の頃はかなり優秀な営業マンだったようですけどね。
ここ数年は、以前と比べて一般向けの疾患啓発サイトも増えましたし、テレビでも「COPD」など、特定の疾患についてのCMが流れるようになりました。
その影響もあってか、かなり勉強しておられる患者さんも増えてきたように思います。その一方で「現実を見たくない」という意識を持っている人もたくさんいます。
前述の男性の場合、その妻も「夫の病気」という問題を直視してこなかったため、「血糖自己測定後のまんじゅう」などということが横行してしまったわけです。
患者への指導は、看護師の立場でも悩むことは多々ありますが、患者本人・家族、その中でももっともキーパーソンとなる人物への指導が、重要なのだと改めて感じました。
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