美容外科医の需要の現状
■ 記事作成日 2015/7/11 ■ 最終更新日 2017/12/6
厚生労働省が平成22年に行った「病院等における必要医師数実態調査」によると、科目別での現役医師数、必要医師数ともに最も少ないのは、美容外科です。他の科と比べると、いずれも最も少ないという結果になっています。現役医師数の少ない方から10の診療科の状況をグラフ化してみました。
しかし、この調査、実は調査対象が病院に限られています。厚生労働省の「必要医師数実態調査の概況」を見ると、調査対象となったのは「全国すべての病院及び分娩取扱い診療所 計10,262施設」ということ。つまり、いわゆるクリニックは対象となっていません。
ところが、(少し古いですが)同じく厚生労働省が過去に行った「平成19年(2007)医療施設(動態)調査・病院報告の概況 結果の概要」によると、全国での医療施設総数は178,322施設となっています。つまり、それだけクリニックが占める割合が多い、ということになります。
意外と少ない専門医
例えば、医療機関を検索できるようなサイトで「美容外科」を検索すると、全国には少なくても1,000以上の医療機関(病院とクリニックを含む)があることが分かります。もちろん、美容外科単独ではなく、内科や皮膚科、整形外科などと併せて標榜されていることもありますので、一概には言えません。しかし、少なくても「美容外科も出来ますよ」と謳っているクリニックは、かなりの数があることになります。
一方で、日本美容外科学会に登録されている専門医は、250名足らず。クリニックを含めた医療機関の数に対する医師数を考えると、この数は多いのでしょうか、少ないのでしょうか。美容外科の専門医の勤務先としては、700床を超える大病院もありますが、その多くは美容外科専門のクリニックや、他科が併設されているクリニックのようです。
美容外科と近しい形成外科?
顔や身体の造形を整えるという意味では、形成外科も近しいものがあり、一般的には混同されることもありますが、この2つの科はその成り立ちからして根本的な違いがあります。
形成外科:病気やケガのために異常を来した造形を整える
美容外科:機能的には何の異常や支障がない健康な部位の造形を整える
従って、美容外科は基本的に自由診療。少し乱暴な言い方をすれば、「院長の経営方針一つで施術への対価が決まる」わけです。どんな手術を行ったかに関わらず、費用は自由設定。もちろん医師のウデにもよりますが、こういったあたりが「美容整形は儲かる」という印象を、一般にも与えているのです。
美容外科医が考えるべき“モラル”とは
一方、ここ数年で美容医療施術に対する苦情も増えています。独立行政法人国民生活センターによると、同センターへ寄せられた美容外科に関する苦情件数は、2010年に1,724件だったものが、2013年には2,155件、2014年には2,602件となっています。2015年7月8日には「美容医療で虚偽・誇大表示が横行」という報道もありました。
日本美容外科学会でもこの状況を静観しているわけではありません。同学会のサイトには「美容外科トラブル相談室(美容外科110番)」が設置されていますし、「『医療機関ホームページガイドライン』についての見解」が掲載されています。この中では「内容が虚偽にわたる、又は客観的事実であることを証明することができないものはホームページに掲載すべきでないこと」として以下のようなことが掲載されています。
- 「当院では、絶対安全な手術を提供しています」
- 「一日で全ての治療が終了します」(治療後の定期的な処置等が必要な場合)
- 「○%の満足度」(根拠・調査方法の提示がないもの)
- データの根拠(具体的な調査の方法等)を明確にせず、データの結果と考えられるもののみを示すもの
他にも、「他との比較等により自らの優良性を示そうとするもの」や「内容が誇大なもの又は医療機関にとって都合が良い情報等の過度な強調」は避けるべきとされています。
これらはすべて、美容外科医が考える“モラル”なのではないでしょうか
確かに、美容外科は「儲かる科」なのかもしれません。全国規模で展開するクリニックもありますし、転職しようと思えば、それなりに市場規模の大きな科なのだと思います。
しかしだからこそ、そこに勤務する医師には確かなウデと、医師としての“モラル”が要求されるのではないでしょうか。
参考資料
厚生労働省 必要医師数実態調査詳細結果(全体版)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/other/dl/14.pdf
同上 平成19年(2007)医療施設(動態)調査・病院報告の概況 結果の概要
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/07/kekka01.html
日本美容外科学会 「医療機関ホームページガイドライン」についての見解
http://www.jsas.or.jp/member/guideline.html
同上 美容外科トラブル相談室(美容外科110番)
http://www.jsas.or.jp/contents/trouble.html
独立行政法人 国民生活センター 相談事例・判例 各種相談の件数や傾向 美容医療サービス
http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/biyo.html
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